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悪役令嬢の姉  作者: 鵠居士
遺された者達
14/15

子供にはまだ早い

結婚しなくてはいけない。

結婚なんてしたくない。


その言葉の意味なら分かる。

二人が育った南の辺境伯領の町でもよく聞いた言葉だ。


土地から土地へ、戦場を求めて一つの土地に留まろうとしない傭兵ならばいざ知らず、その土地に仕事を持ち、家を持って、近所の人々などと関わりが出来ている男ならば、それがどんな性格や趣向を持つ存在であっても、一度は必ず言われるのだ。


結婚はまだ?と。

そろそろ奥さんを貰って、子供でも持って。

そしたら、貴方も一人前ね。


独り身の男に、心配から、あれやこれやと世話を焼き口を挟みたくなる、お節介な年長の女性というものは、多分町でも村でも一人は確実に存在するのだろう。

そして、男も女も、自分達の家庭を持って子供を作り、育んでいくことで漸く一人前なのだという認識も、これはきっと国の枠に留まらず、多くの場所で持たれているものなのだろう。


それは平民にだけでなく、むしろ貴族などの立場を持った人々にこそ、重くのし掛かるものだった。


幼い内から親によって決められた婚約者が居て、まだ仕事というものを始めたばかりであろうと16・17になれば結婚、そして子供を産み育んでいく。

これは貴族では普通で、在り来たりな在り方だ。

貴族という枠組みに辛うじてしがみついている状況の貧乏な下級貴族ならば、婚約者を見付けることが出来ず、貴族にしては晩婚という年齢に、平民から妻を迎えるということもあるだろう。

だが、大公家ともなれば、幼い頃から婚約者が居るなど当たり前の事だ。

さぁ、そろそろ良い相手を見つけねば。なんて言う暇など有り得ない程の、相手からの申し入れが産まる前から集まるのだ。


産まれる前、性別が分からない頃には、性別がこっちならば是非、と約定を取り付けようと。


産まれたのが女子ならば、産声を上げたその時から嫁に貰えないだろうかと声が上がり、あの手この手で候補に上がろうと、男子を得ている親達は動き出す。“我が家に近い内男子が産まれるかもしれない。だから、今の内に約束だけでも、”なんて者も少なくはない。

西大公家との繋がりが持てるだけでなく、大公家の娘として最高の教育を得た女性を一族に向かえ、その才知を家の次代に組み込むことが出来るのだ。

その争いは水面下のものとはいえ、激しいものとなる。

だが一度、婚約者が決まってしまえば、余程のこと‐婚約者の死亡、その家の不祥事など‐が無い限りは、その争いは終息し、二度と起こることはない。

婚約者とその家が、何を持ってしても、令嬢を護ろうとするからだ。

そんな令嬢に手をだそうなどとすれば、西大公家とそれに認められる程の家柄である家を敵に回すことになるのだから、それは当然のことだろう。


産まれたのが男子ならば、年の近い女子を持つ親達が西大公へと渡りをつけるだけに留まらない。まだ恋も愛も知らない子供の頃から、年上の令嬢達のアピールが降り注ぐことになる。時には、貴族としての体面を利用し、心の無い関係を築き、その関係の事実、証明となる存在を作ってしまおうなどという方法に出る者も少なくはない。


あまりにも愚かで、狡猾な手だ。

そんな事実が簡単に隠し通せる訳もない。

人々の口に上り、白い目で見られることは避けられないだろう。

品位も何もあったものではない、と。


それについては、平民の中でも有り得る出来事ではあるが、それに向けられる厳しさは比ではないだろう。


だが、貴族と平民、変わりの無いこともある。

そんな状況に陥った際、口にする言葉だ。それに関しては貴族だろうと、平民だろうと、そう変わりはない。

それこそが、『結婚しなくてはいけない』『結婚なんてしたくない』という言葉だ。


結婚しなくちゃなんなくなるだろ。


ゲイルは確かにそう言った。

これは『結婚しなくてはいけない』という言葉に似ている。

似ているが、だが違う。

何故なら、その後にまだ言葉が続くからだ。


結婚しなくちゃなんなくなるだろ、女と!


