15. 秘孔
夜、胸の大きなエルフ、リディアーナさんの家――
アリスは『おねむ』ということで、早々に床の上で寝始めてしまったが、今ここではアークスライムを倒したことを祝う小さな宴が開かれていた。
「いやーっ、ハッハッハ! ふぁーちゃんはスゴかったなー! 精霊樹のポーションを飲んだだけで、『一閃』の威力があんなになるなんて……、お姉さんは思わなかったゾっと!」
赤ら顔の酔っ払いエルフが、酒臭い息を俺に吹きかけてくる。
この酔っ払いは品はあるけど胸のない美女……例の巫女様だ。
今は品も胸もない美女になっているが、衣服がはだけてるところとかが色っぽくて、これはこれで良い。
職業はアリスと同じ『薬師』だが、この集落で『精霊樹の巫女』という役職をこなしているらしい。
今は酒に飲まれているせいで『巫女様(笑)』という感じだが、役職『長老』のエルフと肩を並べるぐらいには、偉いエルフみたいだ。
そして俺達の横。
そこでは、酔っ払ったノエルが、この家の持ち主であるリディアーナさんに絡んでいた……
「おうおうおう! 謝れよう! ファーちゃんが『スラッシュ』使えないって思ったこと、ファーちゃんにセクハラしたこと、お前の乳がでかいこと、この三つについて謝罪しろよう。今、ここで! ――そして胸を揉ませろう!」
……ノエルは、前に『今、謝罪をすれば、オッパイ揉むだけで許してやる』とか言って、リディアーナさんから謝罪を勝ち取っていたから。
それを今ここで、やろうとしているのだろう。
エクスタやノエル――幼なじみ達は、俺がセクハラをするのは許せるのだが、知らない女性が俺にセクハラをしたのが許せない様子。
そんな俺の幼なじみの怒りに、リディアーナさんも勝てなかったようで……
「わ、わかった……すまなかったから……。お、おっぱいも揉んで良いから……もう耳をつかみながら至近距離でがなりたてるのはやめてくれ」
「あっ、ファー様、リディアーナ様が堕ちましたわー」
ハチミツ酒を飲んでいたエクスタが、ふわふわした声で、うふふー、と笑う。
「おーし、揉んでやるよう!」
気合を入れたノエルが、こちらを向く。
「どうせだし、ファーちゃんやエクちゃんも手伝ってよう!」
その言葉に、リディアーナさんが『えっ?』という表情になった。
俺も『えっ』てなったが、せっかく幼なじみがセクハラをする許可をくれたのだ。
「わかったぜ!」
「いいですわよ!」
酔っ払った末の犯行と言えば、リディアーナさんも、許してくれるだろう。――なにしろ、イタズラ好きなフェアリーのやることだからね!
「それ行くよう!」
「ひゃほーッ!」「ですわー!」
「ちょっ、男の子は――」
あせるリディアーナさんのガードを突破!
俺は見事、彼女の胸の谷間に入り込む。
「ふわふわですわー」
エクスタはオッパイに取り付いたようだ。
「あっ、誰!? パンツの中にもぐりこんだのは!?」
パンツ?
「俺じゃないぞ」
「わたくしでもありませんわ!」
俺とエクスタじゃないなら、残りは一人。
「穴発見だよう!」
そんなノエルの宣言のあと、リディアーナさんの「ギャー!」という悲鳴が響いた。
……どちらの秘孔を突いたのかは知らないが、あとで彼女には手を洗わせなくてはな。
――今日は、胸の谷間を全身で感じられたし、本当にいい日だった!
◇
翌日、エルフの集落の外れにて――
帰路に着こうとする俺達を、リディアーナさんや巫女様、イケメンエルフの長老が見送りに来ていた。
「うう……頭とお尻が痛い……」
二日酔いの上、ノエルに後ろの秘孔を突かれたダメージが残るリディアーナさんは、ボロボロな様子だ。
「情けないですね……。酔いや二日酔いぐらい、気合でどうにかなるでしょう」
「み、巫女様……。ポーションをください……」
二日酔いに効く魔法の飲み薬を求める彼女の姿は哀愁を誘う。
「材料がもったいないのでダメです」とにべもなく断られていたが……
アークスライムを倒した報酬として、ポーションやそのレシピをもらっていて、その中に二日酔いに効くポーションもあったんだが……。貴重なものなら、黙っておこうと思う!
