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なんどでも  作者: killy
さいしょ
1/55

01

 こぽん、とやわらかな音が、耳のすぐ傍で聞こえた。


 と同時に、全身が温かく柔らかな感触に包まれる。


 ゆっくり目を開くと、にじんで歪む視野の先で、やわらかな光の帯がたゆたゆと揺れて、粗い網模様をつくっていた。


 昔、小さかった頃。

 夏に出かけた海のなかで見えた光景とそれは同じだった。


 ああ、――と彼女は直感した。


 ああ、わたしは今、水の中にいる。


 理解したとたん、苦しくなった。

 反射的に開けた口や鼻の孔から、空気が、がぽんと音をたてて洩れてゆく。気泡は、水中に差し込む光を反射してきらきらとかがやきながら、ゆっくりと上ってゆく。それは幻想的で美しい景色ではあったけれど、今の彼女にそんな様子を見守る暇も余裕があるはずもなく。


 鼻の付け根が、殴られたように鋭く痛んだ。

 本能的に空気を求めて蠕動する咽喉や気管を、生温かい水が強引に通過してゆく。

 普段意識もしていない肺臓が、急に存在を主張して、胸の中で暴れ始めた。

 心臓がばくばくと厭な早鐘を打つ。


 吐き気に似た焦燥感にかられて、彼女は慌てて手足を動かした。


 上へ、上へ。


 たゆたう光の帯の向こうを目指して。



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