そう言ったのだ、ゲイルは。


女。


ゲイルの言葉の中で、一番重さを持っていたのはそこだった。グレンとアルスには確かにそう聞こえた。


それに似た物言いの人を、グレンとアルスは知っている。

辺境伯領は、その名の通りに辺境にある。

最も危険の多い、国境。そこにある町には並みの根性、生活の者が住むには適さない場所だ。

その為に、自然と国中から生まれ故郷の村や町を訳あって追われたような者達が、あちらこちらから自然と集まり、顔を合わせている町となった。

駆け落ち、前科持ち、など、その理由は数多い。

その中には、その性癖によって追われ、流れ着いてきた者達も居た。

その中の一人、見た目も中身も厳つく男らしい、辺境伯領にたどり着く前にも勇猛さを知られていた傭兵の男が何気に言っていた事が、ゲイルのそれに重なった。


その人は男でありながら、気づいた時には異性には何の感情も浮かばず、同性である男こそを愛する、そんな性癖の持ち主だった。

彼の好みのタイプというものが、ハンスのような男で。ハンスは会わぬように、会ってとあの手この手で逃げたり、はたまた軽くあしらったりしていたが、何度も顔を合わせる度にハンスを口説いている姿を、グレンもアルスも目撃していた。

まだ今よりも子供でしかなかったグレンは、その意味が分からず、はぐらかすだけの父親ではなく、その彼に直接聞いたことがあった。どうして?と。すると彼は素っ気なく答えてくれた。そんなの自分にだって分からない、と。気づいた時には自分の好きという感情が向かうのは、そういう相手だっただけ。だが、故郷では誰もそんな彼の考えを受け入れることも理解することもなく、彼を何とか女性と結婚させようとした。しなくてはいけなくなった時、彼は故郷を出た。


ゲイルの姿に、そんな彼の姿が重なって見える。


「えっと、つまり、そういうこと?」


グレンの言葉を濁した問い掛けに、ゲイルはあっさりと頷いた。

「そういうことだな」

そこまでなら、辺境伯領での出会いによって耐性の出来ていた二人は、へぇそうなんだ、と受け入れて終わりだっただろう。

だが、ゲイルの言葉はそこでは止まらなかった。

「ちなみに、お前みたいな顔が好みなんだよな」

にやりと意地の悪さを前面に出したゲイルの目は、アルスをしっかりと見ていた。


「「…」」


うん、と無言で顔を見合わせた二人は頷き合うと、静かに、足を店の入り口へ向け、後退せた。背中を見せたら終わりだ、なんていう、まるで熊に遭遇してしまった時のような緊張感が見え隠れする。


「冗談だよ!冗談!好みってぇのは本当だが、身内に手ぇ出す程、飢えてねぇよ!」


「その言い方もどうかと思う!」

「不潔ぅ!」

ケラケラと笑う叔父の赤裸々な言葉に、まだまだ子供ながらも意味を理解したアルスは顔を真っ赤にさせ声を荒げ、グレンはその姿に似合うよう作った声で、潔癖な少女のように非難の声を上げた。


「この顔が好みなら、こいつじゃなくて、親の方を狙えよな!」


きっと言う通り冗談なのだろうが、グレンは可愛い弟分を護ろうと、そっくりな父親を犠牲に捧げることにした。

それも微妙なことのような、とアルスはグレンによる叔父への提案を聞きながら、それでももう父親とは思ってもいない存在だからまぁいいか、とあっさりと結論が出た。

アルスが父親と呼ぶのは、センシル辺境伯フォスター、ただ一人。アルスの心の奥底からの思いであり、公式にも彼こそがアルスの父親なのだ。

七年も顔も声も、音沙汰も興味が無く聞き流していた、ただ血が繋がっていて顔がそっくり程度の父親タリウなど、どうなろうと知ったことではない。


「それも考えたんだけどなぁ」


考えてたのかよ、とツッコミを口にしそうになったのは、親子の情とかでは決してない。男に襲われるかも、と考えて際の、同じ男としての生理現象みたいなものだ。そうアルスは、そのツッコミを飲み込みながら、自分に言い聞かせた。


