19. 町へ入る
四日ほどかけ、町へやってきた。
田舎町なのかと思っていたら、意外なほどに大きな町で……三メートルほどの石の塀で囲まれている。
石の塀にはいくつかの門があり、俺達は、その一ヶ所にやってきていた。
近くには、町の中に入るため順番待ちをする人々の群れ。
荷物を背中に載せたロバとかもいるな。可愛らしい。フェアリーの大きさだと、かじられると大変なことになりそうなので近づかないが。
胸の大きなエルフ、リディアーナさんは、門番の兵とまじめな顔で話をしていて……
俺達フェアリーとアリスは、門番から渡された紙と、にらめっこをしていた。
「うん……町に入る目的は、もうここに書いてあるし、出身地は無記入でも良いはず……。あとは種族と名前、どんな仕事をしているかを、ここに書くんだよー」
深く帽子をかぶったアリス。
木の板の上に乗った紙を見ながら、俺達にレクチャーしてくれる。
「ふんふん……。町に入るには、これに記入しなくちゃいけないんだね。わかったよう! このノエルにお任せあれー!」
自分の身長ほどもあるエンピツを持った彼女。紙の上に立って、記入を始めた。
「じゃあ、まずはファーちゃんから……種族は『フェアリー』で名前は『ファーライン』、仕事は――」
「『凄腕冒険者』で!」
「『凄腕冒険者』……と」
俺の要求に応えるノエル。
「あとは私とエクちゃんの種族と名前を書いて……、仕事は『ファーちゃんの妻』。ついでだからアリスちゃんとリディアーナさんのぶんもやっておこうかー?」
ノエルが気の利くところを見せる。
「まずはアリスちゃんで種族は『人間』、名前は『アリス』……、仕事は『ファーちゃんの妾』……。次は種族『エルフ』で、名前が『リディアーナ』、仕事は『おっぱい』……と」
書き終わり、満足気にうなずいたノエル。
俺の妾が「えっ、えっ」と、とまどっている間に、紙を門番のところに持っていってしまう。
「あっ、リディアーナさんのほう、門番さんとの話しが終わったみたいですね」
エクスタが指差し、ノエルと入れ替わるように、リディアーナさんがこちらに戻ってくる。
「すまない、少し時間がかかった。詳細がわからなかったんだが、どうも領主の館に侵入したイタズラ好きなフェアリーがいたようでな……。仲間がイタズラをしないよう、気をつけてくれと注意されたよ」
「……ああ、普通のフェアリーはイタズラ好きだからな!」
「わたくし達三人とは、違いますからね!」
俺とエクスタが、自分達は違うよとアピールする中、ノエルが帰ってきた。
手には提出したはずの紙を持っていて……
「うわーん! 聞いてよーっ! 私、いっしょうけんめい書いたのに『リディアーナさんの仕事が変だ、直せ』って、門番が受け取ってくれなかったんだよ! ひどいーっ!」
首を傾げながら、ノエルから紙を受け取ったリディアーナさん。
自分の名前の横に、仕事『おっぱい』と書かれているのを見て、頬をひくつかせていた。
そんなこんなで、リディアーナさんの『仕事』だけを修正し……、俺達は無事、町の中へと侵入したのだ!
――ガラガラと馬車が通り、人の声がこだます、けっこう大きな道。
「おっ、あれが冒険者ギルドかっ!」
俺は、鎧を着た人間やローブを着た人間が出入りする、謎の建物を発見した。
門から入って、百メートルほど歩いたあたりかな。
「料理店とかでは無さそうですが……、……あっ、あそこに、『冒険者ギルド』と書かれた看板が出ています」
エクスタの補足にテンションが上がる。
「よっしゃ、さっそく魔石とかを売りに行こうぜーっ!」
みんなを促し、その建物へと向かった。
開けっ放しになった両開きの扉をくぐる。
中に入ると……革鎧とかを着た冒険者の姿があるな!
今の時間帯は、右側に人がいるようだ。
そこにはテーブルやイスが置いてあり、軽食を提供しているらしい。
ガヤガヤと、彼らの声が聞こえてきた。
左側にはコルクボードがあって、紙が貼り付けられている。
冒険者への依頼が、書いてあるのだろうか?
正面には、木で作られた受付カウンターがあった。
「魔石の売却は……あそこだな」
魔物のドロップアイテムなどが入ったリュックを持つリディアーナさん。
彼女がカウンターの一つに向かっていく。
「すまない、これの売却を頼みたいのだが」
リュックから魔石や毛皮などの入った袋を取り出すと、カウンターの上にドサッと乗せる。
それをチラッと見た、無表情の受付嬢。コクリとうなずくと、品質などのチェックを始めた。
無言で作業をすすめる彼女に、リディアーナさんが聞く。
「……ちょっとワケがあって、フェアリーの精霊使いがこの町にいないか調べたいのだが……いるか、わかるか?」
「わからない。私の知る、この町のフェアリーに、精霊使いはいない」
「あー……領主の館に侵入したフェアリーなどもいたようだが、そいつは……」
「まだ捕まっていないということしか知らない」
手元から目を逸らさず、受け答えをする受付嬢。
そんな彼女の手がピタリと止まったのは、袋に入った、赤い熊の毛皮を発見したときだった。
「……それより、このマッドベアの毛皮は、どこで?」
「ああ……。それは、この町から西にある村で、そこのフェアリーが倒した」
俺を指す、リディアーナさん。
難しい顔をしたのは、受付嬢だ。
「……なんで、そんな強い魔物が人里に……」
「ん? 我々エルフの集落で少しトラブルがあって、山奥の魔物が人里まで出てきてしまっただけだぞ! まあ、問題はもう解決しているから、心配する必要はない」
「……その話について詳しく聞きたい」
受付嬢の要求に、「えー」と、リディアーナさんが面倒そうな声をあげる。
「詳細を聞かせてくれるなら、フェアリーの精霊使いがここや周辺の町にいるか、調べてもいい」
その言葉に考え込み、「それなら」と話し始めようとしたリディアーナさん。
それを、さらに受付嬢が止める。
「説明は、副ギルド長のいるところで、お願いする」
……な、なんか長くなりそうな流れだ。
「ファー様、ファー様ー! リディアーナさんが、お仕事してる間、わたくし達は遊びに行きませんか!」
同じことを思ったのだろうか、エクスタからの提案がくる。
そうだなー。
「冒険者ギルドも、ちょっと見て満足したし。フェアリー用の、小さな冒険者カードも、王都じゃないと作れないってアリスに聞いていたし……。やることないから、遊びに行くか!」
「良いね! まずはアリスちゃんのお買い物に付き合おうよ!」
ノエルも、乗り気なようだ。
「うん……すぐ戻ってくるならいいんだが、お願いだから、町で変なことはしないでくれよ……」
不安そうなリディアーナさん。
「大丈夫だよう!」
「わたくし達を信頼してください!」
幼なじみ達が、リディアーナさんの胸(先っちょのあたり)をポヨンポヨンと叩きながら、彼女を安心させようとした。
「アリス、フェアリー達を頼んだぞ……」
必死な目で、アリスに何かを訴えるリディアーナさんを残し、俺達は、町の探検に出かけることにしたんだよ!




