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Psychic Sleuth  作者: 輪廻
3/9

Case2.信頼の絵本~Piece1~

挿絵(By みてみん)


「あああああああっ!!!」

闇に包まれた森。ほとんどが黒一色に染まりきっている森。普段は草木も眠りに着いているはずの時間に、悲鳴がいやと言うほど聞こえてくる。

森の中で二人の学生らしき人物が走っているのが見える。汗だくで必死に息を切らせながら、できるだけ足を多く、素早く動かせようと、目を前へ見開かせながら進んでいく。けれど、そのうちの一人が木の根に足を引っ掛け、地の上に動転する。何とか立ち上がろうと努力を働かせ、必死に前に進もうと足掻こうとする。

しかし、時すでに遅し。

黒の物体が転んでしまった学生に向かって四足で走り、のしかかる。

ぎゃあああぁぁっと大声で叫ぶ少年。牙をむき出し、彼に噛み付く物体。一時もだえた声が響くが、それもすぐに消えてゆき、周りには肉が引きちぎられ、骨が粉砕されていく音と血なまぐさい匂いが森を包んでいった。

「た・・・たすけ・・・て・・・」

残された一人は、相手が人間から肉の塊へと変化していく姿を見て、その場に立ちすくむ。彼に気づき、黒物体は月光で狼へと形へとはっきり変わっていく。口を血で赤く染めながら、ガラスの破片のような牙をむけ、するどい金色の眼で見つめながらゆっくりと学生に近づいていく。一歩、また一歩と、死へ誘う獣が歩み寄ってくる。学生は目を見開きながら、荒々と呼吸をしている。本来は狼もこいつだけは見逃してやろうと、踏んでいた。もう数人は殺してしまった。だからもう充分だと。

しかし、学生の乾いた口が吐いた一言が、彼の命を奪った。

「ば・・・化け物・・・」

すると、まるでスイッチがかかったように、狼は学生に襲い掛かった。怒りで金色に目を光らせ、彼に身体中の力を振り絞って、圧し掛かった。そして、瞬時に喉に噛み付く。狼のするどい何本もの牙が首を覆い、肉を貫く。期間の奥の奥までその刃がたどり着いた後、一気に首の部分を引きちぎった。ブチブチ、と肉の破片が引き裂かれていくすさまじい音といっしょに雨のような大量の血が吹き出ていく。

もがくように叫んだ後、無様に学生はその場に倒れ、魂はすでに消えていた。

「化け物なんかじゃ、ない。」

口を血まみれにしながら、その場に立っていた少年は言った。


望ヴィクトリア高校。学名からフェイントをかけられる、ごく普通の高校では昼食の時間だった。さまざまな男子女子がすがすがしいランチタイムを繰り広げる場だ。

「両者、準備はいいかー!!」

その中では昼食は取ってなく、中庭の奥のほうで何か不自然なことを繰り広げてる者もいる。よく見ると、それは真先と時雨だった。

「頼むよ、真先。あのデジカメ、すっごい大事な物が入ってんだから。」

「分かったよ、気がちるから話しかけんな。」

心配そうにささやく時雨にマラソンのスタートポジションの姿勢をくみ上げながら真先は答える。周りには妖怪が数匹あつまっており、また真先のとなりにもある妖がいた。それも、同じく走る姿勢になっていた。二人とも真剣に前を目掛けて準備をし、集中を高める。

15分前、購買で時雨はやっとのことで直った愛しいデジカメを、昼食に真先を誘おうとした時に、一匹の小さい妖に奪われてしまう。その妖はかなりすばしっこい上、小さい。捕まえにくいったらありゃしない。周りからからしてみれば一人手で転がっていくデジカメを、学年で一番人気がある男子が廊下中走っていく、とてもシュールな光景だと思う。もう追いつけないのか、あんなに大事にしていたデジカメはあの小さな妖に奪われてしまうのかと思ったその時、グッドタイミングで通りかかった真先がデジカメを軽々と取り上げる。そして、その小さなデジカメと同時にプラ~ン、と吊り上げられる。

そこまではよかったのだが、その後、小妖もまじいる組の長という物が、自分の大事な子分を襲っていると勘違いされ、ましてや無事を証明するためにデジカメを人質にとられるという、なんともへんてこない勝負を与えられた。

