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28. vs邪神

 俺達を攻撃していたのは長老だった。


 離れたところにエクスタ似のフェアリーが倒れていて、長老の足元には塩かな……? 白い粉のようなものがばら撒かれている。


 罪人を塩に変えるという、例の光にやられたヤツだろうか?

 この一連の現象を起こしたヤツが塩になった……とかなら、自業自得な感じがして好きなんだが。


 そんなことを考えていたら、横で何かに集中していたミュッカさんが叫んだ。


「魔力の流れを見ると、邪神か何かが長老の身体に乗り移って、彼女を操っているみたい! でも抵抗が激しくって、多分、長老の生命力なんかを思ったように吸えてないよ!」


 彼女が警告する。


「精霊さんによると、邪神は、周囲の生き物から復活の生命力を奪おうとしている! 私たちも殺そうとしている! 気をつけて!」


 案内のエルフが「こんな短時間に精霊と……?」とかつぶやいているので、何気に規格外なことをしているのかも。


「魔法攻撃専用の障壁を出す!」


 リディアーナさんの叫び声。


 物質は通すが、攻撃魔法は通さない、そんな魔法の障壁を出すつもりなのか。

 ミュッカさんやエルフ達、職業(ジョブ)の力をまだ使えないノエルやエクスタも、魔力を供給しているようだ。


 長老だか邪神だかの手に、ものすごい魔力が集まっているから……

 障壁は、あれへの対応だろう。

 手から感じる魔力は、さっきの黒い球に感じた魔力よりも、はるかに巨大だった。


 まあ、魔力を集めていたのは敵だけではない。

 俺も迎撃のために、自分の剣に魔力を集めていた。


 リディアーナさん達が構築した障壁とやらの外に、ヒョイっと出る俺。

 敵である長老が、手から黒球を出したのにあわせ――


「オラァッ!」


 爆音。


 俺の衝撃波と黒球がぶつかったところを中心に、黒くしおれた草木が吹き飛ばされた。

 もっすごい爆風を感じたぜ!


「なんか、勝てそうだ!」


 みんなに報告する。

 長老の精神と邪神が内側で戦っているせいかね、あんま強くない。


 俺の衝撃波も、黒球を吹き飛ばし、ちょっとは彼女のところまで届いているんじゃなかろうか?

 あっちにも魔法の障壁があるのか、ダメージはないみたいだが……


「うまく取り押さえられれば、儀式で邪神を追い出せるかもな」


 魔法障壁を張るリディアーナさん。

 彼女の言葉に、敵さんが顔をゆがめる。


 そして怒りの表情のまま、手を上に向けた。

 ――感じる魔力。


 なんだ……?


 警戒しながら、剣に魔力を集めていたら、後ろと左、二ヶ所からピカッとした光がくる。


「かなり離れたところに、さきほどの光の柱が立ちましたね」

「後ろは私たちの集落の方向……、左は人間の町がある方向だねー」


 エクスタとミュッカさんの言葉。


 フェアリーの集落と、この近くにある人間の町――二つの場所に、罪人が触れると塩になる光を出現させたのだろうか。


 左――人間の町の方角から、赤い霧のようなものが飛んできた。

 何かはわからんが――


「オラァッ!」


 貯めてた魔力を全部使って、赤い霧に衝撃波を(はな)ってみた!


「……ちょっと、ゆれたねー」


 ノエルの言う通り、衝撃波に当たった赤い霧は、ちょっと揺れただけでそのまま長老の体に吸い込まれていった。


 くそー……せっかく剣に貯めていた魔力が。


 赤い霧を吸収した長老が、ぱたりと倒れる。

 その長老の体から、もくもくと黒い煙が立ち上り始めた。


「あの赤い霧は……人間の生命力? それを吸収したのか? ……あの黒い煙はなんだ?」


 リディアーナさんが不思議がっている黒い煙。

 それが、頭上に立ち込めていた暗雲に、次々と吸い込まれていく。


「うん……長老の中にあった、邪神の力が、急速に薄れて行っているねー。このままだと負けるとでも思ったのかな、長老の生命力を吸うのはあきらめたみたいだ。でも、復活できるほどの生命力は集められたみたい……。みんな気をつけて」


 ミュッカさんが上空の暗雲を指す。


「来るよ」


 その言葉とともに、上空の黒い雲に、数え切れないほどの巨大な目が生まれた。

 大量の目玉がついた黒い雲……目が開かれた、と言ったほうが良いのだろうか?


