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21話 ルークの帰還




ベットの中で浅く苦しそうな息を繰り返すネネは顔色も悪く痩せ細っている。もう熱が出始めてから2週間も経っており、息を引き取るのも時間の問題だと思われた。


ヴィラたちが部屋に入ってきても嫌がることなく、ただ視線だけを入口の方へ向ける。


「具合はどうだ?何か食べたいものは?」


母親のように優しく尋ねるヴィラに、ネネは何も言わずただ首を横に振った。ぞろぞろと後に続いて入って来たアルフレットらもネネの様子を見ようと覗き込む。


「ったく、どうすりゃ良くなるんだ?」


ヴィラの言葉は直球だった。しかしこれが皆の本音。

彼女はどっかりとベットの傍の椅子に座り、足と手を組んでネネを上から見下ろした。


「病気でもない、魔術でも治らない。じゃあどうやったらいいんだよ」


「何かご存じありませんか?」


ルードリーフも優しく尋ねる。

彼らはもう万策尽き、ネネの為にしてあげられることはなにもない。ルーカス・ブラッドも相変わらず見つからず、ただ無意味に時間だけが過ぎていた。


最後の手段として、ネネ自身の知識に頼るしかない。


「なんでもいいんだ。思い当たることがあったら教えてくれ」


「皆ネネさんのことを心配してるんですよ?」


「お願いします」


「・・・・・」


ところがネネは無言を貫き通す。

黙って見ていたレオナードは痺れを切らし、剣を抜いて切先をネネの方へ向けた。ぎょっとするヴィラたち。


「ちょっ!レオナード!何やってんだよ!」


「話さないなら脅すまでだ」


「相手は病人だっつの!!」


「死にたくなければ知っていることをすべて話せ」


レオナードの剣は全く動かず迷いがない。周りの人間たちはハラハラしながらも、ネネが話すことを祈って見守った。

ネネはゆっくりと切先に視線を向け、一度瞬きして口を開く。


「・・・・殺すなら・・・どうぞ」


「死にたいのか?」


「構わない・・・。

ただ・・・、亡骸はノルディ地方の神殿に埋めて差しあげて・・・・」


レオナードは怪訝な顔をしてネネを見る。死を目前にしても、やはりネネの表情に変化はなかった。


「それから・・・・ルーク様に伝えて・・・“ありがとうございます”・・・って」


「馬鹿!そんなの自分で伝えりゃいいだろうが!

元気になって会いに行けよ!いくらでも手伝ってやるから!」


感情的になって大きな声を出すヴィラ。ネネは視線を彼女に移し大きく息を吐くと、途切れ途切れになりながらも言葉を繋いだ。


「・・・いい・・・平気」


ヴィラはもう言葉が出てこずに黙り込む。

結局ネネは助かる気が全くなく、このまま1人で死んでいくことを望んでいる。本人はそれでいいのかもしれないが、ヴィラには納得できなかった。


アルフレットがヴィラの肩をぽんぽんと叩く。


「俺たちにできることは何もなさそうです。

まあ、ネネさんを助けられるとしたら、本当にルーカス・ブラッドにしかできなさそうですね」


ルークの名前に少しだけ反応を見せるネネ。しかしすぐに布団を深く被って顔を隠してしまった。


















ジェルダをベルガラに残して1人ドローシャに戻ったルーク。さっそく帰ったスラムで聞いたのは、ネネが王城に呼び出されたということだった。


すぐに首都に向かった彼は今、王城の目の前に居る。

高くそびえたつ城、城壁の周りには当然厳重な警備が敷かれていた。


「チッ、飛び越えるか」


「おいお前!何している!」


ルークを不振に思った兵士の1人が声をかけ、わらわらと餌に集る蟻のように増える兵士たち。しかしルークは綺麗さっぱり無視して助走をつけると、高さ10メートル以上ある壁を一気に登って向こう側へ飛び降りた。

その天晴な身体能力にぽかんと呆ける兵士たちを置いて、ルークは敷地内で周りを見渡す。塔はいくつもありさらに部屋の数も多い。


「ったく・・・広すぎてわかんねえな。

おい、そこのてめえ」


急に上から降って来たルークに兵士の男は驚きで動けず、声をかけられてビクリと震えた。


「は、はい!」


「ネネの部屋はどこだ」


「はい!ネネ様の部屋ならあちらの3階に・・・!!ってもしかしてルーカス・ブラッド・・・・!?」


「本物なのか!?」


「赤銅色の髪と深紅の目・・・間違いない」


大きな声を出されまた新たな兵士たちが集まる中、ルークはローブを靡かせながらネネの部屋へ向かう。もちろん正面から入るようなことはしない。

壁を登り、バルコニーの手すりを利用しながらあっという間に3階まで辿り着いた。


それを眺める男達は追うこともせず、ただひたすら見守って祈る。


どうか、あの小さな魔女を助けてください・・・と。


















ガシャーンと耳がキンキンするような破壊音を立てて窓ガラスが部屋中に飛び散る。急に破片が降り注いだ驚きと大きな音の衝撃で心臓をバクバクさせながら、ヴィラたちは侵入者を見て目を瞬いた。


