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9話 ルークを捜せ



敵の捕虜となるも見事に自力で抜け出し生還を果たしたネネ。

言い方は非常にカッコイイが、実際はかなり大変であった。主に敵の方が。


ふらふらと眠気を堪えながら彷徨う夜のスラム。街灯すらない暗闇に包まれたそこは、夏を知らせる熱気と錆びれたような寒気を感じる風が共存している。

暑いのに虚しい、そんな光景だった。


「・・・・どっちだったっけ・・・」


早く眠りたいのにルークの潜伏しているアジトの方角がわからなくなったネネ。

いっそこのまま道で寝てしまおうか、などと考えていると、逞しい腕が倒れそうなネネの身体を支えた。


「・・・おい」


「・・・・?」


ネネを支えているのはルークじゃない。

彼女は身体を斜めにしたまま、自分を片手だけで支えている失礼な男の顔を見上げた。


黒髪に黒茶色の鋭い目。ルークの右腕であるジェルダだ。

ずいぶん懐かしい顔である。


「・・・・・おひさ」


「他に言うことはないのか?」


相変わらずネネに手厳しい彼は額に青筋を浮かべる。そしてぞんざいな言い方で訊ねた。


「ルーク様はどこだ、案内しろ」


「・・・・眠い」


「寝るな!案内するまで寝るな!!」


眠気は最高潮に達している。

娼館の爆発後から敵に捕まっている間まで、ネネはずっと眠たかったのだから。


「・・・・おやすみなさい」


ネネは未だ叫び続けるジェルダの声を無視し、目を閉じて眠りについた。



















むくりと起き上がったネネは目を擦りながら目の前の人物を見た。


「やっと起きたか・・・」


「・・・ジェルダさん・・・おは・・・」


「おは、じゃない。貴様何時間寝たと思ってるんだ」


夜の道端で遭遇し、そのまま寝てしまったネネを自分の潜伏しているアジトに連れて来たジェルダ。

ネネを助けようとしての行動ではなく、あくまでルークの居場所を知るためである。


しかし・・・


「さあ、ルーク様のところまで案内しろ」


「覚えてない」


ネネは場所を覚えていなかった。

ジェルダは一瞬固まり、頭の中を真っ白にする。


「なんだと・・・?」


「最初は・・・・ルージュラの娼館にいたの。

だけど住めなくなっちゃって移動したから・・・たぶんその近くだと思う」


自分が娼館を爆破したくだりは見事に省略して説明した。


「どんな場所かも覚えてないのか?」


「・・・普通の民家。たぶん、手下の人の・・・。

他の手下の人たちが貴方を探してるから、その人たちを見つけた方が早いかも・・・・」


そうか、とジェルダは顎に手を当てて考え込む。

ネネが帰り方を忘れたのは誤算だったが、ある程度の情報が得られただけでも助け甲斐があったというもの。


「ルージュラの娼館の近く、か。

ここから少し離れてるな・・・」


「・・・おやすみなさい」


「おい、待てっ」


ジェルダはちゃっかり眠りに就こうとしているネネの頭を片手で掴み制止した。


「もう十分に寝ただろうが。

まだ寝る気か」


「・・・だって、疲れたんだもん。敵に捕まってて・・・」


「何!?敵に!?」


驚いたジェルダは細めの目を見開き、彼にこくりと頷くネネ。

興奮しているジェルダはネネの華奢な肩を掴んで詰め寄る。


「敵とはロドスのことか!?」


「たぶん、違う。

なんかうるさい人達だった・・・」


「うるさい?」


「そう、絶叫が・・・あちこちから・・・」


「お前、何したんだ・・・」


疑うような呆れたような目でネネを見るジェルダ。敵地で何が起こったか想像つかないこともないが、想像すると気分が悪くなって来たので止めた。


「ロドスじゃないなら問題ない・・・。

それよりルーク様との連絡だ」


「・・・魔術を使いましょうか?」


「いや、それは止めろ」


「何故?」


ネネに問われてジェルダは言葉を詰まらせる。まさかルークからネネに魔術を使わせないよう忠告を受けているなどと言い出せずに――――。








「おい、ジェルダ。アレに魔術は使わせるな」


「はっ・・・・・はい?」


まだネネが付き纏い始めて間もない頃、突然の主の命令にジェルダは目を点にして聞き返した。


「ええと、それはどういう・・・」


「だから、アレに魔術を使わせるな、と言っている」


アレとはもちろんルークのストーカーである魔女ネネで間違いないだろう。

ジェルダはルークの意図が読めず混乱する。


「何故かお聞きしても?」


「余計な真似はさせたくない。