「おお……これが千の目を持つ邪神か。……中途半端な復活だったせいか、伝承より小さい気がするな」


 つぶやいたリディアーナさん。


 頭上の暗雲にビッチリ目がついていて、気持ち悪い。

 前世の某ゲームに、黒いガス状生物(モンスター)にめんたまがついたような敵がいたが、こんな感じなんだろうか?


「長老!」


 近くを見ると、いつの間にか盗賊フェアリーが、長老を俺達の近くへと運んできていたようだ。倒れていたエクスタ似のフェアリーも一緒に回収したようだ。早業(はやわざ)だな。


 彼女達は、グッタリとして動かない。


 エルフの一人が、ポーションを使い治療を始めた。

 ミュッカさんが止めないということは、もう邪神の影響は無いんだろう。


 これで生き残るようなら、長老は、邪神の支配を気合ではじいた伝説の女になれそうだが……


「問題はこっちだよなー」


 邪神から感じる魔力が、どんどん大きくなっている。

 多分、攻撃魔法の準備をしているのだ。


 ためしに何発か衝撃波を出してみたのだが、相手には何の痛痒もないよう。

 目の一個でもつぶせればと思ったんだが……。雲っぽいところも、異様に固い。


 俺の『一閃』という技は、『邪神を退けた』という伝説がある技なのに、歯が立たなかった。


「ふぁーちゃん、これ!」


 アリスが小瓶を渡してきた。

 俺の衝撃波の力を高めてくれる、精霊樹のポーションだ。


 ナイス!

 どうやら薬師の能力で強化もされているらしい、そのポーションを一気に飲み干した。


 ふはは、これで勝つる!

