23話 強制治療
ネネを城内の離れに移動してからは、すぐに元気になることはなくとも徐々に熱は下がり、着実に回復へ向かっていた。
「少し下がったな」
ルークの大きな手がネネの額を覆うと、ネネは少し擽ったそうに身を捩る。まだ微熱の残っている身体にルークの体温はほんのり冷たくて気持良い。
「だがまだ細いな・・・」
熱が引いても痩せてしまったネネの体型はしばらく戻らないだろう。
もともと細くて何をさせるにも躊躇するような体型のネネ。せめて元の体型に戻るまではベットから出すわけにはいかなさそうだとルークは大きく息を吐く。
「・・・すみません」
「お前は謝ってばかりだな」
「私の所為で・・・ご迷惑を、おかけしましたから・・・」
もしネネが頑として王城に留まらなければ、ルークがわざわざ危険を冒してまでここに来ることはなかった。
結果的に特に責められることもなくここにルークも寝泊まりしているが、本来ならば王城に侵入しただけでも処刑物だ。
夕日に赤く照らされている部屋のベットの上で、ネネはルークに背を預けながらチラリと顔を盗み見た。
視線に気づいたルークは上からネネを見下ろす。
「なんだ、腹減ったか?」
「・・・いえ・・・その・・・」
恥ずかしい、ネネの言いたいことはその一言。背中に感じるルークの体温、耳元で囁かれる声。経験値の低いネネは羞恥心を掻き立てられている。
もちろんルークは確信犯である。クスリと笑われ、ネネはさらに赤くなってしまった。
まるで肉食動物が獲物をじわりじわりといたぶり追い込んでいるかのよう。
「赤面症も治さねえとな」
「うっ・・・うう・・・・治りません・・・」
「やってみねえとわからないだろ。ちょうどやることもねえしな」
どうやらルークの加虐心に火がついたらしく、暇つぶしを口実にしてネネの腰に手を回す。逃げ場のないネネは小動物のようにぷるぷると小さく震えていた。
下腹部を這うように撫で回す手に、さらにネネは追い詰められていく。
「うう・・・病人なのに・・・」
「昼飯2人前平らげたくせに何言ってやがる。
もしかしたら無表情も治るかもな」
「・・・え?」
「最初に見るのが快楽に悶える表情ってのも悪くねえ」
「・・・ええ!?」
くいっと顎を持ち上げられ後ろを向かされると、ルークはニヤリと口角を上げて妖しく嗤っていた。視線が混じり合い、ネネは混乱してぐるぐると目を回す。
ルークから逃れようといくら力を入れても、すでにすっぽりと覆われているネネの身体はびくともしない。
「あ・・あの・・・本当に・・・」
「当たり前だ」
「そんな・・・」
「お前の為だろう?」
「・・・嘘」
赤面症や無表情を治すというのはただの口実。ルークは面白がっているだけだ。
もちろんそれは結果的に自分の欲望の為。
クックッと喉を鳴らして笑うルークに、ネネはいっぱいいっぱいになりながらも必死に説得する。
「あ・・・あの・・・もう少し心の準備を・・・」
「散々待った」
「でも・・・」
「俺のものになりたくねえのか?」
うっ、と言葉を詰まらせるネネ。そのような聞き方をされたらイエスと答えざるをえない。
「なりたい・・・です・・・けど・・・」
「お前の作った薬の味には飽きた。観念するんだな」
悪者のようなセリフを吐いてルークの赤い舌がネネの細い首筋をなめ上げる。
「ひいいいいいぃぃぃぃっ」
「ッハ、いい調子じゃねえか。もっと嫌がれよ」
「い・・・意地悪・・・・です・・・痛っ」
服をずらされて剥き出しになった肩に、ルークは赤い印をつけた。ネネは首を捻って不思議そうにそれを凝視する。
「やっぱりつきやすいな、お前」
「あの・・・これは?」
「なんだ、キスマークも知らないのか?」
「き、きすま・・・・」
口にするのも恥ずかしいのか、湯気が出そうなほど赤くなってもごもごと口籠る。
「・・・どうやって・・・こんな」
「ただ吸えばいい、ほら」
ネネを横抱きにして身体の向きを変えると、正面から首筋に顔を埋めて同じ跡をつけた。しかしルークはそのまま唇をずらして吸ったり舐めたりし始めて、ネネは再び変な声を出す。
「ひぃっ・・・ううう・・・。
