4-x 暴きヒッキー
放課後の教室に、まばらに残った生徒たちの声が響いていた。窓の外はすっかり夕暮れ。オレンジ色の光が差し込む中、僕は隣の席でカバンを整理しているエイン君を見ながら、一つの疑問を口にした。
「ねえ、昨日教えてもらったあの魔法……その、【隠形看破】ってやつ……実はまだよく分かってないんだけど、結局どういう魔法なの?」
「ん? ああ、アレね」
エイン君はあっさり頷くと、椅子の背もたれに体を預けた。
「簡単に言えば……カツラを暴く魔法だ」
「……は?」
一瞬、聞き間違いかと思って聞き返したが、彼は当然のような顔をしている。
「いや、マジで」
「また冗談でも言ってるの?」
「だからマジだって。そもそもこの魔法を開発したのも俺だし、使えるのは俺と、俺が教えたお前だけだ」
誇らしげに語る彼の姿に、僕は言葉を失った。
……そんなくだらない用途の魔法を、あんな真面目な顔で、しかも徹夜してまで覚えさせられたのか。僕の睡眠時間を返してほしい。
「な、なんでわざわざそんな魔法を……?」
「いや、最初はただの暇つぶしで作ったんだよ。でも、使ってみたら意外と便利でさ。原理的には、〝人が隠してるもの〟なら何でも感じ取れる。……まあ、そのためにはカツラをはっきり感じ取れるようにならないとダメなんだけど」
……どうして最初がカツラ特化で、そこから隠しもの全般になるんだろう。順番、絶対におかしい。
「……その、感じ取るって、どういう仕組みなの?」
「それがな、ちょっと複雑なんだけど──まず基本構造は【音響探査】。魔力で擬似的な音波を発生させて、対象の物体を探るんだ。で、そこに【精神感応】を組み合わせて──」
エイン君の語調が、急に滑らかになった。
これは、来る。
「無意識下で『隠しているものはあるか?』って問いかけると、対象者の精神が、その物体に一瞬だけ意識を向ける。それを──」
「も、もう大丈夫だから! 分かったから!」
頭がついていかなくなった僕は、慌てて手を振って話を止めた。まさか、カツラ暴きにこんな複雑な理論が必要だなんて。
「と、とりあえず! なんか見本とかないの?」
「お、いいタイミング。あそこ、見てみ」
エイン君に促され、僕は窓の外へ視線を向けた。中庭を横切って、ハーゲン教授が歩いているのが見える。
「昨日教えたとおりに使ってみろ。そうすれば分かる」
言われるがまま、僕は恐る恐る指先に魔力を集めた。脳裏に魔法の構文を思い浮かべて、
「【隠形看破】……」
その瞬間、僕の視界がきらりと揺れた。世界の輪郭が、ほんの少しだけズレたように感じる。
「……なんか、ハーゲンの頭のあたりが……変に、違和感あるような……?」
「当たり。あれ、ご存知の通りヅラね」
「……やっぱりそういう使い方なんだ……」
僕が小さくツッコむと、エイン君は満足そうに口元を緩めた。
「慣れれば、もっと色々分かるようになる。たとえば、あいつの鞄の中には予備のヅラが入ってる」
……結局ヅラじゃないか。それに予備が必要になったの、どう考えても君のせいだろう。
僕はそう思いながらも口には出さず、当たり障りなく頷いてみせる。
「……へ、へえ。そんなところまで分かるんだ……」
僕がそう返しただけなのに、エイン君の目がじわりと光った。
「よし、じゃあ次は実演だな! もっとすごいの見せてやる!」
彼は勢いよく立ち上がると、僕を置き去りにして教室の外へ飛び出していく。
「ちょ、どこ行くの!? やめ──!」
僕の制止も虚しく、廊下に出たエイン君は次々と魔法を放ち始めた。
「お、あの教員もヅラ! 男子生徒の一人、ポケットの中はあぶないお薬! 別のやつは奥歯に毒仕込んでるぞ──どっかの国のスパイだな! ほら、窓際の女子生徒のブローチ、あれは古い王家の血を引いてる証! で、廊下のメイドはナイフを大量に隠し持ってる! かっけー!」
「ちょ、やめなって!! やめなさいってば!!」
僕は後を追いながら叫ぶが、彼の暴走は止まらない。
「……あ、あの女子制服の可愛い子……実は男子!? マジかよ! 普通に好みのタイプだったのに!!」
「……いや、今の中で一番反応するのそこ!?」
もう限界だった。僕は頭を抱え、深いため息をつく。
──夕焼けの中、魔法の光とエイン君の騒ぎ声が、静まり返った校舎にこれでもかと響き渡っていた。
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