「折角、あの頃はしっかりと我慢して、ギリギリな橋を渡ってきた命を無碍に捨てるのは嫌だし。それに、今のあの人にはそうそう近づけそうにねぇからな。義弟つまのおとうとだった俺が近づいたら、どうなるか分かったもんじゃねぇ」


弟はいっても異母弟、置かれた立場としてはほぼ変わらない程度でしか無い。それでも話を聞いちゃくれなかっただろうかなら。


クックッと含み笑いをしながら呟いたゲイルのその言葉の意味を、アルスとグレンは何となくだが理解出来た。だが、それは気軽に口にしていい話ではない。

だから、詳しくは確かめることはしなかった。

その代わりに、グレンは彼の言葉の違う部分に目を向けた。


「もしかして、叔父さんが仕事場で問題児扱いされてたのって」


ヒルトは悪戯などで上司や同僚の胃を痛めつけ、問題視されていた。

ゲイルもまた問題視され、だが大公家の息子ということで事を公にし処罰する事態にも出来ず、彼が属していた財務省では悩みの種とされていた、らしい。ヒルトとは違い、ゲイルのそれに対しての理由は今だに何だったのか分からないままだった。

だが、それが今、知れたような気がした。


「まぁ、そうじゃないかって話になってたせいだな。目の保養って見てたのが、度が過ぎたって感じだったな。それでも、疑いがあっても相手が俺だろ?確実な証拠も無い内に大騒ぎする訳にも行かない、ってんでどうすることも出来なかったってよ。俺も命は惜しかったからな、確実にバレるような真似は絶対にしなかったしな」


貴族は体面と繋がりを重んじる。

それ故に、家族の中に異端が産まれてしまった時の対処は、厳しく、時には非情過ぎるものになった。

同性しか愛せない者が出てしまったとなれば、それこそ一大事。放逐など、下級の甘い認識しか出来ない貴族しか行わない方法だった。

よくて急病で静養に向かった隔離。最悪で最も手っ取り早いのは、病気で、事故で、と理由をつけて存在がそこで無かった事にされるというもの。

同類なのではと思われる事を嫌う貴族達は、自然と付き合いを控えるようになっていくだろう。それは本当に、人の心理を思えば自然な流れで。付き合い、繋がりを重視する貴族において、それは何としても避けねばならない事だ。貴族という枠組みは、例え敵対関係にあろうと繋がりが一切無いとは言い切れない、狭くて濃い、長い年月をかけて作り上げられて繋がりが張り巡らされている。その中で他家との付き合いが絶たれていくということは、孤立を意味する。孤立してしまえば、政を全うに保ち続けることも難しい。そうとなれば、災いの目にしか成らぬ一人を処断するのは、貴族として必要な覚悟だった。


「優秀な軍人を輩出してきた家で、本人もそうだからな。そういう話に慣れはあるだろうが、だからと言ってヘタに手を出したら、そっち関係の全てを敵にすることになるし」


セリンサの弟という理由だけでもなく、タリウ・ザルスには近づけはしない。

チッと舌打ちをして見せた姿を見ると、好みだというのは本当に冗談でも何でも無いようだ。


女が安易に足を踏み入れ関わることが出来ない、軍という組織。

女騎士を始めとする女性の軍人も存在しない訳では無いが、それが認められ始めたのは最近の事だった。それまでは女性は守られるべき存在であるという認識が強く、戦いという過酷な状況を担う軍人に女が就くなど考えられないことだった。それは今も残ってはいて、女性にしか無理、女性だからこそ良いという状況、任務にしか彼女達が配属されることは無いし、身体的理由、性別による能力などの違いから、訓練の際から別行動となっている。それ故に、今もなお軍は男社会と言い表せる。その男だけという中で一度、戦場という女が完全に存在しない環境に送り込まれれば、若さと過酷な状況にあるということで次第に溜まっていく性を手近で発散させようと考えるのは自然なこと。これは古来から、様々な国の歴史を紐解いても、見られる行い、考えだった。

