4-1 不適格にも程がある!
【悲報】魔法学校の授業、地獄
◇1:名無しの引きこもり
授業中だけど暇すぎてスレ立てた助けて、脳が腐る
2:名無しの転生者
でたわね
3:名無しの転生者
元々腐ってるだろ
4:名無しの転生者
てか何の授業受けてんのよ
◇5:名無しの引きこもり
>>4
「火球の正しい発動手順」だってよ。そんなもんあるかいな……
6:名無しの転生者
えっ火球って普通に「燃えろォォ!」って叫んで出すのが正解じゃないの
7:名無しの転生者
>>6
おまえんちの火球荒ぶりすぎだろ
8:名無しの転生者
でも火球って燃焼+構成制御+方向付け+魔力流動管理が基本構成じゃね?
9:名無しの転生者
>>8
急に真面目なやつ来るのやめろ
10:名無しの転生者
おれの魔法は気合で出す派
11:名無しの転生者
おれの魔法は尻から出る派
12:名無しの転生者
まぁそこら辺の法則は転生先によるわな
13:名無しの転生者
>>11
流さすが石に尻から出る法則はありえない
14:名無しの転生者
ワイの転生先は魔法すらないぞ魔法使ってみたかったのに(´;ω;`)
◇15:名無しの引きこもり
うわー、またハゲ教授がワイのこと指してきた。たった一回ヅラ剥がしただけなのに、まだ根に持ってんのか?
16:名無しの転生者
毛根はないのにね(笑)
◆
「魔法とは、魔力を物質や現象に変換する技術であり……」
入学してから、いくつかの授業が始まっていた。広い教室に整然と並ぶ机、黒板の前に立つ教授。
そのどれもが、ごく当たり前の学校風景のはずなのに、僕の中ではまだ、どこか現実感が追いついていない。ここが本当に、魔法学校なのだという実感が、少し遅れてやってくる。
僕は背筋を伸ばし、気持ちを切り替えるように、改めて教壇へと視線を向けた。
座学の授業は、魔法の仕組みや構造を理論から学べる、貴重な時間だ。本来なら、新しい世界の知識に触れる喜びで胸が高鳴っていてもおかしくない。実際、内容そのものは興味深いし、聞き逃したくもない。──はずなのだが。
……教室の隣に座る彼、エイン君の様子は、それとはだいぶ違っていた。
「詠唱には、明確なイメージが必須で……」
教授の声が淡々と続く中、今日も、エイン君は肘をつき、ぼんやりと宙を見ている。焦点の合わないその瞳は妙に澄んでいて、ただ呆ほうけているわけでもないらしい。きっと、頭の中では別のことを考
えているんだろう。
「エイン!」
唐突に怒声が教室に響き、張りつめた空気が一瞬で広がった。
「あっ……」
僕は思わず、短く息をつく。声の主は、よりによってハーゲン教授だった。例の──試験で秘密を暴かれてしまった教授だ。その因縁もあってか、教授はエイン君を名指しで当てることが多い。今日も、その流れらしい。
「お前に質問だ、エイン! 【火球】の発動に必要な正しい手順を言ってみろ!」
その声には、隠しようもなく罠の気配が滲んでいた。エイン君が何を答えようと、噛みつくつもりなのだろう。
エイン君は、ゆっくりと現実に引き戻されるように視線を動かした。すでに、教室中の視線が一点に集まっている。
「あー……正しい手順?」
少し困ったように頭をかき、間を置く。
「……そもそも魔法に、正しいとかないでしょ」
……あ、これ絶対まずいやつだ。
「ふざけるな! 質問に答えろと言っている!」
案の定、ハーゲン教授が怒りをあらわにする。
エイン君は少し思案すると、面倒そうに口を開いた。
「……じゃあ、空気中の酸素を集めて、火花で着火して、それを球形に保ちながら、全体に運動エネルギーを加えて──発射……ってのが一番効率いいんじゃないんすかね?」
数秒の沈黙。教室全体が固まった。
「なっ、なにを訳の分からんことをッ……!」
ハーゲン教授は目を見開いたまま、言葉にならない声を漏らした。そして、机をドンと叩き、立ち上がる。
「酸素? 火花? 運動エネルギー? 何をぬかしている! 魔法にそんな回りくどい手順は必要ない!」
彼は手のひらを突き出し、即座に【火球】を生成してみせた。大きく、乱暴に渦を巻く火球。
「炎を出す。形を保つ。前に飛ばす。まずは、それを覚えろ!」
「えー、そっちのが早いだろうけど、めっちゃ魔力効率悪いじゃん……」
エイン君が、ほとんど独り言のように漏らす。その声は小さかったが、教室の空気は確かに張りつめた。
「──貴様ァ!! 出ていけッ!」
ハーゲン教授の怒声に、クラス中が一斉に身をすくめる。
「そんな屁理屈ばかり抜かすような奴は、教える価値もない!」
エイン君は特に反論する様子もなく、椅子を引いて立ち上がり、何も言わずに教室を後にした。
……と、思ったその瞬間。
「これだから頭の硬いロートルは……【魔路切断】」
扉の向こうで、低い声が呟かれる。
そして教室の扉が閉じた。
──その直後。
バサッ。
ハーゲン教授の頭頂から、何かが滑り落ちた。それが何かを理解するまで、みんな、ほんの数秒、声も出なかった。だがそれもつかの間、すぐさま喧騒が教室を支配する。
僕は、そっと目を逸らす。
ああ、もうダメだ。今日の授業は完全に終わった。そしてたぶん、明日も、また波乱の一日が始まる。