アレが国の回し者だとも限らない」


「だったら最初から引き離せばっ・・・!!」


ぜひそうして欲しいとジェルダは声を大きくして言うがルークは首を横に振った。


「そうじゃねえ、あくまで可能性の話だ。ただ余計なことをさせないように念を押すだけ。

俺のスラム統一に魔女の力は必要ない」


自分の力だけで成してみせる、そう断言したルークにジェルダは身体を震わせる。

この圧倒的な自信、そして実力。彼の言う言葉は虚言でも妄言でもない、真実だとジェルダは確信していた。


ルークなら、己の力でスラム統一を果たすことができるだろう、と。


「それに、万が一のことがあればアレも困るだろうが」


「困る?」


「魔女は国に仕える生き物だ」


そこでジェルダははっとした。

そう、魔女とはドローシャ王国のみに仕える生き物。もしスラムの不良に執着し、その力を使っているなどと国に知られたらネネの立場が危ない。


神から与えられた神聖な力が、人殺しなどの為に使えば何と言われるか。


奥歯を噛みしめて眉間の皺を深くするジェルダ。未だネネが傍にいることすら納得できないと言うのに、ルークはネネの将来を案じている―――――。








「とにかく、魔術を使うのはダメだ」


ネネは小首を傾げながらも、特に魔術を使わなければならない状況でもないので承諾した。

ジェルダは大きく息を吐いて立ち上がる。


「ルージュラの娼館の近くを虱潰しに探せば見つかるだろう。あの周辺で手下の家はそんなに多くない」


「・・・わかった。お腹すいた」


「なんて緊張感のない・・・」


ネネのマイペースに怒りを通り越して呆れ返るジェルダ。テーブルの上にあるバスケットごとネネに投げ渡すと、彼女はそれを見事にキャッチして一番上のパンに噛り付いた。

硬いけれどそれなりに美味しいと、ネネは小さな口であっという間に平らげる。


「大人しくしていろ、いいな?」


「・・・わかった」


ネネを一人にするとロクな事になりそうにないと心配が募るが、ずっと一緒に居るわけにもいかない。

ジェルダは何度か後ろを振り返りながら、ルークを探すために部屋から出て行ったのだった。























キスした途端にゆでダコのようになって逃げたネネはそれっきり帰らず・・・。

紛れもなく行方不明になったネネに、ルークのみならずルージュラらも頭を抱える。


「ったく、手のかかる・・・」


「同感だよ。

ジェルダの旦那を探すだけでも大変だってのに」


ネネがいないと静かで平和だが、ずっと纏わりついていたものが急に亡くなって違和感を覚えるのも事実。一番大変な時に厄介事を次々と起こされ、ルージュラは参っていた。


「まあ、心配しなくても魔女なんだから1人でも問題ないだろ。そのうちひょっこり現れるさ、あの子なら。

敵に捕まるなんて面倒なことになってないといいけどねえ」


「・・・」


ルークは無言で酒を煽る。

空になった杯には横に居る女がすぐに継ぎ足し、再び並々と注がれる。


「それで、ジェルダの旦那が見つかったらどうするつもりだい?」


「・・・いつも通りだ」


今まで通りにスラムの統一を目指し敵を斬る、それだけ。

ルークは杯の酒に映る歪んだ自分の姿を見ながら続けた。


「手下が集まり次第ロドス組を襲撃する」


ルークが得意としている1対1の勝負。ノロゾイともその勝負で勝ったのだ。

例え大人数と戦ってもルークの力は遺憾なく発揮できるが、サシの勝負では純粋な実力勝負となるため、剣で右に出る者はいないルークの方が分がある。

できればロドスとの抗争も、リーダー同士の一騎打ちに持ち込みたかった。


しかしルージュラは心配そうに助言する。


「けどねえ、ノロゾイの残党もいるし、新興勢力も台頭してきてるし、今は勢力図の変化が激しいんだ。

情報不足のまま下手に動けば逆に窮地に追い込まれるよ?」


「情報に踊らされるよりはマシだ」


いかにもルークらしい考えだと苦笑するルージュラ。

決して彼は情報を疎かにしているわけではないが、情報によりも勘を頼っている。まるで野生の獣のごとく敵の出方や作戦を嗅ぎ分けるそれは、おそらく生まれつきの才能を持ったルークにしかできない芸当だった。


「じゃあ、あたしらは仕事に戻るから、何かあったら娼館に来ておくれ。

それから天井の修復、頼んだよ」


「ああ」


だんだん陽が沈み始めた夕暮れ。

ルージュラは他の女たちを引きつれて静かにアジトを後にした。





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