25. うごめく者たち
Side: 謎の男達
部屋の中、二人の男がいた。
「クソ、あの羽虫どもがッ!」
痩せた男が机を叩く。
信仰する者に大いなる力を与えたと言われる邪神、その復活を目論む組織のボスだ。
ファーラインをさらった例の商人が所属していた組織であり、エルフの集落の子供達をさらったのも彼らだった。
「どうやら、仲間の誰かが、『例のフェアリー』がいる集落に手を出したようですね。例のフェアリー以上の祝福を持つという、集落のオスフェアリー……。それに孫娘をさらった。そんな理由で、我々を攻撃しているようです」
『例のフェアリー』というのは、ファーラインの集落の長老のこと。
さらわれた『オスフェアリー』というのはファーライン、『孫娘』はエクスタのことだ。
現在、集落のフェアリー達が、この組織の拠点と思われる場所を攻撃していた。
主に活躍しているのは、職業が『盗賊』のフェアリー達で……
商人がファーライン達をさらったと推理し、その商人が、この邪神を信奉する組織に所属していたことまで突き止めていた。
「エルフの生け贄は、どうなっている?」
痩せた男が、スキンヘッドの男に聞く。
「こちらは精霊使いのフェアリーに邪魔されていて……」
ファーライン達と再会したときに『精霊の導きに従って、あちこちでけんかを売った』と言ったミュッカ。
そのケンカを売っていた相手こそ、彼らだった。
生け贄となるエルフの子供達を移動させようとするたびに、その目的の場所でミュッカが暴れ……
結局この男達は、エルフの集落近くにある人間の町に、さらった子供達を戻すこととなった。
「ここでもフェアリーかッ!」
怒鳴った痩せた男。顔をしかめ、つぶやく。
「――生け贄が足りぬ……」
「……『例のフェアリー』は強い祝福を持っています。あれを捕らえられれば代わり……いえ、むしろエルフの子以上の、良い素材になるかと」
エクスタの祖母であり、集落の長老でもある彼女……。『フェアリーの王』というスキルのほか、ファーラインには劣るものの、強い祝福を持っていた。
「……捕らえられるのか?」
質問に、スキンヘッドの男はうなずく。
「例のフェアリーの孫が行方不明と聞いています。幸い、やつらは我々が孫を捕らえていると誤解している様子。その『孫』を捕らえているフリをして罠にかけられないか、調べさせているところです」
「そうか……」
「もし、すべてがうまくいけばその場で邪神を復活させられるかと」
「……わかった……やってみろ」
不機嫌な顔で許可を出した痩せた男。
スキンヘッドの男は感謝の言葉とともに一礼し、部屋をあとにした。
◇
Side: ファーライン
二人のエルフと、リディアーナさんの案内で、山の中を進んでいた。
エルフ達は、リディアーナさんの集落で、道案内としてつけてもらった者達だ。
彼らの集落には、精霊樹のポーションをもらうため立ち寄ったんだが、ずいぶんとサービスしてもらったな。
他には、いつもの幼なじみのノエルとエクスタ。ノエルの母、ミュッカさんなんかがいる。
あとは長老との戦闘時に、薬師としての技能で俺を手伝ってくれる予定の、アリスも一緒……。お目付け役の彼女の父もいて、総勢八名の大所帯だ。
今は、生まれ故郷であるフェアリーの集落に向かっているところ。
結局、集落に戻り、俺を監禁しないようフェアリー達を説得する道を、俺は選んだんだ。
ミュッカさんによると、あのままだと、フェアリーの盗賊達により居場所を突き止められる可能性があったんだとか。
フェアリーらしい適当さが目立つ集団ではあるが、とっっっきどき、優秀な動きを見せるらしい。
彼女達に見つかり、バタバタと逃げ回るハメになるのは面倒だ。
ミュッカさんが長老などを説得できるということで、彼女に任せてみることにした。
説得に応じず俺を監禁しようとすれば、長老に勝負を挑み、彼女の地位をいただく。
説得に応じて俺の監禁をやめれば、『竜血』という生殖能力を上げるスキルを手に入れ、フェアリー族を増やす仕事に協力する。
こんなつもりだった。
冒険者になるのは夢だったが、集落でも『フェアリーの職業持ちを引き連れ、遠くの魔物を狩りに行く』みたいな生活ができるそうだから。
実際、集落の大人達がやっていたし……
なので、俺としては問題ないかな、と判断した。
ゆいいつ悲しいことといえば、フェアリーの集落に戻るとアリスとはお別れになってしまうことか。
どうにかならないかと、ない知恵をしぼっている。
そんなことを考えていたら、リディアーナさんが何かに気がついたようだ。
「おっと、ここら辺では強い魔物が出るぞ。普段は迂回する場所だが……ファーライン君は魔物を狩りたいんだったな……。突っ切ろうか。みんな、気をつけてくれ」
彼女が指差す先を見ると、枯れ木ばかりが立ち並ぶ森があった。
これは森……と言って良いのかな? 緑がなく、茶色一色だ。
俺達は近道のため、人間が使う街道を一切使用せず、山や森の中を進んでいた。
普通の街道を使うと回り道になり、フェアリーの集落までは、二ヶ月ほどかかる。
それがエルフの案内で森や山の中を進めば、半分の一ヶ月ほどに短縮されるんだとか。
その代わり、魔物とはたくさん出くわすが……
経験値を稼げるので、こちらのほうが俺好みである。
案内をしてくれるエルフには感謝してもしきれない。
万一、俺が長老との戦いに負てしまった場合に、アリス達を家まで届けてくれる役目も頼んであった。
「出たぞ! マッドベアだ!」
エルフの一人からの警告。
見ると赤い熊か……
あれは、アリスと初めて出会ったときに、遭遇した魔物だったな。
すでに戦闘体勢で、自らの体を炎で包んでいる。
そいつが咆哮を上げ、俺達を殺そうと向かってきた!
あの時の俺の衝撃波では、こいつを倒すことができなかったんだよな……
直接、剣で斬りつける必要があった。
その敵を――
「オラァッ!」
俺は剣から衝撃波を飛ばし、マッドベアを真っ二つにした。
豆腐を斬るみたいに、簡単に斬れるぜ!
うっふっふ、俺は確実に強くなっている。