・・・舐めてもおいしくないです・・・っ、私は食べ物じゃありませ・・・」
「・・・少し黙ってろ」
耳元で往生際の悪いセリフを吐くネネに、ルークは眉間にしわを寄せたまま行為を続けた。ぴくぴく身体が反応する様を見ると、感じないわけではなさそうだ。
「っ・・・・あ・・・」
部屋が薄暗くなり、気付いた時には首周りにものすごい数の跡がついていた。ネネは慣れない刺激に耐えられず震える手でぎゅうっとルークの服を掴んだまま。
やっと顔を上げたルークはパニック気味のネネを見て、頬にそっと手を当てる。
「怖えのか?」
「いえ・・・そういうわけでは・・・っ」
しかし顔を近づけただけで縮こまるネネの身体。
「おもしれえな」
「・・・楽しまないで下さい」
「無理な話だ」
ネネが極力抵抗しないように、ギリギリまで顔を近づけた状態を保ったまま掠めるように何度も唇を重ねる。
「~~~っ」
ネネの声にならない声が面白かったのか、珍しくも一生懸命耐えている表情をしていたからか、ルークは再び喉を鳴らして笑った。
「やりゃできるじゃねえか」
「うぅ・・・私・・・どんな顔してますか・・・?」
「ヤラしい女の顔」
「へっ・・・?そ・・・そんな・・・」
「いいじゃねえか、無表情のままじゃ楽しくねえからな」
「そんなものですか・・・?」
「そんなものだ」
触れるだけのキスのはずがいつの間にか変化している。流されている気がする、と今更ながらにネネは思った。
唇を重ねたままいとも簡単に押し倒される。
ここからはもう後戻りなどできない。
深紅と黄土色の瞳がお互いの姿を映し、ルークの燃えるような熱い視線にネネは身体を震わせた。
「覚悟するんだな」
ネネの上に馬乗りになったルークはゆっくりと唇を重ねる。言葉では好き勝手にいじめつつも、ネネが怖がらないようにと性急には進めない。そんな優しさをネネも理解して、恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらも背に手を回して受け入れる意思を示した。
陽が沈み暗くなった部屋は異様に静かで、衣が擦れる音だけが響く。
「・・・ふっ・・・はぁ」
口内をさんざん弄ばれた後に解放され服に手がかかったところで、ネネは慌ててルークの手を掴んだ。
「まだ抵抗する気か?」
「その・・・だって・・・もしかして私たち一応血の繋がりが・・・」
ネネの身体に流れている血はネーネルフィ女王のもの。そしてルークは彼女の親類。近親者の行為はあまり好まれないはずだと、ネネは不安げにルークを見上げる。
「知るか」
「えっ・・・」
「少なくとも親子じゃねえんだ、構わねえよ。
仮に双子だったとして、俺から離れる気か?」
ぶんぶんと首を横に振るネネ。
「だったらつまらねえこと考えるんじゃねえ。
血が繋がってようが人間じゃなかろうが俺にはどうでもいい。だから諦めて俺のものになるんだな」
「は・・はい・・・」
嬉しいやら恥ずかしいやらで真っ赤になった顔を隠すために抱きついて胸に顔を埋めるネネ。しかし今度は背中や腰を撫で始め、その手つきに赤面することになる。
「顔上げろ」
逆らえないネネはおずおずと胸から顔を離してルークを見上げた。再び唇が重ね合わさりそうになったとの時――――――
バターン!!
「ネネ!!病気で危篤ってマジか!!?」
ドロドロの土塗れ姿で現れた王子ランス。そしてその横を超高速で通り過ぎるネネ。
あれ?とランスは振り返って逃走したネネの後ろ姿に首を捻る。
「危篤・・・じゃなさそうだな、全速力で走ってるし。
ま!元気ならいっか!!」
「おい・・・」
「ひいいいいい!!!」
地獄の底から響いてくるような恐ろしい声色にランスは震え上がる。
ベットにはネネに逃げられて独り取り残されたルークが、今にも人を殺しそうな視線でランスを睨んでいた。
「え!?何!?もしかしてお邪魔だった!?」
「出てけ!!」
「邪魔してごめんねー!!」
さっさと退散するランス。
獲物に逃げられたルークは赤くなって混乱しているであろうネネを迎えに行こうと、舌打ちをしながら気だるそうに身体を起こしたのだった。