そして、現在に当たるのである。

「ふん、小娘。あの小型の封印箱に別れをつぐんだな。」

「封印箱じゃないし、その上私のものでもない。」

勝利の自信満々で言うオサ妖に対し、真先は静かに答える。

「自慢するわけではないが、ワシはこの付近でも一番素早い妖怪だ。なぁに、心配せんでも少し遅れて出てやろう。ま、それでも結果は同じかもしれないがな。」

・・・よーい・・・

審判となったさっきの子分妖が斉を上げる。

「・・・どんっ!!」

両者はほぼ同時に地面を蹴った。100mほど距離がある木のうえに吊られたデジカメを目掛けて、長妖は一直線に走っていく。フハハハハハ!!と甲高い笑いと砂煙を撒き散らしながら、どんどん進んでいく。そして、何秒かすると木の目の前にくる。デジカメは少し高い木の枝に引っかかっており、それなりのジャンプを行わないと、長妖考え、間接を曲げたその時。

バッ。

太陽の光を浴び、ふもと全体を影で隠しながら、枝に向かって一飛びしている真先がデジカメを手に入れた。冷静な表情でデジカメを手にした後、キレイなフォームでスタッと着地する。勝利は真先のものと成った。


挿絵(By みてみん)


「で、なんでデジカメなんか欲しがってたんだ?」

「なぜ、人間共などに教えなければならん!」

負けた上にそんな直球質問を問われカッとなる長妖。いくら長であっても、真先と比べるとかなり小さいので、結構下を見なければならない。

「それは・・・」

と、子分妖怪が話し始める。

「こら!勝手に喋ってはならんだろうが!」

「し、しかし組長様・・・彼女達はもしかしたら手を貸してくださるかもしれません。」

むぅ・・・と少し考えた後、開き直ったように長妖怪は語り始める。

彼らが時雨のデジカメを奪ったのは、これは写した物をその中に永遠に閉じ込める封印箱と勘違いしたらしい。妖怪の世界と人間の世界では風習や周りのものががらりと変わるのだ。パソコンや電話、テレビなどは一切存在しない、まるでタイムスリップしたような世界に入ることになる。

さて、話を戻そう。

彼らがそれを欲しがったのはある理由のためだった。

ある夜。町外れにある森の中に、仲間がさまよってしまう。そのアヤカシは二人組みで歩いており、一人は好奇心で森の中に入って行った。たんなる遊びだと想い、相方は気にせず進んでいたのだが、帰ってくるのがあまりにも遅く、心配になって駆けつけてみると。

そこには血で赤く染められた妖怪一匹が道場に倒れていた。

前々からこの森は呪われているやら、危険やらと噂が漂っており、そこには人間も妖怪たちも、そう足を運ばないそうだ。命を落とした妖怪はいまだに未熟で、好奇心旺盛と知られており、それが運の尽きだった。

「後からよくよく調べてみると、そこには狼男が巣食っているとの噂で・・・」

「死んだ仲間も彼に襲われたかと・・・」

「それで、どうにかしてほしいと?」

はい、と悲しげにうなずく妖達。真先は霊以外にも妖怪にも手を度々出していた。人間にとっては存在しない者、その全てを彼女は見定めれるのだから。

だから心が和らいでしまうのだろう。

人間よりも何倍も扱いやすく、親しげのあるものだから。


******

僕は一人だ。

僕は気がつけばこの世界にいた。どこから来たのかも、どう生まれたのかも分からないまま。ただ呆然と、淡々と、この世界にいた。存在すべきじゃない者という形で。

狼男だ。怪物だ。奇妙な物だ。妖だ。

化け物だ。

僕はこの言葉が嫌いだった。

化け物。

この言葉を耳にするたびに、体中の何かが溢れ返り、包み込み、暴れさせ、意識もなくなる者になる。

人を殺せ。

あいつを食え。

化け物と言ったあいつを食え。

その言葉がぐるぐると頭の中に回りこむ。

そして意識が戻り、気がつけば周りにはいつも紅の花畑。口も、手も、足も、服も赤、赤、赤。赤一色。赤よりも赤。何よりも赤。

そして、僕は一人になった。孤独になった。誰よりも誰よりも孤独に身を包んだ。誰もいないと言う屋敷に身を潜め、静かに静かに生きていこう。この森には呪われてるの?好都合だ。一人で呪い殺される方が何よりもマシなのかもしれない。狼男にはピッタリだ。

痛い。痛いんだ。

どうして、どうして痛いの?

