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第二十四回

英雄百傑

第二十四回『癇止癪忘 天知成事 乱世の予兆、龍将の布石』 



信京 帝府外 僧領衆家寺社


ここは、信帝国が唯一許した宗教『信戒教』の宗家の一つ。

帝から絶大な信頼をうける『易慕衆』と呼ばれる派閥の僧領が暮らす

都にある格式高い寺社の総本部、僧が住む寺社屋敷であった。


正方形の部屋には戸が四つ、畳六畳分の空間に、この寺の和尚、

易慕衆大僧正と、京東郡の恐将キレイが向き合って座っていた。

大僧正の横には変な服を着た坊主がいる。


キレイは礼にのっとって正しく、大僧正に向かっていくつかの話しをすると、

大僧正はおだやかにキレイを見ながら口を開いた。


「キレイ様、我が宗派から身分関わらず優れたる人物をとの仰せでしたので、信僧教の祖再来と呼ばれたこの者。紺寺童ジニアスをお連れなさいませ」


「おお…大僧正様からのお墨付き、そのご配慮ある人物となれば…その者の良きこと知らずともわかりまする。このキレイ、真に恐悦至極にございまする。」


「…」


大僧正の横で、ふてくされたように黙る変な男。

身体はやせて、坊主にしては礼儀もよくなく、身なりも貧相極まりなく、

実にふてぶてしい態度で、キレイをチラチラと見つめている。

その態度に業を煮やしたのか、大僧正は男に向かってこう言う。


「これ、ジニアス。今から仕える君となるキレツ様のご子息キレイ様じゃ。無言は無礼ぞ…挨拶をせぬか」


しかし次の瞬間、ジニアスと呼ばれた男が、ふてぶてしく嫌そうに

並べた言葉は、キレイに対して余りにも礼儀に書いた言葉だった。



「ふん、人斬り侍の身分で神童たるこの俺様を召抱えようとは、相当良いご身分なのだろうな?あん?」


「…ッッッ!?」


「俺を子飼いにするという人斬りの顔がどのようなものなのか、俺様直々に確かめに来てみれば、パッと見て怖いだけで、後は凡々とした小人じゃねーか」


「これ!黙れ!ジニアス!」


「まっ、経を唱えるだけのこのカビくせえ寺からも、おさらばできるとありゃ、誰だろうと文句もいえないか。よろしく頼むぜ、人斬り侍さんよ」


「黙れと申すにジニアス!ひかえよっ!!」


礼儀に欠き、武家を馬鹿にしたような坊主ジニアスの言葉の羅列に

大僧正はキレイのほうをチラチラ見ながら、大声をあげてジニアスを諌めたが

ジニアスは止まるところを知らないのか、とことん馬事雑言を

キレイに浴びせていく。


大僧正は気が気でなかった。

キレイは癇癪持ちで罪に対して厳しく、その勘気に触れれば

その場で八つ裂きにされてもおかしくないといわれるほどの

人物であったからだ。


しかしあわてる大僧正を尻目に、キレイは悠然と語り始めた。



「は…はっはっは、よいよい大僧正。この恐将キレイを前にして、この言。本物の人物か否かは別として、度胸だけはとんでもない神童だ。それでは後日また引き取りにくるゆえ、その時はよろしく頼むぞ」


「は、ははーっ」


「ケッ、昼寝しながら経を読んで、飯食ってクソして待ってるぜ人斬り侍さんよ。まっ、みやびな都の風の臭いを嗅いで、ちったあその怖い顔を緩めて出直してこいや。ハッハッハーッ!」


キレイの眉がピクッと動くのを知ってか知らずか、

ジニアスの声は高らかに並びたてられ、キレイが寺社を去るまで聞こえた。


「おのれ腐れ愚者がーーーーッ!!!」


バンッ!!


