10-4
「……被告人エイン氏を即時解放。拘留中に施された拘束具の、解除を命じます……」
裁判長の命を受け、警備兵たちは一礼して法廷を出ていった。
ほどなくして戻ってきた警備兵が、無言で鍵を差し込む。厳粛な沈黙の中、首元でカチャリと乾いた音が響いた。鎖の重みが消えた瞬間、エインは大きく肩を回し、肺の奥まで息を吸い込んでから、長く吐いた。
「っは~、やっと自由だわ」
指先を軽く握り、魔力の巡りを確かめるように一度だけ瞬きをする。
「……うん、戻ったな。これでいつも通り、魔法も使える」
その様子を複雑な心境で見ていたベイルだったが、ふいに視線を向けられ、反射的に背筋を伸ばした。
「なあ、ベイル」
エインの声色が、唐突に落ち着いたものへと切り替わる。
「さっき放棄した王位継承権、もし取り戻せるとしたら……どうしたい?」
唐突すぎる問いに、ベイルは言葉を詰まらせた。眉をしかめ、視線を伏せたまま沈黙する。
「……どういう意味だ」
「そのまんまの意味だよ。王族に戻れるとしたら──戻りたいか?」
しばしの沈黙ののち、ベイルはゆっくりと顔を上げた。エインの真っ直ぐな視線が、自分の中途半端な迷いを暴くかのように刺さってくる。
「……ああ。できることなら、戻りたい」
言葉は短く、だが明確だった。ベイルは虚勢でも誇りでもなく、ただ自分の本音を口にした。
その瞬間、エインはパチンと指を鳴らした。
「よし、言質取った」
エインがにやりと笑う。その顔には、先ほどまでの軽口とも違う、妙な確信めいた色があった。
「お前がそう言うなら、戻してやるよ」
「……なに?」
次の瞬間、エインはくるりと身を翻し、すぐ近くの警備兵へと指を弾いた。
「【記憶消去】!」
警備兵は声を上げる暇もなく、その場にぐらりと崩れ落ちる。
「エイン君!?」
成り行きを黙って見守っていたフレッドが、思わず声を上げた。だがエインは意にも介さず、次の警備兵へも同じ動作を繰り返す。
「【記憶消去】! はい、おやすみ~。……あ、そこの書記官も。君もね」
一人、また一人と、法廷の関係者が音を立てて倒れていく。
「おい待て! 何をしている!?」
ようやく我に返ったベイルが怒鳴ると、エインは振り返り、きょとんとした顔で首を傾げた。
「何って、当然の処置だろ」
「全員に【記憶消去】かけて、裁判を最初からやり直すんだよ。そしたらお前は王族のまま。ついでに俺は最初から無罪。めでたしめでたし」
「お前、本気で言っているのか!?」
ベイルの叫びもどこ吹く風とばかりに、エインは作業を続けた。
「本気も本気。我ながら、冴えてると思うんだけどなぁ」
そう言って、また一人に向けて指を弾く。
「はい次~」
一方、傍聴席の方から、ざわざわと不穏な気配が膨らみ始めていた。
「あ……あいつ、何をしてるんだ?」
「精神魔法で人に干渉してる……やばくね……?」
「逃げろ逃げろ!」
ざわめきは一気に喧騒へと変わり、傍聴人たちが出口へ殺到した。軋む扉の音、足音、悲鳴。法廷は瞬く間に混乱に包まれる。
「ちょ、誰か! そいつら逃がすな!」
焦った様子で叫ぶエイン。その声が響いた直後、冷たい風が空間を切り裂いた。
「【凍結封鎖】」
スザンナが袖を翻し、扉へ手をかざす。次の瞬間、縁から青白い氷が一気に走り、重々しい音を立てて凍りついた。
「なんだこの氷は!?」
「俺達、閉じ込められた!?」
「おい! 誰か開けてくれ!!」
悲鳴と混乱が渦巻く中、エインですら「おお……やるぅ」と感心したように呟いた。
「スザンナ教授! いったい何をする気ですか!?」
フレッドが声を張り上げる。その声には、驚きと困惑が滲んでいた。
だがスザンナは、どこか吹っ切れた表情で肩をすくめる。
「こうなってしまっては、もう最後まで付き合うしかないでしょう。それに……」
ひと息置き、淡々と続けた。
「何が起ころうと、責任を取るのはレオナルド校長ですから、安心していいですよ」
その一言で、場の空気が凍りついた。
直後、裁判官席の背後で、小さな扉がきぃ、と軋んで開く。
