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14. 『一閃』

「長老様、長老様ーッ!」


 胸の大きなエルフ、リディアーナさん。

 彼女が俺をつかんだまま、エルフの集落の真ん中――巨大な樹がある広場へと駆け込んだ。


「どうした、リディアーナ。精霊が少しざわついていたが……人間の村からの客人か?」


 四十代ぐらいに見えるイケメンエルフが俺達を見る。


「は、はい、そうです! 彼が、例のアーク・スライムをどうにかできるかもしれない者を連れていたので、急いで長老様にお見せしようと……。この者です!」


 リディアーナさんがイケメンエルフに俺を掲げた。


 ……とりあえずイケメンなので、メンチを切っておこう。


「う、うむ……なぜか、すごく(にら)まれているのだが……」


「フェアリーの……これは珍しい……オスですね」


 彼の隣にいた、品のあるエルフの女性が俺を見る。ちなみに品はあるが胸はあまりない。――これはこれで大好きである。


「えっ、オスなのですか?」


 中性的な容姿のせいで、リディアーナさんは気がついていなかったようだ。

 だからといって、股間を指でぐりぐりするのはどうかと思うが。


 同性(と思っていた俺)に胸の谷間をガン見されたぐらいで赤くなる恥ずかしがり屋さんだと思っていたけど、意外に積極的なのね……


「それで……アーク・スライムをどうにかできるということは、何か職業(ジョブ)を持っているということですね?」


 品のある女性が聞き、チラッとイケメンのエルフを見る。


「うーん……フェアリーということは『神官』や『僧侶』などでは無いだろう。エルフと同じで、神への信仰心を求められる職業にはつけない……つまり『神弾』は使えないはずだ。……わからないな。なんの職業(ジョブ)なんだ? 大昔に失われた職業を持つものか? ……いや、フェアリーならば、よほどのレア職を持つものを見つけたのか?」


 彼らの疑問に、リディアーナさんが胸を張って答える。


「長老様! 巫女様! 彼――ファーライン君は、なんと『戦士』なのです! 『一閃』を使っておりました!」


「なんと!」

「まあ!」


 リディアーナさんの言葉に驚く二人。


「……しかし、それが本当なら『神官』や『僧侶』は必要なくなる――つまり人間達に頼らなくても良いということになるな! 他のエルフも納得するだろう!」


 イケメンエルフは、驚きからすぐに立ち直った。


「我々に協力してもらって良いだろうか!」


 イケメンエルフに言われたので、『えーッ、面倒くさーい』という顔をする。


「よろしくお願いします! エルフの集落の危機なのです!」


 品のある美女――巫女様に頼まれた。

 答えはもちろん……


「フェアリー族ナンバー・ワンの戦士、ファーライン! 森の種族のため、その力を振るうぜ!」


 俺は即行で依頼を請け負ったんだよ。


 隣で「俺の扱いヒドくね?」とかイケメンがつぶやいていたが、イケメンは敵なので気にしない。


   ◇


 リディアーナさんに、例のイケメンエルフな長老、そして巫女様……

 彼らに、例の剣から衝撃波を飛ばす技を見せた後、俺を追ってきた幼なじみ二人やアリス、その父と合流し、今は『アークスライムを封印している』という場所へと向かっている最中だった。


「ファーちゃーん! 大丈夫だったー?」

「あの、おっぱいエルフに変なことはされませんでしたか!」


 幼なじみ達に聞かれたので、問題はなかったと答える。


「別に変なことはされなかったな! 股間を指でぐりぐりされたぐらいで気持ちよかったぞ!」


「ギャー、ファーちゃんが(けが)されたーッ!」

「わたくし達のファー様に何してくれてるんですか、あなたーッ!」


 イタズラ心で余計な一言を付け加えたら、大騒ぎになっていたが。


 時間が経てば『ファーちゃんは元から(けが)れてたし、まーいっか』などと冷静になると思う。

 一緒に、他のフェアリーへ、ちょっとエッチなイタズラをしかけたりした(なか)だから。


 そんな会話をしながら、たどり着いた目的地――


「こ、ここだな……」


 髪や耳、鼻の穴を俺の幼なじみ達に引っ張られているリディアーナさん。

 彼女が指差したのは、集落の近くにある森の一角だった。


 地面に瞑想をするようなポーズで座る、六人のエルフ達。

 その中から短髪の男が立ち上がり、イケメンエルフの元へ行く。


「……長老様、どうされたのですか?」


「うむ、『一閃』を使えるかもしれない『戦士』が見つかってな……例のアークスライムに試してみようかと連れてきたのだ!」


 その言葉に『俺だよ、俺!』と胸を張る。


「おお、あなたが『一閃』を扱える方ですか! すごい!」


 イケメンエルフと話をしていた短髪の男が、そう言って握手を求めてきた――アリスの父に。


「い、いや、俺じゃなくて……『一閃』を使えるのは、そこのフェアリーなんだよ!」


 アリス父が俺を指し、『えっ』という視線が集まった。

 ……『フェアリーに戦士はいない』という知識は、ここのエルフ達によく知られているみたいだ。


 しどろもどろに何かを言おうとする短髪の男をさえぎり、俺は聞く。


「あーっと……とりあえず俺は、あれに例の攻撃を飛ばせばいいのか?」


 地面に座る五人のエルフ――その真ん中に、多分、アークスライムであろう魔物がいた。

 見た目は、こんもりと盛り上がった半透明のゼリーの山という感じか。

 高さは一メートル、直径は三メートルぐらい。集落の危機と言っていたわりには小さいが……


「そうだ! アークスライムは、魔法攻撃も物理攻撃も火も氷も毒すらも効かない。伝説によると天から落ちた(いかずち)すら効果がなかったそうだ。唯一、()()から()()ランクの、無属性の魔法的な攻撃が効く」