屋敷の外に出たキレイは、外で待っていたオウセイを見るやいなや

整備された硬い土が敷き詰められた都の道路で、一足、砂利が跳ね上がり

重い音が思いっきり聞こえるほどの威力で、大地に地団駄を踏んだ


「わ、若。大丈夫にございまするか?」


「ええい大丈夫じゃ!!!」


「若、僧衆地固め(僧権威に対抗できる人物の登用)は上手くいきましたか?」


「オウセイ。家臣に馬鹿が一匹混じるが目をつぶって許せよ」


「…はっ?なんと」


「大僧正め…とんだ食わせ物だ。父上の僧嫌いが招いたとはいえ、あのような腐れ愚者を『大人物』と申してまで俺によこすとは…ええい!」


「わ、若。お怒りの次第はわかりませぬが、次は公家衆の地固めにございますぞ。中近衛候ガダンム様の屋敷に急ぎましょう」


「わかっておるわ!特注の箱四葉の用意はできておろうな!」


「は、はっ(いったい僧衆の寺社で何が・・・?)」


オウセイの心配をよそに、ヅカヅカと公家屋敷に向かうため前を進む

キレイは、だんだんと歩くごとに顔を緩ますどころか強張らし、

その怒気は立ち上る煙のようであった。



信京 帝府外 公家屋敷


次にキレイが立ち寄ったのは公家屋敷。

宮中の中でも、特に権力の高い高級官吏、帝の一族との婚姻関係で

成り上がり、縁者同士の独自のサロンを持ち、他の権力者も一目おく

公家衆のまとめ役、中近衛候ガダンムの屋敷であった。


しかしこのガダンムという男、帝の外戚として権力はあるが

公家武家民衆の中でも不埒者の名で有名で、礼節を欠き、贅沢に身を溺れさせ

公家の正室(本妻)を持ちながら、昼間から愛人と酒を煽り

キレイが尋ねて来たというのに、女を侍らせ酒を飲みふける有様であった。


「ぷふぁ〜これ公侍女(公家の妻以外の愛人)よ酒をもっと注げ」


「はい〜」


「ほっほっほ、主のこの白き珠のごとき柔肌は良いものじゃのお」


「キャッ!もぉ〜っ!召物が汚れてしまいます!」


「ほっほっほ、良いではないか、召物などいつでも買ってやるゆえ、のう?」


遊女とも思えるその公侍女は、欲情をそそるような

はしたない桃色の衣服でガダンムに寄り添い、着物の襟首から

はだけた白い柔肌をガダンムに覗かれ触られ、嫌うどころか

喜ぶ有様を見たキレイは、流石に耐えかねたのか

ガダンムと公侍女に向かって大きな咳払いをした。


「ゴホンッ!」


「おや…?ほほほ、これは失礼を」


「クスクス…客人の前だというに…ウフフ…御戯れがすぎますぞ」


「ほほほ…お前は下がっておれ、後でかわいがってやるゆえ」


「…(おのれ公家衆の俗物め…腹はたるみ、顔は肥え…外戚として贅の極みを楽しむは、甚だ許すまじ…!!!)」


キレイの心中は怒りで燃えていた。

普段の彼ならば、怒りの余り屋敷の全てに火をかけ

ここにいる公家衆を焼き討ちにして根絶やしにするところだったが

しかるべき権力を持つ公家との間を取り持つため

まさに我慢の極み、私心滅却し、冷静な公の態度で臨んだ。


「中近衛候ガダンム様。落ち着きありし時なれば、かねてからのキレイ所望の儀、この期に御返答を頂ければ幸いと思いまするが…」


「ふぅ〜む。家臣より御用の件は聞きたもうたが…考えつまるところお主は、麻呂に官人の作法、礼法を学びたいと申さるるか?」


「はっ、なにぶん東の山草の生まれの田舎者ゆえ官人の作法を知らず。信京でも作法礼儀に関しては抜群の御仁と噂高き屈指の指南役、ガダンム様のお教えを賜りたく…」


「ふ〜む、しかしのぉ〜う。人に物を教えるほど、麻呂は暇もなく、先のように公家女の相手もしなくてはならぬし、何かと物入りでのう…そう…その…ほれ…なんじゃ…そのう…」