一晩が明け、品のある美女に戻った巫女様――
彼女が、こちらを見る。
「昨日は、すみませんでしたね……。本来はアークスライムを倒せたことを、エルフ達全員で祝うべきだったのですが、なにぶん攫われた子供の探索などもあるもので……」
エルフの多く、さらにイケメンエルフの長老は『何かあったときに酔っぱらっていたら困るから』と宴には参加していなかったからな。
一応、酔いを醒ますポーションなんかもあるらしいけど、これも貴重なものらしい。
ちなみに彼らの判断は正しく、さらわれた子供の探索に、昨日、一定の成果があったみたいだ。
なんでも、何日も前に、この集落から出発した探索部隊が帰ってきたとか。エルフの集落を襲撃した人間達が拠点に使っていたらしき山小屋……その跡地を見つけたらしい。
小屋は爆発か何かで、綺麗サッパリと崩れていたそうだ。
貴重品なども瓦礫の中に埋まっていたため、証拠隠滅のため……などではなく、魔物に襲われたなどの理由で崩れたんじゃないかとエルフ達は推測していた。
謎の魔物により、あっさり小屋が吹き飛ばされてしまう異世界……、怖いな……
暴力が、敵ではなく、俺や俺の大事な人に向かったらと思うとゾッとするよ。
小屋を吹き飛ばした生き物が、誰か強い人に駆除されるよう、俺は祈っておいた。
効果があると良いんだけど!
「世話になったな、ファーライン! こいつは俺からの礼だ!」
イケメンエルフの長老が、ヒモがついた五センチぐらいの大きさの小袋をくれた。
両手で受け取ると……軽いな。
「そいつには精霊樹の葉っぱが入っている! 精霊達の加護がかかった……まあ、お守りだな! なんか知らねーが、お前に異様に感謝してるみたいで、かなりの加護がかかっているみたいだぜ。もしかしたら『アークスライムを倒す』以外に、何かしてくれたのか?」
そう聞かれたんだが、まったく思い当たることがない。
俺は首をかしげた。
「……その顔は、まったく心当たりがねーって顔だな……。精霊達が伝えようとする断片的な情報から、敵の小屋を吹き飛ばしたのがお前なんじゃって推測したやつもいたんだが……」
ああ、さっき小屋を吹き飛ばした生き物が駆除されるようにって祈ったやつね。
「……そういえば、奴隷商人の小屋を吹き飛ばしているな。生け贄を手に入れようとしていた商人だった!」
たしか、あれは……
「あっちに十日ぐらい飛んでったとこにある小屋だな!」
「……向こうに二十日ぐらいじゃなかったかな?」
「ファー様もノエルも、方向が違いますよ。あっちです」
フェアリー三人が指した方向は、見事にバラバラだったが……ま、まあ、エルフ達は優秀だからな。こんな情報でも有効活用してくれるだろう。
「そ、そうか……了解した。……どちらにしても、お前達は、集落の恩人みたいだな。もし、困ったことがあれば言ってくれよ。できることはするから!」
そう言ったイケメンエルフの彼が、さらにアリスの父を指し、聞く。
「ファーラインは、しばらくはヘンリーんとこにいるのか?」
「ああ! アリスんとこにいるつもりだ!」
ご飯もおいしいし、宿代もタダ。山奥に行けば魔物も倒せて、遊び相手(アリス)もいる。
これほど好条件の場所は望めない。
「そうか! もしかしたら、何か頼みたいことができるかもしれない……そのときはよろしく頼む!」
俺はイケメンエルフに「良いぜ!」と、うなずいた。
「お前らも世話になったな!」
イケメンエルフがアリスの父や俺の幼なじみ達に声をかける。
彼は最後にアリスを見た。
「道案内の精霊の力は回復しているはずだ。きちんと皆を導いてやるんだぞ!」
アリスは村の場所を指し示してくれる緑のカードを持ちながら、コクリと力強くうなずいたのだ。
「それじゃあ、帰ろうか! 私とファーちゃんの愛の巣である、アリスちゃんの家へ!」
「ええ! 帰りましょうか! 私とファー様の邸宅である、あの家へ!」
「いや……あれは、俺の家だからな……。あと愛の巣は良いんだが、エロいことは、アリスが寝てる近くではやんないでくれよ……」
アリスの父が、彼の家を私物化しようとするエクスタなんかに注意を促し、俺達は帰路に着くことになったんだ。




