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10話 再会へ




次の日になると、昨日まで居なかった手下たちがジェルダの潜伏先に現れた。この調子だとルークの居場所が分かるのも時間の問題だ。


夏の日照りの中で必死に情報を集める手下達の一方、ネネはアジトの備蓄を喰い漁りながらのんびりと暮している。

はっきり言って邪魔であったが、そんなことを本人に言えるツワモノはジェルダ以外いなかった。


「働かざる者食うべからず!」


ジェルダに果物を取り上げられたネネは恨めしそうに視線だけで訴えるが、彼は相手にせず取り上げた果物を仕舞いこむ。


「・・・食べてないとやってられない・・・。

ただでさえルーク様に3日も会えてないのに・・・」


ルーク欠乏症に陥ったネネは食に走ったらしい。

大人の約3倍の量をペロリと平らげているネネ。その上彼女のペットの餌も必要とあっては、アジトの備蓄が無くなるのも早い。

もちろん無くなった食料を求めて走り回るのは手下達である。


ジェルダは震える拳を握った。


「お前がさっさとアジトの場所を思い出せばすぐに会えるのだがな」


「ジェルダ様、よろしいでしょうか」


「すぐに行く」


部屋へ入って来た手下に呼ばれて出て行ったジェルダ。

入れ替わりにひと仕事終えた別の手下たちがわらわらと帰って来た。


「今回もハズレかあ」


「あとはミューとボンドのところだけだな・・。

今日中に見つかるだろ」


「ルーク様、無事だといいんだけど。

あ、嬢ちゃん・・・いたのか」


イスにぽつりと座っているネネに気づいた彼らは疲れた様子で空いているイスに座る。

疲れているのか、腰を下ろすなりすぐに突っ伏した。


「・・・まだ見つからないの?」


「ああ、でも後2軒だけだ」


「きっとすぐに見つかる。

今他の奴らが向かってるからな」


それを聞いて安心したネネ。

ルークにもうすぐ会えるとなると心が高揚してきたのか、足をプラプラさせて無表情ながらに頬を染め喜んでいる様子。


「しかしそれにしても今日はあっちーな」


パタパタと手を仰ぎながら顔を歪める男の言う通り、今日は久しぶりの快晴で気温が高い。夏がいよいよ始まったことを知らせる湿り気の多い風も吹いている。

じりじりと焼けるような日差しと、噴き出てくる汗は毎年ながら不快だ。


ドローシャは気候が穏やかであるが、スラムは平地のため気候には若干恵まれていない。必然的に作物の育ちも悪く、総じてスラムは慢性的な食糧不足でもある。


「おい、お前ら武器をとれ」


声が聞こえた扉の方へ向けば、そこにはジェルダの姿。彼の険しい顔つきから、一同は無防備に休めていた身体を強張らせた。

緊張が走るなか、ネネは小首を傾げる。


「・・・何かあったの?」


「ルーク様の居場所が特定できた・・・・・が、襲撃を受けている」


ジェルダが居ない状況下でルーク達が襲撃を受けているらしい。すぐに援護に向かわねばと、一同は部屋中を縦横無尽に駆け回る。


「ルーク様は、・・・無事?」


「当然だ。

お前は邪魔だからここで大人しくしてろ」


「・・・ついていく」


ネネは少し考えてから口を開く。

当然ジェルダはいい顔をしない。


「足手まといになるのがわからないのか?」


「・・・・でも」


ネネは不満げに濁しながら俯いた。

戦力の欠片にもならないネネだがやっとルークに会えるチャンスを無駄にしたくはない。


「これ以上あの御方の邪魔をするようならこの俺がお前を叩き切る。

わかったなら大人しくしていろ」


凄むジェルダに押されてネネはしぶしぶ頷いた。

しかしやはり不満だったのか大きく膨らむネネの頬。無表情のまま頬だけ膨らんでいるその姿は、まるで頬一杯に餌を詰め込んでいるハムスターの様。


「ジェルダ様、準備が整いました・・・けど・・・」


手下たちは何とも言えない表情でネネとジェルダを交互に見、控えめに声をかける。


「すぐに行く」


「・・・・・・」


颯爽とマントを翻して去っていくジェルダと、その背中を恨めしげに見やるネネ。

男たちが出ていくとあれだけ騒がしかった部屋も静かになり、ネネは一人、今頃ルークのもとへ向かっているだろうジェルダを思ってため息を吐いた。




















「本当によかったんですかねぇ、嬢ちゃん置いてきて・・・」


加勢に向かいながらそんなことを漏らす手下。ジェルダは苦々しげに顔を歪めてその手下を睨んだ。


「当然だ。

そもそもあんな得体のしれない物体がルーク様の傍にいるだけでも忌々しき事態だというのに・・・・これ以上邪魔されて堪るものか」


考えてみれば出会いから今まで、ネネの所為で巻き込まれた事件は数知れず。被害者も相当数いる。

ジェルダにはネネの存在が百害あって一利なしとしか思えない。


実際に、今の所はその通りであった。


「でも、嬢ちゃん一途だし。

なんていうか・・・応援したくなるんですよね」


「そうそう。あんな細っこい小さな体でいつもルーク様のために一生懸命でさ。

好きな男のためにこんな物騒な所に飛び込んでくるなんて、まだ幼いくせに肝っ玉座ってるよなあ」


「なんだかんだで憎めないですよね」


口々にネネのことを褒める男たちに、ジェルダの血管が音を立ててブチ切れた。


「うるせえ!!!

ルーク様に魔女など相応しくない!!論外だ!!」


あまりの怒り様に動揺が走る。

何故ここまでネネを毛嫌いするのだろうか、と。


「で・・・でも、恋愛なんて本人にしかわからないもんだし・・・」


「そうですよ、趣味なんて多種多様・・・」


「貴様ら、どっちの味方なんだ!?ああ!?」


フォローが気に入らなかったジェルダに凄まれ萎縮する手下たち。気まずい空気が漂う中で誰もが沈黙しているうちに、ルークの一行と合流を果たすことができた。


敵の数はそれほど多くない。今の人数ならば簡単に撤退に追い込むことができるだろう。


ルークの姿を見つけたジェルダはほっと肩を撫で下ろし、彼に近づく。


「ルーク様、ご無事で」


「あいつはどうした、一緒じゃないのか」


一言目にネネの話題が出てきて、ムッとジェルダは眉間に皺を寄せた。


「置いてまいりました。戦闘の邪魔になってはと思い・・・」


「バカが。なんで連れてこねえんだ」


「・・・・・っ!必要ないでしょう!!あんな何も役に立たぬ魔女など!!」


「そういう問題じゃねえ」


何故ネネが皆に庇われるのか。何故自分が責められなければならないのか。

ルークの右腕としてずっと彼を支え守ってきた自分よりも、突如現れた小娘を大切にするなど理解できない。


佳境に入る前にルークの味方が増え、劣勢になったと悟った敵はさっさと退散してしまった。あっけなく逃げた敵を情けないと思いつつも手下たちは笑みを漏らす。


「これで嬢ちゃん迎えに行けますね」


「喜ぶだろうなぁ。ずっとルーク様に会いたがってたしな」


戦いが終わったかと思えばまたネネの話題。

ジェルダは痛いほどに唇を噛みしめ、血に染まった刀身を睨んだ。





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