どこが痛いの?

誰が痛いの?

―――――化け物だ。

この言葉が痛い。

人の目が痛い。

人の口が痛い。

人の言葉が痛い。

でも何もできない。何もやらない。

やろうとしてることは間違ってるから。認めてくれないから。

だから静かに、静かに生きていこう。

この呪われた森の中にある屋敷で。静かに静かに朽ちていこう・・・


*******


「あぁ~、もうダメ。もういや。帰ろうぜぇ・・・」

「バスから降りて5分も立ってないぞ。」

組長妖から依頼を受け、例の呪われた森へとやってきた真先と時雨。にも関わらず、時雨はもうへとへとだった。確かにバス停について、徒歩をはじめて5分も立ってなかった。足を引きずりながら、ちょっとした坂道を歩く。そして、彼は続ける。

「体力じゃねぇよ、気力が限界なんだよぉ~・・・」

「いいから、写真は撮ってるか?」

「うぅ・・・この人は体調より心霊写真のほうが大切なのか・・・俺なんか悲しい・・・」

「いいからさっさと歩け。」

真先たちが住む町からほんの20分ぐらいバスで行ったところにある、棕櫚町シュロマチ。決めた日時に二人は集まり、バスに乗るまではよかった。よかったのだが。

棕櫚町に近づいていくうちに色々と奇妙なことがあった。周りに走っていた車がほとんど急にエンストして、最終的に道一本、走っていたのは真先たちが乗っていたバスだけだったり、バスの中にはほとんど誰もいなかったり、急に小人達が隣に座ってたり、半透明の人が高速で走っているバスを軽々とすり抜けていったり、休むことなく怪奇現象っぽいのが次々と身の回りで起こっていた。そして、終わったと一息ついて、バス停に下りる。小さな小屋のような、ちょっと薄汚れた白いバス停。しかしそこにはデカデカと「呪ワレル」や「死ンジャウヨ」と赤い血の様な物で文字が書いてあった。その上、真先はそれ全てを写真に収めておけ、と支持した。そりゃぁ気力もズタズタになるさ。

真先が時雨に写真を撮らせるのは、実は彼は中々いいものを録る。別に風景だとか、秘密だとか、そういうものじゃない。心霊写真だ。

彼の取る写真にはほとんど霊が写っていたりする。いや、写ってないときのほうが少ないだろう。それを資料として使う。中にはよくある出没スポットや霊化の原因、事件現場など、さまざまな必要要素を撮りたててくれる。そして、これは思ってた以上、役に立ったりするのだ。その上、物などを視点に移すと、時々霊力が放たれ、誰の物だったかとか、足跡などならどんな感じの例と出くわすのだとか、使い方様々だ。

濃い緑から黒へとグラデーションがかかったような木々は森の周囲を囲んでいる。ちゃんとした道への入り口はこの坂道を越えた先だ。

パキッ。

「ん?」

ヘタヘタと歩く時雨に対し、もう一言言ってやろうかと斜め後ろに振り返ったとき、真先は何か踏んだ。何かが折れた音がした。普通に思えば木の枝とかだろう。このすぐ横が森だ。枝の一本や二本あったってなんにもおかしくない。

でも違った。これは本当に予想外だった。ちょっとだけ硬直している真先に気づき、何だー?と軽い気持ちで歩きよってく時雨。真先が踏んだ物は・・・

それは白い枝だった。いや、違う。枝ならもうちょっと細いだろう。じゃぁ、パイプ?いや、パイプがそう簡単に折れるわけじゃない。ちょっとだけ混乱してる脳内。足が踏んだ物。それは―――――

骨だった。

赤白い骨が、パッキリと、踏んだ重さで折れていた。

「え、ちょ、何コレ。何なのコレ。チキン?チキンだよね?チキンボーンだよね?どうだよねぇ・・・?」

「人骨だ。」

「いやあああああぁぁぁぁ!!!結局ヒューマンボーンっすか!?何でだよ!?何で道のど真ん中に、とゆーかど端っこにヒューマンボーンが!?おかしいだろ!いくら作者の頭が真っ黒でイカれてたとしても現実的に考えよう!?ちゃんとしたロジックで考え・・・ガハッ!」