何か言いたそうなガダンムに対して、

キレイは少し笑うように理解したといわんばかりに

オウセイから託された例の物を差し出した。


「ああ、これは失礼を。田舎者とは言え、人に物を請うのに贈物を忘れておりました。京東の銘菓、お納めくだされ」


サッ…

ガダンムの前に出されたのは、四角い長方形の硬い朱色の紙箱に入った

四葉と呼ばれる京東郡の銘菓の箱であった。


「むうっ…これは何かの冗談かえ?…贈り物が箱四葉(甘みの少ない寒天)の菓子とは…少し気ぐらいが低ぅございませぬかな?」


ガダンムは賄賂が欲しかったのに対し、たいして甘くもない寒天菓子を

出された事に、眉をひそめ、目を見開き怒りをあらわにした。

しかしキレイは予定調和の如く、それを見てガダンムにこういった。



「封をとき、蓋をあけてごらんなさいませ」


ズッ…カパッ…


「…おおおぉ…こ、これは…これは美味そうな四葉菓子よ…」


「特注で造りたるガダンム様のお好きな黄金色の四葉菓子にござりますれば…」


四葉の箱に入っていたのは、なんと見事な黄金色に輝く金の延べ棒であった。

これは大重郡の妖元山攻略の際、アカシラのめぐらした山の隠し通路で

キレイが発見し、官軍の目を盗んで何かの役に立つと

かぶっていた土を払い、そのまま持ってきた物であった。


それを見たガダンムは、それまでこわばっていた口やしかめた眉を緩ませ

まるでよだれが出るほどの表情と、飛びつかんほどの勢いで、

箱の延べ棒をマジマジと見て、キレイにこう言った。


「ホホホ…キレイ殿と申したな?」


「はっ」


「ほっほっほ…麻呂の身分は位も高き高級な忠郡中弦近衛位。その麻呂が官職下なるも帝郡信一位のキレイ殿にこれほどの四葉菓子を頂き、礼を尽くし頼まれましては適いませぬなぁ。…ほほほ、わかりましたぞ。今後、キレイ殿が有事の時はお力添えいたしましょうぞ」


「はっ…ありがとうございまする。それでは今後ともよしなに…」


まさに欲深いガダンムの心理を付いたキレイの作戦であった。

このキレイの行動により、宮中公家嫌いで有名な父キレツと公家が

一時的とは言え、繋がった。


しかしキレイの怒りは未だ心の仲で沸々と燃え滾っていた。

罪に厳しい自分が、温情を受けるためとはいえ公家に対して賄賂を

贈ってしまったことは、自分の信念をまげるほど辛いことであったからだ。



「蛆虫がーーーっ!!」


バンッ!


公家屋敷をそそくさと出て行ったキレイは

再びオウセイの待つところまでいくと、一足、思いっきり砂利をはね

音がでるほどの威力のある地団駄を踏んだ。


「若、中近衛候(ガダンム)はどうでしたか?」


「皇帝の一族との親縁婚儀関係で権力を持った公家衆は、己が位にあぐらをかき、贅沢に溺れたな。100年前の英雄ガムダと同じ苗字を持ちながら実に嘆かわしい。その身をぶくぶくと太らせ、昼間から女を侍らせ酒を食らい、政務もせず酒色に走り、噂通りの宮中の蛆虫であったわ」


「…若。そのような言葉は朝廷に聞こえれば一大事ですぞ」


「父上が毎年に一度都に参勤し、公家衆に一切媚びへつらわぬ理由がわかった気がするわ」


「しかし、これで公家衆との繋がりが深くなりましたな」


「宮中に沸く蛆虫といえど、没落のその時までは権力者じゃ。大事に扱い、それを逆手にとれば、いざというときには宮中の害虫駆除の口実もできる」


「若、ご油断めされるな。公家衆の抱きこみは金品酒肉などの撒き餌をちらつかせれば出来ましょうが、武家衆はそうもいきませぬ」


「ふむ…オウセイ。次の屋敷はだれだ」


「同職位、帝郡信一位ニュオンのお屋敷でございます」


オウセイのその言葉を聞くや否や、キレイは今までに無い表情を浮かべた。

首をかしげ、眉をひそめ、手を突いて悩むようなそぶりを見せた。


「ニュオンか…。私事での面識は無いが、宮中で見た威風を見るに、ガダンムのように官職の上下たるを見て、褒め落とせるような男ではないであろう。噂では、非常に才気はあるが、その頭角の表しを気取らず、他人の言の裏を見て疑う猜疑の面があると聞く。猜疑の気骨、才覚ある者は、それゆえに簡単にいかぬもの…」


