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3-3《燦光の儀式/Radiant Ritual》

この呪文を唱えるための追加コストとして、(黒)(黒)(黒)を支払う。

◇115:名無しの元引きこもり

 助けて


 116:名無しの転生者

 おかえり


 117:名無しの転生者

 はえーよ


 118:名無しの転生者

 いつもの


 119:名無しの転生者

 で、今度はなにやらかしたん?


◇120:名無しの元引きこもり

 魔法陣起動しない


 121:名無しの転生者

 それってさっき言ってたなんか光るってやつ?


 122:名無しの転生者

 魔力流すだけだって自分で言ってたじゃん


 123:名無しの転生者

 なんで起動しないの、壊れてたとか?


◇124:名無しの元引きこもり

 >>123

 いや、普通にワイの魔力が足りなかった。


 125:名無しの転生者

 えぇ……


 126:名無しの転生者

 無能すぎない?


 127:名無しの転生者

 イッチって魔法チートあるんやろ?

 それでも魔力足りないってどういうこと?


◇128:名無しの元引きこもり

 >>127

 ワイのチートは細かく言うと〝魔法の知識〟だけなんや。魔力量そのものはマジで最底辺やで。


 129:名無しの転生者

 それで起動せんかったのか


 130:名無しの転生者

 よく今まで問題にならなかったな


 131:名無しの転生者

 まぁ首席なれるような奴なら魔力も十分あるやろうからな


 132:名無しの転生者

 なお今年の首席


 133:名無しの転生者

 結局どうすんの、中止?


◇134:名無しの元引きこもり

 >>133

 今は魔力回復薬がぶ飲みしながら再挑戦してる。でもクソまずくて飲むのが大変。


 135:名無しの転生者

 式典中の飲食は厳禁ですよ!


 136:名無しの転生者

 飲みにくいならはちみつとか入れれば?


 137:名無しの転生者

 ポーションなんてまずいのが相場やろ、そのまま飲むのがマナーだぞ。


◇138:名無しの元引きこもり

 あーなんかお腹パンパンになってきた。このままだと吐くかも。


 139:名無しの転生者

 吐くな


 140:名無しの転生者

 がんばれ!

 諦めるな!


 141:名無しの転生者

 公衆の面前で嘔吐したらまずいですよ!


◇142:名無しの元引きこもり

 だから本当にまずいんだよこの薬。本当に限界なんだけど。


 143:名無しの転生者

 そういう意味じゃねぇよ


 144:名無しの転生者

 まだいけるって!

 もっと飲もうよ!


 145:名無しの転生者

 それイッキ!

 イッキ!

 イッキ!


◇146:名無しの元引きこもり

 あ


 147:名無しの転生者

 何?


 148:名無しの転生者

 やっちまったか


 149:名無しの転生者

 ゲロった?


◇150:名無しの元引きこもり

 うん、ゲロっちゃった。まぁしゃーないか。


 151:名無しの転生者

 しゃーなくないだろ。


 152:名無しの転生者

 全校生徒の前で汚い絵面流すな


◇153:名無しの元引きこもり

 >>152

 それは大丈夫、ゲロった瞬間にゲーミングカラーに光らせたから。


 154:名無しの転生者

 草


 155:名無しの転生者

 そっちを光らせてどうすんだよ


 156:名無しの転生者

 逆に見てみたいわ


 157:名無しの転生者

 もうどうすんだよ、儀式ってやつも終わらないじゃん


◇158:名無しの元引きこもり

 マジでどうしよう、会場もものすごい空気になってる。


 159:名無しの転生者

 そらそうよ


 160:名無しの転生者

 これが首席のやることか…?


 161:名無しの転生者

 今度こそ入学式は中止だな


 162:名無しの転生者

 詳しくはわからんけどその儀式ってやつが終われば収まりがつくんちゃうか?

 イッチのチートでなんとかならんのか


 163:名無しの転生者

 確かに、魔法知識があるってんなら魔法陣の効率化とかできるやろ


◇164:名無しの元引きこもり

 >>163

 それや! 術式の構成見直せば、必要魔力を減らせるはずや! ワイの得意分野やからな!


 165:名無しの転生者

 ほんとぉ?


 166:名無しの転生者

 今度もやらかすやろ


◇167:名無しの元引きこもり

 大丈夫だって!

 効率化の方法も思いついたし!

 もう校長が最後の挨拶してるけど泣きの一回たのんでくる!


 168:名無しの転生者

 がんばれ~


 169:名無しの転生者

 入学式終わるところだったのかよ


 170:名無しの転生者

 もう何もしないほうがいいだろ


    ◆


「では最後に、レオナルド校長から締めのご挨拶をいただきます」


 司会の声が響き、ざわついていたホールが、ようやく静まり返った。……長かった。入学式は、とにかく色々なことがあった。……本当に、色々なことが。


──「あっ、これ無理!」

──「光出すだけなのになんでこんな魔力喰うんだよ!」

──「魔力回復薬、ありったけ持ってきて!」

──「まっず! なんだよこれ、腐ってんのか!?」

──「はちみつとかない?」

──「いつまで魔力込めればいいのこれ!?」

──「もう無理……入らない……」

──「ヴォッ」


 ……うん。思い出すんじゃなかった。色々あった結果、【啓導の光輪】は前代未聞の延期となった。式は仕切り直され、ようやく、終わろうとしている。


「──それではレオナルド校長、よろしくお願いします」


 今度こそ、何も起きないだろう──。


「コラッ、あなたは引っ込んでいなさい!」


「もっかいだけ! もっかいだけお願いします!」


 ……一瞬でもそう思った僕がバカだった。舞台裏から、教師を引きずりながらエイン君が再登場──いや、これは登場じゃない。乱入だ。足が床を擦る音と、慌てた制止の声が、静まり返ったホールにやけに響く。


