Guitar;
ギター弾いてると楽しいですよね、、ちっとも弾けませんけど
彼が私の前からいなくなった。
あまりに突然のことだった。
何の置き手紙もなく、ある朝彼はいなくなっていた。
服も家財も何もかもなくなって、ただ残ったのは彼のギター。
たった一本のギターだった。
彼のよく握っていたアコースティックギターの弦を弾く。
彼の命の次に大切だった大きなギター。
ニヤに反射する私の顔は酷いものだった。
ふと衝動的に、そのギターを叩き壊したくなった。
間抜けな音を立てながら降りしきる雨の中で、私の悲しみをかき消したくなった。
無造作にネックを掴むと、いつの間にか錆び付いていた弦が鈍い音を立てた、
瞬間的に感情が霧散した。
後に残ったのは激情の跡の唐突な虚しさだ。
するりと手を抜け出したギターは横倒しに、派手な音を立てて転んだ。
頑強なボディはそれでも、私の間抜けな顔をうつしてやまない。
私以外誰もいない部屋で、彼の物がもうほとんどない部屋で、なぜか彼の匂いが強くこびりついて離れなかった。
倒れた時にはじかれた長閑な太い音が、虚しさの残滓に尾を引きながら消えて行った。
再び、雨垂れの寂しい音が、暗い部屋の中にやって来た。
静かで冷たい、朝の時間。
彼のギターだけが、私に寄り添って慰めた。