Adolescence
「ねえ、好きな英単語を一つ言ってみて」
「は? 何よ藪から棒に」
「良いから。てか『藪から棒に』ってリアルで初めて聞いたわ。本当に言う奴って存在したんだ」
「存在するからその言葉が存在するんでしょうよ。それでなに? 今度は何の影響かしら?」
「良いから。てか私がいつも何かに影響されてるみたいな言い方やめてくれる? 私は常に自分の考えで生きてるの。独立した個人なの」
「これまでの言動からの正当な評価よ。貴方が『独立した個人』なら、スーパーで泣き喚いてる五歳児だってそうなるわね」
「それは流石に言い過ぎでしょ。てか良いから答えてよ。あ、もしかして英語が分からないから答えられないの? 貴方にはちょっと難しい質問だったかしら?」
「ええ、そうなのよ。私には英語はちょっと難し過ぎるから、貴方の質問には答えてあげられないわ」
「ちょっと! そんなわけないでしょ!? どうしてそんな意地悪を言うの?」
「……今のやり取りを客観的に見たら、先に意地悪を言ったのは貴方だと思うけど」
「ちょっとした冗談じゃない。謝るから教えてよ。好きな英単語を答える位別に良いでしょ?」
「私も冗談よ。でも、何を企んでいるのかが分からない限りはその質問に答えてはあげられないわ」
「えー? 何も企んでなんかいないってば。良いから教えてよ、ケチ」
「……人をケチ扱いする前に、そこまで言うならまずは貴方からその情報を開示するべきじゃないかしら?」
「えー? 先に聞いた後に私のを発表するつもりだったのに。でもまあ、そこまで知りたいなら仕方が無いから教えてあげてもいいよ?」
「いえ結構よ。私は別にそこまで興味がある訳でもないし」
「わー! だから冗談だってば。私が好きな英単語はね、ほら、あれだよ。あどれっ……せんす? ってやつ」
「adolescence。春機発動期の事ね」
「しゅんき? 違うよ、あどれっ……せんすは青春って意味だよ。良いよね、青春」
「なるほど、覚えたての単語を披露したかったのね。本当に五歳児並の精神構造だったとは流石に驚きだわ」
「違うよ!? いや違わないんだけど、響きや意味が気に入ったのは本当だし、その言い草は流石に酷くない?」
「だって事実じゃない。それを初めから披露するなら兎も角、その為に私にあんな質問をして来るなんて幼稚と言わざるを得ないわ。でも目的を果たせたのだからもう気が済んだでしょう? ならこの話はこれでおしまいね」
「わー! 待って待って、その事は悪かったって。でも私の好きな、もとい好きになった英単語を聞いて欲しかったのは確かだけど、貴方のそれを知りたいのも本当なんだって!」
「……そう。そこまで言うなら別に減るものでもないし答えてあげる。私の好きな英単語は……まあ、一つ選ぶとすればObliterateね」
「おぶり……なに? 聞いた事無い単語だけどどういう意味?」
「Obliterateよ。それくらい自分で調べなさい……と言いたいところだけど、どうせ綴りも分からなくて無理だろうし教えてあげる。Obliterateは『抹消』という意味よ。まあ、厳密には動詞だし『抹消する』とか『消滅させる』とかになるみたいだけど、私的にはもう『抹消』としか訳せないわ」
「へー……ってか、さっきから聞こえて来る訳がなんか物騒なんだけど、なんでそんな英単語が好きなの?」
「それが私にとってはまさにAdolescenceだったからよ。『Tempest』も捨て難いけど、一つを選ぶならやっぱり『Obliterate』の方ね」
「?? え? 抹消させるのが青春だったって事? え死神か何かだった!?」
「貴方にとってのそれにならいつでもなってあげても良いけどね」
「ひーっ、お助け―! で、また知らない単語が出て来たけど、そっちはどういう意味?」
「Tempestね。まあ、『嵐』と訳すのが普通でしょうけど、私的にはこっちも『大暴風雨』で決まりね」
「へー? って、また何だか物騒な単語だなあ。何? 実は心の内には抑え切れない破壊衝動があるって事? 中二病患者だった?」
「貴方に対してならちょくちょく感じてるわね。何なら解放してみせましょうか」
「ひーっ、お助け―! てかそれも貴方の青春なの? 一体どんな青春を過ごして来たの?」
「それはご想像にお任せするわ」
「えー、良いじゃん、減るもんじゃないし。ケチ」
「……数分前の記憶も無いのかしら? 鶏も吃驚の記憶能力に私も心底驚いているわ」
「?? 数分前? 何の話??」
「……人をケチ扱いするならまず貴方の情報を明かしなさい、と言ったでしょう」
「ああ、つまり私の青春時代の話を聞きたいって事ね?」
「いえ結構よ。別に大して興味がある訳じゃないし、聞いたら私も話さなきゃいけなくなるでしょう」
「え? 私の話には興味無し!? 流石に酷くない!?」
「……全く無いとは言っていないでしょう。まあ、そこまで言うなら聞いてあげても良いわ。話してみなさい。貴方の『青春時代の話』って奴をね」
「へへ、そう来なくっちゃ。私の青春時代はねー、凄かったんだから。何が凄かったかと言うと、もう本当に凄くってこう――」
「もう結構よ。無理を言った私が悪かったわ。貴方にはそう呼べる様な時代が無かったからこそ、Adolescenceなんて単語に憧れを抱いたのよね」
「え、打ち切り!? てか流石に酷い言いぐさじゃない? 私の青春時代は本当に凄かったんだから……」
「はいはい。でもその話はまた今度にしましょう。そんなに凄かったなら、その話はきっと大長編になるでしょうから」
「えー? まあ良いか、約束だからね。その時には私の青春時代の話でその顎を外させてあげるから」
「それは普通に嫌だから、やっぱり止めておきましょうか」
「わー! だから冗談だってば!」




