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24. 帰着

 さらわれた子供のエルフを救出し三日ほどが経った。


 この国は、戦争などにならないよう、エルフの子供をさらうなどの行為を禁じていたようだ。


 なので、人間達がエルフの子をさらったことは、かなり問題になったみたいだな。


 俺達にとってはラッキーだったが。

 その問題の(かげ)にかくれ、衛兵隊の建物に不法侵入したフェアリーの件は、うやむやになったんだから。


 おかげで、衛兵達に追われることなく、町を飛びまわることができる。


 そんな俺達は今、冒険者ギルドに来ていた。


 一緒にいるのは、アリスや、エルフのリディアーナさん。

 怪我をしていたノエルとエクスタの幼なじみコンビと、ノエルの母ミュッカさんもいる。


 ノエルとエクスタの怪我は、けっこうひどかったようだが、ポーションを飲み元気になっている。

 我慢強い性格なのか、ノエルの怪我のひどさは、外から見てまったくわからなかったよ……


 俺達が今いるのは、防音などがしっかりしている、ギルドの部屋だ。


 テーブルがあり、そこには精霊樹の葉が置かれていた。

 ミュッカさんが、その葉っぱをジーっと見つめている……


 彼女は『精霊使い』だから。

 ()()樹という名の植物の葉に、何かを感じているのかと思っていたのだが――


「私の直感が告げている、この葉っぱは、おひたしにするとおいしい……!」


 ……ずいぶんと、おバカなことを考えていたようだ。


 まあ、人間にとっては小さな葉っぱだが、俺達フェアリーにはじゅうぶんな大きさなので、食べがいはあるかもしれない。


「貴重な葉っぱなのだから、おやつにするのはやめてくれ……」


 リディアーナさんが困ったように、ミュッカさんを見ていた。


「うー……。でも、私、エルフの子を助けるのに努力したからー。……葉っぱ、くれても良いんじゃないー?」


 一児の母であるミュッカさんが、かわいらしい感じでエルフのリディアーナさんを見上げている。


 ……詳しい情報をリディアーナさんに伝えないようにしたりと、邪魔をした感じでもあるけれど。


「……うーん、たしかに、あなたのおかげでもあるな」


 悩むリディアーナさん。

 さらわれた子全員を、助け出せたみたいだから……


「わかった、一枚だけ差し上げよう」


 彼女が、ポケットから丸められた葉っぱを出した。

 のばすと、一枚のキレイな葉に戻る。……ふしぎ葉っぱだな。


「集落の(おきて)でな……、これはよほど信頼できるか恩を受けた相手ではないと、フェアリーには渡せ無いことになっているのだ。何しろ彼女達はイタズラ好きで――」


「わー、ありがとうーっ!」


 言葉の途中で、葉っぱをかっさらったミュッカさん。

 もしゃもしゃと、それを食べた。


「……うん。サラダだと、あんま、おいしくないねー」


「……売っても高値がつくし、貴重な薬の原材料になるのに、やっぱり食べるのか」


 かじられて半分ほどになった精霊樹の葉を見て、リディアーナさんは複雑そうな顔をしていた。

 ミュッカさんは、残りの葉っぱを(ふところ)にしまっていたので、あとで()でて食べるつもりだと思う。


「おまたせした……」


 そんな会話を見ていたら、部屋に無表情の受付嬢が入ってきた。

 冒険者ギルドの職員だ。


「これ……。精霊樹の葉の代価」


 渡された小袋の中身を確認するリディアーナさん。


「……うん、金貨の枚数は問題ないようだな。じゃあ、このお金を孤児院へ寄付してくれ」


 それを無表情の受付嬢につき返した。

 受付嬢が、その小袋を見る。


「……孤児院をつぶした男は、エルフの子供をさらった人間と同じだった。それに協力していた騎士も含め、あなたが罪を明らかにした。――新しい人も来る。何もしなくても、一ヶ月後には何もかも元通りのはず」


