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第一部最終回

英雄百傑

最終回『天上飛燕 天下英雄 英傑足りて天運導き、龍将勝鬨をあげる』


キュウジュウの陣屋にまんまと潜入したミレム達は、空になった兵士の幕舎の一つを貸し与えられ、机には兵士達の兵糧であろう質素な食事が並べられた。給仕の兵に運ばれてきたのは一つの皮袋に入れられた水と、見た目からしてパサパサとした古米に(あわ)や麦などの雑穀入れて握った飯が十個ほど器に盛られてきた。ミレムはそれを見て酒は無いのかと給仕の兵にごねたが、ポウロが慌ててその口を塞いだ。そして、見張りの兵も居なくなったところでミレム達は密談を重ねようとしていた。


しかし…


「ミレム様、それがしは情けのうございます!なぜあのような事をなされたのですか!それがしの手にかかればキュウジュウの細首など、この腕一本、手のひら一つで砕き殺せますのに、何故あえて恥をかきなされた!明確な返答をお聞かせ頂きたい!」


「まあまあ、そうカッカするなよスワト。たかが俺の裸躍り一つで死傷者も出ず、陣へと潜入できた。それで策がなせるなら良いではないか」


「しかし…しかしッ…それがしにはッ…敵を前にして主君たるものが…あのような屈辱を味わされて…黙っておられず…余りにも…余りにもあの舞いは耐え難く…悲しゅう事実でございますれば…ッ!」


スワトは主君ミレムの前に跪き、手を地につき悔しそうに土を握りながら震えると、顔を下に向けてミレムの顔を見ないようにした。すると、滅多に泣く事の無い豪傑は、思わず目に涙を浮かべ、轟々と音を立てて泣いた。

羞恥を知らず不甲斐ない主君への憤りもあったが、忠節を重んじる士たる自分が、主君の恥を許してしまった思慮の無さに、その心を痛めたのだった。

その余りにも強い忠義心は、何度か言葉を投げかけようとするミレムをほとほと困らせた。


「ふうむ。スワトの忠義ぶりにも困ったのう…ポウロ、お前から何か言うてくれんか。このままではスワト抜きで火をつけねばならん」


「ははっ、お任せを」


ポウロは軽く頷くと、スワトの前へと駆け寄り耳元でスゥッと息を大きく吸い込み、全ての息を解き放つように語気を荒げてこう言った。


「この泣き虫の!愚か者の!能足りんの!ウスラトンカチめが!まだ戦が終わるその前に主君を困らす馬鹿がどこにおる!今は女々しく涙など流している時ではないだろう!忠義の士なら今すぐ立って話を聞け!」


「な、なんだと!このお!いくらそれがしと気の知れたポウロ殿とて無礼だぞッ!」


スワトは荒々しく叱咤されたことに怒り、すっくと立ち上がると、勢い良くガッとポウロの胸倉を掴んで詰め寄った。

幕舎の中、怪力に持ち上げられるポウロだったが、それに大して驚く事もなく、衣擦れが痛むにも関わらず、落ち着き払った冷たい視線をスワトに投げかけ、怪訝そうな顔を浮かべると、スワトの顔にニ、三度か人差し指を出すと豪傑の目の辺りを指した。


「…はっ!!」


不思議に思ったスワトは目の下に目線をずらすと、何かに気付いてガッチリと掴んでいたポウロの胸倉の拘束を解いた。何かを悟ったようにスワトは跪くと、深く深く礼をして今まで頬へ絶え間なく流れていた涙の線は、いつの間にか乾いて止んでいた。


「すまん…それがしが狼狽しすぎたようでござる…」


「まったく。手のかかる御仁だ」


「流石ポウロ。一言でスワトを黙らせるとは見事じゃ」


ポウロは乱れた衣服を整えると、再びミレムとの話を始めた。


「ミレム様。荷車の油は、先ほどから兵に命じて乾いた藁に良く染み込ませて、この幕舎の四隅に仕掛けておりまする。あとはオウセイ将軍の兵の喚声が聞こえたら、私と兵が謀反だと叫びながら火を放ちますので、ミレム様はスワトと供に北の門から逃げ帰ってください。判っているとは思いますが、よくよく手順のご確認をお願いいたしまする」


