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第十八回

英雄百傑

第十八回『豪傑、修羅宿りて激怒の刃を奮う』



―あらすじ―


昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。


頂天教の教主アカシラの怪しげな術により、

大敗を被ったキレイは山道の側面林道の獣道へと落ち延びた。


一方、山の麓では、タクエンの説得と、ミケイの進言で

重い腰を動かしたジャデリンを大将とする援軍5000が

キイ率いる後詰め部隊1000と合流し、妖元山の二路を

それぞれ上り始め、ついに官軍と賊軍の決戦が始まった。


数で勝る官軍だったが、頂天教の総大将であるアカシラは本陣を手薄にし

妖元山の各所に抜け道を掘り、そこを通って通常路からでは想像できない

場所からの神出鬼没の奇襲攻撃に打って出た。


策は見事に功を奏し、中央路より上ってきた先見斥候足軽部隊の

ミレム、スワト、ポウロの三勇士率いる足軽隊500が襲われ、

同時刻に西路より先を急いでいた総大将ジャデリンの3500が伏兵に襲われた。


疲労と奇襲であわや敗戦必死と思われた官軍だったが、

歴戦の猛将ジャデリンの獅子奮迅の働きにより、西路の官軍本隊は

多くの被害を出したものの、三方から迫る伏兵を蹴散らしたのだった。


そして決戦は後半戦を迎える。


―――――――――――――――――――――



中央路 頂天教本陣手前 スワト隊



「ワーッ!!ワーッ!!!」



思わぬ場所から急襲を受けたミレム三勇士の足軽隊は

兵達が浮き足だつ前にポウロの進言によって隊を二分化し、

敵本陣へはミレム・ポウロ隊400が進軍し、

後ろで敵の伏兵を足止めする役目を言い渡されたスワトは、

急いで後方に走っていったが、敵将ルブーと兵500に対して

すでに虚を突かれ混乱していた後方の足軽兵100人は脆く、

次々に討ち取られ対峙し残っていたのは僅か50人程度であった。



「撃ち方!・・・そらっ矢を浴びせろ!」


ヒュン!ヒュンヒュン!!


ドスッドスッドスッ!!


「ぎ、ギャアーッ!」

「ウワーッ!!」

「むぐぐ・・・」


賊軍の弓隊から放たれた矢は、山道に鋭く弧を描き

足軽隊をハリネズミの如く姿に変え、山道には断末魔が響き

草には死体が積まれていった。



「へへっ、ルブー様!あとは小勢ですぜ」


「容赦なんてかけるなよ!命乞いなんてする奴は真っ先に殺せ!官軍に加担したことを後悔させてやれッ!全員皆殺しだ!!」



その声に残った少ない足軽隊は青ざめた。

合戦において、どのような状況でも、雑兵身分の者が

命乞いや降伏などをすれば、命だけは助かるという暗黙の了解が

この時代には存在したからだ。


「ひ、ひええ、たすけてくれー」

「おらはこんなところで死にたくはない!」

「に、にげろーっ!」


ガシャン!バラッ!バラッ!


戦っても降伏しても、どうあっても殺されるという言動は、

足軽の士気を大幅に下落させ、武器甲冑を捨て逃亡するものが出る始末であった。



ドタドタドタッ!



象のような激しい地鳴りとともに、疾風のように駆けてきた

スワトがやっと足止めをしていた部隊の場所へとやってきた。



「関州義勇軍ミレム隊の将!豪傑スワトただいま参上つかまつった!!」



しかし、声を上げたスワトの前に広がっていたのは

恐怖に逃亡していく足軽隊が、ルブーの兵達に次々に討ち取られていき、

物を言わなくなった兵士達の残骸を賊軍が踏み荒らし、首をはねて

甲冑や武器を剥ぎ取っている姿であった。



「へへっ遅かったな豪傑さんよ、もうほとんど片付けちまったぜ」


「なにっ!それがしを待たずして…誰か!誰かおらぬか!」


愕然とするスワトの前に、一人の足軽が怪我した体の鞭打ち、

片足を引きずりながら駆け寄ってくる。


「しょ・・・将軍!」


「おお!生き残った者がおったか!」


ドサッ!

足軽が力尽きたようにスワトの前で倒れ、

スワトはそれを抱きかかえるように、足軽の体を前面で受け止めた。

その足軽は力なく、腕はだらんと力なく伸びきり、体すべてをスワトに預け

数箇所に斬り傷を受け、すでに虫の息であった。



「あ、足止めしていた足軽隊は、ぜ、ぜんめつ・・・面目ございませ・・・」


「そうか良く報告をしてくれ・・・!」



ヒュンヒュンヒュン!!グサグサグサッ!!!



「ギャアアーッ!!」



ビシャアーッ!ビタビタべタッ!!



