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第十七回

英雄百傑

第十七回『官賊決戦!獅子将、壮烈たる山吼えに形勢を翻す』


―あらすじ―


昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。


頂天教の教主アカシラの怪しげな術により、大敗を被り

山道を敗走するキレイ、オウセイの官軍隊であったが、背後からは

逆落としをかける形で迫る頂天教軍、前方に伏してあった頂天教軍の兵に

挟み撃ちにされ、決戦し討ち死にを漏らすキレイをオウセイは一喝した。

そして忠義精鋭の騎馬隊を盾にすると、キレイを伴って山の道無き獣道を進んだ。

林道にて出会った野生の虎にキレイは生きるを学び、

オウセイは暗雲の千切れに光を見た。


一方、山の麓では、タクエンの説得と、ミケイの進言で

重い腰を動かしたジャデリンを大将とする援軍5000が

キイ率いる後詰め部隊1000と合流し、妖元山の二路を

それぞれ上り始め、英傑たる武将達は各々の思惑で策を走らせ、

官軍と賊軍は相対して、自軍の総力をあげ

雲間切れし妖元山を舞台に決戦を仕掛け始めたのだった。


―――――――――――――――――――――



妖元山 頂天教 本陣手前


切り開かれた緩やかな坂で形勢され、回りを林道が囲む中央路に

屈強な500人の兵を引き連れ、ミレム、スワト、ポウロの三勇士と

足軽隊は山道を足早に進んでいた。


しかし、中央路の回りの林道には、

すでに頂天教軍の武将ルブー率いる500の兵が、アカシラの命を受け

じっと息を潜め伏兵として官軍を今か今かと待っていた。


林道の先で物見をしていた賊の一人が、

兵が息を潜めた林道を駆け抜けて、ルブーに報告をする。


「ルブー様!官軍の先鋒が見えましたぜ!」


「ようしおまえら!先頭の兵が過ぎたらドラを鳴らせ!一気にたたむぞ!」


「へい!」



頂天教軍の兵は再び息を潜め、官軍足軽隊の先頭の兵を見送ると

後ろの兵の切れ目を見て足軽隊を一気に急襲した!



ジャーン!ジャーン!


「ワアアアアァーッ!!」



「なにっ林道に伏兵とはいつの間に!いかん引き返せ!」


足軽隊の先頭集団に居たミレムが、後ろでけたたましく鳴るドラを聞いて

あわててすぐに引き返そうとするが、サッと横に居たポウロが進言する。


「いえミレム様、ここは本陣に見えるように星升火矢(火をつけると塗料が燃焼し光る大玉のついた矢)を上げてミケイ将軍と後詰に防いでもらいましょう」


「しかしそれでは後ろの足軽隊に被害がでるぞ!」


「ここはスワト殿に任せましょう、頼みましたぞ豪傑殿!」



「ハッハッハ!腕がなるわい!それがしの武、敵兵に見せ付けてやりまする!御免!」


ズッ!バババッ!!


