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16話 ヴィラとネネ




「というわけで!」


「・・・何が?」


「というわけで!!」


ネネの部屋でエルヴィーラ王妃―――――ことヴィラはごり押しで話を進める。結局謁見の間ではろくに話もできなかったので、場所を変えて話すことになった。高い身分でありながら自分からネネの私室にまでやって来る辺り、本当に庶民派の変わった王妃様らしい。

赤毛と銀髪の2人の兵士が見守る中、ヴィラはネネの目の前に座って腕を組む。


「ネネには今日からここで暮らしてもらう。それからちゃんと魔術も勉強するんだ、いいな?」


「・・・・・」


魔女としてネネが城に呼び出された理由は、ここで暮らすことと修行に励むことの2つ。

不服だったらしいネネはそろりとヴィラから目線を外そうとしたが、すかさずヴィラがネネの両頬を掴んで自分の方を向かせた。


顔が近い。


「いいな?」


ヴィラに凄まれ、仕方なくネネは返事を返した。


「・・・・はい」


「よし、何かやってみろよ」


「・・・・何を?」


魔術、とヴィラは端的に話す。つまり魔術を自分の目の前で披露しろ、と。


ネネは少し悩んだ挙句、蛇の鱗と獅子のヒゲ、イノシシの目玉などを鍋に放り込む。材料が溶けてふとネネが顔を上げると、ヴィラと2人の兵士はいつの間にか壁に張り付いていた。まるで壁紙と一体化しているかのようにべったりと。


何かの新しい遊びだろうかと、ネネは無言で首を傾げる。


「・・・・?」


「?――――じゃない!気づけ!自分のしていることに気づけ!!自分の手の中にあるものをよく見てみろ!!

って違う違う!!こっちに近づけるなああああ!!」


ネネは潰れたカエルの死体を握ったままやはり小首を傾げる。

ヴィラと2人の兵士は青ざめた顔で怖いもの見たさに鍋の中を覗き込んだ。ドロッとした目玉がこちらを向いた瞬間、言い様のない悪寒が背筋を走って首を横に振った。赤毛の兵士に至ってはよほど堪えたのか、息も絶え絶えと言った様子で今にも失神してしまいそうだ。


「それはなんなんだ!」


「・・・・性欲減退薬」


「マジでか・・・!!」


一瞬ヴィラは瞳を輝かせたが、鍋の中身を見てすぐに思い直す。


「―――――だ・・・だめだ、ちょっとでも欲しいと思った自分が馬鹿だった!!」


「欲しいと思ったんですか、ヴィラ様!?」


「やめてくれ!!いくら超人のレオナードでも材料を知ったらひっくり返っちまう!!」


兵士2人の話を聞くと、どうやらヴィラは彼女の夫であるレオナードに飲ませる気だったらしい。もし彼女が思い直さなければ、あわやレオナードはゲテモノを口にしなければならないところだった。危機一髪。


ヴィラは気を取り直し、決死の思いで壁から一歩だけ前に進んだ。自分を奮い立たせているのかピンと背筋を張り、仁王立ちで自分よりも背の低いネネを見下ろす。


「そんなもの飲めば性欲どころか寿命も削れるだろが!!魔術って言わねえ!!」


「・・・・えー」


「えー、じゃありません!!

ってか本当にこんなやり方を荒廃の魔女から習ったのか!?」


「・・・・・・」


「やっぱり違うんだな!!違うんだな!?」


大声を出して興奮するヴィラはまた一歩近づいたが、鍋の中身が見えてまた一歩後ずさる。


「と、とにかくそれは止めだ!他に何かできないのか?水を出したり、火を炊いたり・・・。

占いとかでもいいんだぞ?」


ネネはカエルの死体を握りしめたまま上を向いて考え込む。ヴィラと2人の兵士たちはゴクリと唾を飲みながらネネが思いつくのをまった。

ところが、数分かけた後に出てきた答えは全くの検討ハズレ。


「・・・・・ない」


「はあ!?何年も弟子入りしてて何もできないのか!?―――――それでもお前魔女―――――ぎゃあああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


