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16/27

5-1 常犯首席、また破れる

【実況】ついに始まった戦闘訓練でワイの華麗なる勝利を目撃するスレ


 ◇1:名無しの引きこもり

 きたぞきたぞ


  2:名無しの転生者

 なにがきたんや


  3:名無しの転生者

 テンプレキタ───( ゜∀゜ )───!!!!


  4:名無しの転生者

 ついに初陣か


 ◇5:名無しの引きこもり

 せやせや、待ちに待った実戦形式の試合や。こないだはぶっ倒れてお前らにダサいとこ見せてもうたからな、今日は汚名挽回や! ……ってアレ? 名誉返上やっけ? まあどっちでもええわ!


  6:名無しの転生者

 どっちもよくないわ!


  7:名無しの転生者

 イッチの場合どっちも間違いじゃないけどね


  8:名無しの転生者

 そもそも勝てるんか? イッチって魔力少ないんやろ?


 ◇9:名無しの引きこもり

 >>8

 まかせろ、誰が相手でも勝てる作戦を用意してきた。申し訳ないが今日はワンパターンで全試合勝たせてもらうで!


 10:名無しの転生者

 ほんとに? どんな作戦よ?


 ◇11:名無しの引きこもり

 >>10

 それは試合が終わってからのお楽しみや。もう時間だから行ってくるで! 戦勝報告、楽しみにしとけや!


 12:名無しの転生者

 マジで何やるつもりなんや


 13:名無しの転生者

 ろくな事やらないのだけはわかる


    ◆


 訓練場の空気は、朝の冷気と張りつめた緊張とが混じり合い、澄みきっていた。石造りの観覧席には、生徒たちが肩を寄せ合い、ざわめきを抑えきれないまま詰めかけている。魔法学校に入学して最初の戦闘訓練。学生同士が魔法を以て力をぶつけ合う、初めての〝公開舞台〟だった。


 中央に立つのは、最初に名を呼ばれた二人。片や、名門貴族の子弟にして、優等生として知られるライナー・ゼイル。背筋を伸ばし、堂々と立ってはいるが、よく見れば視線は揺れ、内に秘めた緊張が隠しきれていない。そしてその正面、肩の力を抜き、気負いもなく立っているのが──首席入学の異端児、エインだった。軽く吊り上げられた口元。戦意よりも、場違いなほどの余裕が滲み出ている。観覧席の喧騒も、ただの背景音に過ぎないと言わんばかりに、足取りも表情も不自然なくらい軽い。


(……なんなんだ、あの雰囲気)


 ライナーの額に、一筋、汗が流れた。知っている情報では、エインの魔力量は最底辺。実技の成績もドベ、なのに首席。クラス分け試験や入学式で見せた得体の知れなさが、じわじわと警戒心を煽る。


