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出会いは悪態で 2


「何してるんだ? ルネ」


 優しく微笑みかける先輩の目は、私ではなく、ルネ君に向けられている。勿論、私の顔に出ている青井縦線にも気が付いていないだろう。

 お願いお願いさっきのは夢だと言ってくれ――、と祈っているが、彼はそんな私の様子に気が付いていないのかいるのか、はん、とこちらを見て鼻で笑う。


「こいつとぶつかってしまい、謝罪を求めようとしたところ、一方的な悪口を言われました」


 最悪だ――――っ!

 あたしの顔色が青ではなく白に変わった時、生徒会副会長様の黒端玲雄さんが、サラサラの黒髪を揺らしながら、「ほう?」と冷たい笑顔を向けた。

 ……キャラ変わっていませんか、先輩っ! 先輩はそんなキャラではないでしょうっ!!


「なんといわれたんだ?」

「『痛いですね。人にぶつからないように歩くこともできないんですか?』」


 突然、彼の口から出てきた聞き覚えのある悪態に、あたしは思わず目を見張った。これは、さっきあたしが言った言葉。しかも、一字一句間違えていない。

 ふうん、と黒端先輩の口の端が二ミリほど上がる。止めようとしたあたしの手を振り払い、ルネ君はさらに無表情で続ける。


「『下を向いているから人にぶつかるんです。貴方が缶コーヒーを持っていたら、と考えてみてくださいよ。ぶつかったら私に被害が及ぶんですよ? 前ぐらい見て歩いてください』」

「ストップして! もういいでしょう!?」

「お前に言われた悪口はこれで終了だ。続けるも何もない」


 さらりと軽く受け流され、白くなっていた顔が怒りでほんのり赤くなった時、がし、と肩をつかまれた。

 その強い力に思わず顔をしかめると、後ろから不機嫌そうな「こっちを向け」という声。

 背後を振り向くと、可愛らしいクルクルの巻き毛が視界に飛び込んできた。その、明るい色の髪はきっと一年、生徒会議長の瀬川樹君だ。


「何かムカつくな、お前」


 可愛らしい顔を思いっきりゆがめ、壁に押し付けられた。

 どん、と思いっきり背中を壁にたたきつけられ、「いつっ」と悲鳴が口の端から小さく出た。


「春君、よろしく」

「え? この状態で後退されても困るよ」

「どいて春。ここはあたしが」


 おろおろした生徒会副会長一年、四月一日春君を無理やり押しのけ、生徒会書記の河合瑠華ちゃんが前に出てくる。

 生徒会唯一の女の子の彼女は、四月一日君とは幼馴染らしい。

 河合さんの意志の強そうな瞳に見つめられ、私はたじろいだ。


「貴女さ、あたし達の()、見ちゃったよね?」


 にやり、と決して友好的ではない笑みを向けられる。女子のはずなのに、肩を押し付ける力は強い。あざができてしまいそうだ。いや、完璧にできる。


「素って…………」

「まだ気が付いていないの? あたし達は、」

「おい瑠華、それくらいにしておけ」


 相変わらず不機嫌そうな声がかかり、河合さんは私から手を放した。……不満げだったのはきっと気のせいだ。

 一気に緊張の糸が切れて、思わずその場にずるずるとしゃがみこんだ。


「ごめんね? こんな手荒にしちゃって」


 ニコニコと笑いながら、大きな手を差し伸べてくれるのは、二年の生徒会書記、茶野唯人先輩。

 ありがたくその手を取ると、ぐい、と先輩の方に引き寄せられる。


「はへっ!?」


 思わず変な悲鳴が出る。が、そんな事お構いなしに、声のトーンを低くして耳元で囁いた。


「今日は許してあげるけど、このこと、誰かに口外したらどうなるか分かるよね? 痛い思いをしたくなかったら、いい子にしてることだね」


 それだけ言って、腕から手を離し、何事もなかったかのように離れる。


「剛からも何か言っておけばー?」


 いや、ノーセンキューです。

 そう言おうとしたが、剣道部エースで運動神経抜群の高田剛先輩は、あたしの方に近づいてきて手を振り上げた。

 って何その急展開! 乙女に手を出すってどゆこと!?


「……っ!」


 思わず目を閉じた時、ぺし、と小さい音が頬でなった。どうやら剣道部エースの平手打ちは免れたらしい。とりあえずホッとして、息を吐く。


「この次は……痛いからな」


 最後にぐに、とほっぺを引っ張り、お約束の一言。


「それじゃあ、俺らは行く。……まあ、今日の事は忘れるんだな。行くぞ、ルネ」


 意地悪そうに顔をゆがめた黒端先輩は、私の隣で動かないルネ君に声をかけた。…………何こいつ、さっさと行けよ……。このまま二人にされたら、何されるか分かったもんじゃない……。


「ルネ? そいつが気に入った、とか?」


 自分で言った一言に、「これはないか、こんなブス」と付け足す。一言余計だ、この性悪表悪生徒副会長。

 その時、ルネ君がだるそうに声を上げた。


「こいつが変なこと口外しないように、見張っておきましょうか? 俺、こいつと同じクラスなので」

「そうそう、同じクラスだからね…………。って、はぁっ!? 同じクラスっ!?」


 私の感じた驚愕は、生徒会メンバーの皆さんも思ったらしい。あんぐりと口を開けて、ルネ君を見ている。


「知らなかったのか? お前、顔だけじゃなくて頭も悪いんだな」


 くすくすと笑うルネ君。

 ……そんな事、聞いてない……っ。あたしの高校生活、どうなっちゃうの……?


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