 イケメンエルフが説明してくれた。


「『スラッシュ』は、術者が武器を振ったときの“その振りの鋭さ”、切れ味などの“武器自身の力”、“武器に乗せられた魔力”。この三つで威力が決まる中位ランクの攻撃だ。『一閃』は、それに女神などから与えられた“『祝福』の力”が加味された高位ランク以上の攻撃になる。――『一閃』を使えるということなので、多分、ファーラインにも何らかの『祝福』が与えられているのだろうが……」


 そう推測しながら、彼は懐から小瓶を取り出し、俺に渡してくる。


「これは精霊樹から作った、『祝福』の力を一定時間だけ強めるポーションだ! かなり貴重なものだが、飲めば、これだけでも『一閃』の力がかなり上がるぞ!」


 ニコニコしながらイケメンが俺を見てるんだが……もしかして、これ全部飲むの?

 蛍光色の真っピンクな液体で……、しかもエルフにとっては小瓶でも、フェアリーにとっては一リットルの牛乳パックぐらいの大きさがあるんだけど。

 薬って飲みすぎたらやばいんじゃない?


 キョロキョロ周囲を見て止めてくれる人を探していたら、巫女様が口をはさんでくれた。


「ダメですよ、長老。――ちゃんとフタをとってあげなくては。エイ!」


 キュポンと抜かれるビンのフタ。


「ささっ、グイっと全部を。飲めば飲むほど効果があるお薬で、意外とおいしいですから」


 ……彼女も飲むことを期待しているようだ。

 ――しかたない、俺も男だ。覚悟を決めよう。


 俺はビンに口をつけると、蛍光色の液体を一気に胃へと流し込んだ。


 お゛お゛お゛お゛……これはスゴイ……

 液体にしたハッカ(あめ)って感じの飲み物だな。


 口や、気のせいか胃の中までもが、スースーする。


「おいしいでしょう?」


 巫女様がニコニコしながら問いかけてくる。

 好きな人にはたまらない味なんだろうが、正直この味は苦手だった……


「と、とりあえず時間制限があるはずだから、とっととアークスライムに『一閃』を撃とうか! みんな、離れてくれ!」


 感想を言うことを避けた俺。

 タポンタポンするおなかを抱え、抜き身の剣を持ってアークスライムの方向へ飛ぶ。


 イケメンエルフが叫ぶ。


「よし、ファーライン以外のみんなは、こっちに来てくれ! 距離もとるんだ!」


「……すでに下がりすぎの気もしますが、念のため、もうちょっと下がりましょうか……」


 巫女様の促す声が、遠くから聞こえる。


「ファーラインは、俺が合図をするまで撃ち始めるのは待ってくれよ!」


「あーい!」


 怒鳴るイケメンエルフに手を振る。


「うし、精霊使いは、封印を解いてくれ!」


 キラっとアークスライムが、光る。


「おし、いいぞ! とりあえず、()()()十発ぐらい――。ファーライン、撃ち始めてくれ!」


 あいあいサー!


「オラァッ!」


 ()()()()()()魔力を乗せた剣を、()()()振る。


 こうして、一発目の攻撃が魔物に向かって飛んだんだが――

 多分、蛍光色のポーションを飲みきったことにより、ずいぶんと攻撃力が強化されていたんだろうな。


 衝撃波が着弾した瞬間、ドガーン、とものすごい音がして、俺は襲ってきた爆風に、すさまじい勢いで吹き飛ばされてしまった。


 ――体中に走る衝撃。


 いってぇ……


 どうやら俺は、後ろにあった木に、全身を叩きつけられてしまったらしい。


「ファーちゃん! ダイジョーブ!?」

「ファー様、大丈夫ですかッ!」


 無事だったらしい幼なじみ達二人が、俺を心配して飛んできた。


「オイー! どうなってんだ、これ!」


 イケメンエルフの叫び声。


 なんだ? と思ってそちらを見ると、彼が見ているのはさっきまでアークスライムがいたはずの場所で――

 そこには、小さなビルなら五つぐらい並んで埋まりそうなほどの、谷ができていたんだよ。


 アークスライムは倒せたみたいだが……


「ファーラインー! こいつはやりすぎだろ! もうちょっと手加減しろよ!」


 俺を怒鳴るイケメンエルフ。それに怒ったのはエクスタだ。


「何言ってますの! ファー様は、あなたが『全力で』と言ったから、手加減せず『一閃』とやらを放ったんです! 恨むなら『全力で』などと言ったご自分をお恨みなさい!」


 ナイスだ。もっと言ってくれ!


「ファーちゃーん、あれすごかったねー! ちゅどーん! って感じだったよ! もう一回撃ってよーっ!」


 ノエルは俺が無事なのを確認した途端、興味が爆発に行ってしまったみたいだが。


 彼女の発言を聞いてあせったのはイケメンエルフだ。


「おい、撃つな! 撃つなよ! ここら辺の木は、死んだエルフの墓なんだからな。ぜったい撃つなよ!」


 その言葉にフェアリーの本能が『撃て』とささやいてくるが、さすがに死者を冒涜する気にはなれず……

 俺は「撃たねーよ!」と怒鳴り返し、握っていた剣をそっと鞘に戻したんだ。


 何で『一閃』が、こんな威力になったのかは謎だったが……。なんとなく、あの『祝福』の力を高めてくれるってポーションの量が多すぎたんじゃねーかって気がする……

 エルフには一口に満たない量でも、体の小さいフェアリーにとっては、かなりの量だったから。

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