「はいはい、自分が立てた策に確認をするというのも不思議な話だのう」


ミレムは、うんざりと言った様子でポウロの話を聞いていた。

そしてその時、幕舎の外から荒野を吹く東方の寒風がヒューッと吹き抜けると、ミレムはガタガタと震えながら、手を脇の下に入れ、口をガチガチと震わせた。


「うーぅ…酔いが冷める寒さじゃのう!ブルブル…少し体が寒くなってきおったわい」


「ははは、それはそうでございましょう。この風は、この地方の秋の終わりを告げる寒い季節風。それにミレム様は、寒さの増す秋の夜空に蒙恥の舞いを踊ったのですから…。スワトの言を蒸し返すわけではございませぬが…敵陣の中でよくもまあ…恥らう気持ちを抑え、あのように立派に踊られましたな」


ポウロはスワトにああは言ったものの、少なからず同じような感情を抱いていた事実をミレムに告げた。ミレムは顔中の皺を伸ばし口元を緩めると、笑顔を浮かべて、こう言った。


「ふふふ、あのような躍り一つ…俺は恥らってなどはおらぬ。ポウロにスワト、よく聞け。兵の居ない今だから言うが、俺はお主らとは違い、元々しがない盗人の身。この世を渡るために何度もこのような事をやってきた。だが誤解しないでくれ、恥知らずと思うかもしれないが、俺はやってきた事に後悔は無い。気運気運と皆がいうが、俺には豪傑スワトのような力も、ポウロのような知能も持っていない。俺が出来るのは恥をかく事だけ。もしお前達が恥に苦しむ事があるなら、俺が代わりにその恥を受けよう。もし俺がそれで恥知らずと罵られても、お主らは決して感情を荒げるな。むしろ笑え、笑うのだ」


「ミレム様…なんという事を仰るのですか…我ら主君たるミレム様に、そのような事を出来るはずがございません。ミレム様。私達はあなたを殿と崇めておりますればこそ、その主君の恥を家臣が受けるならまだしも、家臣の恥を主君が肩代わりするなど忠節の心に反し…ハ…ッ!」


ミレムの顔を見て、ポウロは途中で話すのをやめ、その場に深々と跪いた。

主君の顔は、先ほどまでの酒気に当たって赤らんでいた色がすっかり抜けて白んでおり、ニコリと笑う口元の上にある深みを増した黒い瞳からは、自身が放つ言葉に対する真っ直ぐな真剣さがあった。

ミレムは目の前で跪くポウロの手をとり、こう言った。


「なあポウロ。俺は義勇軍を立ち上げたあの日から、いつも心の底に思うのだ。恥などという感情は、生きるのに煩わしい『人生の一部』だと。人はそんな煩わしさに振り回されて悩んだり、憎んだり、嫉妬したり、怒ったり、悲しんだり、あげく他人を殺したりする…。こんな事を戦をする人間が言うのは、おかしい事かも知れないが、人として生を受けた者が、ただ首を斬ったり斬られたりして人生を終えるのは、実に愚かなことだと俺は思うのだ。だから俺は偉くなる。偉くなって人々が互いの恥を笑いあえるような…そんな幸せな世の中を作りたいのだ」


静かに。ただ静かに。

屈託のない笑顔を浮かべながら、幕舎に響くミレムの言葉は、場に居るポウロとスワトの心に、人物としてのミレムのその大きさを思い出させた。


「…うおおおぉッ!ミレム様!それがしはッ!その大望のために、この命尽きるまで力を貸しますぞ!もう二度とミレム様の恥を恥とは思いませぬッ!」


「ふっははは。そう泣くなスワト。希代の豪傑が少々女々しいぞ」


再び泣いたスワトは大粒の涙を流しながらミレムに駆け寄った。

湧き上がる熱い感情を抑えていたポウロは、立ち上がるとミレムに呟くように言った。


「…恥は人生の煩い…ミレム様も立派に成長なされましたな」


「ふふふ、おかげであの四天王のキュウジュウとやらも、血の気の引いたような色白の顔を更に真っ青にして逃げていったわ。…さあポウロ、それにスワト。さっさと陣に火をつけて、皆で帰って美味い酒をしこたま飲むぞ!今日という日を人生最高の酒の肴にするのだ!」