燃えるような赤い瞳と大きな体躯、整いながらも野性味のある容姿。


ルークは部屋に集まっている面子を一通り見遣ると、不満そうな顔をして舌打ちする。


「この部屋は間違いか?」


「・・・いや・・・合ってると思うよ・・・。

ってかここ3階・・・あーあ、窓ガラスが粉々・・・」


「誰だてめえ」


ギロリとヴィラを睨むルークに前へ出て剣を向ける騎士2人。


「やめときな。

せっかく見つけたのに殺すんじゃないよ」


「え!?もしかしてルーカス・ブラッド!?こいつが!?」


アルフレットは素っ頓狂な声を出してルークを凝視し、ルードリーフは神妙に頷いた。


「そのようですね」


「怖っ!ってかイメージ全然違っ!」


同じ空間に居るだけで、まるで肉食動物と同じ檻の中にいる気分になる。一瞬でも気を緩めれば殺されてしまいそうだ。


しかし一切物怖じしないレオナードは前へ出て堂々とルークを見据えた。周囲を圧倒する威厳たるやさすがは神に選ばれた者。

ルークも瞬時にただ者ではないと悟り、視線を合わせて身構える。


「ルーカス・ブラッドだな」


「俺を知ってるなら、ここに来た意味もわかってるんだろうな」


「お前の魔女ならばそこにいる」


ルークは途端にレオナードに興味を無くし、ベットの中で丸くなっている物体を見た。これだけの騒動があったにも関わらず、ネネは全く出てこようとしない。


「おい」


声をかけても返事はなく、ルークは乱暴に布団を引っ剥がす。

もちろん中から出てきたのは蒼白な顔色をしてずいぶん痩せたネネの姿。叩き起こそうとしたが、ネネの異変に気がついたルークは視線を鋭くしてレオナードを睨んだ。


「・・・こいつに何をした」


ヴィラは一縷の望みをかけてルークに説明を始めた。


「何もしてない、だから困ってんだ。

医者に診せても病気じゃないって言うし、あたしの魔術も効果がないし、あたしらじゃお手上げ状態なんだよ。

あんた何か思い当たることはないか?」


「ねえな」


「・・・だよねえ」


ルークは靴も脱がずにベットに上がり、目を薄らと開けてぼーっとしているネネを自分の膝の上で横抱きにする。額に触れればかなり熱かった。


「熱か」


「症状は高熱だけだけど2週間前からずっと引かない。

もう食べ物も喉を通らない状態でさ、このままじゃ助からないってのに、ネネはまるで元気になる気がないみたいで・・・。

でもあんたが来てくれたんなら、少しはネネも治す気になるんじゃないかって思ってたんだ。会わせてあげたかったしね」


ヒールをコツコツと鳴らしながら、ヴィラはレオナードの隣まで来ると心配そうにネネを見た。


「申し訳ないが、あたしらにできることは何もないよ」


ルークは無言で腕の中にいるネネの身体をまじまじと調べる。首や手や足だけでなく服を豪快にめくり始めたため、アルフレットとシルヴィオとルードリーフの3人は真っ赤になってそっぽを向いた。


「おい、わかるか」


扱いも言葉もぞんざいなのにどこか優しい。

ルークの問いかけにネネは視線だけ移して応える。


「ったく、俺がいない間に弱ってんじゃねえ」


「・・・ルーク様・・・?」


「見りゃわかるだろが」


「どうして・・・ここに」


「ベルガラに行ってもつまんねえから帰って来たのに、待ってるはずのてめえがいなかった。

何もせずに待つと約束したじゃねえか」


ルークが戦いに向かうときに交わした約束。もちろんネネは鮮明に覚えている。


「・・・・ごめんなさい」


「悪いと思うならさっさと治せ。これじゃ連れて帰れねえだろ」


「ベルガラ王家の・・・復興は・・・いいんですか?」


「興味ねえ」


「わかり・・・ました、じゃあ・・・治します」


あまりにもあっさり頷いたものだからヴィラたちはズッコケそうになった。





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