「エイン君、落ち着きなさい。今は校長の──」


「このまま失敗したままじゃ終われません! 今度こそ、絶対にできます! お願いします!」


 彼は教師の手を振り払い、校長の前に立つと、深く頭を下げた。その声は、今までに聞いたことがないほど真剣だった。……正直、信じがたい光景だった。言動には問題がある。致命的なくらいに。だが、それでも──彼の魔法の才能と、この場に舞い戻ってきた熱意が、本物であることだけは否定できない。


(少し見直したかもしれない。……いや、悔しいけど、ほんの少しだけ、だ)


 校長はしばらく黙って彼を見つめ、そして表情を緩めた。


「……そこまで言うのなら。やってみなさい」


「ありがとうございます!」


 エイン君は顔を上げると、ぱっと表情を明るくした。切り替えが早すぎる。


「では、王立秘術院の職員諸君。申し訳ないが再度、陣の顕現を──」


「いえ、自分でやります。たしか、こんな感じで……【秘式顕現】(アンシールライト)!」


 校長の言葉を遮り、エイン君が魔法を放つ。次の瞬間、床に刻まれた紋様が淡く光り、先ほどと同じ魔法陣が足元に浮かび上がった。……一度見ただけの魔法を、そのまま再現した? 冗談だろ。才能、なんて言葉じゃ片づけられない。


「……あれ、なんだこれ?」


 不意にエイン君が呟く。次の瞬間、足元が淡く脈打った。気づいたときには、生徒たちの足元──いや、ホール全体を覆うように、巨大な魔法陣が広がっていた。教師たちが一斉にざわつく。どうやら、彼らにとっても完全な想定外らしい。ただ一部──王都から来たという職員たちだけが、明らかに様子が違った。驚きではない。焦りだ。


(……なんで、あの人たちだけ?)


「そうか、これか!」


 対照的に、エイン君は満面の笑みで指を鳴らす。


「コイツのせいで、ムダに魔力食ってたんだ! なら、このパスを切れば──【魔路切断】!」


 詠唱と同時に、魔法陣の光が歪む。次の瞬間、床を覆っていた巨大な陣は、跡形もなく掻き消えた。


「ついでに【構文再編】(リライトスクリプト)! 構成いじって、魔力効率も上げときました! これで準備OKです!」


 自信満々の報告。……いや、あの魔法陣、何十年も使われてきた由緒正しいものじゃなかったか? 勝手に構造を変えていい類のものだったのか、それ。


「レガシーシステムの保守くらい、やっといてくださいね! では、いきます!」


 僕の疑問など意にも介さず、エイン君は再び魔力を流し込む。今度は、魔法陣が素直に応えた。光が集まり、渦を巻き、天井へと昇っていく。輝きが最高潮に達した、その瞬間──視界の上方が、まばゆく弾けた。


「……!」


 僕たちは一斉に顔を上げた。天井には、幾何学的な模様で構成された、美しく複雑な学校の紋章が浮かび上がっていた。淡い光が揺れ、紋章全体を包み込む。


 なるほど。これは──確かに「儀式」と名がつくのに相応しい。


 ただ美しいだけではない。どこか厳かで、見上げているだけで背筋が伸びるような、静かな圧があった。


 生徒たちから、思わずといった調子で感嘆の声が漏れる。


「すごい……」

「これが、本物の儀式魔法……」

「こんなの、今まで見たことない……」


 誰もが、しばし言葉を失い、その光景に見惚れていた。──だが。


「……あれ? なんか色、変わってきてないか?」


 訝しげな声に釣られ、再び紋章を見上げる。純白だった光が、次第に淡い緑へ。そこから水色、紫、赤、オレンジ、黄色へと──まるで波打つように、色が移ろっていく。


「さっきのお詫びに、ゲーミング紋章をお楽しみください!」


 エイン君の声が、ホール中に響き渡った。神聖さは、あっという間に消え去った。紋章は虹色にチカチカと輝き、やたらと主張が激しい。……というか、あの色。ちょっと前に、彼の口からも飛び出してなかったか?


「エイン、貴様……神聖な紋章を、なんと心得るか!」


 怒声とともに、ハーゲン教授が壇上へ駆け寄る。エイン君の襟首を掴み、そのまま舞台袖へと引きずっていった。


「ちょっ、待って! まだ途中なんですって! 放してくださいってば!」


 魔力注入に集中していた彼は、抵抗する間もなく、あっさり回収された。紋章は数秒ほど、名残惜しそうにギラギラと輝き続け、やがて光を失い──天井は、元の石造りの暗がりに戻った。


 ……また、混乱のまま終わってしまったな。呆れたような、笑いたいような、不思議な感覚が胸に残る。だが。


「なんか……あれもあれで綺麗だったかも」

「うん。最初のやつも良かったけど、こっちもインパクトあるよね」

「もっと見ていたかったな……ああでも、なんか頭クラクラする……」


 生徒たちの反応は、意外にも前向きだった。ゲーミング紋章、か。……まあ、言われてみれば、たしかに綺麗ではあった。ただ一つだけ、確信をもって言える。──あの色は、絶対に目に悪い。

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