「落ち着け。あと現実的な事言ってるのはお前だけだ。」

パニック状態になる時雨の腹部を手刀で収める。

たしかにこれは人骨だ。長さもそれ相当。と真先は分析した。ただまぁ、生物のテストで出た貰い受けなのだったが、母親が医者だったこともあり、人体のことはかなり把握できてる。探偵としての活動をはじめてから結構頻繁に使うようになったのでなおさらだ。

人骨をそっと持ち上げ、その回りを見る。真先がいた丁度右にあたる方角に、小さいが、もう一つ人骨の欠片が見えた。そして向こうに一つ、その向こうにもう一つと、道のようにつながっていた。

真先は鞄に入れていた小型ライトを取り出すと、あまりの暗さで目の前しか照らしてくれない森の中に入っていった。

「え、ちょ、真先ぃー!!!」


*******


「また人が迷い込んできた、外まで案内しよう・・・」

もうすでに蜘蛛糸の楽園となっているボロボロのカーテンをローブのようにかけた窓から、少年はそう言った。薄暗い光のみ通してくれる門のようなガラスの前に腰を搔け、ほとんど何も見えてない木々の風景もじっと見ながら。

そして、その場から立ち上がったと思ったら、諦めたようにまた座り込んだ。

「・・・でもやっぱりやめておこう。」

またあの言葉を叫ばれるぐらいなら。

ここで静かに潜んでいよう。


*******


所々砕かれている骨のあとを追いながら、暗黒の森をあるいていく。もう中心地点ぐらいまであるいただろうか。持ってたのはライトと町の地図だけだったので、あまり見当が着かなかった。いや、地図がなかったんだ。この森の。古代から呪われたと伝えられてきたこの森を全て把握したものはいないと言うのだろう。そのうえ、この暗さ。まるで深夜のような、黒一色。数日前に雨も振っていたと言うことで、足場もさほど良くはない。

「うぅ~・・・ま、まだそれが人骨とは分からないだろぉ。すっごい前に死んだ犬の骨かもしれないじゃん。えっと、大型犬ね。」

「私の判断能力ナメんな。これは人骨だ。あと少し赤っぽいから、最近のものだろう。」

「そ、それは分かんないよぉ!!!もしかしたらここだけ赤い雨が降って、ちょっと染まっちゃったかもよぉ!?大型犬の骨!!」

「そっちのほうが怖いな。」

そっと歩く真先の後ろから肩に両手を搔け、うずくまりながら付いていく時雨。

「あんまくっつくな、歩きにくい。あとお前、『心霊探偵』の助手やってるわりには怖がりすぎだ。」

「し、仕方ねーじゃんか!はぐれたらどーすんだよ!!あと普通は学校の怪談とかだろ!!どこの話に探偵さんが人骨追う事件があるんだよ!?」

「これ、真っ黒な頭から作り出してあるからな。なんでもありだ。」

「くそー、作者呪いてぇー!!!」

「もう黙っとけ。設定変えられんぞ。」

そんな危なっかしい会話を続けながら、人骨を追う。

あまり好ましくない音を立てながら、二人は足を進めていく。いまだに湿気ですこし濡れた草を踏みつけながら、ゆっくり、ゆっくりと森の奥へ。

そんなとき――――

ほろ甘い香りが漂ってきた。こんな暗黒森のなかで甘い匂い。いかにも異常。それに気づいた真先は香りを頼りに進んでいく。そして偶然か否か、人骨の跡もその香りと同じ方向に向かっていた。ますますおかしい。速度を少し上げる。

そして。

その場所は一面花。白から赤へとグラデーションがかかった「タチアオイ」が満開だった。ここから甘い香りが漂っていた。花の香り。それがこんな暗い森の中に―――

「す、すげぇ・・・」

あまりの光景の変化に目を丸くする二人。

それにしてもおかしい。真先は考える。こんな湿気くさくて、日光がほとんど当たらない場所に、花が咲くことなんてあるのか。そうだとしても、タチアオイはそんな花の種類じゃなかったはずだが・・・

「見ろよ、真先!!!あの地獄絵図からのすげえ進展だぜ!!!」

変わった風景に大はしゃぎの時雨。すっかり人骨捜索のことは忘れたらしい。それに対して、呆れた表情で真先は考える。変な霊力の感じがする。気のせいなのか・・・さっき追ってた人骨か?この花か?それとも――――

