12. 道なき道
エルフの集落への『道』を示してくれるというカード。
彼女の父が、それをアリスに渡す。
「んじゃ、お前がやってみろ。魔力を通すだけで良い」
「うん」
おそるおそる緑のカードを受け取ったアリスが、それに魔力をこめる。
カードの上、空中に浮かぶ、二つの矢印が現れた。
「緑の矢印をたどっていくと、エルフの集落の場所にたどり着く。白の矢印をたどっていくと俺達の家につく。山の奥には谷とか底無し沼もあるが、矢印に従っていけば、そういうのも避けられるからな。んじゃ、みんな行くぜー」
アリスと彼女の父が歩きはじめ、それに俺達フェアリーが続いた。
どうやら獣道を外れ、道なき道を行くらしい……
そうして半日ほど山の中を進み――
「オラァッ!」
俺が飛ばした斬撃が、サイのような角を持つイノシシを切り裂いた。
ドロップアイテムのハムと魔石を残し、死体が煙となり消える。
前のイノシシは『生肉』を残していた。
この『ハム』は、けっこうレアなドロップアイテムだ。
「おっかしいな……。今回は、やけに魔物と会いやがる……」
アイテムを回収しながら、アリスの父がぼやく。
「うーん……。なんか、魔物に会う前、このカードがおかしくなっている気がするよう」
ノエルがアリスの手首にしがみつき、彼女が持つ緑色のカードを見ている。
「ん? おかしいって……壊れてんのか?」
アリス父が持っていたハムを剣で切り取りながら、俺が聞く。
ハムを口に運ぶと……うん……うまい。
「……どっちかというと、機能がうまく働いていないというか、このカードも困惑しているというか、そんな感じかなー」
「それは困りましたわねー」
アリスの頭の上に着地したエクスタが、そう言いながら手に持つ森の果実をかじる。
「あっ、ファー様、これ甘いですわ。一緒に食べます?」
食べる食べるー。
「どうにかできたりするか?」
アリスの父が、ノエルに聞く。
「うーん……しばらく近くでカードを観察していれば何かわかるかなー……。でも一人じゃ不安だから、ファーちゃんやエクちゃんも一緒に見てくれる?」
「ええ、もちろん……。ただ、ノエルがわからないなら、わたくしでは何もわからないと思いますが……」
「俺も協力するぜ!」
アリスの頭の上で食事をしながら、俺達はうなずいた。
「ね、ねえ……。それよりも、なんか頭の上にポトポトと何かが落ちる感触がするんだけど……」
アリスはカードよりも、そちらを気にしていたようだが。
――大丈夫、それは俺が落とした果物の種や汁だ! 虫とかじゃないぞ!
「よし、じゃあ、進むか! 周囲の警戒は、俺とアリスでやる!」
アリスの父が号令をかけた。
俺達フェアリーは、めいめいがアリスの頭に座ったり手首にしがみついたり、肩に立ったりしてカードを注視しつつ、山の中を進んだ。
「あやー? 今、カードがおかしかったよう」
しばらくして、魔力に変な動きを感じたらしいノエルが、そんな警告の声を出す。
俺は別に異変は感じなかったが……
「ファー様、ファー様! 今、あの木のあたりで、何かが動きませんでした?」
エクスタが指を差す。
んー、よくわからないけど――
「オラァッ!」
とりあえず、剣から軽く衝撃波を飛ばし、エクスタが示す場所を絨毯爆撃してみる。
狙うのは地面や木の幹……エルフさんが隠れてる可能性も考え、茂みなどへ攻撃をとばすのは避ける。
また、木々を大事にするエルフさんのことも考え、衝撃波も木を切り倒さない程度のものにした。
「あっ、あそこ、動く木です! 魔物ですよ、ファー様!」
そこかーッ!
「オラァッ!」
普通の衝撃波を飛ばし、その木を斬り飛ばす。
全高四メートルぐらいの木の魔物は死んだようで、倒れると煙になり消えた。
「うーん……、このカード、私達が進む先に魔物がいるのはわかるみたいだねー。でも、それを迂回して先に進む方法がわからなくなって困ってるのかなー……。とりあえず、魔物が現れそうなときはカードが変な感じになるから、私が警告できるよう!」
そう言ったノエル。
「それは良いな! じゃあカードの監視をお願いするぜ!」
アリスの父が頼み、移動が再会された。
そして、どうやらノエルの言葉は正しかったようで……彼女が警告ししばらくすると、魔物が現れる。
昼間は彼女に任せれば奇襲を受けることは無く、後は俺の剣から衝撃波を飛ばす能力で、魔物を殲滅しながら安全に進むことができた。
夜が近くなると、カードの上に、緑と白の矢印以外に『青』の矢印があらわれた。
これは夜営できそうな場所を示してくれているらしいのだが、その青の矢印が示したところで夜営をすると、不思議に魔物の襲撃を受けることが無かった。
アリスの父によると、いつもならエルフの集落につくまでに二度か三度、夜営中の襲撃があるという話だったが……
そうして進み五日後――
「あー、この辺りは見覚えがあるぜ! エルフの集落の近くだな!」
俺達は、谷や底無し沼に悩まされることも無く、また夜営中の襲撃にあうこともなく、無事に目的地までたどり着くことができた。
幸運を運ぶフェアリーが、近くにいたおかげかもしれないな!
「お前ら、サンキューな! ファーラインにも、嬢ちゃん達にも助けられたぜ!」
魔物を倒していたのは俺だが、幼なじみ達も活躍していた。
意外に勘が鋭いエクスタは、ノエルから警告を受けたあと、誰よりも早く魔物を見つけていた。
だが、一番大変な役割をこなしていたのはノエルだろうな……
昼間は、ずっとアリスの持つカードを注視し、魔物がいそうなときは俺達に警告を飛ばしてくれていたのだから。
警告を受けたときだけ、大変になる俺達とは違う。
よくやった、という思いを込め、彼女の頭をなでる。
ノエルは俺を見てニヘラー、と笑うと、俺に抱きついたのだった。




