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二魔王明暗

魔王になるのか、ならないのか、ならない方が面白いのかな。

『第一話:二魔王明暗』



 人間と魔族、衝撃の邂逅からはや数百年、その争乱は揺るがしがたい膠着状態に突入した。そもそもは甲か乙かの二元論でしかなかった両者の立場も、異質な社会の中で個々の思想は多様化、人間による魔族の使役(逆も然り)果ては共生の形をとる者さえ、時世は渾沌を極める。

 さて、その二元論の中おいそれと自らの地位を棄てられないのは誰あろう双方の長であるが、一方の、魔族の長――――魔王は、実はタイムリーにも二週間前にその地位をクーデターよろしく剥奪され、追われる身となったのであった。魔王の地位を冠するからには、仮に背中から刺されるようなことがあろうとも、全回復して頑として譲らない程の力が要求されるのだが、そいつのそれはその時にそれとなく消失し、そんなこんなでヒラ魔族に没落する羽目に合うのであった。髭面のこいつがそいつである。

 かつての魔王はその顎のをだけ剃っておく半端な髭面やら四年前購入@ディスカウントストアのパーカーやらの満遍なく覆っているはずのショボそうなオーラを《掻き消し余りある風格》が漲り魔王自身を魔王然として成り立たせ築き上げていた。森羅万象を煌々と照らし出すような厳めしき眼光を筆頭に、理屈ではない険しさがそこにはあったのだが、今では狐に一杯食わされていたように、誰もが彼の絶大なる魔王性を覚えない。

 代わりといっては《豪奢》なもので後続には、そちらの世界の経済を牛耳る財閥様の御子息様が御就きになった。腹の膨らみ具合が《豪奢》を称えている。

 打って変わって敢えなく罷免になった元魔王は、対照的に涼しげな顔をした参謀を連れて、あろうことか『アルデロザ』に紛れ込んでいた。

「着きましたね。ここがアルデロザです」道行くオナ……おなごを卒倒させる(かもなぐらいに)奇跡的に中性的な童顔と丁度いい肉付きで守りたい守られたいな胴体四肢は、某少女漫画を彷彿とさせる弱点なしのスーパーイケメン振りで、加えてこのトンガリ耳は人外ショタキタコレな参謀はそう切り出すと歓迎に出向いた喧しい羽虫をノールックで制した。塵と化したそれが風に舞い、相方の睫毛に引っ掛かるが、依然無感動を貫く。

「ぶあっ、ざけんなっ」歪めた髭面は露骨に嫌がり、継いで更なる不満を口にした「……俺ら、来るとこまで来たな」

「ええ、かの御子息様が『穢いからほっとけ』と仰った場所ですから、追っ手は及びません」

「だとしてもさあ……」

 アルデロザは人間界でも名だたる『ビッグ・スラム』で見るからに治安が悪く、その通りの街であった。正面の貼り紙には「痰を吐くな!」の文字とさっき吐きましたとでも言いたげなそれがへばり着いており、街はしょっぱなから無秩序丸出しであった。露店商の薄ら笑いを絶やさない痩けた頬、下着姿であてもなく歩く中年男性、各々の通帳なんかを覗くまでもなく境遇は窺えた。

「なあ『アイザック』はこういうところ馴れてんの?田舎でもこんなの見たことないんだけど」髭面は参謀に耳打ちした。

 アイザックはその髭面元魔王『高田』に返答する「いえ、高田さんは我々の血を馬鹿にしていらっしゃるのですか?高潔にして深淵なるダークエルフがこんなしょぼくれた街を故郷のように慕う訳ないでしょう?」口調こそ冷静を保っているが明らかに憤慨している。

 言葉を選ばなきゃ次は死ぬ。そう確信し「全然そんなんじゃないです。すんませんした」髭は精一杯の謝辞を述べた。

「やはりその中途半端な髭で謝られるとムカつきますね。いっそ髪型も中途半端にしてくださいよ。逆モヒカン5レーンで手を打ちますから」てんで参謀の心は晴れなかったので条件を提示するも「あ、でも高田さんのそのニードル帽子(注:辛うじて帽子。常識人なら人前で被れないものを指す)を被って隠せば痛くも痒くもない罰ですね。これはもはや胴体に5レーン開通させて実寸大プ●レールで遊ぶしか」

