02
水面をかき分けて顔を出した彼女は、大きくむせんでせき込んだ。
幸い、水深はさほど深くもなく、すぐに固い底に足がついた。
濡れて張りつく髪や、滴り流れる水で目が開けられないらしい、両目をぎゅっと閉ざしたまま、彼女がやみくもに伸ばした白い手は、苦もなく水際を探し当てた。
岸辺に手をおいて身体を支えようとした彼女は、ふと、自分の右手が何かを握り締めていることに気がつく。が、それが何なのか、確認する余裕もないまま、ふらふらと土の上に倒れ伏す。その全身が、本能的に、これまで飲みこんだ水分を排出しようと、彼女の意思を外れたところで大きく波打った。
細身の身体のどこに入っていたのかと驚くくらい大量の水を吐きだした彼女は、そうしてようやく落ち着いて呼吸ができるようになったらしい、がっくりと上半身を投げだして粗い息を吐く。
スカートに包まれた下半身は依然水の中だが、引き上げる気力もないようだ。
彼女がそうして、ひたすら、呆然と呼吸を繰り返ていると。
「あんた、誰だ!?そこで何をしてるんだ!?」
鋭く誰何する声が、彼女に投げかけられた。
彼女がのろのろと大儀そうに、首だけ動かして見ると、薄汚れたシャツにズボン、垢じみた襟なしの上着という、粗末ななりをした青年が、驚いたように、怯えた目で彼女を見下ろして突っ立っていた。