だが、それを公の事として、声高にする者など一人として存在しはしない。

特殊な環境下であるが故の、特殊な関係、事態なのだ。仕方無い状況だったとはいえ、自分の本能を抑えることが出来なかった野蛮で恥ずべき、愚かな事。

軍人を始めとした知る者が多く存在していようが、それが決して他へと漏れ出していい筈は無い。

口にはしない、明文化されることも無いであろうが、それは暗黙の決まり。これを些細な程度であろうと破れば、軍人全てを敵に回すしか無いのだ。


ゲイルが自身を律しもせずに迫り、これが軍関係者へとばれた時。

平民となろうと命を奪われることは無かったゲイルの身の安全は、とても危ういものとなるだろう。


勿論、そうではない国や民族も、この広い世界になら何処かに存在するかも知れない。常識なんてものは、一度国や民族、地域によって簡単に変わるものなのだから。

だが、少なくともこの国ではそうなのだ。


「本当。俺にとっては、貴族じゃなくなったのは最高の出来事だった。命の危険に晒されることもなく、平民の方が相手を探しやすいし、何よりもこの店が持てた」

お前等には悪いがな、と甥二人への配慮を口にしながらも、ゲイルの表情からは思い出し笑いが途絶えることはない。

「貴族の男性用の服とかあったけど」

「来るの、そんな客?」

良い店だろう?と上機嫌に笑うゲイルに、グレンとアルスは店の入り口近くに飾られてあった、上質な布と丁寧な縫製が成された、女性ものの中に混じって飾られていた、貴族の男達が公式の場で纏ってもおかしくはない衣装の数々を思い出した。

だが、ゲイルがそういう趣向の持ち主で、それが仕事場の上司や同僚にバレかけていたという事を考えれば、それを買い求めに来る貴族が居るのか、と疑問に思えた。

「ん?あぁ、来るぞ?それも、大いに店の売り上げに貢献してくれるのが、な」


ゲイルが言うには、それはゲイルの元上司、同僚達なのだと。


「本当に、この店を始めて良かったよ」


"前から、こういう事に興味があったんだな。俺達を見ていたのも、俺達が身に付けていた衣服や装飾が気になっていたからか"

"勘違いしていた。許してくれ!"


ゲイルがこうして服や装飾品を商う店を始めたと聞きつけ、来店した彼らは晴れやかな表情、安堵の表情を浮かべながら、勝手に誤解を解いた気になり、そして詫びるように商品を購入していった。

自分がそういう対象になっていなかったという安堵、思い込みで告発し無実無根の名誉毀損と西大公家の怒りを買っていたかもしれないという恐れ、馬鹿な真似をしなくて良かったという安堵など、彼らの気持ちは様々だった。

彼らは今では、この店の常連となっている。

罪悪感などからなのだろうが、男性ものから女性ものまで購入し、勝手に宣伝までしてくれている。


「採寸するってたら、触ろうが何しようがやりたい放題。接客すれば、色んな男との会話に表情の変化も存分に楽しめる。特に、恋人にプレゼントしたいって小物見に来る奴の表情ときたら………」


何か、まだ14、12歳のグレン達が聞いてはいけないような事を、恍惚の表情で語り始めたゲイル。

思わず、二つとはいえ年下の従弟の耳を自分の両手で塞ぎ、大切な弟分であるアルスを守ったグレン。ただ、それでは自分の耳を塞ぐことは出来る訳もなく、暫くの間、グレンは聞きたくもない話を聞き続けることになってしまった。