「「ははっ!」」


ミレム達は意気揚々と幕舎で待機した。

勇士達の頬を伝って流れる涙は美しく、皆熱い物を心の内側に感じ、どの者も誇らしげに胸を張り、腕はグッと力強く、足はザッと勇壮に大地に立った。

真剣な眼差しに宿る勇士達の思いは皆同じく、全員無事帰還する事、ただそれだけを心に決めたのだった。


ジャーン!!ジャーン!!


「「「ワァァァァーーッ!!!」」」


そして少しの時間を経て、西の大地から沸き上がる喚声が聞こえた。

オウセイ、ガンリョ、ドルア、リョスウ率いる官軍隊総勢5千の兵が、寒い秋風の吹く荒野に旗を悠々とたなびかせ、激しく叩きつける馬蹄と人の足音を鳴らし、手に持ったドラをけたたましく鳴らしながら突っ込んできたのだ!


「フッ!やはり予想通り夜襲を仕掛けてきましたか…」


キュウジュウは外から聞こえる、けたたましい程に沸き上がった喚声と鳴り響くドラの音に気付くと、甲冑をつけ、幕舎から護衛の兵と供に剣を持って飛び出し、官軍隊の出す音の方向を冷静に見定め、それを聞き突然嘲るように下卑た笑みを浮かべた。そうしている内に守備をしていたトウロウの報告を受けた。


「キュウジュウ様のお見通し当たりましたな!案の定、敵はこの暗闇に紛れて夜襲をかけてまいりましたぞ!しかしこの陣の明かりと敵軍の喚声から大体の場所は把握できまする!およそ敵は陣から平野西6百歩の場所!かがり火の影の動きから、その総勢はおよそ5千程かと!!」


「フッ、多勢を率いて、あのように士気も高く喚声をあげ、煌々と松明を照らし突っ込んでくるところを見ると被害を覚悟の上ですかねぇ。なんという匹夫の勇でしょう…とてもソンプトの策を破った者があそこにいるとは思えませんね。例えこれが策だとしても…一方向から総勢で敵陣に突っ込むとは無策にも程があるというもの…。さあ我が兵達よ!勇ましく十梗を漕ぎ、矢を放ち敵軍を壊滅させるのです!」


陣の木柵の近くに配置された十梗が、数人の兵士に引っ張られてガラガラと車輪を右へ左へと動かすと、十梗は列をなして西の門に集結し、官軍隊の居るであろう場所を狙った!


ギリギリ…ギリギリ…


「全ての十梗が西門に集結いたしました!」


「そうですか。フフッ、ではまずは敵の気勢を削ぐ第一射を…」


キュウジュウの近くにトウロウが現れると、陣は奇怪な音に包まれた。

それは漕ぎ手の兵士数人が、矢を放つ前の段階で十梗の歯車を止めた音であった。木工の兵器の内部で円状の歯車が軋み、幾重にも重ねられた強靭な弦が震え、威力を受け止めながら抑える、もう一つの歯車が磨耗していく音がキュウジュウに聞こえると、キュウジュウは腰に帯びた剣をサッと抜きトウロウを見た。

キュウジュウの部下、トウロウの両手には、丸太のような柄に、風にたなびく大きな長い赤旗が握られ、それが降ろされるのを合図に各隊一斉に十梗が放たれる仕組みであった。


「「「ワァーーーッ!!」」」


意気盛んに鳴り止まぬ喚声を上げ、差し迫る官軍隊の影の方向へ剣を傾けると、キュウジュウは平素の穏やかな表情を一変させ、含んだ若干の笑みと供にこう言った。


「十梗隊ッ!!放てェェェー!!」


タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!