「品礼に動かぬものは厄介ですな…何か妙案があれば良いのですが…」



そこへ、他の臣を籠絡するために動いていた参謀のタクエンが現れた。



「キレイ様、義三位のカタムとミヒト。口説き落とせましたぞ」


「おお、タクエン。そうか、これで上下に権力の『よりどころ』が出来たな。実に大儀であるぞ」


その時、タクエンは気づいた。

口では大儀と言っていながら、何か不安そうにしかめっ面を浮かべ

眉をゆがめ、首をかしげるキレイの姿に。


「なにやらお困りのご様子ですが、何かございましたか?」


タクエンの言葉に、はたと自分が悩んでいたのを

見抜かれたキレイは、タクエンに対して強気でこう言った。


「なに、少し気難しき者との体面ゆえ、どう攻めるかを考えておっただけじゃ」


「その者の名は?」


「信一位のニュオンじゃ」


「ニュオン…あの御仁ですか」


「噂では公家衆の数千倍も気位の高き人物なれば、信帝国への忠義は計り知れず、それは無双の要害の如きもの…攻めあぐねる気持ちもわかるであろう?」


僧衆は法や武力、公家は贈り物で動くが

礼節の厳しい武家の中でもニュオンは、特に曲がったことの嫌いで、

賄賂贈答や職位や野心をちらつかせ、心のゆさぶりなどをかければ

言語道断に処され。法に厳しい所や頑固なところはキレイに似ていて

なおかつ信帝国の臣として忠節を一番大事とするその姿は、

籠絡する側としてみれば、まさに難攻不落の大要塞のような人物であった。


しかし、タクエンは悩むキレイを見て一笑すると口元優しくこう言った。



「ふふふ、キレイ様。要害の表は無双でも、裏は凡弱にございます」


「なんじゃと…?」


「ニュオンのような気位の高い人物にはこうなされ…ヒソヒソ」


「そのようなこと…まことであるか?」


「キレイ様の大器を見せれば家臣になるやもしれませぬぞ」


「ほほう…オウセイ。地固め極まったかもしれんぞ」


まさに籠絡必殺の手段をタクエンから聞いたキレイの顔は

今まで暗雲の如く暗かったのが嘘のように晴れ、まるで生き生きとしていた。

不思議に思ったオウセイは、キレイに聞きなおした。


「その儀、真でございましょうか?」


「まあ見ておれ、今までの分もこめて、俺の真髄を味合わせてやるのよ…」


「はっ?はっ…」


少しずつ刻むような笑みを浮かべるキレイを見て

まさに理解不能の領域を感じたオウセイは、とりあえず

タクエンの言うことだから心配ないと思い、キレイに生返事で返した。


キレイはニヤニヤしながら、再び武家屋敷に向けて歩き始めると

今度は装うためか、いつもの怖い顔に戻っていった。

そして颯爽と横を歩くタクエンに、こう指図した。


「タクエン、わかっておろうが、お主は御役(助言する役)で傍で口出しせよ」


「はっ、かしこまりました」


しかし、この時タクエンには、武家を口説き落とすよりも

一つ頭にかかる疑念の事柄があった。

この際言ってしまおうと、タクエンはキレイが歩き出すと共に

歩く速度を同じくして、連れ添いながらこう言った。


「恐れながらキレイ様。今回のこの一件…都での地固めの事、キレツ様になんと仰りましょうか?」


「およそ自分がしない媚びへつらいをし、公家への賄賂や、僧衆への親睦、厳格で曲がることが嫌いな父上の事じゃ。耳に届けばさぞ憤慨なされような」


「それがわかっていて何故やるのですか?」


「俺は天下が欲しい。そのためには天、地、人、そのどれもが欠けてはならん」


「はっ?」


「父上に足りないのは天の運と人の和じゃ」


「恐れながら。キレツ様は帝の高級官吏、近衛職でございますぞ。帝国の情勢がいかに乱れようと、お力においては関州随一。官吏となって30年間、一度も過ちを犯さず、国の統治替えや不信任による左遷はありませぬ。人の和においては民心を良く知り、国の礎としてその忠節は12の州に渡って広く知れております。今回キレイ様の賊軍討伐の出陣とて、宮中においてのキレツ様の地位の高さを表したることなれば…」