「痛い痒いで済まねーよ。つーか冗談でも止してくれよ?今の俺は全盛期からしたら断然弱体化していて、そういうの想像しただけで戦慄収まんねーんだから、ましてや『そういうのやるタイプ』だからな、お宅は」

 二人がなんかギクシャクしているとそこにいた縒れたタンクトップにてかてかの髪の毛をした青年に絡まれてしまう「おいオッサン!何一人でボソボソ突っ立ってんだよ!」

「一人?私と高田さんで二人ですよ?」アイザックの声。

「そうだ。考えてみなよ。街のT字路で直立不動で独り言って、なんだろう、異質というか、挙動不審じゃない?」ねえ?と、彼の右腕に確認をとるべく顔を……だが、それの声が聴こえた方向には『誰も居ない』

 アイザックは高田との会話の最中に、高田に感付かれぬよう青年に見えない位置に移動していたのであった。会話が自然に繋がったのは彼の数多持つ魔法の能力の応用である声のピンポイント照射を距離の計算の下に行ったが故であった。ピンポイント故に、青年に声が聴こえないのはますます彼に好都合。そして、高田にはそんなことなど知る由もない、しかしながら傍目には髭の挙動不審を認めるほかにない。

 それが現状であった。

「あっ、いないっ」

「オッサァーン」青年は先刻にもまして接近してくる「この街は好きなんスよぉーオッサンみてーなそーゆう挙動不審で…………虚弱そーな奴等がよおおお!」

 直後駆け寄るタンクトップ、瞳孔はもれなく開いており、腹を空かせた狂犬のように涎を禁じ得ない。挙動不審では五分五分だが、青年はいよいよ箍が外れたようで、話さえ通じそうにない。右足を引いて半身になって避ける。青年の腕が暫し虚空を掻くとそれの血走り切った目線が、こちらを刺す「避けんのは楽しいかゴラアアア!?」

 高田はぎょっとして彼の惨状を悔やんだ。青年の動作があまりにも単純なのである。見えたところに行け、というような闘牛以下の追走を往なすのは容易だが、逆にそれで相手を捕まえようと思考そのものが憐れに感じられた――――これも境遇故か――――躱しながらも余計な方に気が回るのは、彼の悪い癖であった。すると、

「もういい!落ち着きなよ」逃げる身を翻して高田は対面して制止を促した。青年は止まらない。

「丸腰だとでも思ったんか!何でもありだ!」青年はズボンのポケットの折り畳みナイフを高田の眼前に翳し、展開。

 迫る――

「のあっ」仰け反りながらに咄嗟の右旋回。食らってはならない。一定の距離を確保した野次馬に囲まれ、不条理が繰り広げられる「お前っ……」

「へっ……何でもありだよ『この街』は、金が稼げりゃ他は」


 止まった。


 彼の首は既に極まっていて、すると後ろのもう一人が彼を諫める。「もう結構です」

「またおまえか……」高田は呆れ返って嘆息した。

「あなたでは全く力不足ですね。ちゃんとそこの髭を『鍛えて』くださいよ」白眼を向いて人形のように脱力した青年を足元に転がすと、次はその髭に申し訳程度に微笑み「残念でしたね。人選ミスです」

 現場は既に静まり返っていた。状況を理解している二人を残して。

「なあ、これって犯罪スレスレだよな?つーかチートスレスレ?」

「犯罪だし、チートです。最近流行りのね」

「流行ってたら何だってやっていいのか?多分俺達の感覚って狂ってるぜ?俺は《元魔王》だし、お前は……」

「その《参謀》にして《裏のラスボス》ですか?後者は不本意ですけど」

「ほら、周り見なよ……もうここには留まれないじゃない」

 いつのことやら、野次馬は全て失せていた。『コトだ!』と思い、親兄弟各署に連絡しに行ったに違いない。

「確かに。この《世界線》には留まれません」アイザックは二人分のヘッドホンを取り出し、高田にも着用を求めた。

「禁句だよ……もう『何でもあり』だなそれ、いやだなあ、こんな魔王。格好つかないじゃん」

「お互い不本意で丁度いいじゃないですか。はい、1%を飛び越えろっ!!!!」

「うわあああ……うわあああ……」

 頭が割れるようなお決まりの移動音に二人はどうという感慨も持たず、これまたお馴染みの『初心者は酔っちゃうかもね』的映像エフェクトにも据わった目で臨み、世界線間飛行を果たした。