ビュンッビュンッビュンビュンッ!


瞬間、驚くべき数の矢が秋の夜空を突き破り、陣から放たれる。

闇夜に映える一瞬の光、それはまるで流星のようであった。


ザクッザクザクッ!!


「ギャアァァ!!」

「う、うぐぐ…!」


無数の凶撃にかかって、官軍兵士達の悲鳴があたりに木魂する。

オウセイ達が率いる兵達は、自分達の目の前に瞬く間に出来上がる死体の山に驚きながらも、オウセイの指揮に従ってそのまま突撃を敢行した!


「敵がまだ近づいてきております!」


「フッ…愚かな…この鉄壁の四天王キュウジュウの守る陣を、あのような力攻めで突破できると思う根性が浅ましいのですよ!さあ十梗隊!第二射を放つのです!」


タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!

ビュンッビュンッビュンビュンッ!


再び襲い掛かる矢の雨、死の流星!

深い闇の中で、まるで狙いをつけたかのように降り注ぐ矢に、官軍は為す術が無かった。オウセイを始め、副将のガンリョ、リョスウ、ドルアも頑張ったが、あまりに際限なく、あまりに休みなく放たれる矢の応酬は、将兵達をどよめかせ、その動揺の広がりを隠し切れなかった。


「先鋒の騎馬隊が殆どやられました!」

「オウセイ将軍!うおっ!もうここまで飛んできたわ!このままでは全滅してしまいます…退却しましょう!」

「ドルア!リョスウ!ここで退いてはならぬ!ミレム将軍達がまだ敵陣におるのだ!左右へ散開して直撃を避けて時間を稼ぐのだ!」


槍を振り回し、兵を指揮しながら迫る矢を必死に叩き落すオウセイやドルアだったが、死の流星は無常にも兵士達に苦悶の悲鳴を上げさせ、官軍隊は甚大な被害を出しながら後退を始めた。


「フフッ!みたか!四天王キュウジュウの鉄壁の守りを!十梗の凄さを!フフッ…フヒャッ…フヒャヒャ!フヒャハハハハハッ!!!」


キュウジュウが冷静さを欠く笑いを

秋の夜空に浮かべた、その時であった。


「火事だーッ!官軍の別働隊だーッ!!」

「敵が後方から周ったぞーッ!幕舎に火がついたーッ!」


陣の後ろ側、ミレム達が居た幕舎から轟々と燃え盛る火の手が上がり、ポウロや兵士達が味方の兵士を装って大きく声をはり嘘の悲鳴を何度もあげた。

ポウロ達は走り回りながら、見張りの居なくなった陣屋に配置された松明や、燃料の入った灯台を幕舎のあるほうに倒し、吹き抜ける風と相まって、いつの間にか陣の後方は火炎の渦に引き込まれていった。


「お、おお!?陣の後ろから火の手が!一体、どうしたのですか!?」


「どうやら後ろに敵兵が回りこんで火を仕掛けた物と!」


「おのれ…これも官軍の策ですか!ええい!消すのです!絶対に十梗に燃えうつらせてはなりませんよ!」


慌ててキュウジュウが部下に言うと、少ない守備兵と半死半生の負傷兵達は陣の後ろに向かって甕の飲み水や寝巻きの毛布で燃え広がる陣の火を消し周った。真ん中にある指揮官キュウジュウの幕舎でさえ、燃え移れば破壊して他への引火を防ぐほどだった。流石に、四天王軍団キュウジュウの兵はよく統率されており、消火活動は迅速に行われ、火を消すのに時間はかかったが、陣は半焼する程度の被害で収まった。