 そのとき、訓練場に、張りのある声が響き渡った。


「両者、位置につけ。試合──開始ッ!」


 審判を務めるのは、例によってハーゲンだ。その声を合図に、張りつめていた空気が一変した。


 ライナーは反射的に魔力を込め、詠唱に入ろうとした──が、


『降参します!!』


 唐突な一言に、訓練場が凍りついた。その声は、紛れもなくライナーのものだった。明確に〝降参〟を宣言する言葉。


「……え?」


 ライナー自身が、目を見開いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今のは俺じゃない、違うぞ!」


 観覧席がざわめき始める。


「え? え? ライナー降参したのか?」

「いや、違うって言ってるけど……」

「でも、声は本人だったよな……?」


 混乱と困惑が渦を巻く中、口元を歪めるようにして、エインが一歩前に出た。


「ふふ、早速勝たせてもらったぜ」


「……な、なにをしたんだ?」


 問いかけるライナーに、エインは誇らしげに胸を張る。


「【声帯変調】って魔法だ。声質を自由に変えて喋る事ができる。つまり──俺が、ライナーの声で降参したってわけだ」


「…………」


 ライナーが口をぱくぱくさせて絶句する横で、観客のざわめきがピタリと止まった。あまりに想定外の〝勝利宣言〟に、誰も、理解が追いつかない。


「声は完璧。審判にも観客にも、〝ライナーが降参した〟と聞こえた。つまり俺の勝ちだな?」


 審判のハーゲンは、呆きれたように、深く、静かに鼻から息を吐いた。


「……エイン。声が誰のものに聞こえようと、その言葉を発したのはお前自身だ。お前が降参を宣言した。ゆえに──お前の負けだ」


「…………」


 エインの表情が、ぴたりと固まった。観覧席には、完全な沈黙が落ちる。


 試合開始から、一分と経っていなかった。


    ◆


 ◇16:名無しの引きこもり

 負けた


 17:名無しの転生者

 はえーよ


 18:名無しの転生者

 速攻で負けてて草


 19:名無しの転生者

 「誰が相手でも勝てる作戦」はどうした?


 20:名無しの転生者

 「誰が相手でも(イッチに)勝てる作戦」だったんやろ。


 21:名無しの転生者

 結局なんで負けたんだよ


 ◇22:名無しの引きこもり

 >>21

 魔法で相手の声マネして「降参します」って言ったら、なぜかワイが降参したこと

 になって負けた


 23:名無しの転生者

 アホすぎて草


 24:名無しの転生者

 よくその作戦で行けると思ったな


 25:名無しの転生者

 審判、有能。


 ◇26:名無しの引きこもり

 あのハゲ審判、マジで全然融通きかんやん……今日の試合、全部この作戦で通す予定やったの

 に……


 27:名無しの転生者

 試合ナメすぎやろ


 28:名無しの転生者

 作戦ってその一発芸だけかよ


 ◇29:名無しの引きこもり

 うわ、試合早く終わりすぎたせいで、もう次の試合の呼び出しや……まだ次の作戦なんも考え

 てへんのに、どないすんねん……


 30:名無しの転生者

 終わりやね


 31:名無しの転生者

 ちゃんとプランB用意しとけよ


 ◇32:名無しの引きこもり

 とりあえず試合しながら作戦考えるわ


 33:名無しの転生者

 それは作戦じゃなくてアドリブというのでは?


 34:名無しの転生者

 こいつがアドリブするとろくな事にならないぞ


    ◆


 訓練場に、ひときわ微妙な空気が流れていた。先ほどの試合──異端の首席、エインが放った奇策は、観客にある種の衝撃を与えたが、それは「感心」ではなく、「何がしたかったんだコイツ……」という困惑の共通認識へと変わっていた。エインに続いて名を呼ばれたのは、アナベル・フォートハイム──控えめな雰囲気の女子生徒だった。貴族の家柄に生まれたが、魔力量も実技の成績もいたって平均。特別目立たないが、堅実で、真面目な生徒だった。


「やべーよ……マジでどうしよ……」


 試合会場でうなだれているエインが呟くのを、アナベルは小さく聞き取った。あまりに気の抜けた声で、逆に不気味さを感じる。


(でも、あの試合を見たあとだと……変なことさえされなければ、普通に勝てる気がする……)


 とはいえ油断はできない。相手は〝首席〟。常識で考えた瞬間に、足をすくわれる。そんな予感だけが、拭えなかった。彼女は背筋を伸ばし、一つ息を吸って整える。手のひらに汗が滲んだ。


 対するエインは、観客から見ても分かるほど落ち着きがなかった。視線は定まらず、何かを考えている様子だけが、空回りしているように見える。そんなエインを一瞥すると、審判のハーゲンはやや面倒くさそうに声を張った。


「両者、構えよ──開始!」


 開始の号令と同時に、アナベルはためらわず初級の風魔法を放った。風を刃のように成形した、ごく基本的な一撃。一直線にエインへ向かって飛び──その軌道が、逸れた。風刃は正面を捉える直前で角度を変え、彼の脇をすり抜けるように通り過ぎていく。


「……?」


 一瞬、理解が追いつかなかった。今のは制御を誤ったのか。それとも、ただの偶然か。エインは動いていない。なら、原因は自分だ。


 アナベルは即座に詠唱へ入る。今度は魔力の流れを意識的に整え、出力を抑え、制御を優先した。

同じ初級魔法。外れる理由はない。二発目の風刃が、再びエインへ迫り──また、歪んだ。同じ角度。同じ狂い方。


 偶然じゃない。制御ミスでもない。自分の魔法が、途中で干渉されている。


 観客席がざわつき始める。それでも、アナベルは手を止めなかった。風、水、氷。属性を変え、間合いを変え、次々と魔法を放つ。だが結果は同じだ。いずれも直前で軌道が狂い、決定打にはならない。