 さっきまでいた汚れたスラムにまたもやってくると二人は散策を始めることにした。因みにさっきの青年はこの世界線には存在しないが、それが何だというのか。

 ビッグ・スラムはどこまでいっても相変わらず薄汚れが広がっている。

「しかし……本当に大きな街なんだなあ……よその街の規模にも引けを取らないよ」アルデロザは方々の街で溢れた低所得者が集まり社会を形成した街で、その特性上住民の職種は多様である。露店商、芸術家、追い剥ぎ、タンクトップ……。

「なので、その中に手合わせ願える方がいらっしゃるかとも期待しているのです」

「隠れ里でない以上、魔族との交戦が全くないというのは考えがたいから確実に一定数いるだろうな。あとはどう都合をつけるかどうかだが……」「実は先程の『使役』を使うまでもなく、それは簡単でした。彼がリケットです」

 そう言うなりアイザックはすぐ背後のリケットを紹介した。いつぞやの青年とは比較にならない剛健な体格をしている。彼のタンクトップはミリタリー柄だ「言付け早っ」これには髭も苦笑い通り越して驚嘆。

「よう!タカタだっけ?実はさあ、君のツレが俺様のM字バングをスゲー馬鹿にしやがってさ!!何か知らんけど取り敢えず、俺様の拳闘で圧されてくんね!?」はち切れそうな筋肉達磨で身を包んだ胴体にそのバングとは総じてミスマッチの体現であるが、それを教えてやるまでもなく彼は怒髪天を衝く形相であり、コマンドを訊くまでもなくオンガードでいつでも殴りにいく格好をとっていて、そして高田に選択の余地はなかった。

「よかったですね。この街、サンドバッグ探しにうってつけですよ」頼みもしない野次のせいで火に油、リケットの鼻息が届く。

「よっしゃあ!!男ならステゴロだよな!とっととおっ始めるぜ!!」リケットの咆哮が低い空に木霊すると、彼の先制攻撃だ。闇雲に殴るのでなく、相手に避けさせる毎にそれの逃げ道を潰していく狡猾な戦法で、それは高田を断然焦らせた。細い通りの巨漢のラッシュ。一つ避けるも次が、次が駄目なら次の次が、みるみる安全地帯が縮こまる。逆に蹴り返そうとも試みるのだが、男の筋肉は触れたものを端から弾き飛ばしていきそうで、迂闊には抵抗さえできない。何より今の自分の身体は現役魔王時代のそれからは遥かに衰えていて、フルボッコになろうものなら数月の安静を要するし、たかが一発も侮れない。あっという間に前と後ろの塀と壁、奥はアイザックに通せん坊され袋小路に追い詰められた。

「どけ!どけよっ、あーどうしよう……」狼狽えるばかりの高田にアイザックは、

「おあつらえ向きの舞台でこれかよ……」痺れを切らした「仕方ない、『使役』するか」瞬間、高田の身体が唐突に振り上げられた指揮棒のように勢いよく持ち上がり、手足はピンと張る。かと思うと腰を深く据え、

 目にも止まらぬ正拳突きへ。

 反応が遅れ、真っ向から受け止める『リケット』――――高田の動きは寸秒前とは別人に生まれ変わっていた。アイザックの『使役』に因って。 不意の消耗をそのままに二撃三撃、捻りを加えられた空中回転蹴りを食うと、ついに突っ伏し押し黙ってしまった。

 M字バングの中の哀愁漂うM字ハゲを剥いてやると「せめて自力で勝たなきゃ意味がありませんよ?」やれやれ、とアイザックが一瞥をくれれば、

「『男ならステゴロ』だとよ、それに意味はあるさ、自分の身体なんて喧嘩講座の特等席じゃないか」性懲りもなく肩を回す「あ?これ外れてない?足首もちょっとやった気がする」