馬鹿にされて気に障ったらしいネネはカエルの死体をヴィラの方に向ける。ヴィラはまた壁に張り付いて何度も謝り倒した。

ネネは仕方ねえな、といった表情でカエルを向けるのは止めてあげた。


ホッっと安堵の息を吐く3人。


「この子・・・ランスよりも手のかかる・・・」


「っていうか次元が違いますよ、魔女さん」


「性質が悪すぎます」


兵士2人の言葉にヴィラはまだ彼らを紹介していなかったことを思い出し、改めて挨拶をし直すところから始めよう、そして今までの魔術と言えないゲテモノ魔術を見なかったことにしようと、ヴィラはひきつった笑顔を作って赤毛の兵士のほうを指差す。


「紹介が遅れて悪かったな、ネネ。

この赤毛はレオナードの護衛騎士でアルフレット」


「どうも」


「で、こっちがあたしの護衛騎士、シルヴィオだ」


今度は銀髪のほうを指さすと、彼はぺこりと頭を下げた。中世的な顔立ちが可愛らしい男性だ。


「で、あたしがエルヴィーラ・・・ヴィラって呼んでくれ。

一応王妃・・・うん、王妃なんだけど・・・うん、よろしく」


歯切れの悪い自己紹介で締めくくり、さっそく本題(実質2回目)に入る。


「突然魔女たちに収集をかけたのはいくつか理由があってね。まずルーカス・ブラッドがベルガラ王家の生き残りだって少し前からわかってたんだけど、全スラム支配が目前に迫ってるって監査から連絡が入って・・・・こりゃヤバイってなったわけ。

知ってると思うけど、スラムの支配なんて誰にも無理だって思ってた。だがらルーカス・ブラッドが成し遂げればスラムの外でも彼は有名人になる。さらにベルガラ王家の生き残りが居たって市民に広まれば、大混乱」


名を上げずひっそりと生きていれば問題視することはなかった。しかし有名になってしまえば野放しにしているドローシャは非難されるだろう。


世界の中心であるこの国は、一点の曇りも許されないのだ。


「だから魔女会議を開いて検討して・・・、それから彼の処遇をどうするか決めようと思った」


「・・・・どうなったの」


「とりあえず保留、という名目の捜索。

ルーカス・ブラッドがベルガラに行ったって報告が入ったから・・・・」


その先はネネの前で言うことはできなかった。ヴィラは声のトーンを変えて話を変える。


「とにかく、ネネには事が収まるまでここに住んでもらうことに決まったんだ。悪いけど。

ついでに荒廃の魔女から頼まれたんだよ、お前にあまり魔術を教えてあげられなかったから、変わりに教育してほしいって」


「・・・・めんどう」


「ボソッて言っても聞こえたからな!」


ネネはあまり向上心豊かな方ではないらしい。最も、修行というのもネネの動向を探るための一種の建前に過ぎないだろうが。


ヴィラは肩を揺らして大きく息を吐き、ネネの顔を遠くから覗き込んだ。


「にしても本当に全く笑わないんだな。我慢してるのか?それとも単に面白くないだけ?」


「・・・・・」


ネネは無視して鍋に材料を放り込むと、一気にもくもくと煙が立ち、部屋中が煙だらけに。だんだん前が見えなくなり煙たくなってきた3人は、手で払いながらゴホゴホと咳き込む。


「こら!それをやめなさい!

とにかく、窓を開けてくれ・・・!」


窓はどこだとうろついていると、急に目の前に現れるネネの姿。ヴィラはビクッと身体を震わせてから、ネネの差し出した小瓶を見つめた。


「・・・なんだ?」


「・・・・性欲減退剤。ヴィラ様のために作ったの・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・」


ネネはまだ無言のまま小瓶を差し出している。


ヴィラはこれを受け取るべきか受け取らないべきか考え込んだ。とても魅力的だが引っかかっているのはもちろんその材料。蛇に獅子にイノシシに蛙。一般的な許容範囲内はとうに超えている。


「・・・ルーク様は普通に飲んでたけど・・・」


「マジ!?効果は!?」


ビシィッ!と無表情のまま勢いよく親指を立てるネネ。その効果に期待して手を伸ばすヴィラ。

しかし、それはヴィラの騎士である銀髪の男、シルヴィオがネネの手を払い退けたことで終わりを告げた。


白くて小さな手から離れた小瓶がカラカラと床を転がる。


「ヴィラ様を唆さないでください!」


「・・・・・そう・・・・・残念」


結局煙まみれの部屋では話にならないと、3人は身も心もぐったりしながらネネの部屋を後にしたのだった。






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