風紀委員に入る? 初耳ですけど 1
「お前も分かっていると思うが、生徒会のやつらはあんな感じだ」
教室に戻って、おとなしく本を読んでいたところ、隣の席から声がかかった。びっくりしてその方向を向いてみると、つまらなそうに頬杖を突きながら窓の外を見ているルネ君の顔があった。
「……え…………? 隣?」
聞きたくないと思いながらも、とりあえず聞いてみると、「BAKAなのか?」とあっさり切り捨てられた。
ルネ君の名前はルネ・ブランジェ。「ルネ」の所ではなく「ブランジェ」というところを苗字とみなしたなら、「は」しだと「ぶ」らんじぇは結構近い。と言う事は、最初の名前順で決まる席で隣同士になる事は、ありえないことではない。
「……私にとってはありえねー……」
「何か言ったか?」
「い、いえ……」
ルネ君の蒼い瞳にじっと見つめられて、思わず顔をそらす。
「……って言うか、さっきの、どういう事?」
未だにこちらを見続けてるルネ君に、問いかける。すると、面倒臭そうに口を開いた。途中で顔が揺れ始めたのは気のせいだろうか。
「……生徒会は…………裏では、ああゆうことをしている組織だ……。それは去年も例外なく……、気に入らない奴は暴力でしたがわせる……」
瞼を重そうにしながらも話し続けるルネ君。ついに揺れるのも激しくなっている。うとうとのピークだ。彼を寝させないように肩に手を当て、叩いてみる。
「ちょっ、何それ、ひどくない?」
「そういうものだ。…………完璧なヒーロー何て存在しない……。だが、お前は……」
ついに目を閉じたルネ君。
半端なところで目を閉じてしまったので、納得がいかずに彼の肩を揺さぶる。
「おーい、ルネ君!」
「ああもう、面倒臭いな、お前。俺に何してほしいわけ?」
そう聞かれて、私はぐっと口を閉じた。改めてそう聞かれると、自分が何をしたいかなんてわからない。でも、
「生徒会のやり方は間違ってるよ」
「…………ふうん?」
「暴力でしたがわせてるなんて違うと思う。私は実際に見たし、あれ以上にひどいことをされてると思うと、ぞっとする。だから、」
「生徒会に勝つ、とかいうんじゃないよな」
私が次に出そうと思っていた言葉をさらりと、一字一句間違えずに言い当てた。それにはさすがにびっくりして、目を大きくする。
「図星じゃないか。……で、お前は何をしようというんだ? 表だと生徒からの人望も厚く、必ず何かしらの能力に長けていて、先生からの信用もある。……お前に勝てる要素は一切ないと思うな」
そうやって言葉に出されたら、生徒会様のすごさを感じる。
生徒会長の四条先輩は女子、男子ともに優しく接していて、それが能力ともいえる。自分に厳しく、他人に優しくとはこの人の事だろう。
副会長の黒端先輩はサッカーがとてもうまいと聞いている。今からメジャー入りの話も来ているほどだ。四月一日君は頭脳派で、おどおどしたところも逆にかわいいとか。
書記の茶野先輩は読者モデルをやっているらしい。すらりと長い足に優しそうな瞳。一日一回は告白されるとか。河合さんはきりっとしたかっこいい女性のイメージで、中学校では三年全部学級委員をやっていたらしい。
議長の高田先輩は剣道部のエースで、力も強く、ぶっきらぼうだけどたまに優しい。瀬川君は女子からの人気が半端なく、その可愛い容姿と顔で悩殺をしまくっている。男子からもたまに告白される。
会計のルネ君は……兎に角頭がいい。それだけ。
「…………勝てる要素ってなんだろうか……?」
「勝てない要素の数? それか素直じゃない所とか」
「それ長所じゃないよね! でも、生徒会と同じ位置に立てる役所もそんなにないと思うよ」
その質問に、ルネ君は眠そうにあくびをしてから答える。
「…………今日、委員会が決まるんだよね?」
……? 質問に答えていないような。質問に質問で返されたぞ?
何か口答えをすると「良いから早く答えろ」といわれそうなので、おとなしく答えておく。
「うん、そうだけど」
その声は、担任の「席に付けー」という声とかぶさった。染めたわけではなさそうな色素の薄い髪に、だるそうにつけたネクタイ。だぼだぼのスーツ。
「担任の笠田だ。これから一年間、よろしくな」
黒板に、決してキレイとは言い難い字で自分の名前を書いていく、笠田先生。その姿を見つめていると、隣から声がかかった。
「笠田は生徒会の顧問だ」
ちょっ、行き成り先生を呼び捨てですか。
そう言おうとしたが、またもや先を越される。
「このクラスの副担任、小森先生は風紀委員の顧問。今日は来ていないみたいだな。何かあったんだろ」
「ちょっ、ルネ君、何言ってるかいまいちよく分からないんだけど…………」
ストップをかけると、ため息をついて、例の「聞く前に考えたら? BAKA」とまた言われた。……バカが英語の発音なのにいらっとくるね。
そんなあたしの青筋に気が付かずに、衝撃の一言を。
「風紀委員は生徒会と同じくらい大切な役割だ。……生徒会に対抗したかったら、なんとしてでもそこに入るんだな」
それだけ言って、私の不審そうな声をスルーしてまた夢の世界に行く。
「ちょっ、待って」
「何、まだあるの?」
「あるある! ……ルネ君は生徒会なのに、そんなに教えちゃっていいの? 敵同士になるかも知れないのに」
少し大きくなったその声に、彼は椅子をガタン、と引いて答えた。
「問題ない。俺も平穏な高校生活なんて御免だからな。……それに、どうせあの役降りるし」