 彼女は首をかしげる。


「……それでも、寄付する?」


「一ヶ月も、あの子達を、あのままにすることはできないだろう」


 真顔(まがお)のリディアーナさん。


 ここ何日かは取り調べのため、ずっと町にいた。

 孤児達とも交流したので、情も移っているようだ。


「あとは、お金の問題だけだからねー」


 そう言って、うなずいているミュッカさん。


 孤児達を狙っていた男達……俺が、ミュッカさんと再会したときに、子供達に暴行を働こうとしていた男達もいたが、それも解決している。


 エルフの子供をさらった組織の者から仕事を請け負っていたという証拠が見つかり、他の仲間とともに捕まり、奴隷身分に落とされたらしい。


 『賞金首になってくれれば狩りにいったのに』とミュッカさんが残念がっていたな。


「……わかった」


 寄付をする、という決定を聞いた受付嬢。

 あいかわらずの無表情で、リディアーナさんから、金貨や精霊樹の葉を受け取る。


「……お金も孤児達に使われるようにするし、精霊樹の葉はおかしな人には売らないから、安心して欲しい」


 そうリディアーナさんに声をかけた。


 あの葉っぱは、人間の場合も、ある程度信頼できる人にしか売らないんだそうで……

 変なことには使いません、ということを明言したのだろう。


 アリスから、『俺達フェアリーがエルフの子を助けようと暗躍している』と聞いたリディアーナさん。

 そのときに、この無表情の受付嬢……というか、冒険者ギルドのお偉いさんが助けてくれたんだとか。

 衛兵に口を利いてくれたそうだ。


 そのお礼もかねて精霊樹の葉を売ったみたいだな。

 金を出せば買える、という葉っぱではないらしい。


「それじゃあ、おひたしも食べたいし、一度孤児院に帰ろうかー」


 精霊樹の葉を食べたいミュッカさんに促され、受付嬢に見送られながら、宿代わりに使っている孤児院へと俺達は向かった。


   ◇


「うう……、おひたしにしたのに、あんまりおいしくなかった……」


 孤児院に帰ってきたミュッカさんは、さっそく、精霊樹の葉をゆでて食べていた。


 まあ、見た目が普通の葉っぱだったんで、おいしくないだろうな、とは思っていたが。


 俺も、エルフ達の集落で、あの精霊樹の葉をもらっていた。


 おいしかったら、彼女は、その葉っぱも食べようとしただろうから……おいしくなくて、よかったのかも。


「それで、これからファーライン君達は、どうするつもりなんだ?」


 部屋で落ち着いていた俺達にリディアーナさんが問いかけた。


「私は、この町でやるべき義務を果たしたのでな、そろそろ子供達を集落に帰そうと思っているのだが」


 人間の子供達と交流をしているエルフの子をちらりと見る、彼女。


「……まだ、アリスの毛染め薬の原材料が買えていないんだろ?」


 リディアーナさんの言うとおりだった。


 毛染めの原料となる花なんだが、ほんのちょっとは買えたみたいなんだが、量が全然足りないんだそう。


 需要が無く、あまり売ってない一品で、さらに思ったより値段も高かったとか。


「……『イリカの花』だっけ? あれなら、うちの集落にいっぱい咲いてたけどねー」


 ミュッカさんの発言に、アリスがピクリと反応する。


「一度、私達の集落に戻ろうよー。監禁されて媚薬飲まされるの心配してるのなら大丈夫だからー」


 俺をつっつきながら、ミュッカさんが言う。


「適当に、精霊から宣託があったってことにして、ファー君に手を出さないようみんなを説得するよー」


 ……ミュッカさんが精霊から得る情報は、集落で信頼されていたそうだ。


 彼女が説得してくれるなら、他のフェアリーも納得するかもしれない。


「……他のフェアリーの協力を得られれば、『竜血』のスキルも簡単に手に入るかもしれませんね」


 エクスタが言っている『竜血』とは、上位の竜を倒すと得られる、繁殖能力などを強化するスキルのことだ。


 オスがほとんどいないフェアリー。

 うちの集落のメス達は、オスに媚薬を飲ませることで、群れとしての繁殖能力を高めている。


 この繁殖能力を高める『竜血』のスキルがあれば、俺も媚薬を飲むことなく、集落の女性を全員満足させられるはずだった。


「まー、お母さんの嘘はなぜかばれるけど……、もし説得できなかったら長老と勝負して、ファーちゃんが『長』になれば良いよね!」


 ノエルの提案。

 現在の長老と、その座をめぐり勝負するわけか。


「長老は、強い祝福を持った熟練の魔法使いだよー。ファー君でも、さすがに勝てないんじゃ……」


 首をかしげたミュッカさん。


「ファーちゃん、エルフの集落で変なポーション飲んだら、攻撃力がすごく上がってたから。あれをちょっと失敬して、勝負のときに使えばいいんじゃないかなー」


「……お婆様はあまり細かいことを気にしませんから、ポーションは使わせてくれるでしょう。命を賭けた勝負は避けるでしょうから、女性に甘いファー様も全力で戦えるはず……」


 長老の孫である、エクスタからの情報。


「多分、いつも通り『この木の周りに張った、魔力障壁を貫けたらお前の勝ちだー!』みたいな勝負をしかけるでしょうから、単純な『攻撃力の高さ』があれば勝てるはずです。ただ……」


 エクスタはしばらく無言で考え込む。


「……ただ、あのときのファー様の斬撃でも、お婆さまの障壁を貫けるか。あの(フェアリー)の逸話から考えると、少し足りない気もします」


「うーん……でも、ファーちゃんも、あのときより強くなっているよー。……それでも足りなかったら……そうだ! アリスちゃん持ってけば完璧になるんじゃないかな! 薬師の能力でポーションの強化ができたでしょう!」


「……精霊樹のポーションを強化するんですか? それならば、もしかしたら……」


 幼なじみ達の会話。


「よっし、それじゃアリスちゃんを()()()()集落に持っていく! 途中、リディアーナさんの集落によって例のポーションを()()! これがファーちゃんの次の目標だね!」


 そんな結論をノエルが出していた。――俺に一度も是非を聞くこともなく……。アリスとリディアーナさんの、すぐ目の前で……


「いや、あれは貴重なポーションだが、ファーライン君なら頼めば普通にもらえるぞ……。いろいろ助けてもらったからな」


 突っ込むリディアーナさんの横で、さらわれる予定のアリスも困ったように笑っていた。


 集落に戻ることの是非は、あとでゆっくり判断するとして……

 アリスは毛染め薬の原材料をほしがっていたからな。それを報酬にして連れて行けるかもしれない。


 彼女の父親は……アリス自身ががんばれば、何とか説得できるだろうか?


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