「どこまで運動不足なんですか……やはり魔法で闘った方が楽ですかね。貴方数年来魔法が超絶苦手だった気がしますが、死んでも憶えてください。死んでください」

「なっ、内容に大きな隔たりが」

 一呼吸置き「まあ魔法は是が非でも会得してもらいますけど、このリハビリの旅もそれなりに長引きそうですね。別にいくら長引こうが困らないんですけど。経費は」


この台詞、フラグ……すかさず叩き込むっ!「困らない、とは、君まさか私との二人旅に密かなる歓びを……」

 参謀は死んだ目で泳がせる。

「いや、冗談だよ?自分はそういう趣味全然ないんで、でも、なんというか」

 依然死んだ目で「もう終わりですね。こんなの。」

「え」

「この場でブッ殺します」参謀が指を差した先には、『刃渡り36メートルの斧』が、と、

 降り注ぐ。破砕音。断絶する体組織のイメージ。

 共に細かな肉塊群になった二人。

「はああああんん!美味しい!美味しいよう!むしゃむしゃ!やっぱりこの世で一番美味しいのは殿方のサイコロステーキだよね!!よかったね二人とも!!揉みくちゃになって、今、一つに。ああああああんにほひタマラナスウウウウウウウウウンンンン!!!!うぇっうぇっ」



「今のヤツのモデルは私の姪です」続けて、

「やっぱりこの季節は幻術が捗りますね。そこの吐瀉物ですけど一人で処理してくださいね」参謀は背を向けた。


「あ!ワシもここで吐いたことあるぞ!やっぱ酒は配分考えんとな!あばよゲロゲロマン!」老人は背を向けた。


「アイツも吐いたのかよ、キッタナっ」

 参謀と老人には頭が上がらなかった。



『元魔王未だ消息掴めず』

『元魔王と闇に葬られた男色趣味の真実』

『元魔王ゲイビデオ出演経験ありか』

『元魔王の足取り――こってり系ガチムチハプバーへ消えた姿』


 魔界のゴシップも人間界のそれ同様タチが悪いのは言うにや及ぶ。昨今は計り知れないスピードの伝播で瞬時に世評が変動する。次は我が身が挫かれるかもしれない。傍観者には考え付かない厳重な警戒感が業界には渦巻いている。


 現魔王の家系なんかは勿論格好の的で毎度その闇を暴かんとする記事がそこかしこに出回る。

 まあ所詮『闇』だけ。情報統制及び根回し、組織との癒着、陰謀論、激しい内容の活字が幾ら躍ろうが、白日の下には曝されぬ『闇』だけ。どこまでも無益な一色の闇だけ。

 しかし民衆は健気なもので、『光』を浴びた対象を目の当たりにしてさえ、『闇』の追求に汗をかいたりする。おや、現魔王の『御高説』だ。音量高く。

「あー……皆様、おはようございます。第73代魔王、ヴェルキュ・オーグスノスで御座います。もう名前などは覚えて戴けたでしょうか。ここ数日は空気が乾燥しているようでして、わたくしめもこの定期スピーチを休まないよう、喉のケアだけは欠かしてはならないと……何もその為にウエストを絞るのが御座なりな訳では……ウン!」

 この、本人がさも恒例行事のように話す『御高説』だが、ぶっちゃけ人気がある訳ではなく「パフォーマンスだろ!プロバガンダだろ!」という声もあちこちで聴かれる。まともに御拝聴願っているのは、いつかこいつらを失脚させようと勇む力不足と以下物好きばかりで、その程度のものである。なお、これの前回ではテロリストの闖入を許し、騒動の中放送時間が終了したので、何事もなかったような口振りのこの第三回スピーチを聴いたリスナーが「鋼メンタルwwww」とか騒ぐのは必至だ。無益な騒ぎだ。テロリストの行方?

『闇』の中なんじゃね?

スピーチもどうせつまらんし今日は昼まで寝るわ。おやすみよ。


「……さて、当機構の立ち上げが、より良い皆様の……を……」



「いかがでしたか、私の腐女子姪は」参謀アイザックの眼に宿る侮蔑は、明らかに拭い切れていない。

「あのさぁ、流石に印象操作が過ぎるぞあれは……親の仇なんかあの娘は?」

「初めに、あいつは『ナマモノ』に手を出したんです」

「い、いや別に、ね?なんでもかんでも創作物かっていうと、そうでもないと思うし」

「私が村の集まりに出るようになって暫くの時に『お兄ちゃん友達できたの?』って訊かれて、親戚だし教えてやろうと思って『別に友達とかじゃないけど一応同じ班の』って写真を見せて」

