第2話 幻想の夏 ―地殻の都―
旧都。
地上から隔離され、独自の文化を築いてきた都市である。
住民は、かつて地上にいた鬼達が大半を占めている。
青い瓦葺き屋根の長屋が並び、まだ昼間であるのに、大勢の妖怪たちが通りを埋め尽くしている。
これが夜になると、鬼達の宴会がたちどころに催され、長屋の明かりが煌々と灯されて、あたりはいっそう喧騒になる。
地上の猛暑も、さすがに地底までは及んでいないようで、ひんやりとした暗い空気が漂っている。
長屋の並ぶ和の街並みに不釣り合いな、派手な黒い衣装の金髪少女が、旧都の街道を闊歩していた。
霧雨魔理沙、普通の魔法使いである。
「まったく、地上の暑さには敵わないぜ」
それもそのはず、彼女も酷暑の被害者の一人であった。
あまりの暑さに耐えかねた彼女は、太陽の日差しが届かない、地底という絶好の避暑地を見つけたのである。
「にしても、前に来た時は、こんなに鬼がいなかった気がするけどなぁ…」
彼女がそうつぶやいた通り、確かに、通りの人だかりには鬼の姿が目立つ。
「そうなんだよ」
ふと、誰かの声がした。
「ん…? お前は…」
「久しぶりだねぇ」
星熊勇儀。萃香と同じく、山の四天王の鬼の一人で、現在は旧都で暮らしている。
魔理沙は以前、間欠泉の異変を解決しに地底へ赴いた際、通りすがりの彼女と戦ったことがあった。
「最近調子はどうだい?」
「まあ…。まぁまぁだぜ」
「地上は酷暑続きで大変だっていう噂を聞いていたけど、そんなに暑いのかい?」
「まぁな。 ちょっとやそっとどころじゃないくらいは暑いぜ」
もっとも、地底の快適な環境を満喫している彼女にとっては、酷暑の問題さえどうでもよくなっていたのだが。
「そっちはどうだんだ?」
「ああ、こっちは大して変りはないよ。 地底じゃあ、夏も冬もあんまり関係ないしね。
ただ…」
「えっ? 地上から鬼が?」
「そうなんだよ。 何があったのかは全然知らないけどさ」
「道理で鬼をよく見かけるわけだな…」
勇儀曰く、話はこうらしい。
はるか昔に、地上にいた鬼の大半は大移動をし、この地底の旧都に永住することを決めたという。
しかし、地底には行かず、地上の鬼の住処を守り続けている古参の鬼も、僅かながら存在するようで、何百年にわり、鬼ヶ岳は彼らによって守られてきた。
その鬼達が、ある日突然、地底へと流れ込んできたのだという。
「この人数だと、地上に残っていた鬼はほぼ全員、か…。
いや、でも萃香はまだ地上にいるから…」
「・・・」
「魔理沙、地上の鬼ヶ岳の様子はどうなんだい?
私ゃ、永らく地上には出てないからさ」
「そうだな…。 別に変わったところと言ってもな…。
ただ、聞いたところによると、猛暑の発生源との推測もあるらしいぜ」
「ほう…。 それは怪しいねぇ。
…よし、魔理沙。 久しぶりに地上に行きますか」
「いきなり何だよ…。 っていうか、地上に出るのは何年ぶりだよ?」
「130年ぶり」
「まじか…」
(さて、今回は一体何が起こるのやら…
…今回は、多少危ない手を使わざるを得ないかもしれないね)
地上の様子見、と理由をつけていた勇儀だったが、彼女自身、既に異変の予兆を感じ取っていたのだった。
(勇儀が地上に出るなんて…。
これは面白いことになってきたぜ)
もちろん、魔理沙はまだ、何も気づいていない。
普通の魔法使い
霧雨 魔理沙
Kirisame Marisa
種族:人間
能力:魔法を使う程度の能力
魔法の森に住んでいる魔法使い。
幻想郷では至って普通の魔法使いだが、努力家であり、日々研究を欠かさないため、人間の中ではトップクラスの魔法を扱える。
修行嫌いの霊夢とは対照的に、負けず嫌い。
興味本位とはいえ、多少の観測を持っていた霊夢とは違って、鬼ヶ岳調査は、あくまで勇儀への同行本位だそう。
彼女はまるで何も知らなかったのである。
幻想郷があの危機に直面するまでは。