「よし、今のうちに……!」
裁判長が、こっそり裏口へ逃げ出そうとしていた。
それに気づいたエインが、思わず叫ぶ。
「誰か止めて! あいつ逃げるぞ!!」
瞬間、フレッドが眼光を変え、反射的に叫んだ。
「【防壁】!」
掲げた手のひらから半透明の光が走り、裁判長の目前に障壁が立ち塞がる。
「うわっ!?」
逃げ場を失った裁判長は壁にぶつかり、そのまま尻餅をついた。
静寂。
「……あ、あれ?」
フレッドは自分の手を見つめ、そのまま固まった。
「ナイスだフレッド!」
エインは親指を立て、屈託のない笑顔を向ける。
だがその笑顔を見た瞬間、フレッドは青ざめ、頭を抱えた。
「や、やっちゃった……完全に共犯だこれ……!」
◆
◇252:名無しの元引きこもり
わーい
無罪だ無罪
253:名無しの弁護士
>>252
画像
254:名無しの転生者
いや何があったの
255:名無しの転生者
再審無理って弁護士ニキが言ってたじゃん
◇256:名無しの元引きこもり
再審はしてないぞ。関係者全員の記憶を【記憶消去】で消して、最初からやり直しただけ。
【精神支配】も撃ってあるから、100%無罪で安心!
257:名無しの転生者
うーんこの
258:名無しの転生者
司法制度こわれる
259:名無しの転生者
無罪になったのにまた罪犯してんじゃねーよ!
260:名無しの転生者
罪を犯して無罪になったんだぞ
261:名無しの転生者
これもうわかんねぇな
◇262:名無しの元引きこもり
とにかくこれで真っ白な身になれた!今度こそ前科も消えた!
263:名無しの転生者
真っ黒定期
264:名無しの転生者
前科百犯定期
265:名無しの転生者
コイツやっぱり死刑のほうが良かったんじゃないのか
266:名無しの弁護士
だから画像は!?
こっちは全裸で待機してんだよ!!
267:名無しの転生者
必死すぎやろ
◇268:名無しの元引きこもり
>>266
すまん忘れてたわ
はいこれ、契約料ね
【kawaiko.png】
269:名無しの弁護士
うおおおおお!
270:名無しの転生者
かわヨ
271:名無しの転生者
スレンダー系か、ええ趣味しとるやん
272:名無しの転生者
イッチの通ってる学校の生徒か?
めっちゃ美人やんけ
273:名無しの転生者
でもなんか違和感があるような……?
274:名無しの弁護士
ふぅ……
なかなか良かったよ
275:名無しの転生者
>>274
もう賢者になってて草
◇276:名無しの元引きこもり
ちなその子は男ね
277:名無しの転生者
ファッ!?
278:名無しの転生者
なん……だと……?
279:名無しの転生者
こんな可愛い子が女の子のはずがない!
280:名無しの転生者
いや、むしろアリだな
281:名無しの弁護士
>>276
はあああああああ!?
よくも騙しやがったな!!
男の娘とかありえない話し!!
契約不履行で訴えてやる!!!
282:名無しの転生者
>>281
素質あるよ
283:名無しの転生者
バチ切れで草
◇284:名無しの元引きこもり
>>281
ワイは“女の子の写真”とは一言も言ってないが?
それに、“可愛い子の写真”もちゃんと貼った。
契約は守ったぞ。
285:名無しの転生者
確かに、めっちゃ可愛かったしな
286:名無しの転生者
カウンター食らってて草
287:名無しの弁護士
>>284
ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!
出したもの返せコラ!!
288:名無しの転生者
何を出したんだよ
289:名無しの転生者
ナニは丸出しだけどな
290:名無しの弁護士
あっまずい
291:名無しの転生者
何だ
292:名無しの転生者
どうした
293:名無しの弁護士
事務所で全裸絶叫してたの秘書に見られた。
通報もされたから警察来る。
294:名無しの転生者
えぇ……
295:名無しの転生者
職場で脱ぐな
296:名無しの転生者
今度はお前が捕まるのかよ




