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22. ジョブの力で押し通る

 人の目から隠れるように、コソコソと町を飛ぶ、ミュッカさん。

 その後を、ノエルやエクスタ、二人の幼なじみ達と一緒についていく。


「それで、お母さんー。さらわれたエルフの子供を助けるって言っても、あてはあるのー?」


 ノエルが、ミュッカさんに聞く。


「うん。精霊から、『捕らわれの小さな生き物が、入っちゃいけない場所にいる』ってイメージを受け取ったって話したでしょ? その時、その『場所』を守る人達なのかな。鎧を着た『騎士っぽい』、たくさんの人間達のイメージも受け取ったの」


 移動しながら説明を続けるミュッカさん。


「この町だと、そういう騎士達が、たくさんいそうな場所は三ヶ所だけ。『衛兵隊の本部』、『女神をまつる神殿』、『領主の館』――。『領主の館』には、いなかったから……、後は残りの二ヶ所のどちらかにいると思うんだー」


 ……そういえば、『領主の館に侵入したフェアリーがいた』って、この町に入ったとき聞いていた。

 ミュッカさんだったらしい。


 人目を忍ぶような感じで移動していたのは、町の治安を維持する人々……衛兵なんかを警戒していたのかも。


「とりあえず、この町の『衛兵隊の本部』が、ここなんだよー」


 とある建物の屋上。

 ミュッカさんが、足下にある建物を指差す。

 三階建てぐらいある、大きなものだ。


「魔法を使って侵入するから」


 ……精霊魔法か。


 集中するミュッカさんを見て、姿を透明にしたり、魔法でトンネルを作って忍び入ったりするんだろうとワクワクしていたら――


「いっけーッ!」


 ちゅどーん!


 ……このフェアリー、屋上に魔法をぶち込みやがった。


 赤く丸い光源を生み出し、それを叩き込んだのだ。

 光源が叩き込まれた場所には、人ひとりが飛び込めるほどの大きな穴があいていて……、だが、これでは……


「あっ、建物の中で人が叫びあっている音がするねー」


 派手な爆発音がしたからな……。中の人には確実に気がつかれただろう。

 ノエルは、のほほんとした声を出していたが、なんかスゲー面倒なことになっている気がする!


「も、もうちょっと穏当なやり方はなかったんでしょうか……」


「何言っているの、エクスタちゃん! 職業(ジョブ)(ちから)で押し通る! これが正しいやり方だよ! フェアリーが策を弄しても、たいてい最後には失敗するしね!」


 ――うん、フェアリー達は、性格がテキトーだからね!


 ミュッカさんの教えは、意外に正しいのかもしれない。

 ただ、エクスタなんかは、きちんと陰謀を成功させられる性格なので、できれば最初に相談して欲しかったけれど!


「で、でも、まあ、フェアリーの行動ですから、このくらいなら『できごころのイタズラでした、ごめんなさい』で済むレベル……、済むレベルなんでしょうか?! ファー様!」


 俺に聞かないでくれ……

 エクスタから目をそらす。


「そんなに心配しなくとも、大丈夫! 精霊の導きに従って、エルフの子を見つければ問題ないよ! 精霊は頭良いんだから! 私の経験を信じてっ!」


 ミュッカさんの言葉。


「そんなわけで、中に入ろうか? 精霊と交信状態に入ると、しばらく魔法使えなくなるけど……、敵が来たらうまくさばけるよね?」


 (たず)ねるように、俺を見る。


「剣から衝撃波を出せるので、気絶させる感じで兵士にぶち当てられます……」


 これが毒を食らわば皿までというヤツだな。

 下手をすると、アリスにも迷惑をかけてしまうかもしれないが。


 捕まっても、ごめんなさいで済むレベルかもしれないから、できるだけ衛兵さんに怪我はさせないようにしよう。


「じゃあ、これを顔につけてね。孤児院から持ってきたヤツだよ!」


 ミュッカさんが布切れを渡してきた。


 顔を見られないよう、まきつけろということか。

 これで身元が隠せるかは微妙だが、ないよりはマシか。


 この用意周到さは、もう少し他のところに活かして欲しかったな……


「よし、行くよー!」


 彼女の号令で、顔を隠した俺達は穴をくぐった。

 そこは薄暗いが、豪華そうな部屋で……。誰もいない、無人の部屋だ。


「うーん、ここじゃわからないな。もう一階だけ下に行きたい……」


 つぶやいたミュッカさん。

 先ほどと同じように、赤い光の球を頭の上に生み出し、それを床に叩きつけた。


 爆音。


 床に小さめの穴があく。小さいといっても、フェアリーには、じゅうぶんな大きさだ。

 みんなで穴をくぐるが……

 く、暗くて何も見えない。窓がないためだ。


「精霊さん、光をちょうだい!」


 ミュッカさんの魔法で、周囲を薄明かりが照らした。

 そこは紙や警棒など、雑多な備品が置いてある部屋だった。


「じゃあ、ここで精霊と交信をとって、近くに例の捕らわれた子がいないか聞いてみるから。敵が来たらやっつけてね!」


 この場合の『敵』とは、朝も昼も夜も、一日中、町をパトロールし、ご近所の平和を守ってくれている衛兵さん達のことである。

 やりにくいぞ……!


