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11話 妄想話




出会った2人は何も言葉を発しなかった。

ただネネの頭の上に置かれた大きな手は、優しく、温かいものだった。


「・・・どこに行ってたんだ」


口火を切ったのはルーク。静まり返った小さな部屋の中、ネネは無表情のまま俯いて返事をする。


「すこし・・・遠出を」


「長かったな」


「・・・はい・・・とても・・・長かったです」


たった数日が異様に長く感じられたのは、一緒に居るのが当たり前になっていた証拠。お互いに忙しかったにも関わらず、隣に居ない空虚さを感じていた。だからこそ再会できた、たったそれだけのことで気持が高揚するのだろう。

ネネはそう思い、ざわつく胸を押さえて目を細める。


ルークはネネを見下ろす形で、再び静かに口を開いた。

チラリとロウソクの火が揺れる。


「俺はスラム統一を果たす」


「・・・・はい」


「意味のないことに思えるかもしれねえが、スラムの長い歴史の中で誰も果たせなかった野望だ。だからこそ果たすことに価値がある」


勝つこと。それは生き抜くための本能。

ネネはルークを見上げて小さく首を縦に振る。


「果たした後にどうなるかはわからねえ。国が動き出す可能性もある。

だから俺は世界で最も強大な国を敵に回す覚悟がある」


「私は・・・」


「それがお前にはできない」


魔女、という存在。神の子といわれる特殊な力を持った女。

彼女たちはドローシャの王の命に逆らうことはできない。それは掟ではなく、魔女の本能としての絶対的なものだった。


ルークがドローシャの敵となれば、すなわち、ネネの敵となる。


「スラム内のことであれば国が干渉してくることはないだろう。統一した後、俺はこの国をどうこうする気はねえからな。

だが、万一の時もある。

その時に立場を危うくするのはお前自身だ」


「わかっています・・・それでも構いません」


「火あぶりになっても知らねえぞ」


「それはとても興味があります」


「火あぶりに興味を示すな」


ネネは深く息を吐いてから、しっかりとした口調で話を続ける。


「わかっています・・・。でも構いませんよ。

今一緒に居られるならそれでいいんです。

離れなければならないその時まで、傍に置いてください」


ゆっくりと琥珀色と赤色の視線が交わると、慌ててネネは顔を反らした。

ルークがクスリと笑うとそれが色っぽいやら恥ずかしいやらで、ネネは耳まで真っ赤になり顔を手の平で覆う。


「なら、その照れ癖をなんとかするんだな」


「・・・はい」


「ったく、前はくっついたり服を脱いだり平然としてたじゃねえか」


「・・・どうせ相手にされないだろうと思って全然期待してませんでした・・・」


「アホか」


「・・・すいません」


「早く直さねえと先に進めねえぞ」


「・・・はい」


ネネは指の隙間からチラリとルークの顔を覗き見たが、思ったよりも顔が近付いていて小さな悲鳴を上げる。

その様子が可笑しくてルークが吹き出し、ネネは収まりかけていた顔の熱が一気に戻ってしまったのだった。





















ネネがルークと再会を果たしてからというもの、彼女はずっとルークの傍に張り付いて離れなかった。まるで金魚のフンの如く、何処へいってもルークに付いて回るネネの姿。

それを見守っている手下たちは、温かいまなざしを向けていた。ルークがネネを邪険にしないというところが、なんとなく彼らの心をくすぐったくさせる。


さらに大きな変化がもう一つ。


ルークに触られただけで真っ赤になるのだ。正確には、ルークから積極的な接触があった時。

昨晩の膝の上に乗せられた時なんかは、顔から湯気が上りそうなほどだった。


「「「カワイイ~!!」」」


昨晩の様子を思い出した一同は手をぶんぶん振ったり床を叩いたりして激しく悶える。


「っはー!なんだこの言い表しようのない高揚感は!」


「この世にあんな可愛い生きものがあっていいのか?」


「あの頃の積極的な嬢ちゃんがウソのようだ・・・」


「まさに形勢逆転だな!」


実は恥ずかしがり屋だったネネの話題を肴にすると酒が異様なペースで進む。それほどにルークのネネのやりとりは彼らにとって面白いことこの上なかった。

さらにルークらの戦力が回復し始めたこともあって、皆の機嫌がよいのだ。


「だが、仲睦まじいシーンは端から見れば多少犯罪臭いがな」


「あの体格差は確かに卑猥だ」


ルークはスラムを生き抜くだけあってかなり良い体格をしている。対照的にまだ身体の成長が止まる25歳に満たないらしいネネは、顔立ちもどこか幼さが残っており、身体も細く小さい。