「な、なんとか消えましたね。ふう。それにしても官軍め、このように姑息な火攻めを行うとは、なんと破廉恥なことでしょう。トウロウ!十梗に被害は無かったでしょうね!」


「ははっ、お喜びくだされ。十梗も兵も、ほぼ無傷にございます」


スッと横へ手をだすトウロウの先には、無傷の十梗が雑然と並んでいた。

それを見てキュウジュウは、狼狽した自分を恥じるように急に冷静なそぶりを見せ始めた。


「フッ、フフッ。僕としたことがちょっと慌てちゃったよ。僕の軍団が敗れるはずないよね?四天王軍団鉄壁のキュウジュウの軍がさ…」


「は。ははっ…」


引きつった表情を浮かべるキュウジュウの声は、冷静さを失い震えていた。

トウロウは初めて見るキュウジュウの狼狽ぶりに、少々の不安を感じた。

焼け落ちた後陣の姿を眺めていたトウロウは、ふと、後ろにそびえる英明山の二つの砦の方へ目をやる。


…ェィ…ォー


「むっ…?山塞から小さく聞こえる何の音だ」


不思議に思って耳を澄ますトウロウ。

声はだんだん大きく聞こえてくる。


…エィ…エィ…オッ…


「ま、まさか…」


トウロウは兵士数人を連れて、血相を変えてダッと勢い良く山のほうへ走り出すと、大きく聞こえてくる山間を木魂する声に耳を疑った。


「エイエイオーッ!エイエイオーッ!!」



「ば、馬鹿な…山が…英明の山が…落ちたのかッ!!!」


大きく響く兵達の勝鬨は、山の二つの関から大きく聞こえた。

トウロウは叫ぶ声をあげると、その目を疑った、山の砦に立つ何本もの煙と、槍を持った兵士達が腕をあげて喚声をあげ、その周りにはうっすらと官軍の旗が吹く風になびくのが見えたからだ。


武青関にキレイとタクエンの旗。

武赤関にはキイとゲユマの旗。

響く勝鬨の声は、お互いの勝利を確かめ合うようなものであった。


トウロウは沸き上がる官軍の勝利の声に、ガクッとその場に力なく倒れると、護衛する兵達に背負われながら、トボトボと歩き始め、圧倒的な敗北という事の次第を最後の四天王キュウジュウに伝えるのだった。






―――こうして名瀞平野と英名山を挟んでの激戦は終わった。




キュウジュウ以下四天王軍団は、多くの兵を失い、そびえる山の要害二つを失い、運ばれる兵糧と物資を補給する重要な兵站を失うと、翌日に官軍に白旗をもった兵士を伝令に立て、自らを縄目に縛り潔く降伏した。


これにより、別働隊を率いて西の都へ向かっていたホウゲキの部隊は、退路を断たれることを怖れて引き返し、無敵であるはずの高家四天王軍団を失ったホウゲキは、信帝国へ無条件降伏を打診し、翌月、それは受諾されると、ホウゲキの治める東海と、大陸十二州の一つ北清奥羽州はメルビ、チョウデンなどの官軍隊に占拠されつつ無条件で帝国に返領される事となった。


南国で10万の兵と供に蜂起を起こしたホウギョウも、これと時を同じくして戦線を張っていたジャデリンの軍に降伏し、こうして今回の反乱に加わった王族と東南合わせて総計25万の将兵達は、立ち消える水泡の如く瓦解した。


人々は、この勝利の連鎖に嬉しい悲鳴をあげ、未だ健在な信帝国の威信を喜んだ。

しかし、ここに軍を統べる官軍の英傑達の活躍があったのは言うまでもない。


天上の気運ミレム、豪傑スワト、智者ポウロ、識者ヒゴウ、将軍リョスウ、

天下の恐将キレイ、謀士タクエン、猛将オウセイ、ゲユマ、ガンリョ、ドルア。


時代を掴むために戦った英雄達は、それぞれの思い描く『野心』『希望』『功名』『時代』『夢』を胸に抱き、少しずつ動く天下の動静を探りながら、束の間の平和に休息を覚えるのだった。


剣を掲げ、槍を伸ばし、声をあげ、合戦を駆けぬけた英雄達は、その度重なる戦に散っていった兵、散っていった将軍の顔を振り返りながら、これから始まる本当の乱世の影を、それぞれの眼でゆっくりと見据えていくのだった。




―英雄百傑 第一部 完―

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