11. エルフの集落へ
長くなったので二つに分けました。続きは明日投稿します。
アリスの家――
村からの依頼で、俺は今ノエルやエクスタとともに、ハチミツの味比べをしていた。
「んー、私は、こっちのがクリーミーで好みだねー」
「わたくしは、こちらの花の香りがするハチミツが好きですわ」
「塩コショウをした肉に、うすーくハチミツを塗る……もぐもぐ……うん、うまい!」
この味比べをしているハチミツは、村の周囲何ヶ所かで細々と作られているものなんだそう。
交易品の一つにならないかと、現在、試行錯誤しているんだとか。
貴族のための高級品というわけではないが、平民にとってはそれなりの値はする食材で……
世間でハチミツマスターと呼ばれるフェアリー達の評価が聞きたいとのことだったが、もしかしたら、狼の魔物を撃退したお礼という意味も込めての依頼なのかもしれない。
「じゃー、私の一番は、このクリーミーなのと、次点はサッパリしたの……。エクちゃんのオススメが、花の香りのするハチミツ……。ファーちゃんは――」
「肉に薄く塗れば、どれもうまいな!」
「……どれも甲乙つけがたし……と」
ノエルが、すらすらと評価を紙に書きつけていく。
「じゃあリーナさんに評価を書いた紙を渡してくるよう!」
彼女がアリスの母のところへ飛んで行った。
あの評価が、村人達の役に立つといいな!
――『一晩お世話になります』と泊まったアリスの家。
俺達はすでに、ここに一週間ほど泊まっていた。
ご飯もおいしいし、ベッド代わりにしてる布もアリスが定期的に替えてくれる。素晴らしい宿だ。
さらにお値段は、なんとタダ……!
出ていけと言われるまでは泊まるつもりだった。
「ファーライン、ちょっと良いか?」
声の方向を見ると、アリスの父が難しい顔で俺を見ている。
「大事な話がある」
……なんだ?
この家から出ていけって話じゃないよな。
……もし言われたら、どうしようか。
アリスかリーナさんに泣きつけばどうにかなるだろうか。
「いや……いきなりなんだが実はな……、この村の山の奥にエルフ族が住んでいてな……。うちは代々、そことのつなぎ役をしてるんだよ」
……ほー。あの長い耳を持っているイケメン、イケジョだらけの森の種族か。
マッチョが少なかったり、女性の胸が小さかったりするそうなんだが、そこがまた『良い』んだそうだ。
「そんで、最近、この村の周囲にやけに強い魔物が出現していたりしていてな……、様子がおかしいんで、彼らに何か変わったことが起こってないか、聞いてきてくれって話になったんだ……」
……多分、村の会合か何かで、そんな話になったんだろう。
山の奥で異変があり、そこからこの村の近くに魔物が流れ込むようになった可能性でも考えているのだと思う。
「んで、今回はせっかくの機会なんで、アリスも連れてこうかと思っていて……」
ん……?
「危険じゃないのか?」
アリスの父は『代々エルフとのつなぎ役をしている』と言っていたから、いつかは連れて行かないといけないのかもしれないが。
「危険なこともあるな。強い山奥の魔物と出会うこともある! だから、ファーライン……、護衛としてついてきてくれないか? お前がいれば、どうにかなると思う。……ちょっと、手持ちが無くて、報酬が少ないんだが」
なるほど……
「わかったぜ! 報酬が少ないのも問題ない! 貸し一つだ!」
俺は快諾した。
これは宿代のかわりとかではなく、あくまでも貸しである。
俺は迷惑をかけているほうではなく、かけられているほうなのだからな!
「すまねー!」
アリスの父が、頭を下げた。
存分に感謝するといいわ! ぶわははははははーっ!
◇
翌日。
「アリス……気をつけてね。お父さん達の言うことをよく聞くのよ」
「うん!」
ここはアリスの家の外――
心配そうなリーナさんが、娘に声をかけていた。
彼女が、俺達のほうを見る。
「皆さんも、アリスのことをよろしくお願いします」
頭を下げるリーナさんに、幼なじみ達と一緒に言葉を返す。
「任されたよう!」
「問題が起きたら、アリスさんとも協力して切り抜けますわ」
「娘さんは必ず幸せにするぜ!」
「……ファーラインよ。アリスは嫁にはやらんぞ」
アリスの父が、つっこんでくれた。
彼が、俺達三人のフェアリーや、自分の娘アリスを見る。
「よっし、それじゃあ、みんな用意は良いか? 出発するぞ!」
そして俺達は、山奥にあるというエルフの集落へと出発した。
ちなみにリーナさんは、俺達がエルフの集落に行っている間は、村の実家へ一時的に避難するとか。
最近は、このあたりも魔物が出て物騒だから、家に一人でいるのは危ないと安全策を取ったのだろう。
俺が趣味で魔物狩りをしているから、それなりに危険度は減っていると思うんだけどね。
実は換金できていなかった魔物のドロップアイテム――マッドベアの毛皮とか魔石とか、六本足の狼の毛皮なんかも、一緒にそこで保管してくれるのだそうだ。
町に持っていけば売れる物だからな……
マッドベアの毛皮と魔石は、貴重品扱いをされていた。
「うっし、ちょっと止まってくれよ」
山の中に入ってしばらくし、アリス父が皆に声をかける。
ゴソゴソとポケットを探り、何かカードのようなものを取り出した。
「おやー?」
それを見たノエル。不思議そうにカードを突っついた。
「……どうしたんですか?」
エクスタが問いかける。
「んー……。これ、ファーちゃんを捕まえようとした例の商人が持っていたのと似たカードだなー、と思って……。『見た目』じゃなくて雰囲気……うーん……『感じる魔力』が似てるのかな……?」
ノエルは、魔法使い系の職業を持っていた。
そういうのが、わかるようになっていたらしい。
知らなかったな。
まあ、もともと彼女は、魔力とかに敏感な性質だったが。
「ああ……あの蛇のマークが描かれたカードですか。魔法のアイテムだったんですね……。ちなみに、どんな魔法かはわかりますか?」
エクスタの質問に、ノエルは首を振る。
「似てるってことしかわかんないよう!」
彼女はアリスの父を見た。
「んー……俺が持ってるこのカードは、エルフの集落への『安全な道』を教えてくれるカードだぜ。エルフ達が作ってくれた、俺の血族にしか使えねーカードだ」
無印の、緑色のカードを見せながら彼が言う。
「エルフ族が使う、『迷いの森』という魔法がかけられた場所を抜けるためのカードになるんだが……。これを使いながら進むと魔物に会う回数が減ったりするんで、他にもいろいろやってるのかもしれないな……。どちらにしても、エルフの秘匿された技術だから、同じものを作るのは人間には難しいはずだ」
彼が肩をすくめた。
「まあ、もし同じものを作ることができたら、エルフの守りを突破して、彼らの集落にたどり着けるようになるから……お前さん達が見たってカードは、多分、似た機能を持つ劣化品だろうよ」
そんな意見を聞かせてくれた。
『迷いの森』というのはフェアリーの集落でも聞いたことがあった。
たしか、『中に入った人間を迷わせる森』とか、そんな感じの森を作る魔法だったか。
『中に入って十分ぐらい歩くと、気がついたら森の入り口に戻っている』とか、いくつか種類があると聞いたが……
エルフの集落がある辺りに、その魔法がかけられているのだろう。