そういうとスワトは、グイと足に力を込めて走り出すと

甲冑を着込んでいる人間とは思えない速さで、

敵の500の伏兵部隊に一人で突っ込んでいった。


「何度みてもスワトの走りの速さには驚かされるのう」


「さあ我らも先を急ぎましょう!」


そう言ってポウロとミレムは足止め兵を除く

足軽隊400の兵を引き連れ、敵本陣へと駆け上がっていった。



中央路 官軍キイとミケイの隊


山の中腹で戦備えの休息を取っていたミケイとキイの本隊の見張りが

ミレム三勇士の足軽隊から星升火矢の輝きが見えると、急いで

ミケイとキイに報告した。


「前方から官軍の星升火矢があがりました!先遣の足軽隊に何かあったようですな!」


「やはり敵の伏兵がいましたか・・・。キイ将軍、我が足軽隊を救うために兵1000を私にお貸し頂けますでしょうか?」


「うむ、斥候隊をむざむざ殺してはならぬ。行かれるが良い」


「それでは・・・」


キイはミケイの策をタクエンから聞かされて知っていたが

中央路より上ってきた官軍隊2000の兵の半数である

1000の兵による出陣を許した。

普通ならば本隊から兵を割くのは余り好ましくないことだが、

この時許したのは、先ほど参謀のタクエンから

「ミケイが軍を動かす時は止めるべからず」と言われていたからである。



「ミケイ隊、進軍開始ーッ!」


ミケイ率いる1000の兵は山中で戦い始めた

足軽隊を救うため一気に山を駆け上がった。



西路 ジャデリン本隊


この時、ジャデリン本隊3500は、

驚くべき速さの進軍で敵の本陣へと向かっていた。

ミケイに言われたことを根に持って、手柄をとられんがための

速攻進軍であったが、兵の疲れを無視していた進軍だったため

兵の疲労が激しく、軍は山道に細長く伸びきっていた。


「ヒィ・・フゥ・・城からもう走りっぱなしで・・もうだめだぁー」

「いくら険しくない緩やかな山道とはいえこれはつかれるのう」

「はぁはぁ・・・無駄話をしてると将軍に怒られるぞ」

「ミケイ将軍の言葉に刺激されすぎじゃ、わしらのことなど考えておらん」


兵達は余りの進軍に、あるものは疲れ果てて足を止め

あるものは槍や剣を杖代わりに歩いていた。

少なからずジャデリン将軍への不平不満をもらすものも出てくる有様であった。


しかし、その光景にジャデリンは気づくどころか

敵の本陣の喉笛まで差し掛かったところで再び足を速め

ジャデリンは疲れ果てている兵達にこう言い放った。



「ふう・・・ようし、もうすぐ敵陣だ!気合を入れて賊軍を駆逐せよ!」



「「「・・・お、オー・・」」」



「くそ今に見てろ、あの腐れミケイめ、この猛将ジャデリンを蔑みおって!思い出しても腹がたつわ!こうなれば速攻で本陣を陥落させて奴の度肝を抜いてやるわ」



ジャデリンは眉間にしわを寄せ、グチグチとミケイに対しての

恨み口上を放つと、その怒りをあらわにしながら再び軍を動かした…

その時だった!



ジャーン!ジャーン!


頂天教軍の将レツド、クピン、イエロ、それぞれ500の兵を連れた三隊が

どこからともなくジャデリン隊を囲うように三方から攻め立ててきたのだ!


「ワーーーーッ!!」


長い行軍で疲れきっていたジャデリン軍の兵士達は

突然の敵兵の登場に戦う準備もままならず、ほうぼうの体で討ち取られ

数で勝るジャデリン部隊だったが、細長く伸びた軍の陣形も災いし

敵兵の斬り込みを完全と許してしまった。

慌てふためく将兵の中で、ジャデリンは、

それまでの憎しみの表情であった顔に汗をたらし、

あせりの色を隠せないでいた。



「ジャデリン将軍!敵の伏兵は前方、側面、後方の三方より我が隊を斬りこみ、前方後方ともに体勢ままならぬまま苦戦を強いられております!」


「な、なんだと!?この何もない坂道に伏兵だと!?どこからきたのだ!」


「わかりませぬ!しかしこのままでは疲れきった我が隊は全滅しますぞ!」


「ぬぬう・・・敵方に三方を取られたか」


前方、後方の挟み撃ちの上に、側面からも攻撃を受けた軍ほど

もろいものは無く、たとえ数で勝っていても苦戦は必死、

追い込まれれば敗北することは必定であった。


普通の将ならば、この絶体絶命の報を受けて慌てふためき

全滅を待つばかりだが、しかし歴戦の猛将ジャデリンは流石に違った。

焦燥感がにじんだ表情を一変させると、声を大にして部下に言い放った。


「将兵に伝えぃ!落ち着いて指揮をとれる兵は楔型の陣形を取り!敵を各個撃破する!数はこちらのほうが勝っているはず、よくよく落ち着いて陣形を整えよ!先んじてわしが敵を切り崩す!奴らもまさか反撃してくるとは思うまい、その迂闊を突き敵に強撃を与えよ!」


「ハッ!」


「ワーーーッ!!」


ジャデリンの怒号とも思える大声に、浮き足立っていた将兵達は

動きの取れる部隊を纏め上げ、ジャデリンの言った楔形陣形(攻守のバランスの優れた五角形の密集陣形)を瞬く間に作り上げ、ジャデリンは自ら先頭に立ち

襲い掛かる敵の伏兵部隊を猛々しい勢いをもって剣と槍で切り崩した。



「死にたい奴から前に出てまいれ!獅子奮迅!猛将たる我が力、貴様ら賊兵のあの世の語り草として覚えい!我が武勇、貴様らの冥土の土産としてくれるわ!でぇーい!!!」


ブゥン!ブゥン!ブゥンブゥン!!!