その2人が寄り添う姿は、第三者に良からぬ想像をさせるものだった。


「嬢ちゃんの身体が心配だなあ」


「うちの頭、デカいからな」


「絶対ドSだし」


「嬢ちゃんは健気だから献身的に尽くしてるんじゃないか?」


「ルーク様のために我慢して毎晩毎晩・・・泣かせるねぇ」


下品な会話にげへげへと厭らしい笑いは止まらず、だんだん会話がヒートアップしていく。

―――――ところが。


「・・・猥談?」


「「「ぎゃあああああ!!」」」


神出鬼没なネネの心臓に悪い登場に驚きの声を上げる一同。

情けない叫び声を上げた彼らは、心臓をバクバク言わせながら大きく息を吐いた。


「お、驚いた~」


「魔女ってそんなに突然現れるものなのか?」


「頼むから気配消したまま近づかないでくれ・・・。心臓にが止まるかと思ったぞ」


口々に文句を言う手下たちに、ネネは小首を傾げる。


「驚いたら心臓が止まるの・・・?」


「まあ・・・、ショック死する奴も中にはいるだろうよ」


「・・・・なるほど」


「試したいなら他の所でやってくれな?」


実験台にされるのは勘弁だとひきつった笑いをしながら頼む。ネネならば自分たちで試しかねない、と。

ネネは無表情ながら少し不満そうに唇を歪め、こくりと頷いた。


「ところで、ルーク様はどうした?」


「・・・武器商人と商談中」


「そうか、いよいよか・・・」


感慨深げに遠い目をして漏れるため息。

力を蓄えるために戦闘を禁止されていたが、やっとまともに暴れることができそうだ。溜まりに溜まっていた鬱憤を晴らそうと、皆の目に欲望の火が灯る。


ルークがスラムの頂点に立つために倒すべき巨大な敵はたった1人。


「実力ならロドスよりも頭のほうがずっと上だ。

順当に2人が対峙するシチュエーションさえ出来上がれば勝利は間違いねえな」


「だが相手は黒烏だ。そう簡単にはいかねえよ」


「あったまだけはいいらしいんだよなぁ。

狡賢さだけで組を作り上げたような奴だからな。戦闘は弱いくせによお」


「ルーク様なら大丈夫さ。あの人は直感派だが頭も回る人だから」


「待ち遠しいな」


「なあ・・・皆はどうするよ、頭が統一したら」


ルークがスラムの頂点に立った時のことを考える一同。欲望に塗れた妄想に、だらしなくも口が半開きになったりニヤ付いたりしている。


「威張り散らしながらスラムを歩き回ってやるぜ」


「そりゃあ、うまい酒たらふく飲んで女侍らせて」


「女にモテるようになるかな」


「当たりめえだ。ルーク様なんか女まみれでウハウハ・・・・あ」


口髭を生やした男はネネの存在を思い出して慌てて口をつぐむ。隣にいた男がバカヤロウと肘で彼を突いた。

無表情のためネネの感情は読み取れないが、一気に気まずい空気が漂う。


「だ、大丈夫大丈夫。

ルーク様は魔女さん一筋だって!」


「そうそう!あの人は女より喧嘩、って感じだしな!」


「きっと一途に違いねえ!」


「嬢ちゃんがいるんだ、浮気なんかしないさ!絶対ぇ!」


彼らの精一杯のフォローに、ネネはゆっくりと口を開いた。


「・・・・いい、別に。私が勝手に好きなだけ・・・」


その言葉で滝のような涙を流し感動する男たち。ネネは若干面倒くさそうな顔をしている。


「なんて健気なんだ!!」


「こんないい子だったなんて・・・!ゲテモノ好きじゃなければ俺が嫁に貰ってやったのに!!」


「誰が誰の嫁、だと?」


聞き慣れた声が聞こえ、空気がピシリと音を立てた。ギギギギと音がしそうなほどぎこちなく首を回せば、声の主であり自分たちの主である人物の姿。

ルークは視線だけで人を殺しそうなほど恐ろしい眼光で睨んでいる。


「こいつを娶るつもりか?」


「い・・・いえ・・・冗談で・・・・魔女様を嫁にだなんて・・・恐れ多い」


ちびりそうなほどガクガク震えながら必死に弁護する男は今にも倒れそうなほど。


「今後自分の発言には気をつけるんだな」


「へい・・・すみません、頭・・・すみませ・・・・」


お咎めはなかったものの、結局彼は恐怖のあまり泡を吹いて倒れた。







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