ついった診断によると私の名前の花は人類滅亡する頃に花開くらしい
あなたの育てかったーhttp://shindanmaker.com/18928
というツイッターのID診断をやりましたところ
「○○」という品種は、人類が滅ぶ頃に種を蒔き1日に1回水をやり優しい眼差しを肥料にすると大輪の花が咲きます。花言葉は『俺ら東京さ行ぐだ』です。 と出ました。
友「人類の滅亡と引き換えか……若干ハードルが高いネ」
私「発育条件から察するにどうも最後の人類に育てられそうなんだよね……無駄に壮大」
友「『最後の人とその愛した花が開く日』的なお題小説書きなよ(笑)」
ということで書いた話です。
水は、いつまで持つだろうか。
蛇口を捻ればとめどなく水が溢れたのはもはや過去の話だ。
水道も、電気も、ガスも、その供給経路がすべて崩壊した今となっては、そこここのわずかな窪みに溜まった雨水を、へしゃげた如雨露で汲んで歩くしかない。
その日まで、自分の為だけに水を求めて歩いていた。
誰かの為に水を求めることなんて、もう二度と望むことはできなかった。
四季が消え、コンクリートのビルは全て瓦礫となった世界。なんの前触れもなく巻き起こる竜巻に、台風に、大雨に、人類はじわじわと削り取られた。とどめに発生した大地震で、人類が生きていくための設備のほとんどが崩壊した。
やっと異常気象が収まった頃には、人類はもはや回復不能な数まで減っていた……。
私が死んだとき、人類は滅亡したことになるだろう。
だからその日まで、自分の為だけに水を求めて歩いていた。
誰かの為に水を求めることなんて、もう二度と望むことはできなかった。
その日までは。
それは、人ではなかったけれど。
ある日、やはり水を求めて瓦礫の山を歩いていたときに見つけたのだ。
石ころの下から顔を出した、小さな双葉。
久しぶりに見る緑に、妙にほっとしたのを覚えている。
その年は酷く暑かった。
照りつける太陽は空気を熱風に変え、吹き付けるものすべてから水分を奪っていった。
雨どころか、雲が浮かぶことすら稀だった。空は残酷なまでに蒼く、貪欲に地上の水分を吸いとっていった。
当然、私が巡る水場も日々乏しくなっていった。
五つ目の水場でやっと明日の分の飲み水を確保したとき、ふと先日見た双葉を思い出した。
きっともう枯れているだろう。
軽い気持ちで確認しにいったが、予想外にも双葉は生きていた。
以前より大きくなり、双葉のあいだから新しい葉がでている。ただ、やはり少ししおれている気がした。
私は空を降り仰いだ。空はやはり底抜けに蒼く、雨は期待できそうになかった。
私はもう一度双葉を見た。あまり生気がなかった。このままでは、数日内に予想した通りになるだろう。
私はやっと得た明日の分の飲み水を見た。今日これを汲むまでどれだけ歩いたか、この水でどれだけ自分の渇きが癒せるか、水場がどれだけ限られているか、頭の中で様々な事柄が駆け巡った。
それなのに私の手は勝手に動き、ひしゃげた如雨露からコップで水を汲んで、双葉が生きる土に注いでいた。
水はあっというまに染み込み、乾いた土をささやかに茶色く染めた。
私はその日、六つ目の水場まで歩くことになった。
その後も雨は降らなかった。
私は巡る水場を増やした。自分が必要とする分よりはるかに多く水を汲み、余計な分はすべて双葉の根元に注いだ。
水さえあれば、日光も土も、植物に必要なものはすべて揃っていた。双葉はすくすくと育ち、やがてその頂点に固い膨らみをつけた。
最初はそれが何かわからず、妙な病気かと不安になり弄ったりもしたが、日に日に大きくなる膨らみの下に薄い紫が透けるのを見てようやく気がついた。
つぼみだ。
双葉に水を注ぐようになり、私が必要とする水場は十を超えた。毎日遠くまで水を汲みに歩いた。一日分の水を得るために一日中歩くことも珍しくなかった。
けれど、どんなに遠くまで歩いても、いつか汲み尽くす日が来る。雨が降らない限り。
たぶん、今日が双葉と、そして自分に水をやれる最後の日だった。最後の水を持ってきた私の前で、双葉のつぼみは今にも咲きそうなくらい膨らんでいた。
水をやれるのは今日が最後。
明日太陽が昇ったら、今注いだささやかな水はすべて蒸発してしまう。明後日以降の双葉の命はもう保証できないだろう。
せっかくここまで育ったのに。
せっかくつぼみが着いたのに。
涙が出れば、その分の水分も双葉にやれると思った。しかし、自分に必要な水も最低限まで切り詰めた体では、それすらも望めなかった。
ただ詫びの言葉を呟きながら、私は双葉の根元に踞った。
ごめんよごめんよ。
いつもやれるだけのことはやったんだけど。
あと一歩の所でだれも助けられなかったんだ。
あの時も必死で薬探してきたけど。
間に合わなくてあの子は死んでしまったし。
あの時も必死で傷を縫ったけど。
血が出過ぎて彼女は死んでしまったし。
あの時も必死でミルクを探したけど。
代わりになるものも何もなくて、自分の血を差し出しても受け付けてくれなくて、最後には泣き声もあげられなくなってあの子は死んでしまったし。
ごめんよ。
ごめんよ……。
後頭部に、何か冷たいものが落ちた。
顔をあげると、薄紫のつぼみを着けた双葉が目に入った。一瞬、この双葉が同情して、涙のひとつもこぼしたような錯覚に陥ったが、そうではなかった。
私は空を降り仰いだ。夕暮れの紅い空に、確かに濃い雲がかかっていた。
白く乾いた瓦礫に、ぽたぽたと水滴が落ち、濃い色に染め上げていく。
大粒の水滴が土と双葉を濡らしつくした頃、始めて私は泣くことができた。(了)
読んでくださってありがとうございました。
未熟な文章書きゆえ、批判をいただけると大変ありがたいです。