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風紀委員に入る? 初耳ですけど 3


「っおい、ルネ!」


 おとなしく職員室に向かおうとドアに向かっていったルネ君の目の前に、生徒会の黒端先輩が駈け込んで来た。息を切らして黒板を見ると、「風紀委員 男 ブランジェ」と書いていて、目を見張った。


「っ、やっぱり生徒会を辞める……」


 信じられないと言う風に肩で息をする先輩に、ルネ君は冷静に、


「そこ、どいてください」


 と催促。

 って待ってよ! もっと他に何か言うことあるでしょ。

 反論しようと立ち上がると、黒端先輩の瞳がジロリとこちらを向いた。


「こいつ…………」


 そっとつぶやいたその声は、周りの声にかき消されそうなほど小さい。……それなのに、なぜか私にはしっかりと聞こえた。


「ルネ……、まさか、この女とできてるのか…………?」


 趣味悪いな、と続けたのが聞こえていますよ。

 このままだと裏の顔が出てしまうと思ったのか、先輩はルネ君と私を呼んで、教室を出て行った。

 ……え、私ぃ!?


「ちょっ、先輩っ!? 何で私?」


 先ほどと同じ体育館裏の人気がない場所にたどり着いた私たち。思わず声を荒げると、「見つかるだろ」と先輩に足を踏まれた。

 な。痛いんですけど。

 反論しようと口を開けた私をじろりと睨みつけ、先輩はルネ君に向き合った。


「ルネ。お前、本気で生徒会抜けるつもりなのか?」

「……別に……、抜けるのを先輩にどうこう言われる筋合いは無いですよね」


 きっぱりと言い放つルネ君。すると先輩は私の方を見て顔をしかめた。


「おい。お前、名前は?」

「橋田妃織ですけど……」

「ふうん。じゃあ橋田。お前、ルネとキスか何かしろ」

「あ、はい。…………って、えぇっ!?」


 慌てて先輩を見るも、いたって真剣なようだ。ルネ君は無表情で、こちらをじっと見つめている。


「俺がくだらない理由で生徒会のメンバーを手放すと思うか? 恋愛沙汰を抱えているのはこちらとしても迷惑だ。だから、お前らが恋人同士だと言うのを証明しろ」


 一理ある先輩の一言に納得しそうになるが、そもそも私たちは恋人同士でも何でもない。キスなんて勿論、手を繋げと言われても動揺する。


「あ、別にキスなんて生ぬるいと思ったらそれ以上でもいいぞ?」


 やるかっ!

 思わぬセクハラ発言に、私の顔は真っ赤になった。

 そもそも私たちは出会って何時間かしか経っていない。ほぼ他人の人に、何が悲しくてキスをしなければならないのか。


「……にしても……お前ら、いつそんな関係になったんだ?」

「先輩達が引き上げた後です。教室内で」


 無表情で口からポンポン嘘が出るルネ君を、びっくりして見つめる。私はとうていできないその器用さに、口を開ける。すると。


「じゃあやるか」


 だるそうにこちらを向いたルネ君。さすがに気がつき、慌てて一歩引く。


「ちょっ、待ってルネ君! まさか本当に」


 私の声を遮るように、ルネ君が囁く。


「『ルネ君』、じゃなくて『ルネ』、だろ?」


楽しくなって来たのか、声が少し弾んでいる。


「……妃織……」


 背後には壁。どうにもならないこの状況に、私は覚悟を決めて目をぎゅっと閉じた。

 ルネ君の息がかかる距離までいった時、バタバタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。


「ここにいたのか! 探したんだぞ、黒端……あれ? その女の子は……」


 色素の薄いストレートの髪、たれ気味の優しそうな瞳。

 小柄のレベルに入るその人こそ、我らが生徒会長様の、四条先輩だった。

 予期せぬ人物の登場に、私は勿論ルネ君もびっくりしていた。しかし、びっくりしたのは私たちだけではなかった。


「…………る、ルネ君…? キミは何をしているのかな…………?」


 今にもキスをしそうな私たちに気が付いたのか、顔を真っ赤にしておずおずと聞いてくる。

 い、意外と奥手だった……。


「ああ。こいつ、俺の彼女です」


 顔色一つかえずに言うルネ君。何だか嘘を付いている人数がだんだん増えているような……。

 顔を引きつる私に気がつけていないのか、「先生への言い訳、これにしよう」と言い出す始末。うん、きっと彼は私への嫌がらせがうまいと思う。


「彼女……っ!? だ、だから君は生徒会を抜けて風紀委員に入るって言い出したのか?」

「はい。そうですけど。だから、黒端先輩に恋人同士だと言う事を証明するために、今こいつとキスをしようとしていた所です」

「きっ…………!?」


 お前らはこんな所で……っ! とつづけた生徒会長様は顔を真っ赤にする。わ、私も恥ずかしくなってきた……。


「そういえば、拓は常識人だったな、昔から。だから唯人に馬鹿にされるんだよ」


 呆れたように言う先輩の口から、生徒会書記の茶野先輩の名前が出てきたのにびっくりする。生徒会長の事も「拓」と呼び捨てだ。少しなれなれしくないか?

 テレパシーかなんなのか、隣でそっとルネ君が教えてくれる。


「四条先輩と茶野先輩、黒端先輩は幼馴染で幼稚園からの同級生らしいぞ」


 ふーん。納得。

 と、私が一人頷いていると、ぐるん、と黒端先輩がこちらを向いてきた。


「そういえば、途中だったな。さっさとやれ」


 …………何を?

 答えを聞きたくない質問をしてしまったと後悔。


「何をって、キスだよ。早く」


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