(……当てられない)


 短く息を吸い、状況を飲み込もうとする。


 これが──首席の実力か。


 だが、同時に別の考えが浮かぶ。


(制御を奪われるなら……それを前提にした魔法ならどうだろう)


 そして次の一手。アナベルは初級の土魔法を選んだ。弾丸のように固めた岩を形成しながら、あえて魔力制御を少し緩め、砕けやすく調整する。


 放たれた瞬間、案の定、エインの干渉が入り、岩弾に圧力が加わった。


 制御を奪われた、そこが狙いだった。干渉によって内部の均衡が崩れ、岩弾は空中で砕け、いくつもの破片に散る。


 砕けた小石が空中に散り、そのいくつかが、パシッ、バチッと肌を叩いた。


 頬や腕、脇腹に当たったのは小粒の破片だ。──打撲か、擦り傷。せいぜいその程度。


 ……の、はずだった。


「ぐああああああああああっ!!」


 次の瞬間、エインは地面に崩れ落ちた。


「痛いってえええ!? 骨折れた!! これ絶対骨折れた!!」


 訓練場に響き渡る叫び。観客は呆気に取られ、アナベルは棒立ちになる。


(えっ、あの程度でこんなに……!?)


 アナベルは、倒れ込んだエインに軽めの風刃を放つ。それが彼の脇腹をかすめたところで──


「試合終了。勝者、アナベル・フォートハイム」


 ハーゲン教授の冷静な判定が響いた。


 観客席がざわつく前に、エインは床にうずくまったまま、小さく呻いている。


「まだ痛てぇよ……肋骨全部いっただろこれ……」


 あまりの情けなさに、誰も何も言えなかった。


    ◆


 ◇53:名無しの引きこもり

 なんか普通に攻撃食らって負けたわ


 54:名無しの転生者

 またですか


 55:名無しの転生者

 華麗なる勝利とは何だったのか


 56:名無しの転生者

 怪我とかしてない? 大丈夫?


 ◇57:名無しの引きこもり

 >>56

 怪我はしてへん。見た目だけはノーダメや。


 58:名無しの転生者

 けがなくてよかったね


 59:名無しの転生者

 毛がないのは校長定期


 60:名無しの転生者

 というか何でノーダメで負けてんねん


 ◇61:名無しの引きこもり

 >>60

 だから見た目だけノーダメって言ったやろ。威力は大したことなかったけど直撃が

 痛すぎて魔法の制御ができなくなったんや。


 62:名無しの転生者

 雑魚すぎて逆に愛しい


 63:名無しの転生者

 一発でも喰らったら負けって完全にオワタ式じゃん


 64:名無しの転生者

 痛みだけで制御できなくなるとか軟弱すぎるやろ(魔法兵並みの感想)


 ◇65:名無しの引きこもり

 >>64

 我、元引きこもりぞ? 痛みに強いと思うか?


 66:名無しの転生者

 偉そうに言うな


 67:名無しの転生者

 ウキウキで戦闘訓練してたやつが今更何言ってんだ


 68:名無しの転生者

 じゃあ次の試合どうすんのよイッチの攻略法完全にバレてるじゃん


 69:名無しの転生者

 まさかまたノープランじゃないよな?


 ◇70:名無しの引きこもり

 >>69

 いいや、とっくに作戦は思いついてるで。さっきの試合でわかったことがある。ワイほどじゃないにしても、〝痛みを与えれば相手も集中乱れる〟ってな。俺は……反省すると強いぜ……


 71:名無しの転生者

 あっ……


 72:名無しの転生者

 なんとなく作戦察したわ


 73:名無しの転生者

 次の対戦相手かわいそう


 74:名無しの転生者

 でも勝てるとは言ってない


    ◆


 訓練場に、三度エインの名が呼ばれたとき、観客たちはすっかり〝観察モード〟に入っていた。


 ──この首席、今度はどう負けるんだ?


