23. 救出
教会っぽい建物の最上階で、探していたエルフの子供達を見つけた俺達。
「あなた方が、リディアーナさんの集落から、さらわれた子達ですか?」
エクスタの質問に、コクコクと彼らがうなずく。
「ふふん、さすが幸運のフェアリーだねー。一発で彼らが捕まっている部屋を見つけたよ!」
ノエルが自慢気だが、一度、間違って別の建物に不法侵入しているんだよな……
そのせいで、治安を守る、町の衛兵に追われている。
あまり幸運そうな気はしないが……。
まあ、嬉しそうだから良いか、と突っ込むことをやめた。
「とりあえず、その鎖切るから、気をつけてくれよー」
俺は、エルフの子供達を縛る鎖に、衝撃波を飛ばす。
うん……、うまく切れた。
そして、みなに『逃げようか』と声をかけようとしたところで気がついた。
エルフの子供達を連れて、どうやって逃げればいいんだろうか、と。
彼らは空を飛べない。ここは教会っぽい建物の四階だ。
壁にあけた穴からジャンプさせるのは、ちょっとばかり自殺行為に思える。
「……ミュッカさん、魔法か何かで、この子達を地上までおろせますか?」
壁の穴を指して聞いてみた。
「ん? なんで逃げるの?」
不思議そうなミュッカさん。
「この子達を捕まえたヤツがいるんだから、そいつらは全滅させないとダメでしょう」
実に男らしく、かつ野蛮な答えが返ってきた。
――そんな、やり取りをしていた時だった。
エクスタの悲鳴が聞こえてきたのは。
「ファー様、誰かいます!」
同時に、バン、と開かれる部屋の扉。
そこには杖を構えた一人の男が。
体を、衝撃波が通り抜ける。
「うおっ!?」
「「キャッ!」」
男の魔法だろうか?
俺達は、後ろの壁に叩きつけられる。
だが、このぐらいなら……
俺は剣をかまえる。
「オラァッ!」
目を見開く男へ、剣から衝撃波を飛ばした。
男が壁に叩きつけられ動かなくなったのを確認し、俺は仲間の様子を見た。
「大丈夫か!」
「うう……」「ハネが……」
「ミスったねー、一応、精霊魔法で守ったんだけど」
ノエルが左手をかばっている。
エクスタはハネを傷つけられてしまったようだ。
エクスタに応急処置を施そうとしているミュッカさんも、頭から血を流しているみたいだ。
俺は、まったく被害がないんだがな……。職業が戦士だからか?
エルフの子も、大丈夫だ。先ほどの攻撃の範囲にはいなかったのだと思われる。
「ファー様!」
エクスタの警告に、扉を見る。
そこには男二人が抜き身の剣を持ち、俺に切りかかろうとする姿が。
「オラァッ!」
横長の衝撃波一発で、男達二人を吹き飛ばす。
しかし、少し間に合わず、一人の男が投げた剣が俺に迫る。
あわてて、手で体をかばうが――
「ファーちゃん、じょうぶだねー……」
「剣で鉄を殴ったような音がしましたわ……」
「新発見! ファー君を剣で叩くと、カンって鳴る!」
彼女達が言うとおり、俺には何の被害もない。
多分、魔物を倒しまくっていたせいで、俺の防御力が異様に上がっているんだろう。
「くらえやーッ!」
扉から少し見えた、新たな人影。それに衝撃波を飛ばしたが、うまくかわされた。
壁に隠れているな……
どうしようか考えながら、威嚇射撃をする。
「ファー様!」
困っていたら、床に立つエクスタからアドバイスが――
「エルフの子が『三階と、この最上階にいる人は、全員、誘拐犯の一味だ』と言っています! あの男は、殺してしまって大丈夫のようです!」
そうか!
斬って良いなら、何の問題も無いな。
あいつが隠れている石壁など、俺にとっては紙だ。
「くらえやーッ!」
しゅっぴしゅっぴ衝撃波を飛ばし、壁ごと切り裂いていく。
五発ほど飛ばしたところで男の悲鳴が聞こえたので、その周囲にさらに数発飛ばす。
「んー、隠れていた人の気配は消えたかなー」
「――あっ、ファー様、私達を追っていた衛兵さんの声が聞こえましたよ! 下の階でしょうか?」
ミュッカさんが良い知らせを、エクスタが悪い知らせをくれる。
「下の階で、押し問答をしているようですね。あっ――」
魔法の力を感じた。
「今のは精霊魔法だねー」
空を飛ぶミュッカさんが伝えてくる。
「……多分、私達を追っていた衛兵さんの声だけが残っていますね。衛兵達が攻撃され、返り討ちにしたんでしょうか……? あと……、なぜかはわからないんですが、リディアーナさんも、彼らと一緒のようなんですが」
エクスタが聞いていた、彼らの会話。
それが俺にも聞こえてきた。
「上にいるフェアリー達は、我々の子供を助けようとしているのかもしれない。逃げるのなら、そのままにしてくれないか?」
「そういうわけにも行かない」
そんな、よく知った女性の声と、男の声だ。
女性はリディアーナさんで……多分、精霊魔法を使ったのも彼女なのだろう。
町の衛兵達に協力しているのか?
今の会話が、やけにハッキリと聞こえたのは謎だったが……
「……あの会話、精霊魔法で、こっそり、こちらに聞こえやすくしていたね」
ミュッカさんの言葉に、コクコクとうなずく幼なじみ達。
魔力の流れを感じ取ったのだろう。
「これは、逃げろってことかな……」
「うーん……、敵の気配はないみたいだけど。……大きな胸のエルフさんが入ってくるのだけ確認したら逃げようかー? 万が一、敵が隠れていても、エルフさんがいれば子供達も大丈夫でしょう」
ミュッカさんが、エルフの子供達を指して言う。
……じゃあ、逃げるかな。
念のため、気絶させた男達の手足を衝撃波で折って……と。
俺は、ハネが傷つけられたため飛べないエクスタと、なぜか俺の上に乗ってきたノエルも担ぎ、建物の外につながる穴へと飛んでいった。
「それじゃー、気配を隠しやすくする魔法をみんなにかけるよー」
ミュッカさんの魔法がかかったが……
これは、できれば衛兵の建物に侵入するときに使って欲しかったな。
そして待つことしばし――
「ここだな」
部屋をのぞいたリディアーナさん。
彼女の顔を確認し、俺達は建物の外へと飛び立った。
ミュッカさんの魔法の効果か、衛兵達にも見つかることはなく……、無事、町の中に身を隠すことができた。
制御や、魔力の消費がきつい魔法だったみたいで、ミュッカさんは、最後のほうはずいぶんとフラフラしていたが。
がんばって魔法で水を出してもらって、血なども落とした。
そして俺達は冒険者ギルドに向かった。
ここで待っていてくれと伝えたアリスだったが、ちゃんと待ってくれているだろうか?
ギルドには、開けっ放しになった扉がある。そこから中をのぞく。
「あっ、ファー様、あれアリスちゃんじゃありません?」
エクスタの指差したアリスの髪は、黒く染められていた。
服も着替えているな。
エクスタが気がつかなかったら、うっかり見過ごしていたかもしれない。
アリスの周囲には、ミュッカさんと親しい例の孤児達……、それに冒険者ギルドの無表情の受付嬢がいた。
周囲に俺達を探す衛兵がいないかビクビクしながらも、彼女達のもとへと向かった。
結論から言えば問題はなかったんだが……ずいぶんと緊張したよ。