 剣に、魔力を貯める。


「オラァッ!」


 叩きつけるような衝撃波。

 でっかい雲の邪神の、三分の一ほどを吹き飛ばしたのだが……


「元に戻っちゃったねー」


 ノエルの言うとおり、すぐに復活しやがった。

 感じる魔力も、どんどん大きくなっていて……


 あっ、これ、あかんヤツや。


「ファー君! 障壁の後ろに下がって!」


 ミュッカさんのお言葉に甘え、リディアーナさん達エルフが作り、仲間フェアリー達が魔力を供給していた魔法障壁の後ろに下がった。


「だが、あの魔力。これだと、多分、邪神の攻撃には耐えられないな……。すまないが、ファーライン君、精霊に助けを願ってくれ」


 えっ、なんで俺だけ、などと混乱しながら、とりあえず祈った。


「天にまします精霊様、助けてください、なんまんだぶ、なんまんだぶ」


「くるよ!」


 ミュッカさんの警告とともに光。そして、パシャーン! という音がとどろいた。


「雷か……。だが、『精霊樹の葉のお守り(タリスマン)』が効いたようだ」


 リディアーナさんが見ているのは、アリスが首にかけている五センチぐらいの大きさの小袋。


 エルフの集落でアークスライムを倒したときに『お礼』として俺がもらったアイテム……邪魔になるので、普段は彼女に持ってもらっていたものだ。


 それが光り輝いていて……

 魔法障壁に、何らかの力を注ぎ込んでくれていた。


 精霊達の加護がかかった一品ということだから、精霊が助けてくれているんだろう。


「だが……これは、いつまでももたないぞ」


 さっきから、パッシャンパッシャン、追撃の雷が落ちてきている。

 小さい雷なのだが、それでも障壁から感じる魔力が、どんどん弱くなってきていた。


「あの雲の化け物、一撃で消し飛ばさないと復活するみたいだねー。削られた生命力が、一瞬で戻ってたよ……。どうしようか?」


 ミュッカさんの言葉に、うーん、とうなってしまう。

 他人から魔力をもらって、それを攻撃に上乗せとかできたら良いんだが。

 戦士職の俺は、修行を積まないと難しそうだ。


 マッドベアを倒した、剣で敵を直接斬る攻撃もあった。

 しかし近づけるかが、わからない。

 雲にしては低い位置にいるのだが、それでも遠すぎる。

 たどり着く前に、何度も攻撃を受けてしまうだろう……


 イチかバチか特攻してみるか? と悩む俺に、エクスタが声をかけてきた。


「ファー様! お婆さまが力を貸す、と言っています! 手を握れ、と!」


 横たわったまま、うっすらと目を開き、俺に片手を差し出す長老。

 プルプルと震える、その手。

 今にも死んでしまいそうな姿に、俺は急いで彼女の近くへと飛んでいく。


 握る手。それが光った。

 彼女から、何かが流れ込んできて……


「ファー様……お婆さまは、『フェアリーの王』のスキルを渡す……と言っていました」


「えっ」


 エクスタの言葉に、ミュッカさんが驚きの声をあげる。


「……よくわかんないけど、これでもう一発衝撃波を撃ってみるよ。長老のスキルのおかげかな? なんか敵に当たると爆発するタイプの衝撃波も撃てるようになったみたいだから」


 自分の新しい能力が、なんとなくわかるのは便利だな。

 爆発は、広い範囲に効果ありそうで……でっかいあの敵には役に立ってくれそうだ。


 精霊樹のポーションの力も、まだ残っている感覚がある。

 もともと効果時間が短いポーションだったが、薬師アリスの強化で、効果時間も延長されているのかもしれない。


「あっ、ちょっ、待って。気をつけてね! その力は――」


 ミュッカさんの注意を最後まで聞かず、俺は魔法を弾いている障壁の外へ出た。

 邪神が放つ絶え間ない雷……それが止んだ今が絶好のチャンスなのだ。


「オラァッ!」


 話しながら剣に貯めていた魔力、それを解き放った。


 剣から出た衝撃波は、迎撃されることも無く、一瞬で邪神に着弾。

 その爆発は見事に邪神を吹き飛ばし、ついでに邪神の下にあった森や山まで到達。

 邪神のせいで黒くしおれていた草木を豪快に吹き飛ばすついでに、俺も吹き飛ばした。


 仲間達も、命がけで魔法障壁に魔力を注がなかったら、けっこう危なかったとか。

 精霊樹の葉のお守りも、燃え尽きるまで頑張って(ちから)を注いでくれたらしい。

 飛んでくる石なんかも防げたのは、多分、このお守りが力を注いでくれていたおかげだろうとのことだ。


 そんな話を五日後、海まで吹き飛ばされ、浜辺でサバイバルをしていた俺は聞いていた。


 いやー、遠くまで飛ばされて帰れなくってさ……

 探しにきてくれたノエル達には感謝だな! 邪神も、見事一撃で倒せていたらしい。


 長老がくれたスキル……『フェアリーの王』だっけ? あいつの威力が、半端なかったんだろう。

 なんでもオスと相性がいいスキルだとか。


 おかげで、精霊樹のポーションを飲んでない状態で、あれを飲んだときよりも強力な衝撃波を出せるようになった!

 でっかい蛇っぽい魔物(海竜かな?)にも襲われたが、一撃で粉砕(ミンチに)できたぜ! 多分、今なら長老にも勝てると思う。


 伝説の邪神を退(しりぞ)けた英雄……彼が、そのときに『竜血』に似たスキルを獲得した、とかいう話をエクスタから聞いた覚えがあるから……

 そこら辺のスキルも、追加されているのかもしれない。

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