タクエンがキレイの言葉に対し、諌めの意味も込めて発言する。

しかし次の瞬間、キレイはまるで何かを悟ったように空を見上げ

こう言った。


「されば…さればよッ」


「はっ…?」


疑問の顔を浮かべるタクエンに対して、キレイは

落ち着いた口調で力強く、その心を語り始めた。


「父上に足らぬはすなわち…人無しで次の乱世を迎えるという危機感の無さだ!」


「な、なんと!乱世ですと!?」


「おそらく父は、信帝国が秩序ある帝国のままならば安泰であろう。しかし、ひとたび乱が起こり、その威光が届かず退けられれば、真っ先に乱に飛び立つ鷹の餌食となろう。そうなれば家は没落し、俺の天下への夢は閉ざされてしまう」


「し、しかし。頂天教の賊が消え、今再び乱を起こす人物がこの天下におりましょうか?」


「居る。一人だけ居る」


「それは誰でございましょうか?」


「お主わからぬか…『東海の虎』よ」


「ハッ!」


…東海の虎。

大陸の東の海に面した北奥羽州を預かる皇帝ゆかりの将軍、

王族ホウゲキ一門とそれを守る『高家』四天王の事であった。

信帝国六代目皇帝から寵愛を受けた家臣だが、四天王と合わせて

その軍の勇猛さたるや、信帝国一と言われ『東海の虎』と呼ばれていた。


「まさか、東のホウゲキ様と高家四天王…」


「元々東海の北奥羽州の雄である高家四天王が、領地の北のすぐに頂天教の賊が乱を起こしたというのに、出兵するもことごとく軍の殆ど遅参し、あやうくメルビの官軍を壊滅させるところであったのに対し、帝国からのお咎めも無く。今度は賊残党狩を口実に軍馬兵員を買集めると、国境を固め、海路を封鎖し、兵士の数は膨れあがり、その数はまるで天下を飲み込むような姿勢があると言う話だ」


「しかしホウゲキ様と高家四天王は、かの名君信帝国六代目皇帝、信元帝ホウリュウ様が目をかけられ、今では皇帝の叔父、帝国士王候の身分。野心ありとしても、そのような事がありえるでしょうか?」


「タクエン。事が起こってからでは全てが遅いのじゃ。乱が起これば、どの州が真っ先に狙われる?我が父キレツのおられる関州の京東郡であろう!」


「…そ、それはそうでございますが…」


「それに父上のことじゃ、信帝国への忠誠を自分の身をもって果たそう。降伏などもってのほか、城を枕に討ち死に覚悟で戦うであろう」


「では、今すぐにでも兵馬を調達せねば…」


「その儀に及ばず!俺はすでに弟のキイに内々に話をつけ、帝から受け賜った金銀を頼みに兵馬の数を増強しておる。宮中の権力者や、僧侶を味方につけるも、すべては帝から力を借りるためじゃ」


「な、なんと!」


「僧衆と親睦を深め、公家にへつらい、武家と同盟を結ぶわ、これ全て天下覇権の一段階、人の和なるところよ」


「……!(こ、この覇の唱え、まさに帝王の意気!)」




「…キレイ様、お見それいたしました。まさかそこまで考えておいでとは…」


「すでに密偵は逐一東海に放っておるが、急いて失敗はしたくないのでな。おぬしには黙っていた。許せ」


「こちらこそキレイ様のお心も知らず大変無礼な言を…キレイ様。事有らば、このタクエンに地固めの総慣らしをお任せくだされ」


「ほう?一計があるのか」


「はい。天下を動かさんがための布石、流転連環の計にございます」



そういうと、タクエンはキレイに向かってヒソヒソと話しを始めた。

キレイの言葉に動かされ、タクエンもまた若き天下の名謀として動き出したのだ。


ニュオンの武家屋敷の前に行くまで、二人は確信を得て話を進めた。

オウセイは、黙ってキレイとタクエンの後に付き、二人のそれを見て、

まだ見えないキレイの天下を薄め眼に浮かべた。


時に帝都信京に寒風吹きすさび始めた信帝国暦202年の中秋であった。

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