「はいよ。」

真剣に考えてるのにも関わらず、時雨はさっき取った花を、真先の髪に飾った。その赤白い一厘の花は、黒くツヤがある真先の髪にぴったり合っていた。

「っな・・・」

「やっぱ、お前そーゆーのも似合うな。もっとおしゃれしたらどうだ?顔はいいんだからさ。」

ホスト気取りのような言葉。でもそれは時雨の心の底から出て来た言葉。純粋で無垢な言葉。時雨はそんなことしか言わない。真先はそのことをちゃんと分かっている。分かっているからこそ。目を見開きながらすこし頬を染め・・・――――――


時雨の顔に強力ビンタをお見舞いした。


「人が真剣に考えてるときに何をっ・・・!!」

痛ってぇー・・・と地面から立ち上がろうとする時雨。

「おー、赤面、赤面。」

「っな!だれが赤面だ、このドアホが!!」

照れ隠し丸見えのビンタを振るう。それが時雨に軽々と交わされるによって、今度はもやもやと苛立っていくのが分かる。

それに交えて、髪にあった花を、真先は自分のポケットにしまう。

ぶん、ぶんと苛立ちと照れ隠しに混じって繰り返されていく真先の攻撃。それをモロにくらっていく時雨、というなんとも平和な光景だ。

挿絵(By みてみん)


*******


「強い霊力・・・。僕のことわかるのかな・・・」

少年は窓の前に立ち尽くす。暗い暗い、背景をその瞳に写しながら。

「僕のこと、分かるかなぁ・・・」

もうかれこれ2時間以上はこの状態でいた。森のなかにさまよった者を、遠くから眺めるように。

「あの女の人、僕のこと分かるかなぁ。僕が迎えに行かせたって、分かるかなぁ・・・」

「僕の痛み、分かるかなぁ・・・」


*******

「よし決めた!!俺もうここから一歩も動かない!!」

「じゃぁ、あとで迎えに来るからそこにいろよ。事がどれくらいかかるか見当もつかないが。」

「うっ・・・」

いくら綺麗な花で満開の場所であっても、ここは薄暗い『呪い』の森のど真ん中。いつ、何に襲われても仕方がない。その上、時雨と真先は霊感を持つ存在。危険物は存在する物から、存在しない物にまで、幅広く拡張する。

「わ、分かった、行く!!だから置いていくなあああぁぁ!!!!」

泣き付きながら、真先の背中を追う。男のプライドなんか構うこと無し。


すこし足場の悪い坂道を登ったあと、待ち受けていたのは巨大な洋館だった。

今すぐにでも崩れ落ちてきそうな、そんな感じを保つ洋館。回りには雑草がたくさん生えており、完全な廃墟と化していた。

「・・・・・・。入るぞ、ドアは開いてる。」

巨大な扉をギギギと怪しい音といっしょに開ける。廃洋館に足を踏み入れる二人。時雨はまだ少し、周りを見渡していた。そして見ぬフリをした。記憶には完全に焼きつかれるはずなのに、見逃すフリをした。ずっと奥の茂みに倒れこんでいた、赤黒い肉の塊を――――――


コツンコツンと靴音を立てながら、二人は進む。暗い暗い廃墟の廊下を、ゆっくりと二人で歩み続ける。その廊下は思った以上殺風景で、絵などはものほか、絨毯やカーテン、窓すらその廊下には存在しなかった。どうやらこの洋館の作りは、外に向く方角はすべて個室になっているらしい。つまり、外から見える無数の窓は全て部屋のもの。廊下やベランダは一切なかった。

たぶん、昔は誰かが住んでいたが、今は去ってしまったのだろう。人がいた形跡はかすかに残っていた。

「すげぇな。ここに人が住んでたのか・・・」

「何も触んなよ。まずは一通り見渡してからだ。」

「おう、うん?」

目を丸くしながら、歩く時雨。もうあまり恐怖を感じていないようだ。真先と肩を並べて歩いていく途中、廊下の真ん中に妙なレバーを見つけた。

「何だこれ?」

「な、おい!!!」

止めようと、真先は声を上げる。

だが時すでに遅し。時雨はもうレバーを手に、下に下ろしていた。

ガション、という変な音がなる。しかし、なにも起らない。

「なんだ、やっぱなんも・・・」

ガガガガガガガガガガガ・・・!!!!