「微笑ましい話……そっか、知り合いか……」

「で、それ見て『わーかっこいいなー』って、私はそれ聞いて、そうか、姪も晴れてそういう年頃かー位に思っていたんです」

「違ったんだな」

「それで何度か話す内に、会いたいなーって言うんで地域の草むしりに一緒に出て、そこで会わせたんです」

「フリが長い上に生々しいな、続けろ」

「まあ気心知れた連中に可愛がって貰ったりして、その場は普通に盛り上がったんです」

「『その場は』ってとこを波線な」

「それで『いい人だったなーまた会いたいなー』って言ったんで『俺は同じ班だから幾らでも会えるぜ』って返して」

「まあちょっと妬くだろうな」

「と思いきや『そっかーじゃあお兄ちゃんは幸せだねー』って」

「唐突に『幸せ』とか言い出すと、んっ、ってなるよながったらしいフリだなコノヤロー」

「ああ、ごめんなさい。で何だかんだで姪の部屋覗いたら私と知り合いの顔がゲイビデオのスナップに当てられてアイコラみたいな」

「待って!!そこ絶対端折っちゃ駄目なヤツ!!」高田はちびりかけた。


「これが事の顛末であった」

「なんかホラー映画のチャプターの選択ミスった感じだから!前にスキップして!!」

「なお、このテープは再生終了を以て爆発する」

「スパイ映画だった」避けられぬ爆風の中アイザックは微動だにしなかった。

「『記憶消去』を使いました。あの忌々しい過去ともおさらばです。ただ腐女子は未だに嫌いです」

「そっか……ネコに自分の叔父を……」

「殺しますよ」翳される左手。

「斧はやめて!姪は大切にして!」高田は涙目で懇願した。


「うん、一応そこまで憎む具体的な原因があった訳な」必死にネコ役を宥めると、急激な疲れがゲイを襲う「いいんだよ、そんな一心に憎むことじゃない。多様性の時代だし、大体……アイコラ事件の前後も姪っ子さんは元気でいらっしゃるんだろ?」

「はい、現在は舞台を二次元に移して、元気にBL同人サークルをまとめています。新刊出すらしいですけどお買い求めになりますか」

「達者で暮らせと伝えてやれ、俺からは以上だ。」


 安いすったもんだでアルデロザも日が暮れ、宿をとる頃合いとなった。アルデロザには宿が四軒程あるのだが、一番汚れたな古民家風のそれを残して他は満杯であった。扉の余計な箇所にはなるべく触らないように入った中は思った程汚れてはおらず、雑な手入れの観葉植物と並んだ受付は威勢がよかった「イラッサイセーッ」

「大人二人です。別の部屋でお願いします」

「いや、俺達同じ部屋じゃ駄目!?同じ部屋で!!」

 お値打ちなだけあって二階のその部屋は、まあ狭かったがしょうがない。しょうがないが、

「狭いよな」

「出ましょう」真っ向からの拒絶だ。

「そしたら俺達野宿だぜ?」

「高田さんは、出ましょう。」

「俺だけが?何度でも言うけど、俺は、ゲイでは、ない。アンダステン?」

「しかし、寝れば分かります。私寝る」

「俺寝る」

「寝返りは?」

「初恋の味」窓の外へ放り出されるゲイ。

「さて『空間閉鎖』で寝込み対策はバッチリです。その前にお風呂借りますか」

「あれ、リケット!復帰早いね!ぬわー!!」


「ゴミ捨て場の寝心地は最高だったぜ、要介護のグランパをここに連れてきゃあ、どんな病気患ってたって『オダブツ』さ」

 面白黒人ゲイ崩れの妄言を店主への挨拶がてら聞き捨てた後、今朝のアルデロザは珍しく快晴だと空を見上げた。

「今のはちょっと、センスがなかったよ。本当ごめんな。ただ燃えるゴミの上で寝れば誰だって気分はB級映画ってこと忘れんなよな…………晴れてる」

 北の空には鳥型魔族が我が空のように、悠々と団を率いて舞っていた。

「あと面白黒人って大体いいヤツなんだよ。家族友達をとことん愛したり、義理堅かったり、自己犠牲に走ったり、別に白人だって何だって構わないけど、そういう役って必要だなって」

「高田さん、私はやりませんよ」


「ああ、分かってる」

 元魔王は、ただ前を見据えていた。森羅万象に細やかにも当て続ける、曇りのない眼差しで。



『他でもない、俺がやればいい』


〈〜了〜〉

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