先陣にて七尺(2m強)の大槍を片手で構え振り回し、敵兵を切り裂きながら、

瓦解する味方部隊を鼓舞し、指揮をとるジャデリンの姿は、

伏兵に浮き足立ち、疲れていた兵士達を奮起させた。

その戦ぶりたるや、まるで猛々しい百獣の王、獅子の如きものであった。



ダッダッダッダッ!!


ジャデリンは敵兵を突き破り、荒々しく馬を走らせると、

敵部隊の将クピンとイエロを発見し、猛然と突撃した。



「そこにおわすはどこぞの賊将か!我が名は官軍総大将、四谷郡随一の猛将ジャデリン!腕に自信あらばわしと勝負せよ!」


「官軍の将め、おまえなどと勝負などしてられるか!」


「尋ねられて名乗らぬは将として無礼の極み、待っておれ!今すぐそっ首叩き落してくれるわ!」


「やれるものならやってみろ!それおまえらあの猪武者を殺せ!」


バーッ!!!

クピンとイエロの前に賊軍の槍隊数十人が

ジャデリンの馬に向かって槍を構え、

突っ込んでくるジャデリンの前に立ちはだかった!



「ならば押し通るッッ!!」


ダッダッ!!ブンブンッブゥン!!!


ジャデリンは大槍を振り回す勢いをそのままに、

賊軍の槍隊にむかって渾身の力を込めて横なぎに振り払った!!


ガキーン!!バキッ!!!


大槍はものすごい勢いを保ちながら、敵の槍の穂先に当たり

勢いに負けまいと力を込めた賊軍の槍兵達だったが

槍は真ん中から竹のように裂けながら折れ、槍兵はなす術も無く

突っ込んできたジャデリンの馬の突撃に弾き飛ばされ

囲いはみるみるうちに解けていった。



「ばかな、槍ごと兵をなぎ払うとは、ぬうう!イエロいくぞ!」


「おう!いくら馬鹿力でも俺ら二人がかりならばチョロイぜ!はいやっ!」


ダッダッダッダッ!

乗った馬の腹を蹴ると、二人の将はジャデリンに向かって

加速をつけながら猛然と襲い掛かった!



「もう一度名乗られたし!我は四谷の猛将ジャデリン!!」


「我こそは頂天教軍の将、クピン!」

「二人でかかるを卑怯と思うな!同じくイエローッ!」


「構わぬ!むしろ望むところじゃ!!でぇーい!!」



ヒュッ!ブゥン!ガキーン!!


たったの一合、振り払うジャデリンの大槍に二人の将が刃を重ねた瞬間、

クピンとイエロは手にしびれるような激痛を覚えた。


「げ・・・!!!」

「ッ!!!!!!」


「どりゃどりゃどりゃ!!」



ズゥン!ヒュンヒュンヒュンヒュン!


ジャデリンの勢いのやまぬ槍捌きは、クピンとイエロを絶句させた。

二人を相手としているのに、ジャデリンのその鋭い突きと払いの連続技に

クピンとイエロは攻撃する隙などなく、打つ槍をあわせ守るに精一杯であった。



「ドォォォリャ!!」


ブンッ!ズブゥッッ!


「ぎ・・・グヌワーッ!」


クピンがふっと息をぬいた瞬間、あっという間にジャデリンはそれを見抜き

目にも留まらぬすばやい突きを放ち、クピンを一撃で絶命させた。


「あっ!クピン!」


ブゥン!グシャ!!!!!


「ギャアッ!!」


クピンがやられたのを見て、気を抜いたイエロも

ジャデリンは見過ごさなかった。

大槍の勢いをそのままに縦なぎに振り落とし

甲冑、兜ごとイエロの顔面と胴体を叩き割ったのだ!



「賊将クピンとイエロ討ち取ったりッ!!」


「「「オーーッ!!」」」



まさしく形勢逆転の布石、現状を翻す、獅子奮迅の働きをする

ジャデリンの猛攻に、突然の事態に浮き足立っていた官軍の将兵達は

おたがいに歓喜の声を上げ、将を失って残った敵兵の多くは

惨めにも武器を捨て、ジャデリンに恐れおののき、ほうぼうのていで瓦解した。

もう一方の前方で戦っていた賊軍のレツドは、

形勢を見るに作戦の失敗を察知し、部隊に本陣への退却を命じた。


まさしくジャデリンの猛将ぶりを見せるに余りある猛攻であった。

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