黄色い線の夜
黄色い線が放射状にのびて、空に向かって溶けてにじんでいる。
星も月も見えない夜の空のこと。
「ねえ、あれ」
「なに?」
ガラスの向こうを指さして、振り向けば、読んでいる本から顔を上げもしないあなた。じっと黙って待っていると、ようやく顔を上げる。何も言わずに見つめ返せば、もう一度、なに、と今度は目を見て繰り返された。
「あれ、なんだろう」
「どれ?」
「ほら、あの黄色い線」
「って言われても、君の体で見えない」
「…………」
しゃがんで、上を指さす。指の先を追ったあなたは
「さあ、なんだろうね」
興味なさげに首をかしげただけだった。そしてすぐに、本に意識を戻してしまう。
「何を読んでいるの?」
しゃがんだまま近寄って、本の背を覗きこむ。
『名探偵指南書』暗くて読みにくかったけれど、そう書いてあった。今度は私が首をかしげる番。
「探偵になるの?」
「ならないよ」
あなたは本を開いたまま、テーブルに裏返して置いた。
「開き癖が付くよ」
「別にいいさ、たいした本じゃないから。それより、ちょっとこっちに来て」
ソファーに座るあなたはぽんぽんと隣を叩く。私はちょっと嬉しくなって、勢いよく立ち上がると跳ねるようにあなたの隣に座った。
「近い」
「だめ?」
「まあ、いいけど」
じーっとあなたを見る。あなたも無表情に私を見る。
「……にらめっこ?」
「違う」
はあっとため息をついて、あなたは私を抱き寄せた。
「どうしたの、本読まないの?」
「うん、もういい。疲れた」
「ふふっ、じゃあ膝枕してあげるよ!」
「じゃあの意味が分からないけど、してもらおうかな」
私から体を離して笑ったあなたに、私もとびきりの笑顔を向ける。なんだかとっても幸せで、愛おしい。
太ももに、あなたの頭の重みを感じながら窓を見上げる。
まだ、黄色い線は夜の空に伸びていた。
「黄色いね」
「黄色いな」