刹那、上から透明の壁がすさまじい音を鳴らしながら落ちてきた。ドオン!と派手な爆音とともに、真先と時雨の間を遮る。あと気づくのが数秒遅ければ、真先、あるいは二人の体の一部がどこか切り落とされていただろう。

一瞬何が起ったのかもわからなかったが、徐々に状況を整理していく二人。

「おい、大丈夫か、時雨!!」

真先はドンドンと壁を力いっぱい叩くが、透明の壁はびくともしない。そして向こう側にいる時雨の声も一切聞こえない。何か叫んでいる姿ははっきり見えるのだが。

どんだけ叩いても、押しても、蹴ってもびくともしない壁。その上、向こうと話せないなら進まない。仕方なく、真先は携帯に電源を入れ、メモ帳覧に文字を打ち始める。

ポウ、と暗闇に光がともされ、ディスプレイに浮かび上がる記号。

『裏から回れ。』

向こう側にいる時雨は一瞬止まったが、すぐに「分かった」と口を動かし頷く。そして、二人とも奥のほうへと進んでいった。


*******


壁から何メートルか歩いた後、すぐそこに階段があるのに気づいた。

こっち側はもう一通り見た。二階から回り、壁の向こう側にたどり着くしかない。こんなにでかい洋館なんだ。玄関に付くまでのルートがこの廊下一本だとは思い切れない。

運悪く、真先がさっきまで持っていた小型ライトは時雨が今いる向こう側。真っ暗な闇の中歩くのも理不尽と思ったのか、自分は仕方なく、携帯についていたカメラ用のライトでその道を照らした。やはり、専用の小型ライトに比べれば、威力はまったくだったが。

きしむ音を一歩踏み出すたびに叫ぶ階段を踏み倒しながら、真先は上の階へと上がっていく。

「偉く古い洋館だな・・・」

いつ崩れてくるかも分からないぐらいボロボロの廃墟。いま上っている階段も、真先が踏むことによって穴でも開いたり、そのまま下に突き落とされてもおかしくないほど。

2階に着くと、少し肌寒い風が真先を遮る。

どこかの扉が開いているのか―――――それとも穴でも開いているのか・・・

この階の構造も1階とそっくりだった。どこまでも続きそうな長く、窓のない暗い廊下。人が住んでいた形跡はほとんどない廊下。一般には恐ろしすぎるそんな場所に、真先は足を運ぶ。

コツンという音とギシリという音が混じりあいながら廊下は真先の足を進ませる。もう何年も人が入ってないということが当たり前だと言うこの洋館。湿気くさい匂いが充満しているこの洋館。

何もないかのように見えた。

しかし

「!」

異常に気づいた。

2階にあるドアの全てに鍵はかかっていたはずなのに。

「開いている・・・?」

廊下の一番奥にあったそのドアは閉まりが悪いのか、かすかに隙間が開いていた。人が去った時点で鍵をかけたならこれはないはずだ。単なる鍵のかけ忘れかとも思ったが、コレだけの数の部屋全てに鍵をかけたのなら、この部屋だけ忘れるのは考えにくい。良く見るとあの肌寒い風の原因はこの部屋だった。たぶん窓も開いているのだろう。

「中に・・・誰かいる。」

突然入るのもすこしアレなので、開いているかすかな隙間から目を覗かせる。真先が見たものは―――――

窓をじっと見つめる、体の細い少年。

何か寂しそうな、妖しそうな、そんな感じを齎す背中。すこしだけ開いている窓から流れる風に吹かれ、紺色の髪がゆっくりと揺れている。しかし、その頭には耳のような三角形が二つあり、下半身にはふさふさに毛が生えている尻尾のようなものが見えた。


挿絵(By みてみん)

・・・・・・。

彼はまだ窓の方を向いている。

何を見ているんだ?私には、気づいていないよな。

「来たね。」

「!」

その言葉が真先に届いた頃には、彼はいたはずの窓の前から消えていた。

「なっ!!目は離してないのに!」

ガチャリとさっきまで覗いていたドアを行きよいよくあける真先。中に入っても、あの少年の痕跡は一つもない。ただ、床に何か分厚い本と、古錆びているカーテンがひらひらと風にそって踊っているだけだった。

「やっと来たね。」

しまった!!

真先は後ろの存在に気づいた。後ろに立っている少年に気づいた。

しかしもう遅かった。

ガンと派手な音を鳴らし頭に衝撃が響いた瞬間、彼女は冷たい床に倒れこんだ。


お久し振りです。本当にお久し振りです。

やっと2話目を書く事ができました・・・4ヶ月も放置していたんですね・・・ごめんなさい。orz

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