足軽が最後の言葉を告げた瞬間、上空から数本の屈強な矢が降り注ぎ

背中をえぐるように貫くと、足軽は甲冑を貫通した箇所と口から血を流し

スワトの甲冑、顔面、手足は、足軽の血で赤く染まった。


「き、貴様!なんということを!」


「すまねえすまねえ、どうも逃げ惑う兵が必死に駆けずり回る所をしとめるのが大好きでなぁ!命乞いをして血反吐を吐きながら死ぬ様はたまらねえぜ!」


「お、おのれ!!!!たとえ敵軍とて敵意無き兵を害すは将、延いては人の道に非ず!!!!貴様ら賊は人の道さえ無くしたか!!!」


「どういわれようとこの勝負はアカシラ様率いる我ら頂天教の勝ちよォ!その足軽も、豪傑殿に最後の報告をして、兵としてさぞ満足であろうのうヒャッハッハ!」


そういうとにわかに足軽の死体を漁っていた賊兵が動き始め

足軽を抱えながら立つスワトを囲むように、手に持った剣や槍を

ギラギラと輝かせる。


「さあおしゃべりは終わりだ!てめえもあの世で官軍に入ったことを後悔するんだなぁ!!」



スッ・・・


「・・・すまぬ。我らが大功を成すために見殺しにしたも同じこと。恨むなら早く駆けつけられなんだそれがしを恨め・・・」


スワトは足軽の死体を強く抱き、赤く染まった顔面をぬぐい

すでに死んでいる足軽の亡骸をその場に置き、手を合わせると

野生の獣にも似た、鋭い眼光をルブーに向けてジッと放った。



「な、なんだ、その目は!なにをしてる野郎ども!さっさとやつを殺せ!」



ダッ!!!



「え・・・?」



スパァァァンッ!



今や今やと賊兵がスワトに飛び掛ろうとした瞬間、

スワトの体は風か何かが乗り移ったように俊敏にその場で跳躍し

数十の賊兵を飛び越えて、ルブーが居る場所まで行くと

手に持った大薙刀を一気に振り下ろし、ルブーの甲冑ごと真っ二つにした。

ひしゃげたルブーの胴体はものすごい勢いで空を飛び、醜い体を地上に晒した。



ズゥン!



「え・・?」

「ルブーさ・・?」


ブゥン!!ブゥン!!


「ギャアアアーッ!」

「うわああああ!!」


そして賊兵がそれに気づき、声を発した瞬間

下半身だけで立っていたルブーの『もうひとつの体』が

バランスを保てなくなり倒れ、同時に周辺にいた賊兵達の首や胴体や足や血が

弧を描くように空中に爆風にもまれるように吹っ飛んだ!



「このやろうなにしやが・・」


ブンッ!!グシャッ!!


それを見た賊兵は剣や槍をスワトに向けるが

流れる暴風と化したスワトの大薙刀を振り下ろし、なぎ払われ

あるものは頭から唐竹割りにされ、あるものは胴体ごと真っ二つにされ、

あるものは甲冑ごと突き刺され空中に放り投げられた。



「く、くそっ!」


ヒュンヒュン!!ザクッ!!


「や、やったああ!」


ズッ!バキッ!!!!


弓を撃って抵抗した兵もいたが、今のスワトに

恐怖に慄いた賊兵が小弓で放つ矢など蚊ほども利かず

的中に喜んだ弓兵は、驚くべき跳躍力で飛び込んできたスワトに

何の反応も出来ず、喜んだ表情のまま首を腕でへし折られた。


恐れ慄く賊軍の兵達の顔は、どれも恐怖にゆがみ

顔面から汁をたらし、手足は奮え、武器を投げ出し命乞いをする者までいた。


「ほ、ほら武器は捨てた。降伏する!殺さないでくれ!」

「え、お、おい・・ま、まてよ、冗談、だろ」

「ま、まってくれよ、た、たのむ、おれたちは命令されただけ・・・」


しかし、まったくと言って良いほどスワトの動きは

その足を止めず、大薙刀を振り上げ、いつもの温厚で仏のような顔は

存在せず、眉間にしわを寄せ、鋭い眼光を賊兵達に向けながら

低い声で唸るようにこう言った。




「あいすまぬ。それがし、今や慈悲の心など無く。心に修羅が宿り、憎しみの影が体を覆いもうした。お主らに情けをかけようと思うとも、修羅の心がそれを許さぬ。それがしの前で命乞いや、立ち止まるは愚の骨頂でござる。肢体無残に死にたくなくば今は去れ…残らば命を害するのみぞッ!!」



グッ!!!ブゥンッ!!!



「ぐぎゃ!」

「ひ、ひえっうグッ!」

「ギャアアアア!!」



それから数分、人間のものとは思えない断末魔の連続が、

山の木々を木霊し、恐怖の言葉は山を震わせ、

奇怪な物体をあたりに撒き散らし、山道の林を赤く染めた。




――その後、ミケイ隊1000が駆けつけた時、

あたりは地獄のような恐ろしい光景に包まれていた。

ミケイは多くの兵の死体に囲まれた、血まみれのスワトを見て言葉を失った。

全身ところどころに小さな傷はあったが、幸いスワトは

意識を失っていただけであった。

しかし、その右手には大薙刀を悠然と構え、

左手には最後に討ち取った賊兵の首を持ちながらの姿を見て

ミケイはスワトを起こすことを一瞬ためらうほどであった。


しかしミケイはひと時すると、悲惨な光景に兵の士気が

下がってしまうのではないかと思い、スワトを木で組んだ担架で

部下に担がせ、密かに本陣へと返すと、複雑な思いのまま

ミレム達を追うように1000の兵を山頂の本陣へと向かわせるのであった。



ミケイは、後にこの光景のことをこう語っている。




 血を纏いし豪傑、礼無きに修羅となりて振り回す大薙刀は暴風となりて、

 賊、首と胴体は繋がることなく拉げ、薄暗き山道を鮮血が舞い、肢体飛ぶ。

 無残に消え行く賊の死体300余。すでにとめるもの在らざること

 広がる阿鼻叫喚の地獄絵図は、これ修羅の業、冥府魔道の狂戦士なり。



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