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本の扱い

 それからメイドに連れられ、風呂に入れられた。

 小さな樽に入ったぬるい湯を使って体を拭くのではなくて、広くて大きなバスタブ、いい匂いの石鹸、それらを使って汚れを落とすと、新しい洋服が用意されていた。

 お湯の中に入るのには抵抗があったけれど、入ったら至福だった。寒さがいっさいなくて、気持ちが良くて。その後での新しい洋服だ。


「わぁ」


 きれいな服だった。あたたかくて柔らかくて。

 ユイは着替えてからメイドに従って書斎へと戻った。


「魔導師様~」


 部屋に入ると、書斎の主は机で書き物をしていた。ちらりと視線をあげたが、すぐに書類へと目を戻してしまう。


 ユイは邪魔はしちゃいけないと思って、暖炉の前の毛の長いラグに座り込んだ。さっきまで、暖炉の前は床だった気がした。いつの間にこんなラグが敷かれたのだろう。ふかふかしていて、とても気持ちがいいしあたたかい。


 ここ数日、雪の中にいたので暖炉の火のぬくもりと、ふかふかの絨毯が嬉しくて仕方ない。


 ふかいふかい息をついた。

 息をつくと体から力が抜けて、立っていられずに座り込み、ついで横になった。奉公先でユイの寝床は藁ふとんだった。あったかかったし、眠る時はうれしかったけれど、この絨毯は格別だ。今までのどんな藁布団より気持ちがいい。


 普通ならばすぐに眠くなりそうだが、ユイは魔導師の気配をずっと追っていた。傍に人がいる気配に、緊張しているのかもしれないし、嬉しいのかもしれない。正直、ユイにもよく分からない。


 体が充分に温まると、ソファに座った。メイドがすぐにお茶を運んできてくれる。そのあたたかい飲み物を飲んで、ユイは魔導師がまだ本を読んでいるのを見る。


 難しそうな本だ。


 ユイは壁いっぱいに並んでいる本を見渡して、ソファから降りると手近な本を手に取った。重くて両手に抱えて本をテーブルに置く。


 静かな部屋に紙がこすれる音が響いた。ページをめくると音が気持ちよく響く。ユイが見ているのは数箇所に描かれた挿絵だ。

 近くに体温の気配を感じてユイは顔を上げた。魔導師はすぐそばにいて、ユイの手にそっと触れた。


「破れる」


 魔導師が本を静かに取り上げた。あまりにも近くて、ユイは呼吸をするのも忘れそうだった。いつの間にか毛布がユイに掛けられた。暖かな感触に、本を取り上げられたショックはどこかに行ってしまう。


「寝るといい」


 低い声に、ユイは涙があふれそうになった。ゆっくりと机に戻って行く魔導師の背中を見つめながら、毛布をにぎりしめる。


 声が聴けた。

 ユイは、魔導師の大きな背中ときれいな金色の髪をぼんやりと眺めて、本を読む姿に安心して眠くなった。


 真新しい靴を脱いで、ソファに横になると暖炉の火のはぜる音と魔導師のかすかな本を読む音、窓に吹き付けてくる風の音を聞きながら眠った。



短いですが……

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