16. エルフの集落からの帰り道
「オラァッ!」
剣から出た衝撃波が、八メートルはある双頭のヘビを切り裂く。一撃で、両方の首を落としたぞ!
魔石とヘビ皮のみを残し、魔物は煙となって消えた。
「うわあ……、ふぁーちゃんは、本当に強いねー」
フハハハハ、それほどでも!
褒めてくれたアリスに向かって、かっこいいポーズを決める。
さあ、これから寝よう、というときだったが、俺のテンションは高かった。
今はエルフの集落からアリスの家に帰る途中――、山の中で夜の野営をしていた。
昼間は、道案内をしてくれるカードの通りに進めば、魔物とぶつかることはない。
しかし、こういう夜営の時は魔物に襲われることがあるみたいだ。
「……わたしも、もっと強ければ魔物をたくさん倒せて、薬師の力も強くできるんだけど。ふぁーちゃんも、いっぱい魔物を倒して強くなったんだよね?」
うーん……他の冒険者に比べて魔物を倒しているかって言われると、そうでもないわけだが。
なんせ、この剣撃を飛ばせる不思議な力を使えるようになったのも、つい最近だから。
「あー、とりあえず、アリスの家の近くの魔物は、けっこう大量に倒しているな」
山の中に入れば魔物は見つかる。
毎日二時間ぐらいかけて山のほうに飛んでいき、そこで適当に見つけた魔物の群れを殲滅して帰るようなこともしていた。
「……そうなのか? その割には、魔石とかは、あんま持って帰ってきてなかったが……」
ヘビの魔石などを回収していたアリスの父が、会話に入ってきた。
だが俺が答える前に、何かに気がついたようだ。
「いや、待てよ……。そういえばジャックのヤツが、山の中に、魔物のドロップアイテムや魔石が転々と落ちていることがあるって怖がっていたな……。なんか『魔物を殺す“魔物”』が出たんじゃないかと悩んでいた……」
ああ……多分、それは俺のせいだろうな。
フェアリーは小さくて、荷物をあまり持てない。
ドロップアイテムなどは持ち帰るのが面倒だったため、山に放置していた。
……とりあえず、何を言われるかわからないから、知らないフリをしておこうか。
「不思議現象だな!」
「……いや、まあ、本来なら魔物を倒してもらって、礼を言うべきことだから良いんだけどよ……。村人達が怖がるから、こういうことはちゃんと言っといて欲しいぜ」
ジトッとした目で見てくる。
……このまま会話をしていると、もっと文句を言われそうだ。
話題を変えようか!
「アリスは魔物を倒して職業の力……魔力とかを上げたいんだよな? それなら今度、俺と一緒に魔物狩りにでも行くか!」
「えっ、いいの!?」
食いついてきた。
実は、アークスライムを倒した報酬として、ポーションなどの他に様々なアイテムのレシピなどをもらっていた。
例えば『ヘビ花火のレシピ』など……
俺やノエルが好きそうなものを中心に、アリスへのプレゼントとして彼女が欲しそうな顔をしたものも含め、もらってきた。
薬師であるアリスや魔法職であるノエルが作れそうなアイテム達のレシピだ。
ヘビ花火は、残念ながら今のノエルやアリスでは作れない。
しかし、彼女達の力が上がれば話は別で……
アリスみたいな生産職の職業持ちは、アイテムを作ること、魔物を倒すこと。この二つで生産職の能力を上げていく。
片っぽだけではダメだ。
もしかしたら『アイテムを作ることで "調合" などのスキルのレベルが上がる』、『魔物を倒すことで本人のレベルが上がり、魔力なんかのステータス値が上がる』みたいな感じになっているのかな?
彼女は魔物をあまり倒しておらず、能力が頭打ちになっていたようだ。
「ねえ、お父さん! ふぁーちゃんと一緒に魔物狩りに行ってもいい? 肌がかぶれない毛染め薬とかも作れるようになるし!」
肌の弱い彼女は、普通の毛染め薬だと頭皮がかぶれてしまうんだとか。
赤い瞳と、白い髪の組み合わせが人間達に忌避されているから、彼女は白い髪を染めたいんだと思う。――エルフやフェアリーは、赤い瞳も白い髪も、あまり気にしてないみたいだけどね!
「うーん……、もうちょっと体がしっかりしてからと思っていたんだが、でも、こんな機会も滅多にないか。俺も鍛冶師の職業は持っているが、ファーラインほどの強さはないからな……」
彼はうなずく。
「よし、良いぞ!」
いつもの通り、即断即決。
「――でも、ドロップアイテムとかは、ちゃんと回収してくれよ……。村人が怖がるからな」
俺に釘を刺すことも、忘れなかった。
◇
エルフの集落から帰り、アリスの母リーナさんと感動の再会を果たし、翌々日。
アリスと俺達フェアリーは、さっそく魔物狩りに出かけることにした。
朝、家の外――
そこには目を真っ赤に腫らしながら、アリスに別れの挨拶をする彼女の父の姿が。
「気をつけるんだぞ、アリス。愛しい子よ……絶対、俺達のもとに帰ってくるんだ! 父さんはいつまででも、いつまででも、ここでお前の帰りを待っているからなーッ! わかったなーッ!」
コクリとうなずくアリスは、疲れた表情をしている。
二日前の夜から今まで、ずっとこんな調子で、こんな言葉をかけていたから……
「……そんなに心配なら、もう一緒に魔物狩りについてくればいいんじゃないかな?」
あきれながらの俺の発言は、アリス父の激情を呼び覚ましてしまったようだ。
「違うんだよーッ! お前や魔物を見つけるのがうまいフェアリーの嬢ちゃんがいれば安全なのはわかってるんだよーッ! 今日は、そんな危ないことはしないって知っているし! でも娘が心配なんだーッ! これは理性じゃないんだよっ! 感情なんだ!」
彼が自分の妻を見る。
「……おい、リーナ! やっぱり俺も魔物狩りについてくぞ!」
「ダメです。鍛冶師としての仕事が溜まっているんですから。戻りますよ」
にべもなく提案を却下された彼。
耳をつかまれ、家の中へと引きずられていった。半泣きの、「アリスーッ!」という叫び声を残して……
リーナさんもアリスを心配していたんだけど、アリス父の何度も繰り返される愚痴に次第に表情が冷たくなっていったから……
やはり情けない男はダメだな、と俺は彼を反面教師にしたのだ。
「それじゃ、いこっかー?」
アリスが声をかけてきたので、俺は「おう!」と返事をして気合いを入れた。
できるだけ彼女にケガがないように気をつけようと思いながら、魔物狩りへと出発した。




