第8話
前回『あと1話で完結できそうです。』なんて言いましたが終われませんでした。
「はぁ、はぁ・・」
バタバタと階段を駆け上がる音が響く。音の主は一番上まで上がると屋上へ続くドアを乱暴に開けた。そしてドアの先、屋上にいる人影に向かって叫んだ。
「橋森!!」
「あら、本崎。」
呼ばれた本人は何の気もなしにふわっと本崎の名を言った。
「『あら、本崎。』じゃねぇーよ。なんでこんなとこいんだよ!探したじゃねぇーか!」
階段を駆け上がって来たばかりの本崎は息を落ちつかせることもせず勢いよく乱暴に言い放った。
「だって、人に聞かれたら困るでしょ?」
だが、橋森は悪びれることもなく返す。
「だったら、誰かに、言付け、しとけよ・・」
本崎はいい加減息が持たないらしく、肩で息をし膝に手をつきながら切れ切れに言った。
「あ、ごめん。そういえばそうだよね。」
「ったく、ほんとに頭いいのかよお前。」
「うわ、失礼ねーと言いたいところだけど、今はあなたの方が頭いいのよね。」
「んなの今だけだろ?」
「まあ、いいや。それよりどうだったの?さっきの呼び出しアルバイトのことについてでしょ?」
橋森は急に真剣な顔になり言った。
「ああ、そうだ。つーかお前、何勝手にアルバイトのこと言ってんだよ。言わない約束だったろ?」
「ごめん。でも、責任は私が取るつもりだったし。」
「・・・そういうことじゃねぇんだけど・・・」
本崎は小声で呟いた。
「え?」
「なんでも。それより、呼び出しのことだろ?」
「あ、うん。それで?」
「『奨学金制度を利用しないか?』と言われた。」
「え!?この学校、奨学金制度なんてあったの!?」
「ぷっ!」
橋森の言葉に本崎は吹き出した。
「何よ、急に笑って。」
「いや・・」
お前の反応が俺と一緒でつい、と思ったが本崎は口にはしなかった。
「あるんだと。ただ公開はしてないらしい。」
「そうなんだ。」
「とはいえ、条件があるとも言われた。」
「条件?」
「まず1つめ、常に成績が学年10位以内に入ること。」
「まあ、そうだよね。」
「2つめに、アルバイトを最高でも週4日までにすること。」
「え!?アルバイトしていいの!?」
「この2つが守れたら、奨学金制度が利用出来てアルバイトも続けられ今まで通りの学校生活が送れて、なおかつアルバイトのことも知らないフリをしてくれるらしい。」
橋森の疑問に答えずに本崎は続けた。
「え!?どういうこと!?処分もなしってこと?」
「ただし、成績が落ちたりアルバイトを減らさなければ、即刻学校にアルバイトの件を報告するとも言われた。」
「それで・・受けた・の?・・その話。」
橋森の顔色が悪くなる。バイトをしながら、学年順位が10位以内に入り続けるなどただでさえ難しいのに、本崎にとってこの学校は少しレベルが高いからだ。
「もちろん、受けた。」
だが、本崎は真剣な顔で返す。
時は数分前に戻る。
『ただし、成績が落ちたりアルバイトを減らさなければ、即刻学校にお前のアルバイトの件を報告するがな。・・・どうするか?この話乗るか?』
そう言った担任に
『乗ります。』
本崎は即答した。
『即答か。一応理由を聞いてもいいか?』
『確認取るんですね。乗る以外の選択肢なんてないですよね。』
そうはっきり言う本崎の言葉に
『と、言うと?』
担任はわかっていないかのように返す。
『アルバイトしてることがバレている以上、成績をキープして黙っててもらうしかないじゃないですか。俺にバイトをやめる選択肢はありませんし。というより、やめたら生活出来なくなるので学校をやめなくちゃいけなくなります。でも、俺はこの学校をやめる選択肢もありません。なら、成績キープして奨学金受けてアルバイトするしかないわけです。先生もわかってて言ってるんですよね?』
『なるほど、本当に頭はいいのか。』
肝心なことは何も言っていないにも関わらず、すべてを察した本崎に担任は感心する。
『お前の言う通りだ。わかってて言っている。まあ、お前の場合アルバイトがバレなければ、素行の方は大丈夫だろう。学力キープ頑張れよ、期待してるぞ。』
担任は本崎の肩を叩き、そのまま部屋を出てっていった。
「まあ、そんな感じだ。」
「そうなんだ。じゃあ、これから頑張んないとだね。」
「そうだな。」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。」
橋森はそう言って歩き出した。本崎の横を過ぎた瞬間、本崎が叫ぶ。
「待てよ。」
その声に橋森はびっくりして振り返る。だが、本崎は背中を向けたまま何も言わない。
「な、に?どうしたの、の?」
橋森が恐る恐る問いかける。本崎はゆっくり振り返った。
「俺はそれだけ言うためにお前探してたんじゃない。」
橋森には本崎がどんな顔をしてるのかわからなかった。逆光で表情が見えなかったからだ。
「俺はお前が好きだ。」
今度こそあと1話で完結させます。ただ、リア多忙すぎて更新1ヶ月よりあとになると思います。