「元々、服装とかに興味があったのは本当だしな。ドレス作るとなると、どうしても女の相手しなくちゃなんないのはあれだったが。そこは貴族の嗜みって鍛えた外面で何とかなったし。女に良い顔しとくと、後から旦那連れてきてくれるしな。あぁ、こんなこともあったな。あんまりにも嫁が此処で物を買うからって、俺に可愛らしい嫉妬の目を向けてきた奴が居たんだよ…」


少しは収まったかと思えば、話はまだまだ続きそうで。

初めの頃は大人しく耳を塞がれていたアルスも、こうも長く話が続くと大丈夫だと騒ぎ出す。

だが、年上の矜持がその手を離そうとは思わせない。

早く終わってくれないかな、とグレンは切に願っていた。


そんな中、救いの手はちゃんと差しのべられた。


「子供に何ていう話を聞かせてるのよ、あんたは!!」

常識のある大人が来てくれた!

まずは聞こえただけの女性の声にパアッと表情を弾けさせ、長い話の中で下がっていた顔を上げたグレン。その目の前で、手提げの籠で後頭部へ一撃を加えられ、ゲイルは頭を前方へと前のめりにさせた。


「バッカじゃないの、本当に!何なの、馬鹿なの、アホなの?そこまでじゃないって思ってたのに、信じてたのに、そこまでの変態だったなんて!あぁ、もういいわ!この店の権利だけ私に残して、さっさと憲兵にでも連行されて、牢屋で臭い飯でも食べてなさいよ!」


罵るだけ罵ると、その女性はグレンとアルスに近づいた。


「貴方達、大丈夫!?安心して、この変態はすぐにでも憲兵に…。あら?」


ゲイルの背後では憤怒の表情を浮かべていた女性は、二人に近づくと優しげな、心配を隠そうともしない表情を浮かべ、全身を見回していく。

女には興味が無い筈なのに、と口にしながらグランを見回し。

次に、好みだからって子供にまで、とギリッと歯を噛み締めて、グレンの両手から解放されたアルスの全身を見回し。

アルスの全身を見回して、その目がアルスの顔に移ってきた時、その女性は動きも言葉も一切を止め、呆気に取られた表情になった。きょとん、と目を丸めた後に、もう一度アルスの顔を見て、次にグレンの顔を見た。

そして、自分の一撃によって生まれた後頭部の痛みを手で擦って緩和させようとしている、ゲイルに。


「あら?あらあら?もしかして、もしかしなくても、あれの身内かしら?」


片方性別違うけど、こんな感じの顔の近い身内が居たわよね。

女性の言葉に、二人は頷いてみせた。

まぁ一応、と微妙な表情にグレンがなっていたのは、あの話を全て聞いてしまった直後なのだから、仕方ない事だろう。


「ふぅん。あぉ、大丈夫よ、安心して?私はほとんど分かってるから。貴方の服、作ってるの私なのよ」

よろしくね、グレースちゃん。

グレンの、女として名乗っている名前を口にして女性はにっこりと笑う。

この店で、ゲイルのデザインから服を仕立てている縫製職人をしているのだと、女性はフィア・レッセルと名乗った。

「グレースです、今は」

「アルスです、今は」

事情を知っているというフィアに、最後に“今は”と付け加え、名乗ってみせたグレン。

それを真似し、アルスも自分の名を明かす。


猫が笑った表情。


フィアはアルスが名乗ると、そんな表情を浮かべ、アルスの両手を持ち上げると、纏めて自分の両手の中に包み込んだ。


「ねぇ、アルス君。お小遣いって欲しくない?」


マトモな人だと思ったのに。

それは素晴らしい速さで、グレンはアルスの肩に手を置き、その体を引き寄せた。フィアが持っていたアルスの手が完全に離れてしまうように、勢いよく、出来るだけ遠くへとと思いながら自分も後退しながら引いた事で、アルスの体は完全にフィアから離れた。そしてグレンはすぐさま、そんな二人の間に自分の体を捩じ込む。


変態達からアルスを守ってみせる。


実母以上の愛情を自分に注いでくれたセリンサへ、グレンは誓った。



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