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第九回

英雄百傑

第九回『酔将、豪将を斬って砦を赤く染め。智将、兵法を持って敵を駆逐する』



―あらすじ―


昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。

南国、黄州は四谷郡の香川に掛ける難攻の要害

『鏃門橋の砦』攻略の任についた官軍の中にミレム達三勇士は居た。

評定にて決死隊100人による夜襲攻略の策を献じた智将ミケイは、

応答したジャデリンの弱気を察知し、猛る心を挑発によって取り戻させた。

話を聞いたミレイ達三勇士は、ポウロの進言により

ミケイの募る決死隊に名乗りを上げた。

翌日の晩、香川の上流から見えた対岸からの火の手の合図と共に

三勇士と決死隊は川を降り始めた。

砦兵2000に対するミケイ率いる官軍1000は

異様な陣容で城門近くまで突撃し城壁に向けて火計を行った。

混乱した砦兵であったが、頂天教の守将エウッジの的確な指揮により

時がたつにつれ、落ち着きを取り戻しつつあった。

予想以上の守備の回復の早さに焦るミケイは決死隊の成功を祈った。

西門に到着した三勇士率いる決死隊たちは手薄になった西門登頂を成功したが

不運にもそこに待っていたのは、守将ズビッグ率いる300の兵であった。

対峙した決死隊100と頂天教軍300。

そして頂天教の援軍5000も砦の北門に迫り、官軍は絶体絶命の極致であった。


―――――――――――――――――――――



鏃門橋の砦 西門城壁


燃え盛るミケイの火計を目の前にし「易し」と考えたエウッジは

戦を一気に決めようと弟のズビッグと兵300を援軍の迎えに向かわせたが

そこに待っていたのはミレム、ポウロ、スワト率いる決死隊100であった。



「そこの城壁を登っている奴!だれだ!!!」


「ちっ!見つかったのか!」

「むむむ、なんと間の悪い・・・お前たち!さっさと登るんだ!」

「グゴーッグゴーッ」


ズビッグに発見されてしまった決死隊の先頭に居たポウロとスワトは、後方に

まだ登りきっていないものに合図を送ると、ポウロは腰から長剣を抜き出し

スワトは背中に背負ったミレムを降ろすと、大きな薙刀をズンと立て、

敵の兵に向け強く握った。


ギリギリギリ・・・



「ガッハッハ!どうやらこの砦に夜襲をかけにきた官軍の仲間らしいな。しかし前面の官軍は既に虫の息。後ろからは我らが頂天教の援軍。おまえらの小勢がどう動こうが俺たちの勝利に間違いはねえ!」


「なに、援軍だと!?」

「・・・」

「スースーッ」


「つまり、お前らはもう袋のねずみ。逃げる場所など無いと思え!ガッハッハ!」


決死隊100人が西門の城壁にたどり着いた頃、スワトとポウロは

敵に援軍が来ているのを知り、愕然とした。



「むう・・・!!」

この危機に寝ているミレムが恨めしく思ったスワトであったが

すでに戦場の時勢は刻一刻と頂天教軍に動いているという不安が

それをかき消していた。


「・・・」

一方、この時ポウロは功名心に燃えていた。

功を立てることに気が回っていて、逆に敵の援軍という言葉は

策を大成功させた後の功に華を添える、一つの調味料のようにも感じた。

その刹那、ポウロは既に功名という甘い蜜に支配され

いつものポウロには無い、ゆるぎなき判断力を発揮させていた。



「・・・スワト殿、死に戦に我々は来たのではない。私は決死隊を率いて砦内に火を放つ。ここは任せましたぞ」



ポウロはそう言うと、登ってきた決死隊100人を連れて

まるで疾風の如く、砦内を駆けて行った。



「ふふふ、ミレム様の事は任されよポウロ殿!それがしが命に代えてもお守りする!」


そういうとスワトは、自分の持った大薙刀を振り回し、

その場に居た頂天教の兵士達全員に聞こえるような大声でこう言った。



「やあやあ我こそはミレム軍の猛将スワト!皇帝に逆らう逆賊の者どもめ!死にたい奴から前に出ろ!我が薙刀の錆にしてくれるわ」


ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!



「な、なんだあの大男は」

「あの大薙刀をあのように扱うとは・・・」

「ブルブル、あんなのと戦うのかよ」



スワトの持った大薙刀が車輪のように回り始めると

それは風にうねりを与え、轟音を巻き上げ、吸い込まれる台風の如き

圧迫を兵士達に与えた。



「ガッハッハ!貴様のような愚鈍な田舎侍が猛将とは!官軍には良将がいないようだな!どれ、田舎侍の腕でも見てやろうか!我こそは頂天教軍将エウッジが弟!猛将ズビッグ!」


スワトの闇夜を震わす大声と、その薙刀裁きに驚く兵士達を尻目に

ズビッグが大笑いすると、自前の大斧を持ってスワトの前へと駆け出した!



「おお!相手にとって不足無し!参る!!」


ダッ!!!ガキーン!!!



「こそ泥部隊の将の腕はどんなものかな!」


「何を逆賊!」


ヒュッ!ヒュッ!ブーン!!ガッ!!



