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01. 豪快なヘビ花火

 職業が戦士と判明し、翌日。フェアリーの集落の外れにて……

 俺は、じめじめした木の(うろ)の中で体育座りになり、壁に『の』の字を書きながら涙していた。


 いいんだ……、どうせ俺なんて……


「ファーちゃーん、ここは危ないよう! ネズミが出るよう、蛇も出るよう。せめて、みんなの近くで落ち込もうよう!」


 木の洞の外では、朝から幼なじみのノエルが俺をなぐさめようと右往左往している。

 まあ、今ではなぐさめるのはあきらめて、とりあえず俺をここから出そうとしているようだが。


「食べられてしまったとしても、かまわないさノエル……どうせ俺は戦士……フェアリーの里のダメ人間なんだから……」


「そ、そんなことないよファーちゃん! ファーちゃんはフェアリーだもの! 少なくともダメ人間じゃないよ! ダメフェアリーだよう! だから元気だしてよう!」


 少し天然が入っているノエルが、がんばって俺をなぐさめてくれる。

 普段なら、かわいらしいだけのその言動が、ナイフとなって心をエグるぜ……


「そ、そうだ、ファーちゃん! 今度一緒に魔物狩りに行こうよう! 危ないから連れてかないように言われてるけど、エクちゃんにも内緒で、こっそり連れ出すから! ねっ、魔物をいっぱい倒せば、ファーちゃんも、めちゃくちゃ強くなるよ! 夢だって言ってた冒険者にもなれるよ! ほら、元気出た? 元気出たよね!」


「ああ……そうだな……魔物を倒しまくると、強くなる世界だもんな。ノエルも他の子も強くなるだろうさ……。下位の亜竜ぐらい、大魔法とかで倒せるようになるんだろう……。俺はフェアリーの戦士だから、どんなに強くなっても、犬に勝てるようになるぐらいがせいぜいだろうが……。スゲーな、俺……犬に勝てちゃうんだ……元気出たよ……」


「い、今にも死にそうな声で言われても、説得力ないよお!」


 ノエルは半泣きだ。

 そんなところに新しい声が。


「ファー様にノエル! こんなところにいたんですか」


 長老の孫、エクスタだ。


「あ! エクちゃーん! 聞いてよお! ファーちゃんがなんか今にも死にそうなんだよう! 一緒に慰めるの手伝ってよう!」


「……わたくしは打ちひしがれて涙目のファー様も好きなので、別に今のままでもよろしいのですが……」


「エクちゃんが、ド(エス)だ!」


「否定はしませんが」


 しないのか……


「それよりもファー様、いつもの人間の商人がやってきましたよ! 今回はファー様の好きなへび花火も持ってきたそうです」


 なん……だと……


「早く行かないと無くなってしまいそうですわ!」


 俺のへび花火が無くなる……?


 エクスタの知らせは衝撃をもたらした。


「うおおお! へび花火ー!」


 木の洞を飛び出した俺は、商人の元へ一目散と飛んでいった。


「ねー、エクちゃん。へび花火って、ファーちゃん以外に好きな子ってあまりいないから、いつも余ってるよね?」


「わたくし、単純なファー様が好きですの」


 そんな会話を、ノエルとエクスタがしていたことを知るのは、けっこう後のことになる。


   ◇


 地面に置いた、ボタンみたいな黒い塊。俺はそれに魔力を通した。

 ボシュっと音を立て一瞬だけ火花が散り、塊からぐにゅぐにゅ動く黒くて長細い灰が伸びてくる。


「ファーライン君は、へび花火が好きだねー」


 楽しそうな声で、商人のおっちゃんが、そんなことを言う。


 好きっていうか、前世を思い出させるアイテムなんだよな。

 火薬は使っていないらしいんだが、見た目なんかは前世のものとまったく同じだ。


 花火の大きさも変わらず、でも俺の体は小さくなっているから……自分の体の三分の一ぐらいある大きさの、へび花火が見れるわけだな! 豪快だぜ!


 ここはフェアリーの集落近くにある森の広場。

 人間などの客人が立ち入る場所だ。


「ファーライン君の様子を見ていると、こっちまでウキウキした気分になるよ。幸運の運び手と言われるフェアリーだしね、君が一緒にきてくれれば私の旅も(うるお)いが出そうなんだけど」


 ……それほど楽しそうにしている自覚はないんだが。


「ちょっと! ファー様をナンパしないでくださいます!」


 エクスタが、いつの間にかこの広場に来ていたようだ。


「そうだよう! エクちゃんなら何人でも持ってって良いけど、ファーちゃんはダメだよう!」


 ノエルも一緒に抗議している。

 あいかわらず、言ってることが少しおかしかったけれど……


「あっはっは。ファーライン君以外はイタズラ好きが多いみたいだから、ちょっと厳しいかなー」


「……わたくしも、あまりイタズラはしませんわよ?」


 そう言うエクスタだが、この前長老にボヤかれていた。


 何でも人間の町に行ったとき、なわにつながれた犬にピシピシ小石を投げつけ、飼い主に怒られたとか。


 なわのギリギリの範囲で、手出しできない相手に嫌がらせをするのが面白く、ついやってしまったとか言っていたな。ダメフェアリーである。


 それに比べれば、俺は小石を投げつけるにしても魔物ぐらいだ。

 小石をぶつけられて怒る魔物から逃げ、でも逃げきれず、フェアリーの集落に魔物をおびき寄せてしまうぐらいしかしていない。


 そんな俺をイタズラ好きでないと評価するとは。

 そのままずっと勘違いしていてもらいたい。


「あれ? エクちゃん、あれって長老様じゃない?」

「あら。そうですわね」


 ノエルとエクスタが、こちらに飛んでくる長老に気がついた。


「おお、ノエルにエクスタ。ここにいたか」


 長老は、彼女達二人(ふたり)を探していたようだ。


「何のようですか、お婆様? わたくしはファー様の観察で忙しいのですが」


「いや、実はな。ここ数ヶ月で、成人の儀式を迎えたフェアリー達に、性についての知識を教えねばならなくてな。今、若いフェアリー達に声をかけていたところなのだ」


 ああ、性教育か。

 どうせ小学校の保健体育みたいな内容だろう。面白いことはなさそうだ。

 『大人のための性教育』というフレーズには、そそられるものはあるが。


「……それで私達()()をさがしていたんですか? ファーちゃんもですよね?」


 ノエルが聞いている。

 首を振る長老。


「いや、今回はフェアリーのメス達だけだ。ファーラインには、時期が来ればお前達か、そこらの暇なメスが教えるだろ」


 なるほど……、まあ、勉強会のほうは興味ないから良いかな、と思っていたのだが……


「授業を(のぞ)きにきたりするなよ」


 長老が俺を見て、そう言うもんだから……


 見るなって言われたら、もう見るほかないじゃないですかヤダー。


 長老には、こういう風に無自覚にフェアリー達を挑発し、イタズラを誘発してしまうようなところがあった。


 他のフェアリー達も、こんな感じでイタズラしたり、されたりを繰り返している。多分、フェアリー族の性質なんだろう。


 隠れたり気配を消したりがうまい種族でもあるらしいから、イタズラの成功率も高い。

 さらに、うまくできることは、やってみると面白い。


 こうしてフェアリーの里に、今日も怒声と悲鳴が響き渡るわけだな!


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