01
こぽん、とやわらかな音が、耳のすぐ傍で聞こえた。
と同時に、全身が温かく柔らかな感触に包まれる。
ゆっくり目を開くと、にじんで歪む視野の先で、やわらかな光の帯がたゆたゆと揺れて、粗い網模様をつくっていた。
昔、小さかった頃。
夏に出かけた海のなかで見えた光景とそれは同じだった。
ああ、――と彼女は直感した。
ああ、わたしは今、水の中にいる。
理解したとたん、苦しくなった。
反射的に開けた口や鼻の孔から、空気が、がぽんと音をたてて洩れてゆく。気泡は、水中に差し込む光を反射してきらきらとかがやきながら、ゆっくりと上ってゆく。それは幻想的で美しい景色ではあったけれど、今の彼女にそんな様子を見守る暇も余裕があるはずもなく。
鼻の付け根が、殴られたように鋭く痛んだ。
本能的に空気を求めて蠕動する咽喉や気管を、生温かい水が強引に通過してゆく。
普段意識もしていない肺臓が、急に存在を主張して、胸の中で暴れ始めた。
心臓がばくばくと厭な早鐘を打つ。
吐き気に似た焦燥感にかられて、彼女は慌てて手足を動かした。
上へ、上へ。
たゆたう光の帯の向こうを目指して。