「ふふ、賊将ズビッグとやら、その程度か!」


「おのれ、言わせておけば!」


ブーン!ヒューッ!ガッ!ガキーン!!



「貧弱極まりないぞ!それそれっ!!」


「ぐ、ぬおおおお!!まるで大鉄球を当てられるようじゃ」


最初は意気揚々と大斧を振り回し、飛び掛ったズビッグであったが

2合、3合(斬り合いの数)と相打つ内にスワトの怪力に、体全体が

震えるような振動に襲われていた。


30合ほど繰り返すとズビッグには疲労の色が見え始めていた。

頂天教軍の中にあって流石に武の才際立つズビッグではあっても

豪傑スワトの長身から軽々と繰り出される大薙刀の一撃は重く

大斧を強く握り持って防御するのがやっとであった。

そして、未だ余裕であったスワトは力を徐々に出し

大斧の繋ぎ目を確認すると、大斧に強力な一刀を繰り出した。



「今だ!それっ!!!」


「あっ!」


ブゥーーーーーーーーン!ガキィィィィンッ!!!ドサッ!



スワトの大薙刀はズビッグの斧の付け根を捉えると

斧は上下に竹が割れるような音を立てて壊れ、城壁に無残な姿を晒した。



「ぬぬぬ、ゆるせん!」


スチャッ!


斧が壊れる勢いで倒れたズビッグが、怒り心頭といった感じで

腰の剣を抜き、再びスワトに襲い掛かろうとした、その時!



「うるさいぞ逆賊ども!!少しは静かにできんのか!」



「え・・・?うわっ!!!!」


ガッ!!!ズバァァァァァァ!!!



スワトとズビッグが一騎打ちで戦う場の真ん中で寝ていたミレムは

ズビッグの大斧が壊れた衝撃で目覚め、横からヌッと起き上がって

目の前で大声を放つズビックの後姿を見て、何を思ったか大声をあげて、

ズビッグを背中から腰につけた太刀で払うように斬ったのだ!

思いっきりのいい太刀筋は甲冑に守られていないズビッグの首を直撃し

ズビッグの首と体は二度と出会うことは無く、

その場に無残な死体を晒した。



「え、あ・・?ミレム様・・?一騎打ちに、な、なんという無礼をす…!!」



「黙れスワト!!逆賊にかける礼など無い!こやつ俺がいい夢を見ている時に大音など出しおって!成敗してやったわ!お前も、そこにいる逆賊の徒を成敗せぬか!いちいち俺をツマランことで起こすでない!!」



「は、はいッ!」


「わかったか!ではまた一眠りするかのう……グゴーッ!グゴーッ!」


そう言うとミレムは再びその場で寝てしまった。

返り血に少し汚れた鎧など気にも留めず、しかも数秒で。



「…ハッハッハ、なんという豪胆の武将だ!!将を害して、戦場で寝入るとは恐れ入った!それがしが殿と認めただけのことはあるわ!」



ボッボッボッボッ!!!!



その時、砦の内側から炎の上がるのがスワトの目には見えた。


「ポウロ殿がはじめなされたな!ハッハッハ!ではそれがしも殿の仰る通り、賊軍を排するとするかの!!!!」


ブゥンブゥンブゥン!!!



「「「ひ、ひええーーー」」」


再び大薙刀の音が鳴り始めると、頂天教の兵達は恐れおののき

まるで雲の子を散らすようにそれぞれの態で離散し始めた。



鏃門橋の砦 南門前



未だ膠着状態が続いていたエウッジ率いる砦守備兵と

ミケイ率いる官軍だったが、歩兵の大盾隊がついにボロボロと破られ始め

戦局は頂天教軍に傾きかけていた。



「耐えよ!戦線を下げるな!下げれば策は成らんぞ!」

ミケイは剣を抜き、前方の歩兵大盾隊を鼓舞したが

大盾隊の半数はすでに矢にやられ、士気は殆ど上がらなかった。



ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!!



「ふふふ、もっと矢だ!矢を射掛けて近づけさせるな!」


南門の城壁の上では、エウッジが自ら声をあげ指揮をとっていた。

門先でミケイが行った火計の効果も薄れ、すでに取り巻く炎は

驚くほど少なく、それぞれが沈下している有様で、

それに比例して頂天教の兵達の動揺も収まりつつあった。



「伝令!北門に援軍5000到着した模様です!」


「ふふふ、いよいよ官軍の最後だな・・・」


伝令からの報告を受けると、不敵な笑みを浮かべ

エウッジは剣を官軍の前に掲げ高らかにこう宣言した!



「南門開けーッ!梯子をかけよ!援軍と共に官軍を叩き潰す!全軍突撃ーッ!!」


ガラガラガラ・・・ガシャン・・・ガタガタッ!!



