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真・名探偵

 実は、一番名探偵の素質があるのは君だと知っている。


 名探偵を名乗るべきなのは俺でもなく、ましてやあのすっとぼけたパティシエ娘でもなく目の前で嬉しそうにアイスを食べている君だった。

 本人は全く気づいていないけれど。気づかせるつもりもないけれど。

 厄介な素質だと思う。小説の中では、名探偵はいつだって事件に巻き込まれる。現実でもそうなるとは限らないが、そうならない可能性はそうなる可能性と同じくゼロではない。現に君のそばで事件は起きてしまっている。そしてそれを、意図せず君は誰よりも先に解いていた。


 小説の世界では名探偵はいつだって最後まで生き残っている。謎を解き物語に幕を引くために、途中で死なれては困るから。現実でもそうだと言い切れればいい。いや、言い切れたとしてもやはり君が事件に巻き込まれるのは我慢ならない。犯人に逆恨みされでもされたらどうする。人から賞賛を受けるかもしれないが、それと同時に妬まれないとどうして言える。

 日々が波乱に満ちないと、危険がそばに寄り添わないとどうして言える。


 俺と君の日常にそんなものはいらない。


 その素質を君を含めた何者からも隠し通そう。そう決意して、対策のために買ったのが君がやたらと気にしていた『名探偵指南書』だった。

 『名探偵指南書』は格好の反面教師だった。それと同時に、パティシエ娘にはもってこいの教科書だった。全ての面倒は、彼女に押しつけた。相手もそれを望んでいるのだ、一石二鳥だ。今では世間では、かのパティシエこそが名探偵の誉れを受けている。『名探偵指南書』様々だ。

 ただ、そのせいで君に色々と誤解を与えてしまい、誤解を解くときに真意を濁していたら君の中で俺が名探偵だなどということになってしまった。

 世間ではそうと見られていないからいいものの、これはまずい展開である。君が名探偵になるよりも、より一層問題だ。早急に対処しなければならない。

 なぜならば、俺が名探偵な場合、助手は君ということになる。君が俺の隣をみすみす他人に譲るはずがない。万が一その座を君が他の人間に譲ったとしても、君は俺の恋人だ。同等かもしくはより最悪で、恋人はまずいのだ。

 名探偵の助手ないし恋人は、名探偵よりもその身を危険に晒す。死にはしなくても、死にかける割合が高い。恋人なんてもしかしたら助手よりも死亡率が高い。最悪だ。こんなことなら、君が名探偵で自分が助手兼恋人であった方がまだましだった。

 すでに本棚に仕舞われた『名探偵指南書』を睨みつけても、過去は戻らない。


「怖い顔してどうしたの。やっぱり一口食べたかった?」

 アイスの乗った皿をこちらに滑らせる君はのん気で――

「あっ」

 ついつい、スプーンにすくった一口が大きくなってしまった。

 アイスは冷たくて甘くて、それだけだった。

 これは、現実で小説の世界なんかじゃないと呟いても不安は消えない。現に小説みたいな事件が起こって小説みたいな推理を、仕立てられたとはいえ名探偵が披露して解決をしているのだから。

 自分たちが小説と同じような不幸な目に合わないようにするにはどうすべきか。一つ簡単な方法がある。簡単で、それでいて結構な勇気がいる方法が。

 それを実行に移すことにしたんだ。もう、準備は済んでいる。

 後はそう。君がアイスを食べ終えて、皿の中に残る物を認識したその瞬間を狙って――

「これまでもこれからも、ずっと愛している。今すぐ結婚しよう」

 君は皿の底のアイスまみれの指輪と俺を交互に見比べてから、驚きの表情を浮かべた顔を真っ赤に染め上げると、スプーンを持ったまま首をがくがくと振った。

「私も、愛して……え、今すぐ?」


 夫婦なら事件に巻き込まれても、危険度が少ない上に死亡率がゼロだって知ってた?


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