 そんな衛兵さんたちだが、日頃(ひごろ)(おこな)いがよかったのか、俺達がこの部屋に侵入したことに、さっそく気がついたようだ。


「おい、ここから音がしたぞ!」

「備品庫か! 鍵は……」

「めんどくせー! ()(やぶ)っちまえ!」


 おい、やめろ! 間違いだったら、あとで上司に怒られるぞ!


 俺のそんな忠告もむなしく、乱暴な衛兵さんが数発扉を蹴り、バカンと扉が開いてしまった。


 しかたねえ……。声とかを覚えられないように無言で――


 ――オラァ!


 衝撃波が飛び、扉の近くにいた一人の衛兵さんを吹き飛ばした。


「ギャーッ!」

「なんだぁ!?」


 手加減したので、吹き飛ばされた人は気絶もしていない。

 俺の攻撃から隠れるように、倒れたまま横に転がる。


 テメーラ、入ってくんじゃねーぞ!


 そんな思いを衝撃波に乗せ、ガンガンと部屋の入り口あたりに攻撃を飛ばす。

 威嚇射撃ってヤツだな!


「うん、交信できたよー。多分、ここにさらわれたエルフの子はいない! おそらく、もう一つのほうだよ! 行こう!」


 ミュッカさんが叫び、みんなで天井の穴に向かう。


「逃げたぞ! 上の階だ!」

「外へも人員をまわせ!」

「フェアリーらしき影を見た! 空を飛ぶぞ!」


 そんな声を背にし、穴をくぐる。さらに外へ……


「目的地の『神殿』は、あそこだよー」


 町の上空、ミュッカさんが指す方向を見下ろすと、『ザ・教会』という感じの建物があった。

 四階建てぐらいの、背の高さがある。


 俺達は、そこに向かって飛んでいく。

 下のほうから聞こえてくる、「あそこだ!」「追え!」みたいな声が心を憂うつにするが……


「ついたよー。じゃあ今度も、最上階から侵入しようか……」


 つぶやいたミュッカさんが、赤い光の球を神殿の壁に叩きつけた。爆発。


「あれー……? ここの壁、堅いなー」


 穴があかなかったようだ。


「……ファー様なら、この壁ぐらい切り裂けるんじゃないですか?」

「ファーちゃんのは、攻撃力が高いからねー」


「……そうなの?」


 エクスタとノエルのアドバイスを取り入れたらしいミュッカさんが、俺に要求する。


「じゃー、ファー君、ちょっとここ攻撃してくんない? 一応、中に人とかはいなさそうだから」


 あいあい。


 『中に人とかはいなさそう』ってことは、少し強めにやっても大丈夫だろう。

 全力だと、建物全体に被害が出そうだから、それよりは弱めで。

 力加減が難しいな……


「オラァッ!」


 剣から衝撃波を飛ばす。無事、壁を切り裂いた。


「わー、ファー君、すごーい!」


 褒めながら、ヒョイっと中をのぞいたミュッカさんの動きが、ピタリと止まった。


「お母さん、どうしたのー?」

「何かありましたかー?」


 彼女に続いて、ノエルとエクスタが中をのぞく。


「あー……」

「なるほど」


 納得した様子の幼なじみ達。


 どうしたんだ? と思った俺も、中をのぞく。


 入って右側……、そこには、(くさり)で壁につながれたエルフの子が、三人。

 ビックリした目で、こちらを見ていた。


「うん……この子達が、私が助けようとしていた子だね!」


 どうやら今まで精霊と交信をとっていたらしいミュッカさんが、胸を張って告げた。

 あなた……、『中に人とかはいなさそう』って、さっき言ってましたよね……


「もうちょっとで、助ける予定の子を、一緒に、斬り飛ばすところだった……!」


「いやー、気配の読み取り失敗だね!」


 文句を言ったら、カラッとした感じで返された。


 ミュッカさんは、実にフェアリーだ……

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