「「「オーッ!!!」」」


砦の北南門が開き、エウッジの声を聞いた頂天教の兵士達の士気は

大いに盛り上がり、城壁に長い梯子をかけ、官軍に

今まさに襲い掛かる勢いであった。



「ミケイ様!砦の門が開きました!」


「・・・それで火の手は?」


「いえ、今はまだ・・」


暗い顔を浮かべるミケイであったが、しかしここで

将が憂いた顔をしていれば兵達の士気にも関わると思ったミケイは

剣を前にやり、気丈に指揮を執り続けた。


「み、ミケイ様!あれを!!」


その時だった。

砦の城壁のあらゆる場所から黒煙が上がり、闇夜の空に

煌々と光るように燃え立つ火が湧き上がった!



「おお!決死隊が成功したか!弓兵隊!ドラをならせーーー!」


ジャーン!ジャーン!


大空に響く、耳の弾けるようなドラの音が橋全体を駆け巡る!



「歩兵隊二分退却!退却後、弓兵隊は弓を前面に放って隊を二分しろ!騎馬隊が突っ込み時間を稼ぐ間に、全軍鏃門橋の南の袂まで退却せよ!」


ミケイの声とドラの音を聞いた、大盾を持った歩兵隊は

橋の外側を歩くように二分し、退却を始めた。


「「「ワーーーッ!!」」」


歩兵隊の退却が行われている頃、砦の南門を抜け

すでに前面の弓兵隊に差し迫る頂天教の軍の意気は物凄いものがあったが

ミケイは「ふふっ」と笑うと、剣を前に掲げ、弓兵隊に指図をし

弓兵隊は短距離用(扱いやすく連射に向く)の小弓を取り出し

闇夜に広がる前面の橋のへと弓を発射した!



ヒュンヒュンヒュンヒュン!!



ザクッザクザクッザクザクッ!



水平に勢いを消さずに飛ぶ無数の矢が

突撃し、迫る頂天教の騎馬隊に当たり、

前面に居た援軍の多くの兵達が、出鼻をくじかれるかたちで

橋の袂に無残な死体を重ねあげた。

その間に歩兵隊は完全に退却し、一息つくと

弓兵隊も隊を二つに分けて退却し始めた。



ドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!


「「「ワーッ!!」」」



その時、橋に数百の馬蹄の音が差し迫るように響いた。

橋の中央に屯していた官軍の騎馬隊が突撃してきたのだ!



ガキン!ドカッ!ブーン!ガスッ!ガキーン!



狭い幅の鏃門橋で一気に兵が通れないのを利用したミケイの騎馬隊は

今まで休んでいたこともあり、同じ数を相手にしているのなら

遠路を進んで疲弊した援軍など敵ではなかった!

騎馬隊が時間を稼ぐ、その内に弓兵隊は退却をおえていた。



「よし、そろそろいいだろう。全軍引けーッ!」


「「「オーッ!!」」」


ミケイの言葉を発するや否や、騎馬隊は退却を始めた。

普通、退却するときは敵から迫撃をうけることになり

大損害をこうむるのだが、ここでも遠路を走ってきた頂天教の援軍と

休んでいた官軍騎兵隊の疲弊の差が目立ち、被害は

最小で食い止めることが出来た。



鏃門橋 南 森林地帯



出鼻を挫いたとはいえ、おってくる頂天教の軍の勢いは凄く

橋を渡り、森林地帯に差し当たったミケイ率いる官軍の騎兵隊も

敵の突撃から逃げるのがやっとだった。


そして頂天教軍は、ついに橋をわたり、官軍野営地近くの森林地帯へと

その足を伸ばしていた。



「このまま官軍の野営地を焼き払ってくれるわ!」


「エウッジ殿!あ、あれを!」


「む・・?」


その時、エウッジは信じられないものを見ていた。

そう自分が絶対に落ちることの無いといった砦が赤く燃えているのだ。


「ば、ばかな!弟はどうした!」


「わかりませぬ!ですが、このままでは砦は落ちますぞ!」


「ぬ、ぬう・・・謀られたか!!!全軍退却!」



ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!



「ぐわーぁぁぁ!」

「ぎゃああーっ!」

「うわーあーー!」


エウッジがそう言う間もなく、森の間から無数の矢が飛び出し

頂天教の軍に雨のような矢が襲い掛かったのだ!


ジャーン!ジャーン!


「うっ!」




「夜襲陽動の策!見事だミケイ!それっ!敵は弱軍ぞ!かかれーッ!」




「く、くそ!血路を開いて退却ーッ!」



ドラの音と共に猛将ジャデリン率いる

3000の兵がエウッジの軍に襲い掛かった。


たしかに数は頂天教のほうが多かったかもしれないが、

伏兵にあった賊軍と、ジャデリンの兵では士気が違いすぎた。


その中、エウッジは必死に抵抗したが、ジャデリンの部下に討たれ、

将を失った軍は麻のように乱れ、あるものは脱走し、あるものは降伏し、

あるものはそのまま討ち死にした。



夜が明け、辺りが明るくなると、

橋と森林には無数の死体がその無残な体を朝日に晒していた。

砦には燃え屑が転がり、橋には矢が無数に刺さり、

草は血を吸い、土は朱に染まった。



こうして、ミケイの策により始まった鏃門橋の砦攻略作戦は成功した。

被害は少なからずあったが、頂天教軍は全滅し、砦は取り戻した結果を

見てみれば官軍の圧勝、大勝利であった。


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