13. 自分のハネで移動したい
「エルフの集落の外側に家を建てて住んでるやつがいるんだが……まず、そいつに会って話を聞こうと思う。彼女が外部との交渉役だからな。みんな、ついてきてくれ」
アリス父の後ろを飛んでいくと、目の前に小屋が現れた。
森の中の普通の小屋だ。
ガチャリ
小屋を見ていたら扉が開けられ、女性が出てきた。
耳がとがったお姉さん。
エルフだろう……
エルフのはずだ……
エルフのはずなのに……
――彼女は巨乳だった。
俺達を静かな目で見る、彼女。
「人間の村の者と……フェアリー達か」
「久しぶりだな、リディアーナ!」
手を挙げるアリスの父。
「はじめまして、巨乳のお姉さん! 私はノエルだよう!」
「お初にお目にかかります、オッパイのエルフさん。わたくしはエクスタと申しますわ」
幼馴染達が挨拶した。
初対面の女性に、巨乳とかオッパイとか呼びかける彼女達……
さすがは生粋のフェアリーだな。俺とは違う。
フェアリーの習性に染まってきてはいたが、元人間。さすがに、そこまではマネできなかった。
そして、アリスの父が紹介の続きをしたんだが――
「んで、こっちが娘のアリス。――イヤに高い場所から、お前の胸の谷間を覗き込もうとしているのがファーラインだ!」
なに、その紹介ッ!
まるで俺が、胸の谷間を覗き込むため、お姉さんの真上に飛んでいったように聞こえるじゃない! 違うから! 風に流されて、たまたまこの位置にたどり着いただけだから! お姉さんに誤解を与えないでー!
「オオッ! たしかに、ここからの景色は抜群だよう!」
「ファー様は、こういう場所を見つけるのがうまいですよね!」
ちょっとエクスタ! それだと、俺が女の子のエッチな格好が見れるスポットを、わざわざ探しているように聞こえるじゃない! 違うから! 俺が行く場所に、たまたまそういう場所があるだけだから! お姉さんも赤くなって胸元を隠さなくても良いし! 俺は、そういうフェアリーじゃないのー!
どうやって誤解を解こうか考えていると、エルフのお姉さん――リディアーナさんが「コホン」と咳払いをする。
「よく、ここまで来れたな。マジックアイテムを渡していたはずだが、道案内に使う精霊の力が弱くなっていて、道中は危険だったはずだが……」
「ああ! 魔物なんかには会ったが、そこのフェアリー達がどうにかしてくれてな……! 何かあったのか? 俺達の村にも魔物が来ていて……。マッドベアっつー、体から火を出すような魔物も来ていたぞ!」
ビックリした顔になるリディアーナさん。
「何……お前達の村にも魔物が行っていたのか……。村は大丈夫だったのか?」
心配そうな彼女にコクリとうなずくアリスの父。
「ああ! 魔物はファーラインが倒してくれた!」
「そうか……すまなかったな。知らせに行けばよかったんだが、私は他のエルフの村に行っていてな……。人手が不足している上に、他のエルフ達は人間嫌いが多いから、後回しにしてしまった……」
「おう! あのマッドベアは、ファーが倒してくれなきゃ、多分かなりやばかったぜ! んで、そっちの村は大丈夫なのか?」
「ああ……いや……。実は、私たちの村への魔物による襲撃が断続的にあって……。その合間に、人間による村の襲撃があったんだ」
「……人間が、か? たしか『迷いの森』の魔法で、エルフの村は守られていると聞いたが」
「それを突破されたんだ……。魔物の襲撃も、いやにタイミングがよかったから……。もしかしたら、魔物達の襲撃も、その人間の襲撃者達が計画したことなのかもしれない。あいつらの襲撃が終わったとたん、魔物も沈静化し始めたしな……」
彼女が首を振る。
「我々にとって『迷いの森』の突破方法が知られていたことは衝撃だから……。それを他の集落のエルフに伝え……、さらに襲撃者が何人かの子供を攫っていったため、子供達を取り戻そうといろいろやっていたら、お前達の村への人手を割けなかった。本当に、すまなかった……」
「なるほどな……。まあ、襲撃者が人間だったのもあるのか……」
アリスの父がうなずく。
彼女は『エルフ達は人間嫌いが多い』と言っていたからな。
襲撃者と同じ人間族の村に、人員を割くよう説得するのも難しかったのもしれない……
最悪、その人間族の村が襲撃にかかわっている、とか考えるエルフもいそうだし。
アリスの父がさらに聞く。
「んじゃ、あのお前さん方からもらった、道案内をしてくれるマジックアイテムが変だったのも、その影響なんだな? アイテム自体が壊れているとかじゃなくて」
「ああ、それはこの森の精霊の力が弱くなっているからだな。精霊を、さらわれた子供を捜すのや、ちょっとヤッカイな魔物が出たので、それの封印に使っていて……、道案内をしてくれる精霊の力が弱くなっていたんだ」
「ほう……こいつは、この森の精霊の力を使って、動いていたのか……」
アリスが持つ緑のカードを見る、彼。
「そのカードがうまく動かないのでな……、本当は、私自身が、お前達を村に送り届けるべきなんだろうが、少し忙しくて……。封印中の魔物の件がある。精霊による封印は、いつまでももたないから、そいつを殺すために、他のエルフの集落に行って『スラッシュ』という技を使えるエルフ――『戦士』や『剣士』の職業を持つもの達を集めているんだがな……なにぶん、数が少なくてな」
「へー、エルフの戦士や剣士か。たしかに、あんま聞かねーな。……『スラッシュ』ってのは、どんな技なんだ?」
そのアリス父の疑問に彼女が答える。
「剣などから、遠くはなれた場所に斬撃を飛ばす技だな。人間の『戦士』で、この技を使える者はめったにいないそうだが……、『魔力』が強い『戦士』が使える技だ」
おや……?
「おう! それならファーちゃんが使えるよう!」
ノエルが反応した。
「ん……フェアリーがか?」
「あっ、今、ちょっと鼻で笑いましたわ! 信じてませんわよ、このエルフ!」
「いっ、いや、ちょっと笑いは漏れてしまったが、鼻で笑ったわけでは……」
しどろもどろにエクスタへの言い訳をする彼女。
まあ、俺達の生態に詳しい人なら、『フェアリーに戦士はいない』ってのは常識として知っているだろうから……
俺は納得したのだが、ノエルはそうでもない様子で。
「むう! 笑われたよう! 許せないよう! 謝るんだよう! ファーちゃんは『戦士』で、本当に『スラッシュ』を使えるんだよう! 『疑ってすみませんでした!』って言えよう! 今、謝罪をすれば、オッパイ揉むだけで許してやるよう!」
……なんでオッパイなんだろう。巨乳だからか?
「い……いや、本当にすまなかった。お、おっぱいも揉んで良いから許してくれ……」
「わっはっは、言質は取ったよう! ファーちゃん、『スラッシュ』を見せてやって!」
はいはい。
まあ、スラッシュかどうかは知らないけど――
「えいっ!」
剣から出た衝撃波が、ズガン、と音を出して地面を三メートルほど切り裂いた。
「こ、これは――『スラッシュ』? いや、あんなに軽く振ったのに威力が高い……。もしや、邪神を退けたという『一閃』か!」
彼女が目を丸くして、俺を見た。
「来てくれ!」
そう叫んだリディアーナさん。
飛んでいた俺をわしづかみにして、どこかに走り出したんだよ……
「あっ、ファーちゃん返せーっ!」
「ファー様ーっ!」
そんな幼なじみ達の悲鳴を背にして。




