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20. フェアリー

 この世界の人間に忌避(きひ)される、白い髪と赤い目を持つアリス。

 深く帽子をかぶり、表通りを歩いていた。


 俺達フェアリーは、彼女の肩や腕に止まって周囲を見渡す。

 町には興味を惹く物がたくさんあって――


「ねーねー、パンの良い香りがするよー!」

「あっ、あそこで果汁ジュースを売っていますわねー」

「うおっ、向こうで肉を焼いてるじゃないか! あれ食おうぜ!」


 ピシピシと肩や腕を叩いて、自分の行きたい方向に彼女を向かわせようとする俺達。

 アリスは「ふえええ」と声を出して、どこに向かうべきか、目を回している。


 俺達は、そんな彼女の反応を楽しんでいたわけだが……


「ご……ご飯は、お宿で出るのが食べられなくなるからダメだよ! ざ、材料を買いに行こう!」


 アリスは、そんな決断をし、食べ物屋が少ない裏通りにスッと入ってしまった。

 もともとの目的である、ポーションなどの原材料を買うことを優先させたようだ。


 だが別に俺達は何か食べたくて、あんなことを言っていたわけではないからな……

 単にアリスを困らせたくて、あんなことを言っていただけなのだ!


 この裏通りからも、興味を引くものを見つけてやるぜー!


 目を皿のようにして、あたりを見回していたときだった。


「あれ? 何か争うような声が聞こえませんか?」


 鋭い感覚を持つエクスタが何かに気がつく。


「トラブルの香りだよう!」


 彼女の見る方向に、ノエルが飛び出してしまった。


「あっ、待て!」


 声をかけたが、止まらない。

 しかたなく、アリスやエクスタと一緒にノエルを追った。


 俺達が向かった先は行き止まりになっていて……

 そこで俺は、ごつい男三人に追い詰められ、おびえたように縮こまる、ボロを着た子供達の姿を発見したんだ。


 子供達の一人かな?

 少女がうつぶせに倒れていて、男のひとりが、その背中に片足を乗せている。


「おう、お前ら舐めたことしてくれやがって!」

「あのフェアリーは死にかけてるって聞いた……お前らを助けるやつはいねー」

「覚悟はできてるんだろうなー……」


 体重をかけたのか、男が足を乗せている少女から骨の折れるような音がする。

 少女のくぐもった悲鳴を聞き、俺は思わず……


「オラァッ!」


 拳から出た衝撃波が、少女に足を乗せていた男を襲う。

 いきなり吹き飛んだ男を見て、ギョッとした様子の残りの二人。


「お前らもじゃーッ!」


 彼らも、「ヘブウ」とか「グヘェ!」とかいうよくわからない声を出して、俺の衝撃波に吹き飛ばされた。

 急いで、少女の様子を見に行くが……


「お、おい、アリス。あの背中を踏まれていた子、やばいんじゃないか! なんか泡吹いて痙攣(けいれん)してる! ポーションかけてくれよッ! 早く!」


「うん!」


 持っていた肩掛けカバンから、小瓶(こびん)を二本、取り出したアリス。

 少女に近づき、一本を背中にかける。

 痙攣(けいれん)が止まった。


 アリスは、彼女を仰向けにすると、残りの薬を口移しで飲ませた。


「大丈夫かな」


 彼女たちの周囲を飛びながら、作業を見守る。


「ん……。大丈夫そう」


 うなずくアリス。

 その言葉とともに少女がうっすらと目を開け、俺を安心させた。


 というか……


「この男達ってなんだったのかな?」


 ホッとしたら頭が回るようになった。

 アリスとの魔物狩りで(つちか)った技術を使い、死なないように攻撃したけれど。


「ファー様、ここ……。犯罪を犯した者が彫られる刺青がありますから、あまりまっとうな人間ではありませんね。……全員、生きているみたいですが、とどめを刺しましょうか?」


 エクスタに怖いことを聞かれた。


「……て、手加減して死なないようにしたんだから、そのままで良いよ」


 そんな会話をしていたら、ノエルの声が聞こえてきた。


「やっほー、おチビちゃん達。怪我はないかなー?」


 ストリートチルドレンっぽい彼らに、話しかけているようだ。


 自分よりもはるかに小さいフェアリーに、おチビちゃん呼ばわりされた子供たちは、しばらく顔を見合わせていたのだが、その中の一人がおずおずと前に進み出た。


 泣きそうな顔。


「……ミュッカちゃんが死にそうなの……助けて……」


 彼女が手を差し出すと、その中には女性のフェアリーがいて……


「えっ」


ノエルが、驚きの声を上げる。


「――お母さん!?」


「あっ、ファー様! ミュッカ様ですわ!」


 うおっ、ホントだ!


 手のひらの上で苦しそうに横たわるミュッカさん――ノエルの母の姿が、そこにあった。


「ノ……ノエル……?」


 額に汗がびっしりと浮かび、蒼白な顔をした彼女が、自分の娘に気がついた。


「お、お母さん、生きていたの……! で、でも、どうして、こんな姿に!」

「……もしかして、あの男達が原因ですか?」


 エクスタが冷えた瞳で、俺が吹き飛ばした人間たちを見る。

 何か答えようとしたミュッカさんだが、それは声にならなかった。

 「ううっ」とあがる苦悶の声。


「お母さんッ!」


 ノエルの悲鳴。


「とりあえず、これを」


 アリスがポーションをかける。


「あれ……効いていない……? ……一体、何が原因で、この状態に?」


 ミュッカさんを手のひらに乗せる子に、たずねるアリス。


「みゅ……ミュッカちゃんは、落ちてる()げパンを食べて……」


「あーッ! 拾い食いはしないでって、あんなに言ったのにーッ!」


 ノエルが、怒りの声を上げた。


 そういえばミュッカさんは、『こっちのほうが、熟していて甘いから』と言って、地面に落ちている果物を食べるのが好きなフェアリーだった……


「アリス……食あたりのポーションってあるのかな?」


「うん……たぶん、あれが効くはず」


 そう言って、自分のカバンをガサゴソするアリスを見て、俺は少しホッとした。


「これ、飲ませてみて……」


 アリスが、液体の入った小瓶をノエルに渡す。


「ありがとだよう!」


 彼女が、自分の母親に、その薬を飲ませ始めた。


「……そういえば、他の子供達のお(なか)は大丈夫なのかな?」


 単純な疑問。


 ノロウィルスみたいな食中毒だと、ミュッカさんから子供達に感染しそうで怖いんだが……


 どうにかする薬はあるんだろうか?


「……あの薬、予防薬にもなるんだけど……他の子にも飲ませたほうが良いかな?」


 アリスが首をかしげる。


「多分、そうしたほうが良いんじゃないかな……。薬代は、あとで魔石とかのお金が入ったら出すよ……」


「……別に、いいよ。予防なら、飲ませる量はちょっとだし」


 彼女はそう答えると、子供に薬を配りに行った。


 白い髪と赤い瞳を恐れられることもあるアリスだったが、子供達はおとなしく薬を受け取ってくれたようだ。


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