出会い2
「よいかマリアス。ソナタは、みなの分まで生き延びよ。もちろん私の分も・・・。私が生き延びるよりもマリアス・・・、お前が生きる事に意味がある。」
ベルセルクの言葉はとても深く心へと語りかけてくる。そしてこう続けた。
「すまない。マリアス、守りきれなかったようだ。許しておくれ・・・。」
ベルセルクは、まるで実の父親ようなとても暖かい表情でマリアスに言った。
「待ってください。何の事です!?陛下をお守りするのは我が使命でございます。」
マリアスは立ち上がり、再び剣を取った。しかし王の前へ出ようとした次の瞬間である。
「我が永遠なる時の鼓動よ。この者を我の示す地へと送り届よ。命じるは時の王。」
国王がそう言うと地面に術式が現れた。部屋全体を覆うほどの大きさである。
「馬鹿な!させません!」
フードの男は、剣からの斬撃が途切れないよう体制を保ちながら、片方の手で地面に触れた。
「させん!!」
ベルセルクは、胸から宝石のようなものを取りだし、地面へと叩きつけた。宝石は粉々に砕け散り、魔術式と同化した。
「陛下何を!?私は・・・・」
突然マリアスの視界は、黒一色になり何か歪みのようなものに吸い込まれた。
「うっ!!」
歪みに吸い込まれた。歪みの中は真っ暗で何も見えない。必死にもがくが身動きが取れない。声を出そうとしても唸り声にない言葉を紡げない。そして、1分ほど経っただろうか・・・、光のようなものが見えそして光は次第に大きくなり、歪みからマリアスは吐き出された。
吐き出された衝撃で何か硬い物に頭をぶつけたマリアスは、薄れゆく意識の中で地についた手に何か冷たい感触を感じそれを見ようとするが、それが何なのか確かめる間もなく気を失った。
マリアスの頭の中に誰かが語りかけてくる。
「我、失われし古の記憶。そして、未来の記憶。我、選ばれし者に力を与え道を示さん。」
「誰?」
マリアスは目を閉じたまま声の主にその正体を問う。
「我、失われし古の記憶。そして、未来の記憶。我は待つ、この世の理を解き、我が前に現れん強者を・・・。」
マリアスは薄目を開けようとしたが、開けることができない。しかし言葉は発せられるようだ。
「なぜ私にそんなことを言うの?」
マリアスは夢見心地で言った。
「我、失われし古の記憶。そして、未来の記憶。我を見つけよ、さすれば・・・・・・・。そして・・・王・・・・・賢者を・・・・世界・・・・変わる」
謎の声を最後まで聞く前にマリアスは再び意識を失った。
北の森
アルは林の向こうおよそ100m先に鹿を見つけると弓矢を構え狙いを定める。弓がしなり鈍い音を立てる。鹿はこちらに気づいていない様子だ。
「チャンスだ!」
アルは小声で言った。そして、矢を放った。
しかし矢は、鹿より5mほど手前の木に刺さり、その音で鹿は驚いて逃げてしまった。
「お見事!!相変わらずのお手前で。」
アーサーである。
「うるさい。今のはウォーミングアップだ。」
アルは不機嫌そうに言った。
「その割には、小声で{チャンスだ!}とか言ってませんでしたか?」
アーサーは笑いをこらえているようだ。アルの顔が真っ赤になる。
「な、何を!?盗み聞きとは、あ、悪趣味だな。」
ぷいっと顔をそむけながら、アルは顔をしかめた。
「私がお手本をみせて差し上げましょう。よく見て、マスターの力として頂けると幸いです。」
アーサーは、こみ上げてくる笑いの衝動を抑え言った。
「見飽きたよ。何度見たってアーサーのようにはいかないんだ。」
「そうふて腐れずに、階を重ねるごとに人は成長するものです。」
アーサーは乗っていた馬から降りた。
「まず、マスターの場合は馬から降りて、地に足をつけた状態から始めた方がいいでしょう。視線は獲物のやや上を見つめ、そして矢の切っ先も同じく獲物のやや上を狙います。」
アーサーは先ほど木に刺さったアルの弓矢を標的として、アルにわかりやすいように説明する。
「走ってる鹿に当たるもんか。少なくとも俺は。」
小声でアルはぼそぼそっと言った。
「今だ!!」
アーサーが弓を放った。矢は絶妙に木と木の間をすり抜け、見事鹿の腹部に刺さった。鹿はその場に倒れ、もがき苦しんでいる。
「とまあこんな具合に弓矢と言うものは、使うのです。」
アーサーは誇らしげに言った。
「ではマスターも私をまねて・・・って、いない・・・。何処へ?」
あたりを見渡す。
「アーサーの自慢講座なんかに付き合っていられるか!もっと鹿が群れているところへ行こう。」
アルはさらに奥へと馬を走らせた。
「世話の焼けるマスターだ。」
アーサーは、アルの馬の足跡を見つけ再び馬にまたがり、追跡を始める。
先ほど仕留めた鹿に異変が起きていた。一面の雪は血に染め上げられ、鹿の頭だけが無残な歯型と共に残されている。そしてアルが向かったと思われる方向に、そのモンスターのものと思われる足跡が残されていた。この異変にアルもアーサーも気づいてはいなかった。