表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

黄色い線の夜

 黄色い線が放射状にのびて、空に向かって溶けてにじんでいる。

 星も月も見えない夜の空のこと。


「ねえ、あれ」

「なに?」

 ガラスの向こうを指さして、振り向けば、読んでいる本から顔を上げもしないあなた。じっと黙って待っていると、ようやく顔を上げる。何も言わずに見つめ返せば、もう一度、なに、と今度は目を見て繰り返された。

「あれ、なんだろう」

「どれ?」

「ほら、あの黄色い線」

「って言われても、君の体で見えない」

「…………」

 しゃがんで、上を指さす。指の先を追ったあなたは

「さあ、なんだろうね」

 興味なさげに首をかしげただけだった。そしてすぐに、本に意識を戻してしまう。

「何を読んでいるの?」

 しゃがんだまま近寄って、本の背を覗きこむ。

 『名探偵指南書』暗くて読みにくかったけれど、そう書いてあった。今度は私が首をかしげる番。

「探偵になるの?」

「ならないよ」

 あなたは本を開いたまま、テーブルに裏返して置いた。

「開き癖が付くよ」

「別にいいさ、たいした本じゃないから。それより、ちょっとこっちに来て」

 ソファーに座るあなたはぽんぽんと隣を叩く。私はちょっと嬉しくなって、勢いよく立ち上がると跳ねるようにあなたの隣に座った。

「近い」

「だめ?」

「まあ、いいけど」

 じーっとあなたを見る。あなたも無表情に私を見る。

「……にらめっこ?」

「違う」

 はあっとため息をついて、あなたは私を抱き寄せた。

「どうしたの、本読まないの?」

「うん、もういい。疲れた」

「ふふっ、じゃあ膝枕してあげるよ!」

「じゃあの意味が分からないけど、してもらおうかな」

 私から体を離して笑ったあなたに、私もとびきりの笑顔を向ける。なんだかとっても幸せで、愛おしい。

 太ももに、あなたの頭の重みを感じながら窓を見上げる。

 まだ、黄色い線は夜の空に伸びていた。


「黄色いね」

「黄色いな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