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出会いは悪態で 1


 青い空、見慣れない制服、ピンク色の桜。

 いかにも春、という光景に、私――橋田(はしだ)灯織(ひおり)はどきどきと胸を躍らせた。ふわりと流れた優しい風が、赤いタータンチェックのプリーツスカートを揺らす。

 すう、と息を吸って、一言。


「今日から高校生なんだ」


 周りの希望に満ちた声に、すぐに消えてしまったけど、私にははっきりとその一言が残った。

 クリーム色のブレザーに、スカートと同じ柄のリボン、純白のワイシャツ。真新しい制服に身を包む私は、新高校生。つまり、高校一年生の十五歳だ。


「灯織。入学式どうだった?」

「あ、紫織(しおり)。先輩もやさしそうだったし、体育館もキレイだし、言う事ないよ」


 声をかけてくれたのは幼馴染の紫織(しおり)。幼稚園から家が隣同士で、いわゆる幼馴染という訳だ。ふわふわの天然パーマの髪にたれた目。女の子らしい紫織は、もちろんモテる。


「……なんだか変な説明してない?」

「な、何言ってるの?」

「…………まあいいや。ところで灯織。生徒会のみなさん、見た?」


 真剣な表情の紫織。……そういえば、紫織は昔からメンクイだったっけ……。


「見たよ。相変わらず美形ぞろいで」


 有名な受験高校のこの学校は、生徒会を選ぶ基準などがほかの学校とは大きく変わっている。

 まず、三年生は受験重視のため、生徒会になる事は、よっぽどのことがないとできない。なので一年生と二年生で出来ている。

 二年生は学年の最後らへんに投票が行われ選ばれたメンバー。一年生の枠、「生徒副会長」と「生徒会書記」、「生徒会副議長」、「生徒会会計」は受験の際、ずば抜けてよい点を取った生徒や、中学の時に内申が良かった人が務めている。


 今年の生徒会メンバーは、生徒会会計が一人落ちたらしく、八人で構成されている。

 生徒会長、二年四条(しじょう)(たく)

 生徒副会長、二年黒端(くろはし)玲雄(れお)、一年四月一日(わたぬき)(はる)

 生徒会書記、二年茶野(ちゃの)唯人(ゆいと)、一年河合(かわい)瑠華(るか)

 生徒会議長、二年高田(たかだ)(ごう)、一年瀬川(せがわ)(いつき)

 生徒会会計、一年ルネ・ブランジェ。


 入学式で発表された一年のメンバーと、その時に挨拶をした二年のメンバー。両方、美形ぞろいだった。やはり、人に頼る基準は顔なのか。


「…………あ、灯織。生徒会のメンバーが出てきたよ!」


 ばしばしと肩を叩きながら手を振る紫織。……痛い。

 ふと気が付くと、目の前にはたくさんの人だかり。紫織ともはぐれてしまった。目の前は人の壁で、生徒会様たちなんて見えません。


「嫌な予感が。……早く紫織さがして戻らなきゃ!」


 いつもの()が発動する、と思い急ぎ足になったところ、どん、と誰かにぶつかった。

 ……顔が青ざめる。

 ああ神様、生まれて何回も祈っているんですよ、今日こそいつもの癖を自重させてください……。


「……ったいな……」


 不機嫌そうな声が上からする。私はとりあえず深呼吸。そして心の中でシュミレーション。

 腰を折り曲げて、大きな声で「ごめんなさい」。これが一番いい解決策だ。


「痛いですね。人にぶつからないように歩くこともできないんですか?」


 …………?

 自分の口から無意識のうちに出てきた言葉に、自分自身が驚いた。今、私は、何といった……? えっと、とりあえず今ならまだ間に合うな。さっきの言葉を訂正しよう。


「下を向いているから人にぶつかるんです。貴方が缶コーヒーを持っていたら、と考えてみてくださいよ。ぶつかったら私に被害が及ぶんですよ? 前ぐらい見て歩いてください」


 面白いほどたくさん、自分の意思に反して出てくる言葉の刃に、はん、と口の端を持ち上げ笑いながら、心の中では泣いていた――。


 そう、私の癖はその口の悪さ。いつもはそうでもないが、慌てたりパニックに陥ったりすると口から悪態がポンポンと出てくる。そのせいで、小学校、中学校と、いい思い出は一切ない。

 男子からは嫌われ、女子からは集団シカトをされる。唯一残った友達は天然で鈍感の紫織だけ。そのため、普通の(・・・)高校生活を夢見る私は、この癖を自重しようと意気込んだのだが――、しょっぱなから炸裂。ああ、神様のいじわる。


「…………」


 微妙な雰囲気の中、ぴきり、とこめかみに青筋を浮かべた男子がゆっくりと顔を上げた。

 慌てていて気が付かなかったが、目の前の男子は見事な金髪をしている。決して染めたわけではない綺麗な色。透き通るような白い肌も、日本人離れしているような。最後に気が付いたのは目だ。海のような蒼い瞳。

 見覚えのあるその顔を思い出そうと、私は一生懸命に頭を動かす。そして、一人の人物にたどり着いた。

 入学式で生徒会会計に任命されていた――。


「生徒会会計、ルネ・ブランジェ……」

「呼び捨てかよ、悪役」


 確か、彼はフランスからの留学生だったはず。家族の都合で日本に来ているが、天才肌で日本語は私達よりもマスターしているらしい。


「でも、生徒会メンバーはあの中に……」


 人垣の向こうを指さしながら聞く私に、ルネ君は気だるげにあくびをしながら答えた。


「めんどくさいから抜けた。それだけだ」


 そして、あたしの目を見て不機嫌そうに眉を顰めた。


「……ところで、お前、今俺になんつった? もう一回、一字一句間違えずに言ってみろ。言えたら、許してやる」


 んな無茶な……。

 とりあえず、何かを言おうとしたら悪態をついてしまうのは手に取るようにわかるので、頑張ってみる。


「えーっと、」

「はい間違い。終了」

「はっ!? 「えーっと」はただの飾り!」

「屁理屈」

「そっちだろっ!」


 ぎゃんぎゃん言い合っていると、背後から足音が。六人――いや、七人いるだろう。このタイミングで七人というと、嫌な予感しか浮かばないんだけど……。


「何やってんだ? ルネ」


 そこにいたのは、生徒会長を筆頭とした、生徒会のメンバー様だった……。


 ああ、さようなら、私の理想の高校ライフ。


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