 勝利を期待する者などもういない。その分、注目度だけはうなぎ登りだった。


 三戦目の相手、エルマー・グライスが余裕たっぷりの足取りで中央へと現れる。名門グライス家の跡取りにして、性格は推して知るべし。


「へぇ……次はお前か。首席様も、ずいぶん負け癖が染みついてきたんじゃないか? ま、どうせ庶民の親からポッと出で生まれたような奴に、本物の魔術なんてわかるはずないしな。お前の〝お里〟が知れるよ、ほんとに」


 言いながら髪をかき上げるその態度は、まさに絵に描いたような血統主義。


「エルマー、黙っていろ。両者、位置につけ。試合──開始」


 ハーゲンの声が響いた刹那、エインの指先が震えた。次の瞬間、空気を裂くような閃光が奔る。シュバッ、と鋭い音。細く、鋭利な線のような光が一直線に走り、エルマーの身体に突き刺さった。


 次の瞬間──


「……ッ、あ、あああああああああああッ!!」


 喉の奥から噴き出すような絶叫。エルマーの身体が硬直し、そのまま糸が切れたように地面へ崩れ落ちた。


「いだっ……あつ、あついっ、あっついッ……!!」


 床を爪で掻きむしり、全身でのたうち回る。


「なんだこれ……体が、焼けてる……っ!」


 口元には泡がにじみ、焦点の合わない目が虚空をさまよう。意味のない抵抗のように腕を伸ばし、喉を震わせて、叫ぶ。


「やめて……やめてくれ……ッ! 頼む……殺して……殺してくれえッ!!」


 あまりの悲鳴に、観客席は一瞬で凍りついたように静まり返った。そして、痛みに耐えきれなくなったのか──エルマーは凄絶な表情のまま、力尽きた。


 その様子を、エインは無表情でじっと見下ろしていた。誰もが言葉を失い、空気は張りつめたまま動かない。その沈黙の中で、エインは一歩、二歩と前に出る。


 重たい沈黙が続く──


 ……と思った瞬間、エインはくるりと観客の方へ振り返り、満面の笑みでピースサインを掲げた。


「どうだ! これなら文句なしの完全勝利だろ!」


 あまりの軽さに、場が取り残される。数秒の沈黙ののち、観客席がざわめき始めた。


「……え、なに今の魔法……普通にヤバくなかったか?」

「人に向けて撃っちゃいけない部類のやつだろ、あれ……」

「禁止魔法じゃねーの!?」


 その言葉を受け、ハーゲンの目がギラリと光った。


「貴様……今のは精神魔法の中でも、全面的に使用が禁じられている拷問魔法、【苦鳴掌握】(スクリームハンド)だな? 

それがどういう重大な法規違反か、わかっているのか?」


「違いますよ」


 エインは即座に否定した。


「これは俺が、たった今新しく開発した攻撃魔法──【痛覚刺激】(ペインシグナル)です。対象の神経系に電流を流し

て、物理的に痛覚だけを刺激する──まぁ、ただのちゃちい電撃魔法ですね」


「ふざけるな……やっていることは【苦鳴掌握】と何一つ変わらんだろうが!」


「いえいえ、違いはありますって。【痛覚刺激】は神経を直接ぶっ叩いてる分、痛みは【苦鳴掌握】よりずっと強いんですよ! しかも合法!」


「余計タチ悪いだろうが!!」


 ハーゲンが思わず素に戻って怒鳴った。その横で、エルマーは今も床に横たわり、身体を小刻みに震わせている。


 ハーゲンはこめかみに指を当て、深いため息をついた。


「……相手の戦闘不能を確認。ただし、使用された魔法は合法の範囲であっても、試合形式における安全基準を著しく逸脱している。よって──エインを反則負けとする」


 観客席のざわめきが、ぴたりと止まった。三戦三敗。その事実が、静かに、しかし確実に刻まれる。


 エインはその場に立ち尽くし、納得がいかないといった顔で、ぽつりと呟いた。


「なんで……勝ったでしょ。どう見ても……」


 その声は誰にも届かず、未だ痙攣するエルマーの、地面を叩く音にかき消された。

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