ごはん
ユイは魔導師から怖さがなくなっていることに気付いていた。雪のなかで最初に会ったときと同じ優しい感じだ。
ユイは、白い布に入っているお菓子を少し食べたが、それが呼び水になったのか、本格的にお腹が空いてきた。手持ちのパンやチーズを目の前の小さなテーブルに出す。
あ、飲み物がない。
マグはあるので出す。固いパンだし、固いチーズだから水がなければ飲み込むのに、よくよく噛まなければならない。
お水を汲まないと。井戸はどこだろう。ユイはマグをテーブルに置いた。きっと下の階にあるか、庭にあるはずだ。
明日は屋敷の中を探検してみよう。
メイドがそばに来て、テーブルに広げた食べ物を回収しはじめた。マグも持って行ってしまう。
「それ、ユイのごはんだよ」
「あちらで」
メイドは扉の外をしめした。
ここで食べてはいけないってことだ。ユイは慌てて立ち上り、メイドについて廊下に出た。廊下は書斎に比べたら寒かった。
魔導師も部屋の外に出てきた。ユイは魔導師の後ろについて歩いた。
同じ階の部屋に行くと、夕食が用意されていた。
見たことしかない白い柔らかそうなパン、湯気を立てているスープ、焼いたお肉、マッシュポテト。
「どうぞ」
メイドが椅子を引いてくれた。
座っていいということは、これはユイのごはんだ。
「魔導師様、ユイのごはん……、ありがとうございます」
魔導師様がきれいな所作で、食事をはじめた。
目の前に置かれている料理はすごいご馳走だ。持ってきたモノとはまったく違う。
いつも黒い固いパンや、野菜の切れ端、固いチーズの欠片、干し肉などを食べていたので、こういった料理は食べたことがない。
頬がおちるかと思うくらい美味しい。
「おいしいね」
ユイは何度も美味しいを繰り返し、食べ物を頬張る。ナイフやフォークの使い方など分からなかったので、ユイは適当に食べた。マグにたっぷりと温かいミルクが入って出てきた。
飲んでみたら、なんとハチミツの味がした。はちみつ! 小さなころに一度だけ、お嬢様のパンからしたった一滴のしずくが、たまたまユイの手についたときに舐めた味だ。
ミルクだっておぼろな記憶のなかにしかない。
んー……。
しあわせな味だ。
食事も終盤になると、果物が出た。
魔導師も食事を終えて、最後に果物ではなく。グラスに入った水のようなものを飲んでいた。
ユイは果物を手に取って、匂いを嗅いだ。甘い。うっとりするくらいに、甘くて、みずみずしい匂いがした。
メイドが果物をユイの手から取り、ナイフで皮をむいてくれた。フォークで刺して、ユイに渡してくれる。
果実はみずみずしくて、甘くて、冷たかった。
この世で一番おいしいと思うくらいに、夢のように美味しかった。ミルクのハチミツ入りのも、すごくおいしかった。お肉だって、野菜だって、こんなに美味しかったんだなぁと、お腹がいっぱいになってしみじみと思う。
ユイが食べ終わったのを確認したのか、片づけが開始された。魔導師様のテーブルには水だけ置かれていた。
「ごちそうさまでした」
魔導師はちいさく頷いてくれた。




