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26. 長老の戦い

Side: 謎の男達


 ファーライン達の故郷である、フェアリーの集落。

 そこから十数キロの距離にある森の中――


 スキンヘッドの男と、その後ろに並ぶ奴隷の首輪をつけた五人の屈強な男達がいた。


 それに相対するのは、一つの小さな影。

 集落で『長老』と呼ばれるフェアリー……、エクスタの祖母だ。


 長老は、強力な祝福のほか、『フェアリーの王』という特殊なスキル――彼女は、女性であったため、それをうまく扱えていなかったのだが――を持つフェアリーで……

 このスキルは、『フェアリーの女王』と並ぶ、フェアリー族最高峰のスキルだった。


 強いフェアリーに代々受け継がれていく……そんなスキルだ。


『組織への攻撃をやめれば、人質の一人を返す。――人質を指定の場所まで、取りに来い』


 男達は、そんな名目で、彼女をここまでおびき寄せた。


 スキンヘッドの男が、金属でできた鳥かごを長老に見せる。


「これが、お前の孫か?」


 中には薄汚れ、痩せたフェアリーが入っている。


「お婆さま!」


 鳥かごの中のフェアリーが、叫んだ。


「黙っていろ!」


 そのフェアリー……実は、長老の孫を模したホムンクルスだったが……それが入った鳥かごを、スキンヘッドの男が近くの木に叩きつけた。


 悲鳴をあげるホムンクルス。気絶したように、動かなくなる。


 たった一人の長老の孫……

 エクスタという名のフェアリーは、祖母の手伝いで町によく出かけるフェアリーだった。


 商人の紹介により、組織の錬金術師とも出会っていて……そのため、この『人形(ホムンクルス)』を作り上げることができたのだが。


(はたして、だまされてくれるか……)


 魔法に敏感なフェアリーだ。ホムンクルスから出るわずかな魔力を、不審に思うかもしれない。


 声や姿は、おそらく問題ないはずだった。これを作ったのは、優秀な記憶力を持つ錬金術師だから……


「その鳥かご……そして、この大地にも……魔法がかけられているな」


 長老の言葉に、スキンヘッドの男は『よし』と思う。

 彼女は、ホムンクルスではなく、別のものに気を取られている。


「簡単に、お前の孫を返すわけはないだろう?」


「罠というわけか」


 ニタリと笑った、長老。


「取りに来い」


 男は罠の中心となる場所へ鳥かごを置き、その場から距離を取る。

 普通ならば、躊躇(ちゅうちょ)する、男の誘い。

 長老は、何の迷いもなく鳥かごに向かった。


(噂どおりのフェアリーだな)


 彼女は、大胆不敵なフェアリーだ。

 罠にかけられても、それを跳ね除ければ良いと考えるフェアリーで、こういう罠に自ら飛び込んだことが何度もあったという。


 そして一度も自らを殺すことなく、生き延びているのだ。


 彼女が、男を攻撃してこないかだけは心配していたが……

 『我々を攻撃するなら、他の人質を殺す』と伝えていたのが吉と出たのだろう。


 長老が、鳥かごの近くまで来た。


 ――ここだ。


「『起動せよ』」


 男は、魔力を込めた合い言葉を唱える。

 鳥かごを中心に、この大地にかけていた魔法が発動した。


 魔法陣が発動。

 その中に長老が閉じ込められた。


「『捧げろ』」


 スキンヘッドの後ろに並んでいた、奴隷の首輪をつけた五人の屈強な男達。

 彼らの首輪が絞まる。

 気道をふさがれ苦しむが、首輪の力により体を動かすことができない。


 彼らの体から、赤い霧のようなものが出て、魔法陣に吸い込まれる。

 生命力を失った男達の体が、ドサリと倒れた。


 魔法陣のあったあたりは、真っ黒な霧のようなものに覆われていて、何も見えない……


「邪神よ」


 スキンヘッドの男がひざまずき、祈りをささげる。

 その祈りに応えたかのように、黒い霧が消え去っていき――


「バカな……」


 驚愕する、男。


 彼の目には、打ち壊された鳥かごと、長老が作ったのであろう、何かの結界に包まれたホムンクルス。

 そして、その孫を模したホムンクルスを抱え目をつぶる、フェアリーの長老の姿がうつった。


 正しく儀式が済んでいれば、生け贄の長老は死んでいて、千の目を持つという邪神が復活していたはず……


「まさか、このフェアリー、邪神に抵抗しているのか?」


 男は長老に近づき、彼女に触ろうとしたが、透明の壁のようなものが彼女を覆っていて触ることができなかった。

 それでも強い魔法などを使えば、壁を打ち壊し、この長老フェアリーを殺すことはできそうにも思える。


 抵抗する長老をなかなか殺せない邪神のため、男達が長老を殺す――

 卵を割れない(ひな)のために、卵を割るような行為だが……、しかし、それはしていい行為なのだろうか?


 儀式が失敗するかもしれないし、邪神がよみがえっても中途半端なよみがえり方になるかもしれない。


 こういうのは、組織のボスが詳しいのだが……

 その彼は、邪神復活の可能性を考え、ここから少し離れた山で待機しているはずだった。


 男は周囲を見渡す。

 邪神の影響か、草木が黒く変色し始め、上空を見れば暗雲が立ちこめている。


 これを見れば邪神の復活が成功したと思い、勝手にやってくるだろう。

 スキンヘッドの男は、彼を待つことにした。


「しかし……」


 男は、孫娘を模したホムンクルス……それを大事そうに抱える長老を見る。


 もし彼女が邪神の支配を跳ね除ければ、偽物の孫を抱え、ここから逃げ去ることもできるかもしれない。


 圧倒的な強さ……

 彼女が持つ、祝福の強さのせいだろうか……?


 ――たしか、彼女達が探しているオスのフェアリーは、彼女以上の祝福の保持者だったとか。


「やっかいな、ヤツらだ……」


 男は顔をしかめ、あたりを見回す。

 いきなりどこかから、そのオスフェアリーが現れるんじゃないかという、ありもしない妄想に取りつかれたのだ。


 ――このとき、男が注意深ければ、森を飛ぶ何かの姿に気がついたかもしれない。

 木の陰から一部始終を見ていた盗賊フェアリーと、ハチ使いに操られたハチ……


 顛末を知らせに集落へと急ぐ、彼女達の姿があった。

 この盗賊フェアリーが、集落に向かう途中のファーライン達と、出くわすことになる。

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